16.レッツレベリング
「キィイ!キー!」
「何かすごーいって喜んでるっぽい」
「キャンピングカー、気に入ったんですかね?」
「そこまで?」
ラテには巣を作ることとキッチン立ち入り禁止を言い渡して(ショック受けてた)自由時間になった。ナズがキッチンはアキ兄の仕事場!って言ったら納得してたけど。
自分たちだけになった瞬間、全員カツラ帽子を脱ぎ捨てたので、ラテが「!?」みたいな反応してたけど。
次の瞬間、カツラ帽子の髪を模してる部分に興味が出たようで、前足でわさわさ触ったりしてた。
「ナズ、ラテの寝床なんだけど」
「あ、そうだどうしよう?それも用意しなきゃ。一緒に寝ていいの?でもベッド狭いよねえ」
「いや、別の方がいいだろ。うっかり寝相で裏拳かましたら危険だ。僕らが」
「ラテ、めっちゃ強いもんね…」
「それで、えーと、ああこれこれ」
「わ、何このカゴ!?え、今召喚した!?」
「いや、一昨日あたりに新規召喚で出したやつをアイテムボックスに入れてて、それ出しただけ。使いどころないけどとりあえず入れてた」
「ああなるほど」
「んで、寝床にこれどうかなって。サイズとか深さとか、色はこれ以外にも何種類かあるけど」
「へえー、あ、ラテ、興味ある?入ってみる?」
「確認するなら元のサイズでお願い。小さかったら別のにしなきゃだし」
「あ、そういや今レスパイダーの姿か」
「キー!」
ヴェノムタランチュラの姿になって、カゴに入ってしばらくカサカサしてた。
こうして見るとサイズは問題ないかもしれない。入っても余裕がある。
カゴは木を編んだようなデザインのものだ。なので、隙間なくぴっちりしてるものじゃなくて、良く言えば風通しがいい、悪く言えば隙間だらけだ。
軽い木で作られてるみたいで、持つと見た目以上に軽く感じるけど。ラテが入ってたとしても普通に持ち運びできるんじゃないだろうか。
ここにナズの作った布とか入れるか、何ならこの中で糸を張ってもいいかもしれない。
「キー、キー、キ」
「気に入ったっぽい」
「よし、じゃあラテ用の寝床、本格的に選ぶか。あ、そこから出て。もうこのカゴに用ないから」
「キ!?」
「え、これくれるんじゃないの!?」
「別にこれでもいいけど、色これでいいの?僕、木のカゴだしこれでいいやってデフォルトのナチュラルブラウン選んだけど」
「…ああ、色かあ」
「ラテの色に合わせない?何色かあるし、ラテって好きな色あるのかな。森に住んでたっぽいし、木っぽい色の方がいいか?」
「…リオ兄、色の種類見せて」
「いいよ」
「キー」
サイズは召喚時に多少なら変更できる。プラマイ5cmとか、そんなもんだけど。今出したのはデフォルトなのでいじってない。
でもそのサイズでお気に召したらしいので、サイズはそのままだ。
色は何種類かある。違うのは色だけで、重さや感触は全部同じらしい。ラテに合わせるなら紫か藍色だろうか。
「うーん、どれがいいかなあ。いっそ白でも可愛いかなあ。糸で作りました的な感じに見えるし」
「汚れ目立ちそう」
「服じゃないんだから」
「元の姿に合わせるなら紫か藍色だといいかなって思ったけど、同化するか?そこまででもないか」
「薄紫と濃い紫2つあるなー、えー、迷う」
「いっそ複数出すか?どの道これ初回召喚終わってるから大した消費でもないし」
「うーん、うーん、迷う。でもとりあえず1個でいいよ。ラテ、好きな色とかある?」
「キィ?キー…」
「ふむ、見せてみるか」
召喚のパネルをラテにも見せる。そして色のバリエーションも見えるように操作した。
この中でどれが好きかと問いかければ、前足で色の見本を指してくれた。頭いいなこの子。
「えーと、クリーム色とピンクと薄紫…?淡い系の色が好きなのかな?」
「女の子だしねー。この中ならどれでもいい?じゃあ薄紫にしない?ラテの体表ってか毛の色と同系統の色」
「キ?…キー!」
「お、決めたっぽいか。じゃあ薄紫のカゴ出すな。実物見てイメージ違ったら言って。別のやつ出すから」
「ありがとー、お、出た!キレイ!」
「キー!」
「良さそう?」
「うん、いい感じ?ラテも気に入ったっぽい!」
「そっか、じゃあ今日からこれがラテの寝床な」
「キー!」
「よし、巣材の布作るか!クッションもいいけど、綿足りないしな」
「そういや、スカーフかリボンも作らなきゃだろ。忙しいな。大丈夫か?」
「大丈夫!今日は新規召喚まだしてないし魔力これに費やせるから!1つくらい新規召喚したいけど!」
「そっか、じゃあ頑張って、…あ」
「どしたのリオ兄」
「スキル、レベルアップしたわ」
「えっおめでとう!」
「カゴの召喚も経験値になったっぽいなー」
《スキルがレベルアップしました》
《無機物干渉スキルレベルが5になりました》
《召喚マナ消費量が減少します》
《召喚内容が増えました》
《干渉範囲が増えました》
《保存対象が増えました》
《無機物操作が可能になりました》
…操作?ああ、なるほど。
今まではあくまで『干渉』で、思い通りに動いてくれるわけじゃない。頼んで、聞いてもらってただけだ。
この『操作』は強制的に動かすためのものなんだろう。それこそ、本来の力を大幅に超えたこともできるかもしれない。
もちろんそれは大量の魔力が必要になるだろうけど。てかレベル5ってそういうの多いな。1つの節目なのかな?
