閑話3.異世界・クラーフ(ラム視点)
説明回。
まとめると、何か色々問題あって大変だね!って感じ。
自分の名前は、今はラムです。
その前は、名前はなかったけど、オリジンと呼ばれてたです。
正式には、オリジンスライムですけど、面倒だったのか、オリジンとしか呼ばれなかったです。
自分をそう呼んでいたのは、創造神クラフェル様です。
今から1500年ほど前、正確にはそれより十数年前、この世界は作られたです。
創造神クラフェル様によって、この世界クラーフが。
ただ致命的な欠陥があったようです。理由は不明です。
創造神クラフェル様の不手際か、世界を作った場所が悪かったのか、巡るマナの質が悪かったのか、種が悪かったのか。
世界というものは種のようなものから出来るそうです。種というのは比喩かもですけど、要は発芽させる形で作られると。
種はクラフェル様より上位の神様からいただいたものだそうです。自分にはそれ以上はわからないです。
ともかく、この世界クラーフは失敗に近い世界として生み出されたそうです。
でも『世界』の似たような欠陥はたまにあったそうで、対処法もわかってたです。
一番まずい欠陥は、マナの生成速度が異常に早いこと。
内包するマナの容量が、世界の大きさを遥かに超えるものだったそうです。
なので世界の全体でマナが生成されまくり、所謂自然災害が頻発。火山は噴火、海は大荒れ、大嵐、落雷、大雨、大地震。とても生き物が暮らせる世界ではなかったと。
生き物を作っても、災害ですぐ死んでしまったそうです。クラフェル様は、まずこの災害を鎮める方法から考えたです。
溢れるマナは何かしらの活動を活発にさせる。出来たばかりの世界は、それこそ自然に溢れているので、自然災害だらけになったです。
ならば溢れるマナを災害ではない他の力として出力してしまえばいい。クラフェル様はそう考えて世界の在り方を調整したです。
そうして生み出されるようになったのが、魔物という存在だったです。魔物は高濃度のマナから生まれる。どんな魔物が生まれるかはマナの属性などによる。
火山の近くで生まれたら火系の魔物に、海で生まれたなら水系の魔物に、といった具合にです。
あとは、魔物は周りの属性に寄るため、同種の魔物が生まれやすくなるです。その原理をクラフェル様は利用したです。
『元となる魔物』を作って配置しておけば、同種の、同種でなくとも近い種の魔物が生まれやすくなると。
そうして『元となる魔物』、原型というべき魔物がクラフェル様によって作られたです。
ドラゴンであったり、狼であったり、別の世界でよくある形の生き物を参考にした、生物。
自然災害に負けないくらい丈夫な魔物として生み出されたです。
マナを魔物に変換するという風に世界を変えても、溢れるマナは使いきれない。多少弱まりはしたけど、災害は続いたです。
その生きるのに苦しい世界に生み出された最初の、原初の魔物。
それが『オリジン』です。
オリジンが何種いるのか、クラフェル様は数えてないと言っていたです。とりあえずたくさん作って、災害に充てられるマナを少しでも減らしたかったと。
そうして生み出された数多のオリジンの一体が、自分、オリジンスライムです。
自分もオリジンにあたる魔物は何種か知ってるですが、早々接触はしてないです。向こうも接触するつもりはないようです。
オリジンドラゴン、オリジンオーク、オリジンデーモン、オリジンゴーレム…たくさんいたです。
共通点は、クラフェル様直々に生み出されたこと、オリジンと呼ばれていること、スキル『神託』があること。
それ以外は形も何もかもバラバラです。ちなみに、クラフェル様は原初の魔物のことは全てオリジンと呼んだです。
自分とオリジンドラゴンが並んでいても、どっちのこともオリジンと呼びます。不思議とどちらを呼んでいるかはわかるですが、何とも言えない気持ちになったです。
名前、個体名に興味はないのだなと。神様というものは、そういうものなのかもしれないですが。
でも、名前というものに、自分だけの呼び名というものに興味があったのは確かです。誰も呼ばないけれど。
自分も最初は言われた通り、適当に、マナの多そうな岩場あたりにいることが多かったです。
このあたりは落石が多いですけど、自分は石が当たったくらいじゃ痛くも何ともないです。
自分がいることで周りに似た魔物が生まれてきたです。自分の子供というわけではなく、自分の属性を利用してマナが生んだ魔物です。
その魔物たちも、石や岩が当たったくらいじゃ何ともない体をしていたです。
ある程度増えてきたら、似た環境の別の場所に行って、自分の種が生き延びれそうな場所で種を増やす。これの繰り返しです。
何年続けたかは覚えてないです。次第に自然災害が減り、めったなことでは災害が起こらなくなった頃、神託があったです。
まだまだマナは多いが、軌道に乗ったので、オリジンの役目を終えると。
それから、どこにいてもじっとしててもしてなくても、自分の周りに同種の魔物がマナから生まれることはなくなったです。
災害が減り、魔物も増えて独自の生態系を築くまでになった。あとは交配によって増えるというペースで何とかなりそうだと。
神の力が介入しなければ世界は滅ぶ、その一番悪い状態からは脱したと言ってたです。
あとは単純に、クラフェル様が手出しできなくなる期間が迫っていたそうです。
役目が終わったオリジンたちは、それぞれ思い思いに過ごしたようです。自分も世界をぶらぶらしたです。
気に入った場所から動かないオリジンも、役目を終えたならもういいだろうと命を絶ったオリジンもいたです。
この頃から、魔物以外の生物も生まれ始めたです。クラフェル様が最後の調整として作った命、動物です。魔物とは違う生き物。
その中に人間という生き物もいて、ヒト種と呼ばれる生き物も生まれたです。
特別知能を高く作ったその生命体は、マナを消費させるための存在だと言ってたです。
まだまだ多いこの世界のマナ。魔物を生むことでかなり消費したものの、自然と世界の核から生み出されるマナの総量を消費量が上回ってないと元通りになるです。
ヒト種には、マナを使って力に変換する『スキル』と呼ばれるものを取得させるつもりだとクラフェル様は言ったです。
取得にも、使用にもマナを使うこのスキルと呼ばれる技術。魔物にも使えるようにして取得させたものの、ほぼ本能で動く魔物はあまり使おうとしないそうです。
なので、考えて、便利なものなら積極的に使うだろうとヒト種を作ったと。それを考えられるだけの知恵を与えた生き物、と聞いたです。
クラフェル様のその試みはある種成功し、ある意味で失敗したです。
「世代を追うごとに、スキル取得が困難になっているようだの」
最初は一人につき複数のスキルを持つのが当たり前だったのに、一人一つになり、今ではスキルを持つヒト種の方が少ないくらい。
世代を重ねるごとに何かが摩耗し、取得が困難になっているのかもしれない。原因はわからない。でも事実としてこうなっている。
こうなれば、またマナの生成の方が消費より大きくなってしまう。そうすればまた自然災害まみれのあの時代の再来です。
創造神が、作成した世界に積極的に関われるのは長くて300年ほどだそうです。クラフェル様はギリギリまで関わったです。
最後の最後に、スキルという技術を組み込み、ヒト種を生み出し、そして世界クラーフは創造神クラフェル様の手を離れた。
もうクラフェル様に出来ることは、神託で自分達オリジンに連絡を取ったり、ほんの少しの手助け、神頼みに応えることしか出来なくなったです。
希望であったヒト種は、クラフェル様の期待ほどの働きは出来なかったです。それでもスキルを使って世界のマナを消費するという役目はこなしてくれたです。
当初は100年もあれば、世界のマナ生成も落ち着くだろうと思っていたようですが、もう少しかかるだろうと。
時間がかかるだけでマナ消費量は生成量を上回っているので、多少スキル取得が上手くいかなくても200~300年あれば、と考えたようです。
ですが、結局それよりもずっと長くかかってるです。
数値で言えば、世界の生み出すマナが一番安定するのは1000ほどと神の間では言われているそうです。