「それ、そんなに違うの?」
「うーん、例えばこのナイフに『干渉』と『操作』をかけるとして」
「ふんふん」
「本来の切れ味より切れるように出来て、ダーツみたいに投げたら、多少ズレても微調整して目当ての真ん中に刺さってくれるのが『干渉』」
「おお、すごい」
「『操作』だと、僕が願えばそれこそ鉄でもミスリルでも切れるようになるし、正面に投げたとして、途中で90度曲がって横に刺さるなんて芸当もできる」
「うぉえ!?」
「当然、相応の魔力は消費する。本来ナイフの出来る範囲を超えてるからな」
「せ、せやろな…?え、ヤバいな?何その規格外、エグっ」
「僕から見れば短縮調理も糸紡ぎも大概です」
「あっ反論できない気がしてきた。あれもポテンシャル高そうなやつだしなー」
「今のレベルじゃうまく扱えそうにない派生能力って点では全く同じだよ」
「うす、了解しました」
ナズはラテと一緒に作業するみたいだし、邪魔しちゃ悪いと思って離れる。
たまには料理の手伝いでもするか、と思ったけど、キッチン狭いから三人並ぶのつらいな。今アキ兄さんとハルが作業してるし。
「あ、リオくん、ちらっと聞こえたけどレベルアップしたって?おめでと」
「ありがとー」
「ちょっとの差だけど、ハルもレベルアップしたよ。キャンピングカーに隠密かけたとこでレベルアップしたみたい」
「マジで?おめでとう!」
「ありがとう。私も5になりました。揃いましたね。アキ兄さんとナズ姉は6が近そうですけど」
まあこの二人は逃げる時既にレベル差あったからな。
あの時は二人がスキルレベル4で僕らが2だったか。そう考えると追いついてきたか?
「何か派生技覚えた?」
「『洗浄』と『隠蔽』を覚えました。洗浄は汚れを消すみたい」
「え、めちゃくちゃ有能なやつじゃね?」
「うん、泥はねとか、何なら土汚れとか、料理に使った後の更についた汚れとかも対象だって」
「は?便利すぎでは?」
「でも汚れが酷いと魔力結構使うみたいだから、料理に使った後のやつはちゃんと洗うわ」
「アキ兄さん、ちょっとの汚れならほとんど魔力使わないし、経験値稼ぎにもなるから」
「ウッ、いい子…!」
「隠蔽は?何かこっちヤバイ効果な予感が…」
「幅広く使えるみたいですが、今の私の魔力量では無理ですね。ただ、今でもステータスを消したりできそうです。魔力次第では改竄も」
「やばいやつだった」
「とりあえずな、あとでナズの『従魔術』スキルを隠蔽で消した方がいいなって話をしてたんだ」
「ああ…」
従魔術スキルはその名の通り、従魔に関するスキルだ。それでも、専門職であるテイマーでさえ所持しているのは一部だという。
従魔との繋がりが強固になったり、レベルが上がれば従魔がいる場所もわかったりするし、従魔の力を譲渡してもらったり、逆もできる。
つまりナズの場合、ラテの規格外と言ってもいいステータスを一部受け継ぐことも可能になる。今はまだスキルレベルが低いのでできないだろうが。
レア度で言えば普通ではあるけど、従魔にしてる魔物次第で化けるスキルである。確かに、テイマーでもないナズが持ってたらいらないトラブルを招きそうだ。
あと、出来るかわからないけど、ラテのステータスも隠蔽で多少誤魔化したいとのことだった。
鑑定スキルや鑑定の魔道具なんてめったにないが、それでもいつ見られるかわからない。見られたらやばすぎる。
何なら僕ら全員のスキルも隠蔽した方がいいと思ってるらしい。スキルなしの人間の方が多い中、四人全員がスキル持ちはさすがにバレたら目立つ。
「…MP、足りる?」
「…わかりません…でもやった方がいいかなって。出来ない時は諦めてましたけど、出来るのなら対処すべきだと」
「でも、俺らレベル5で覚えた派生能力、全然使いこなせる気してないから、無理はするなよ?あ、リオくんはどうだった?何か出た?」
「全力でやったらヤベーなって能力を習得した。出来る気がしない」
「やっぱレベル5ってそうなんだ…」
「どんなのですか?」
「無機物操作。ちょっとそれ貸して」
近くにあったボウルと、今切り終わったであろう野菜が乗ったまな板。それから包丁を指で触れていく。
集中して操作をすると、まな板が少し浮き、ボウルの近くへ移動。ボウルに向かって傾けたまな板。上に乗った野菜を、包丁の腹部分で押してボウルにスライドさせる。
手動でやれば、まな板の野菜をボウルの中に入れるだけの作業なんて5秒もかからない。けど今は集中しても10秒以上かかった。
集中力と魔力の消費量を考えるととても気軽に使えるものじゃない。これだけで25も消費した。3つも操作したから当然かもしれないけど。
「疲れた」
「いや凄いな!?」
「浮いた!?まな板浮いた!?ボウルも、包丁も浮きました!?ええ!?」
「めちゃくちゃ凄くない!?え、同時にいくつかの作業できるんだけど!」
「集中しなきゃだからよそ事考えてる余裕ないし、今の短時間だけでMP25減った」
「あっ………」