クラーフもこれを目指しているですが、作った当初はこの数値が10000を超えるという異常な事態だったようです。10倍。生成したマナが世界の核すら攻撃する数値です。
事実、自然災害という形で世界は荒れ、ダメージが蓄積されていってたです。
オリジン投入でマナを消費し、魔物が生まれ、マナを消費し続けた結果、生成量を消費が上回って、生成された端から消費できるようになった。
マナの生成量は、世界に溢れるマナの数値を維持しようとするので、その数値を生成し続ける。この世界の場合は10000以上。
オリジンや魔物が消費し、世界に溢れるマナの総量が減る。10000を下回った時、世界は10000以下のマナしか生成しなくなったです。
そうして総量を減らし続け、クラフェル様が手出し出来なくなる期日が迫っていた時には数値が5000を下回っていたそうです。
その後にスキルを作り、ヒト種を作る。オリジンによって増えることがなくなった魔物の代わりの消費者。
マナ生産量が1000になれば世界は安定し、うまく維持できるようになるそうです。理屈はわからないですが。
というか、今までは不具合が出た状態で無理やり正常に見せかける働きをさせていたという、いつ瓦解してもおかしくない状態だったそうです。
1の行動に1の力を使うのが正常。でも今のクラーフは、1の行動に10~500の力を使うという無駄な行動をしているに等しい状態。
それが、マナ生産量1000になることで不具合が消え、正常な状態で働くと。
なのでマナ総量が減ったとしても、無駄な所に使ってた力がなくなるので、世界は問題なく回るそうです。
その数値に近づけたいのに、ヒト種による消費量が思ったほどではないという不具合。
ヒト種にはこの世界の理なんて知ったことではないとわかってるですが、クラフェル様の意図しない行動を取っていたです。
具体的には、ヒト種はヒト種と争い始めたです。ヒト種の中でも人間族と定義づけられた種が、魔族というヒト種に攻撃をしたです。
そんなことをすればヒト種の数が減るです。ヒト種は増えやすい種ですが、あまりそういうことはしてほしくないです。事実、ヒト種が減り、マナ消費量も減ったです。
悩んだクラフェル様は、元凶となる人間族に神託という形で接触したです。
「もっと、強いたくさんスキルを覚える人間族が欲しい!」
それが、人間族の要望だったです。
クラフェル様は魔族への攻撃をやめろと言ったですが、聞かなかったそうです。
けれど、スキルをたくさん覚えるヒト種は確かにクラフェル様も欲しいと思っていたので、一考の価値ありと考えたそうです。
でも、それは簡単にはいかない。そもそも、ヒト種が何故スキルを覚えなくなっていったのかわからなかったからです。
クラフェル様が直接スキルを与えればいい?そこまでの手出しはもう禁止されてるです。神のルールによって。
かろうじて手出しが出来るとすれば、神託で接触した時の要望を応える形、で…
「他の世界から、人間族を呼ぶ方法を授けよう」
これが、クラフェル様が下した結論だったです。
他の神様に相談したところ、世代を追うごとに与えた能力が消えていくというのはよくあることだそうで。
クラーフの場合、スキルを得やすいという能力が弱まっているのだろうと。消えることはないが、これ以上強くなるのは絶望的。
なら、このクラーフに産まれる人間族では『強くてたくさんスキルを覚える人間を大量に得る』のは難しい。
だから、他の世界にいる『スキル取得に適した人間族を召喚』すれば解決ではないかと、クラフェル様はそう思ったそうです。
自分は魔物で、そこまで頭のいい個体ではないですが、クラフェル様の考えはどこかズレていると思ったです。
いえ、神様というものは言葉を自分の常識に当てはめて考えるため、結果違った意味合いにとられるというか解釈することが多々あるです。
自分は、人間族の要望を『強い人間を一人作って欲しい、または今いる人間族の力を強くしてほしい』と解釈したですが、クラフェル様は違ったようで。
人間族であれば、今いる人でなくてもいい、別の世界の人間族でもいい、同じ人間族なのだから。そう考えているようでした。
この『世界・クラーフ』しか知らない自分や人間族にとって、『別世界の人間族』なんて頭の片隅にも浮かばなかったので、すごく驚いたです。
神様にとっては、世界がたくさんあるというのは大前提として知ってるようですが、自分たちにその前提はないのです。
結果、その神託で接触した人間族に『召喚』の魔法陣を授ける結果になったです。
クラフェル様自身が召喚するのは神のルールで違反行為。でも『とある世界が別世界の存在を召喚する』のは違反ではないそうです。
どこかの世界では悪魔召喚とか、そういうのもあるそうで、それも別世界の存在を召喚していると見做されるからだそうです。
クラフェル様が授けた魔法陣の効果は『スキル取得しやすい人間族を召喚』『一定範囲周りにいた者も召喚』だそうです。
周りはとばっちりみたいなものですが、この場合もスキル取得しやすい人間族でない場合は召喚されないそうです。
あくまで欲しいのは、スキル取得しやすい人間族、ですので。
この召喚は、する方される方に多大な力を使うのでめったにできないですが、クラーフの場合、余りまくってるマナがあるので、これを消費して発動してるです。
つまり召喚される側の世界はまったく力は消費せず、クラーフのマナを使ってるです。もちろん発動のためのマナは別で、これは人間族が負担してるですが。
この召喚、かなりマナを使うので、クラフェル様としては召喚を使えば使う程マナが消費されてありがたい、と思ってるようです。
それでも、他の世界の人間族を何度も攫うのはよくないので数度で使えなくなるように魔法陣には自壊する術を組み込んでいたそうです。
けれど思った以上に人間族は頭が回り、自壊は除けないものの、魔法陣を維持する方法を編み出していたです。
おかげで、これまで数度どころか十数回の召喚が為されているです。クラフェル様も予想外だったそうです。
「召喚のおかげで、スキル取得とともにかなりのマナは消費されてるが…あまり良い傾向ではないの」
「召喚された人間族、帰りたがってるそうです」
「ふむ、やはり生まれ育った場所が一番なのかの。クラーフもそこそこいい世界に仕上がっていると思うのだが」
クラフェル様は、召喚した人間族を元の世界に帰す帰還の魔法陣も同時に授けていたです。
これも、クラーフのマナを消費して発動するため、クラフェル様としては使って欲しいものだったようです。
けれど、召喚の魔法陣を得た人間族は、召喚した人間族を元の世界に帰そうとはしなかったです。
クラフェル様は不思議そうにしてたですが、召喚された人間族は確かにスキルを覚えて強い人間族になったです。それを、クラーフの人間族は逃がしたくなかった。
だから帰せないと嘘を言って、自分達の元に留め置こうとした。もしかしたら、帰還の魔法陣は破棄されて、本当に帰せないのかもしれないですけど。
この召喚された人間族がどうなったのか、自分はあまり知らないです。
会ったことは無いし、たまにクラフェル様が神託で知らせてくれる以外の情報がないからです。
ただ、話を聞いて、酷い話だなと思ったです。人間族が何を考えているのかは知らないですが、自分にはとても理不尽に思えたからです。
召喚者の意思を無視されているな、と。
他にもそう思ったオリジンがいたのかもしれないです。神託でこの話を聞いてたのは自分だけでなく、何体かのオリジンに同じ話をしたらしいですから。
自分以外のどれかのオリジンに何か言われたのかもしれないです。クラフェル様が、オリジンに一斉に神託を下したです。
「もし、召喚された人間族を見つけたなら吾に知らせるのだ。出来れば帰還を望んでいるかの確認も取って欲しい」
召喚の魔法陣を託したと同時に帰還の魔法陣も託す。これは必要措置。神々の間のルールに則っている。
使うも使わないも託した相手の自由ではあるが、今回クラーフで起きている召喚関係はかなり悪質であると判断された。