「リオ兄さんでないと出来ないやつですね…25って…この短時間で…」
「軽率に見たがってごめんな…」
「いや、実践で試せてよかった。効率クソ悪いから今は使えないって結論になった」
「でしょうね」
「だろうなー」
浮かせるのはかなり魔力を使うらしい。当たり前と言えば当たり前である。
対象を魔力で覆って、強制的に動かす。干渉した時にやりたくないと拒否されたら更に多く魔力を使う。今回は料理の一環というか手伝いだったので了承してくれたけど。
本来動かないものを動かしてるので、念動のような仕様になるのはわかるが、それにしても消費魔力がとんでもない。
かと言って、多少の動きじゃ何の意味もないし。なかなか使いどころが難しい能力である。もっと楽に操作できるなら有用だろうが。
…と考えると、スキルのレベルがまだ足りないって結論になるんだよな。消費魔力量とか、ちょっとずつ減ってるけどまだまだな気がする。
そうなると、考えることはひとつか。きっと皆考えてはいたけど、現実的に無理だと思って後回しにしてたこと。やる時がきたのかもしれない。
晩御飯を食べた後のまったりタイムで切り出してみた。
「レベル上げをした方がいいと思う」
「え、5になったばっかで?」
「そっちじゃなくて、個人の方の。今みんなレベル1」
「あーそっちかー」
「このレベルが上がるとHPもだけどMPも増える。たった1回かもしれないけど、1回でもスキルを使う回数を増やした方がいい」
「一般的にレベルが上がってステータスが増えるのは職業に左右されるけど、1から3って言われてますね」
「MPが3増えたら超助かるんだけど」
「ただ、私たちは仮にも勇者として召喚されました。勇者の成長幅はもう少し大きいはずです」
「え、じゃあ5とか増える可能性あんの?」
「あるかもなあ。まあ職業が戦士とか剣士ならHPが5増えてMP1しか増えないとかありそうだけど」
「絶対戦士とかならねえしー!」
「てか、前にその話した時、あたし達の力じゃモンスター倒せないからムリ!ってならなかった?単独ライビくらいしか勝てない気がするって」
そうなのである。
14歳の女子中学生にモンスターは荷が重い。僕だって大人とはいえ、もやしである。度胸はあっても戦闘力はない。
だから、どうにも踏み切れなかった。一戦だけなら何とかなっても、それだけでレベルが上がるほど生易しくはないだろう。
つまり、複数回戦う必要がある。一戦に全力で挑んで勝ったとしても大怪我なんてしたら治るまで戦えない。
レベル1上げるだけで何日かかるんだという話だ。だから今までこの案は保留にしていた。
けれど今は。
「…でもな、ナズ、今はラテがいるんだ」
「え」
「キー?」
「めちゃくちゃ情けないけど、所謂寄生レベリングでせめて全員レベル2になれればと」
「ホントにめちゃくちゃ情けない!でもそれしか方法なさげ!?」
「仮にも勇者だ。仮にも。1つレベルが上がればステータスも多少上がる。頑張ればライビとかスライムくらいなら僕らだけで倒せるようになるかも」
「うう、確かに…今まで戦いが無縁だった私達がレベリングしようと思ったら、そうするしか…?私、運動音痴だし…」
「ら、ラテ、どうしよう?嫌じゃない?ラテをめちゃくちゃ利用する形になるけど」
「キー?キィー」
「気にすんなって言われてる気がする」
「アキ兄さんに一票」
「ラテちゃん、懐深すぎる…」
「ら、ラテぇえええ…!」
そんな感じで明日の行動が決まった。ついでに、ってのもどうかと思うけど薬草採取の依頼も受けつつ、森で魔物も倒そうという話になった。
狼はやばいけどウサギとかスライムくらいなら初心者冒険者でも倒せるって話だし、何とかなるかもしれない。
一回の戦闘じゃ上がらないだろうから、結構な回数戦うことになると思う。こうなると、攻撃系スキル持ちが少し羨ましく…いや、血迷った。
クソ共思い出した。あれと同じにはなりたくない。同郷だろうが年下のやんちゃだろうが、奴らの行動は許せる気がしない。心狭いのは承知だけど。
どうでもいいけど、ラテはりんごが一番気に入ったらしい。食感が好きなのかもしれない。というか芯まで食べるのかこの子。
みかんは嚙みついた時に汁がブシャーとなってびっくりしたらしい。目にかかったみたいでギーギー鳴いてた。
アキ兄さんも失敗したかと思ったみたいだけど、味は気に入ったのか恐る恐る食べて結局完食してた。
「うーん、思えば確かにレベルアップは急務かも」
「アキ兄?」
「召喚で食材召喚する量より消費する量の方が多い。米とか拾った木の実とかキノコもあるけど、それ使っても減る方が早い。ストックも減ってきてる。まだあるけど」
「あー…もともと四人で、更にラテも増えたしなあ…」
「だからって我慢して空腹にさせるのは俺が嫌。だからレベルアップして召喚できる回数増やしたい。MP1増えればりんご2~3個召喚できる!」
「料理人の鑑かよ」
「アキ兄素敵」