そのため、召喚された人間族、その世界では『勇者』と呼ばれている存在が帰還を願った場合、条件次第でクラフェル様が介入して帰還させても良い。
神々との会議で、これが決定したと言っていたです。
「条件ってなんです?」
「それはその時に考える。最低でも吾の力が及ぶ場所まで来てもらわねばならんからの。そこに来ることとオリジンが認めることが実質的な条件かの」
一番重要なのは人柄だと言っていたです。
要は、強くてもとんでもない悪人だった場合はむしろ元の世界に戻さずクラーフで落命した方がいいから、だそうです。
あとは元の世界に帰すなら、クラーフに貢献してほしいとのことです。まあスキルをたくさん覚えて育てて欲しいという意味ですが。
オリジンから連絡があった際にクラフェル様がその召喚者…勇者を見て、帰還の条件を決めるそうです。
そして帰還するためにはクラフェル様の力が届きやすい場所に辿り着く必要がある。これにオリジンが同行することも条件。
オリジンに見捨てられるような勇者であれば、元の世界に戻す価値はない。習得したスキルを持ったままクラーフで息絶えろと。
この世界の存在が死んだ場合、習得していたスキルはマナに変換されて還元される。まあ取得に10消費して、死んだ場合の還元は1とかなり少ないですが。
ちなみに育っていた場合、育てるのにかなりマナを消費してくれるので、できれば育ててほしいそうです。使わないと育たないですからね。
魔法の場合、マナを消費して発動するわけで、レベルをひとつ上げるだけでかなりの回数使うですから。消費マナもかなりの量です。
まあそれとして。勇者の場合、スキル取得に消費する量は変わらないですが、違う世界の存在であるためか、死んだ場合スキルはマナに還元されないのです。
ぶっちゃけ還元されない方が今のクラーフにはありがたいですから、人生かけてスキル育てていただいて還元される僅かなマナもなく死んでいただきたいと。
酷いようですが、たまにいるらしいのです。連続殺人犯みたいな、人を殺すことこそ至高、みたいなのが。
元の世界にとっても帰ってきてほしくない人材なので、こっちで死ぬことにあちらの神様も賛成するそうです。
今までオリジンが見つけて元の世界に帰還した勇者は、それなりにいるです。
自分は見つけたことがないので、わからないのですが、帰るために必死になる姿は応援したくなるものだそうです。
なので、自分ももし見つけたら、クラフェル様に伝えて、帰還を助けようかと思うです。
悪人っぽかったら食べていいとも言われたですし。美味しいんですかね?
そんな感じで決まったのがもうどのくらい前だったか。
年月なんてあまり関係ないので、もう朧気です。
ざっくり、召喚の魔法陣をクラフェル様が人間族に授けたのが1000年くらい前。100年くらい誤差があるかもです。
オリジンに勇者の帰還についての神託がなされたのが300…400年くらい前ですかね?もっと前かも?
自分はヒト族を見かけることはあっても接触はしてないので、勇者と言われてもあまりピンと来なかったです。
何度か自分以外のオリジンから勇者の帰還を手伝ったという話は聞いたですが、自分には遠いことだと思ってたです。
そもそも黒髪という以外にそれらしい特徴がないという話ですし。
会えばこの世界の人間族とは魔力が違うからわかるそうです。
なんというか、遠い世界の話。そう思ってたです。
まさか、神託が下ってから数百年、自分がその勇者…召喚者たちに会うとは、思ってなかったです。
不思議な魔力を感じ、確認のために空間魔法で移動した先、匂いにつられ、出会った召喚者たち。
その召喚者が捨てた、不思議で美味しそうな匂いのついたものを食べた時のあの感動。
ずっとずっと感じていた空腹が、楽になったような気がしたです。たった一口で。
「クラフェル様、クラフェル様、召喚された人間族、見つけたです。四体です」
「おお、オリジン、よく見つけてくれたの。最近召喚された人間族で間違いないようだの。接触できそうか?」
「テイムされたです」
「は?」
「美味しい食べ物を作れる召喚者の、従魔になったです」