「いや、新規召喚控えて既存のだけ召喚すれば余裕で人数分の食糧出せるんだけどもな!でもバリエーション増やしたいから…ッ!」
「わかる、わかるよアキ兄…!数を揃えようと思ったら新規を控えればいいってわかってるけど、新しいのに手を出しちゃう…ッ!」
最大MPは決まってるけど、自然回復分もあるので、1日に使うMPは大体最大MP+5~7ほどだ。
心なしか、食事すると回復してるような感覚があるので、鑑定に表示されないレベルのわずかなバフがアキ兄さんの料理にはあるのかもしれない。
MP微回復とか自然回復微増みたいな。微々回復とか微々増くらいかもしれないけど。
料理スキルってそういう効果もあるらしいからな。スキルレベルが低くて実感できるほどの効果はないけど、片鱗は出てるんだと思う。
そして自然回復分は最大MPに依存するので、MPが1増えるだけで恩恵がある。召喚も何回か多く使えるだろう。
なら僕はもっと回復するだろうって?自然回復の速度は人によって違うので、同じMPでも微妙に差が出る。
そして僕はこの中で一番自然回復速度が遅い。絶対年齢が関係してると思う。10代の回復力やばい。スタミナに溢れてる。
MPが三人と同じくらいだったら僕絶対足手纏いになってた…だって自然回復、15くらいだし。最大MP、5倍くらい多いのに。同じMPだったら2~3の回復だったかも。
「ひとまず、明日の目標は全員がレベル2だな」
「賛成!」
「やるぞー!おー!」
「キー!」
「やったらァ!」
「ハル今すごい低音ボイス出たな!?」
「優等生モード切れた!?」
「やる気が迸って優等生の皮を荒くれが破りましたね」
「ハルの中に荒くれいたんだ!?」
そんな感じで、今日は明日に備えて寝ることになった。順番に風呂に入ってパジャマ(白い服)で寝る。
ラテはハルが洗浄をかけて綺麗にしていた。キャンピングカーに乗った時に一応足とかは拭いたけど。
さすがに蜘蛛にシャワーは無理だろうしな…案外いけるかもしれないけど。綺麗になったのはわかったのか、ラテは喜んでいた。綺麗好きなのか?
四人でベッドに入って、ラテはベッド近くに運んだカゴの中だ。短時間だったけど、色々布の切れ端が入ってて綺麗だった。色とりどりで。
ラテも気に入ったらしい。小さい球状のものが入ってたので聞いてみたら、採取した綿を使って作ったそうだ。あれ、ラテのために全部使ったのか…愛がすごい。
感触が気に入ってるようなので、もっと綿を手に入れてクッション作るんだとナズが息巻いていた。
ともあれ、うまくやっていけそうなので安心である。元々ナズは動物好きらしいとは知ってたが、蜘蛛も有効範囲だったか。
そういえば、ラテに人間の性別の区別はついてるのだろうか?僕とアキ兄さんはどっちかよくわからない存在に見えてたと思うんだけど。
もしかしたら人間って大枠で認識していて、性別は気にしていないのかもしれない。
そして翌日、レベリングが目的なので採取は少な目にしよう…とギルドで話したら、受付の人に「ぜひこれを」って頼まれた。
また睡眠草…需要が多いのかもしれない。でも今回は10本だったので、そこまで時間はとられない気がする。
昨日行った場所とは違う場所で採取しようという意見で一致した。あそこ、狼出るからな。せめてウサギあたりの出没場所がいい。
いくつか流れてる川の近くで、ウサギのナワバリに近い場所があったので、ここで採取とレベリングを決めた。
門は普通に通過できて、森に向かう。レベリング目的なので隠密は使わない方がいいのかもしれないが、囲まれたらやばいので認識阻害程度のものを使ってる、らしい。
1~2匹のライビを見かけたら、隠密解除して戦闘に入る手筈だ。まあ前に出るのはラテなんだけど。
作戦はシンプル。ラテの糸で体の自由を奪って、その隙に僕らでとどめだ。誰が見ても恥ずかしい立派な寄生レベリングである。
川に近づきすぎない程度の場所で睡眠草を採取してると、ラテが反応した。そういえば『熱感知』スキル持ってたな。
索敵さえラテ任せ。立派な寄生ですごめんなさい。
「ビョア!」
「可愛くねえ鳴き声!」
「言ってる場合か!」
想定通り、ライビが現れた。都合のいいことに単独だ。すぐさまラテの糸が射出され、ライビを絡めとった。
ライビにとっては想定外だったのか、驚愕しているような雰囲気だった。跳躍していたので避けられなかったんだろう。
そのまま糸でぐるぐる巻きにされて地面に落ち、ゴギンと嫌な音がした。
「………」
「………」
「………」
「………」
「…キ?」
「…なあ、今の音って…」
「頭からいったように見えたから多分首の骨折れたんじゃ」
「え、死んだ?」
「ラテちゃん単独で倒しちゃいました、ね…?」
「キ…!」
「っあー、怒ってない、怒ってないから!ちょっとびっくりしただけ!」
「てか、動きを止めようとしたのか、糸に毒付与されてるな。麻痺毒と猛毒。オーバーキルでは…?」
「次、毒使わないで捕まえてもらおうか…?」
「そうですね。私たちの出る幕がありませんし…ナズ姉?どうかしました?」
「え、ナズ?」
「あ、いや、何かウサギ死んだって思った時、変な感じがして…何か、入ってきたような…?」
「キッ!?」
「え、大丈夫!?」
「リオくん!鑑定して!」
「わかった!」
「え!?そんな大げさな」
「命奪ったことに対する罪悪感か、ウサギの呪いか、気のせいか。何なのか判明しないと安心できません!」
一番慌ててるのはラテだけどな。自分がしたことに対してナズが何か感じたなら、責任を感じたのかもしれない。
あ、でもこれは心配ないやつか。何か入ってきたって、多分これだろ。
ああよかった。毒とか呪いとかだったらどうしようかと思ったよ。
「みんな落ち着いて。多分問題ないやつだ」
「え、わかった!?何が原因!?」
「キー!」
「多分、何か入ってきたってやつ、経験値だと思う。次、100の経験値必要だったのに、今見たらナズはあと71って出てる」
「え…?」
「ラテはナズの従魔だから、多分入手経験値も共有してるか、ラテの成果はナズにも反映されるんだと思う。ちなみに僕らは変化なし。あと100の経験が必要のまま」
「あーーーーなるほど?」
「ゲームシステムみたいにパーティ組んでたら経験値は頭割りでしょうけど、そういうシステムありませんもんね。今の私たちはただ一緒にいるだけ」
「形式としてはパーティ組んでるんだろうけど、経験値の共有とかそういう恩恵はないんだろうな」
「はー、びっくりした。心配しなくていいやつだな。てことは、ラテが魔物倒せばナズは普通にレベルアップ出来そうか。問題は俺たちだな」
「多分、最初に予定してた方法で問題ないと思う。とどめさえ僕らが刺せば、多少の経験値は入ってくると思うし」
「試してみましょう。このウサギは…埋めましょうか、土に」
「打撲と毒、どっちが死因だろうな…ナムナム」
穴掘るかって思ったところで、ラテが土魔法を使ったらしい。ウサギ(糸つき)の周りの土がめくれあがり、花みたいになっている。中心にウサギ。
ラフレシアかな、と思った僕は悪くないと思う。そしてめくれあがった土がウサギを包んで飲み込んだように見えた。食虫植物みたいだ。
まあ、ちょっと派手な土葬と思えば…?
「ラテちゃんすごいです!」
「そういや魔法使えるんだったかー」
「…ラテ、ありがとな」
「ナズ、大丈夫か?気分悪い?」
「…どうかな、ちょっと呆然とした、かも?」
「…無理はするなよ?」
「ありがと、アキ兄」
少しの懸念材料はあるものの、睡眠草もまだ3本しか見つかってないので探索を続けることになった。
2回目の襲撃があったのは、睡眠草を5本見つけた頃だった。と言ってもラテが見つけて、ハルが隠密を弱め、敵がこちらに気づくという流れだが。
襲ってきたのはさっきと同じ、ライビだった。都合よく単独だ。川からも多少離れてるので少しくらい動き回っても問題ない。
さっきと同じように、ラテが糸を射出してライビを絡めとった。走って来ていた所に正面から糸ぶつけたので、勢いを殺されて転んでいる。
もがいているので、さっきとは違ってまだ生きている。が、糸の拘束が強くてろくに動けていない。
「よし、これなら…」
「誰が行く?僕行こうか?ナイフあるし」
「ああ、確かに武器がないと…ナズ?」
「…っ、あ、うん…」
ライビはまだ蠢いている。こっちに来ることは無い。
それはナズもわかってるはずだけど、酷く顔色が悪くて、怯えるように震えていた。
これは、自分が傷つけられるかもって意味で怖がってるわけじゃなさそうだな。
「ナズ姉の順番は後回しにしましょう。動物好きだしライビは傷つけたくないって思ってるかもしれません」
「そっか、抵抗あるよな。じゃあ俺行くよ。一応長男ポジションだからな!」
「一番年上の僕が行った方がいいかと思ったんだけど、大丈夫?」
「問題ない!武器もあるし!」
「ぶ…って、包丁なんだけど!?え、それいつも使ってるやつ!?」
「違う違う、城から持ってきたやつ。使ってないから武器にしても壊れてもいいやって思って」
「あー、キャンピングカーにあった包丁の方が切れ味いいし使いやすいってことで放置してたやつね。こっちの世界でいう三徳包丁もどき」
「オールマイティに使える包丁だけど、三徳包丁あるから封印してたんだよな。それに盗むわけだから忘れられててちょっと切れ味悪いやつ持ってきたし」
「ああ、じゃあ武器にして問題ないやつなのか。じゃあいいか。…いいか…?包丁を武器…?死の料理人かな?」
「まあまあ、そんなわけで行ってくる!ラテありがとな!すぐトドメさすから!」
「キー!」
「っしゃあ、くらえ!ウサギ肉ー!」
「もう魔物が食材にしか見えてない!」
「今日の晩御飯かもしれませんね!」
「ちょっと嫌ー!」
「スープか丸焼きかな!?」
…結果?普通にさっくりトドメ刺してましたね。すごい、喉元の急所を一発。
何となくここをこうして刺したらいけると思った、とか言ってたけど、これマジで料理人の恩恵では?