「…まさかお前がの。なれば人柄は問題無さそうだが、帰還を望んでいるかどうか聞き出せそうかの?」
「まだ無理です。そういう話も出来てないです。従魔スキルが育ったら会話できるはずなので、その時に確認してみるです」
「ああなるほどの。それは良いの。よろしく頼む」
「はいです。進展したらまた連絡するです」
ラムという名前がもらえた。
美味しいご飯もくれる。出来ればずっと一緒にいたい。
でも駄目です。ご主人様が一番です。帰りたいというならその手伝いをしなければ。
いつも楽しそうなご主人様の顔が曇るのは見たくないです。一緒にいる三人もいいヒトです。撫でられるのが嬉しいと初めて知ったです。
ラムの力を知っても、怖がらなかった。利用しようともしなかった。
協力はお願いされましたけど、このくらい何でもないです。ご主人様たちは、あくまで自分たちの力で何とかしようとしてるです。
最初は強くなるために先輩に助けてもらってたですけど、自分達で戦えるようになってからは、自分達主体で、ラムたちは補助だけ頼まれたです。
強い、と思ったです。
ご主人様も、リオくんも、ナズくんも、ハルくんも、みんな強いです。
毒耐性を得ようとした時の騒ぎはちょっとアレですけど、ラムも何か耐性得たですけど。新しいスキルっていつぶりですかね。
でも、話に聞いていた通り、召喚者はスキルをすぐ取得できるみたいです。
まあ、そういう人間族を召喚しているから、とは知ってたですけど実際見るとびっくりです。
あとはスキルのレベルアップ速度も早いらしいですけど、どうですかね?
早く従魔術スキルのレベルが5になればいいですのに。早くご主人様と話したいです。
先輩が羨ましいとか、そういうことは…ちょっとありますけど。
話せるようになったら何を話すですかね。
元の世界に戻りたいか?
この世界に残る気があるか?
ああ、やっぱり。
お礼ですかね。名前をありがとう、って。
オリジンじゃない、ラムという名前は、自分だけのものですから。
「自分だけのもの」がこんなに嬉しいなんて、知らなかったです。
ラムはオリジンスライムという種族として作られた。意味は原初のスライム。
丈夫で、生き残ることとスライム種の魔物を生むための属性の役割を全うするだけの唯一種。
魔物が自然と生まれるくらいの環境になった時、オリジンとしての役割が終わり、種族はただのスライムになった。
オリジンスライムのままだと、周りで勝手にスライム種が生まれるため。そういう種族として定義されてるので、役目が終わった時に種族が変更された。
種族は変わったものの、それまでの経験が複数のスキルとして還元されてることもあり、通常スライムより遥かに強い個体。
そこからは長い年月をかけて世界を好きに回っていた。その旅の中で何度も進化し、エレメンタルスライムになっている。
複数の魔法を覚える種族で、通常スライムでも進化できる種族ではあるけど、現時点でラム以外にエレメンタルスライムは存在しない。
他のオリジン種も同じような感じで、強い種族に進化してる個体だらけだが、通常種が同種に進化できてないので、ほぼオリジン専用の種みたいになってる。
創造神クラフェルは面倒がってスライムであろうとドラゴンであろうと全部オリジンと呼んでる。悪気はない。
全オリジンを別種に変更した理由は、オリジンのままだと同種魔物の生成を続けてしまうから。
マナの消費が多い分、世界のマナ生成量が1000になった後も続けられると、今度は足りなくなる。
ので、クラフェルが世界に干渉できる期間ギリギリにオリジンシステムを撤廃した。
ざっくり年表
1520年前(クラーフ爆誕。マナ大暴走)
1510年前(オリジン爆誕。マナがっつり減らし始める)
1220年前(クラフェル撤退。オリジンが通常種に。動物やヒト種誕生)
800年前 (人間族が魔族に喧嘩売る。その10~20年後に召喚魔法陣を得る)
500年前 (召喚者の帰還許可が下りる。オリジンに神託)
現在 (召喚魔法陣が消える)
召喚頻度は数十年に一回で、今の召喚者は15回目の召喚。