ウサギ肉とか言ってた通り、アキ兄さんには食材にしか見えてなくて、料理人が食材を美味しい状態で手に入れるため、最適な絞め方(?)を直感したのでは?
近くに川があったし、抵抗なく普通に血抜きしたり皮剥いで解体っぽいのして肉を手に入れてたよ…
ハルの消臭や洗浄大活躍である。ほぼ包丁でやってたけど、僕のナイフも貸したりした。ちなみに内臓やら臓物は食えないと思って放置したらしい。
鑑定しても、ライビの臓物は食用不可だな。鑑定持ってないのによくわかったな。料理人コワ。ちなみに臓物はラテが食べてた。捨てる手間省けたな!
という感じで、上々の結果だったけど…
「ナズ、大丈夫?」
「う、…うん…」
「いや、顔色悪い。無理するな。何が駄目だった?殺すこと?それとも解体?グロかったもんな」
「私もちょっと気持ち悪かったです」
「俺も食材って割り切ってなきゃ気分悪くなってたと思う。多分、狼で同じことはできない」
「あいつ食えない魔物だもんな。毛皮は買い取りしてくれるらしいけど」
「キィ…」
「ごめん、迷惑かけた。多分、命のやりとりとか、動物に見えるのを殺すとか、何かそういうのが、ちょっと…」
「ナズ、ぶっちゃけそれ普通の感性な。現代日本だとほぼ縁のないやつだから」
「家畜農家とか、狩人みたいな職とか、そういうのじゃないと、ないもんな」
「水飲んで少し休みましょう。まだ時間はありますし」
「そうだな。睡眠草採取も半分、まだ日は高い。休もうか」
「賛成」
そんな感じで少し休憩することになった。元々この懸念事項はあったので、採取依頼も1つしか受けてない。
ゲームとは違って現実だから、モンスターを倒したら自動的にドロップアイテムになることも、体が消えることもない。
ダンジョンの中だとそうでもないらしいけど、今はただの森の中だからな。
僕は特殊な仕事をして、まあ、正直グロ耐性はそこそこある。闇深い職場だからな。色々あります。
アキ兄さんは自己申告通り、食材にしか見えてなかったから抵抗感がなかったんだろう。料理スキルの補正だろうな。
戦闘系スキルを持ってる奴は戦闘に対して変な緊張をしなくなる特性みたいなのがあるらしいし、その類だと思う。
気分転換にもならないかもしれないけど、と前置きして、アキ兄さんの経験値について話した。
やっぱりトドメを刺したのがそこそこの経験値になったらしく、レベル2まであと54と出た。
ちなみにラテとナズにも経験値が入っていたらしい。拘束は討伐に貢献しているためだろう。ナズもあと63と出た。
さっきより入手経験値が低いのは、ラテがとどめを刺していないからだろう。それでも経験値には違いない。
「じゃあナズは自分で倒すっていうより、ラテから得られる経験値でレベルアップすればよくないか?」
「うん、いいと思う。無理に苦手ってわかってることすることないよ。特に初めてなんだし。そのうち慣れるかも。慣れてからでいいよこんなこと」
「次、リオ兄さん行きます?リオ兄さんは平気そうですけど」
「…ふ、大人には色々あるのですよ。何かで爛れた人間らしきものが複数襲い掛かってきた時は乙女みたいな悲鳴上げましたけど」
「想像だけでキモイ」
「リオ兄さんの乙女みたいな悲鳴って想像つきませんね」
「まあ、同行者曰く、その辺の断末魔より汚い雄たけびだったらしいけどな。失礼極まりないけど腰抜かして背負われてたから何も言えなかったよね」
「誰も幸せになってないですね…」
「リオくんにとっての乙女の基準が狂ってる気がする」
「いや、気持ち悪いもの見て悲鳴上げるって乙女っぽくない?」
「うん。でも悲鳴によるかも」
「キャーなら乙女ですけどホンギャーとか叫んでたら乙女じゃないです」
「…ちょっと何て叫び声だったかは黙秘するな」
「ホンギャー系統だったんだな」
「ノーコメントで」
雑談しつつ休んでたらナズも少し気分が回復したらしい。
採取に戻って、さらに3本の睡眠草を発見した。多少移動はしてるけど、川の近くで森の浅い部分というのは変わってない。
そうして睡眠草を探してると、更に獲物が。三度目のライビである。
ナズが怯え、アキ兄さんの目が煌めく。自重してアキ兄さん。順番というのも変だけど、今度は僕がトドメを刺す番だ。
料理スキルはないので、急所とかよくわからないけど、喉元を意識してナイフを繰り出し、…首が飛んだ。物理で。
「スプラッター!今更だけど!」
「ナイフそんなに長かったですっけ!?」
「すまんナイフさんが張り切ったっぽいわ。思いっきり切断した」
「なるほどこれもスキルの力か」
「ナイフって刃物…切るものですしね」
「ともかく血抜きしやすいな。アキ兄さん手伝って」
「っしゃ来た任せろ!今夜は肉よ!」
テンション上げてふざけた感じを装ってみたけど、ナズの顔色はやっぱり少し悪い。
僕とアキ兄さんで川の方へ向かってウサギの解体処理、ナズのことはハルとラテに任せた。
少しは慣れたのか、ナズも頑張っているのか、復帰は早くて、すぐに次の行動に移る。
今度現れたのは、ライビじゃなくてスライムだった。
「スライム!?」
「たまねぎ型じゃない!?」
「リオ兄さんが何想像したかわかるけど、ちょっとそれ忘れましょう!」
「雫型じゃないの…?いや、たまねぎ超わかるけど」
そういえばスライムって本来は不定形のものだっけ。どうしても某ゲームのイメージが強くてだな…
この付近にいるのはミニスライムという種類らしい。少し小型なんだとか。これ小型なのか?
色は灰と緑が混ざったような色だ。森の葉っぱとか食べててその色が写っているのかもしれない。
今度はハルが討伐の予定だったけど、どうしようか。
「スライムって、打撃耐性あるんですよね?いけるでしょうか」
「杖やめてナイフ使うか?」
「…一度、殴ってみていいですか?どれだけ効かないのか試してみようかと」
「あー、ラテが糸で雁字搦めにしてくれてるから、確かに安全なのか…?やってみる?」
「あまり近づきすぎると酸とか飛ばしてくるらしいから注意な」
「はい」
ハルに渡していた杖は、武器屋でもらった例の目潰ししたがる杖だ。そこそこの攻撃力になるかもしれないけど、スライムだと相性が悪い。
スライムは魔物の中で最弱、というほどでもないが弱い魔物ではある。が、打撃に関してはかなり防御力が高い。弾力があるから吸収するんだろう。
その代わり、魔法や斬撃にはめちゃくちゃ弱い。体の中央付近にある核を傷つければすぐ死ぬくらいだ。
なので、ナイフでも深めに刺せば核に届くだろう。ミニスライムは小型だし。
ハルは一度野球選手のように杖を振りかぶってスライムに杖を叩きつけていた。…待って、めっちゃいいフォームじゃね?プロ野球選手かな?
当然、スライムにはほぼノーダメージだったが、これライビだと瀕死にできたのでは?ハル、まさかこの中で一番の攻撃派なんじゃ。
「駄目ですね。ほぼ効いてません。やっぱりナイフで刺しますか」
「…せやな?」
「ハル、ソフトボールでもやってた?」
「やってませんよ?あ、でも弟が野球好きで、たまにバッティングセンターに行くんです。一緒に行ってバット振ってたりはしました」
「それじゃん。絶対それじゃん」
「ハルの攻撃方法の方向性が見えてきたな」
「隠密で敵にこっそり近づいてフルスイングして頭かっ飛ばすのか。怖すぎるな」
「アキ兄さん?リオ兄さん?勝手なこと言わないでください。あ、ナイフ貸してください」
「はい。一思いにやってあげて」
ナイフを貸すと、すぐにスライムを仕留めていた。どうやら核が破壊されると、周りのゼリー状の体組織は形を保てないらしい。
ドロっと溶けて、土に吸い込まれていった。真っ二つにされた核だけがそこに転がっている。一応これが討伐証明になる。
ちなみにライビは歯、レスパイダーは糸袋という、糸を生成する部分だ。尻のあたりにあるらしい。
今回、討伐依頼は受けてないので提出しなくても問題ないが、一応金にはなるため回収できそうならすることにしている。
ちなみに討伐依頼を受けた場合、買取金額が高い。そのため、冒険者は出来るだけ討伐依頼を受注してから魔物を退治するらしい。
何だかんだで一回ずつ魔物を仕留めている。まあ8割ラテのおかげではあるが。ナズも、ラテが仕留めてるから。ナズ本人はまだだけど、無理そうなので今回はいい。
一度仕留めれば要領がつかめたのか、二巡目ではそれなりにちゃんと動けたと思う。初回は腰が引けてたから…いやそれ僕だけだな。
アキ兄さんもハルも最初から割とバーサーカーだったわ。
そして三巡目にさしかかったところで。
「あっ、レベル上がった!2だ!」
「おめでとうアキ兄さん!」
「ほんと!?」
「やったな!鑑定しようか」
「お願い!」
名前:アキ(狭山 茜)
年齢:14
性別:女
LV:2(あと183)
職業:料理番
HP:21/50
MP:13/40
スキル:料理LV5(あと18)
「ふぁっ!?」
「待っっっっってめっちゃ増えてない!?」
「HPとMP、倍になってません!?」
「なってますねえ!」
「あ、職業も変わってる」
「前は給仕係だったな。つかスキルレベルもレベルアップ間近じゃないかこれ」
「何かさ、一気に疲れたような気がしたんだけど、気のせいじゃなかったってことか、これ」
「HP半分以下になってますからね」
「元が25だったんだから、多少の疲労で4減ってただけ、のとこにレベルアップでHPが倍になって…うわあ…」
「レベルアップしたらHPMP全回復ってゲームと、据え置きのゲームあるよね。まあ現実として考えたら据え置きよね…」
「数値で見たら本格的に疲れてきた気がするー。全然怪我とかしてないのにHP半分以下ってこれさあ」
確かに、数値で見てもアレだけど、HPバーとかで見たら、あれだな。
瀕死とは言わないけど、HPバーがオレンジとかになってそうな数値だよな。
ケガしてるのに置き換えるとなかなかの傷を負ってると同義…?
「あのさ、全員のレベルが2になったら引き上げないか?多分全員同じことになる気がする。睡眠草集まったし…」
「そうですね。帰還しましょう」
「次は僕が倒す予定で…僕とナズがレベルアップしそうかな」
「確かに。ラテちゃんの活躍でナズ姉も経験値溜まってますからね」
「…あたし、何もしてないのに…」
「方法や過程がどうあれ、今日の目的はレベルアップだから、それが達成できてればいいんだよ。必要なのはステータスアップなんだから」
「そうそう、気にすんな。出来ることと出来ないことは人それぞれなんだから。俺に雑巾とか縫わせてみろ。血の染みたボロ布が出来上がるぞ」
「針で手刺しまくりじゃないですかそれ」
ちなみに僕は血まみれにはならないけどガッタガタの線になるタイプだ。
どうやってまっすぐ縫ってるの皆…?縫ってる最中はまっすぐに見えるけど、留めまでやって布地伸ばすとガタガタになってるんだよ…意味わからん。
まあそんな裁縫の腕前はどうでもいいとして。
「ナズが魔物を手にかけられないって言うなら、ラテに任せればいい。ラテはナズの従魔なんだから。フォローできる相手がいるんだから任せていいんだ」
「キッ?キー、キー!」
「え、あ…」
「ラテちゃん超やる気になってますよ」
「ラテ…うん、ありがと。まだちょっと怖いから、頼っていい?…頑張るから、あたしも、覚悟、決めるから」
「キ~」
「焦るなよ、ナズ。俺たちと一緒じゃなきゃ駄目だとか、そんなことないんだから」
「そうですよ。スライムやウサギは殴れても、私、カエル見たら一目散に逃げますよきっと」
「僕、セミが無理。異世界なんだからいないと信じたい」
「俺もゴキみたら一目散に逃げるわ」
「みんなが駄目ならあたしが代わりにって思ったけどそのラインナップはあたしも無理」
「よし、みんなで逃げるか!」
「キー…?」
「あ、ラテちゃんは何かわかりませんか。すみませ………あれ、この子なら立ち向かえるのでは?」
「殺して食いそうだな」
「嫌ー!ラテ変なもん食わないでー!」
「キィー?」
そんなあるかないかの未来、個人的に訪れてほしくなさすぎる未来は置いとこう。
とりあえず、さっきからウサギかスライムかの二択で、次はスライムだった。ラテに捕まえてもらって、サクっとナイフを刺す。
思った通り、レベルアップした。ナズも同時だ。
「あたし、何もしてないのに…」
「ライビは難しくても、スライムならいけるんじゃないか?」
「うん、そこまで気持ち悪くないしなー」
「どうかな…」
「とりあえず、ステータス確認してみませんか?」
「そうだな。じゃあナズから」
名前:ナズ(波川 静)
年齢:14
性別:女
LV:2(あと194)
職業:裁縫士
HP:18/44
MP:12/40
スキル:被服LV5(あと32) 従魔術LV1(あと71)
テイム:ヴェノムタランチュラLV47
「やっぱ2倍になってるな」
「従魔術も地味に経験溜まってる。ラテと行動すると溜まるのかな?」
「裁縫士だって!前お針子だったよな。かっこよくなってる」
「リオくんはどう?」
「んー、と…」
名前:リオ(村雨 涼)
年齢:14(24)
性別:女
LV:2(あと187)
職業:曲芸師
HP:18/40
MP:54/200
スキル:無機物干渉LV5(あと334)
「…曲芸師?僕が?なぜに???」
「そら無機物操作じゃね?」
「手品というか曲芸というか、あれすごかったですよね」
「手品師の可能性もあったかもね」
「タネも仕掛けもございま…仕掛けはないけどタネはあるか?リオくんのスキルだから」
「僕出てくる職業全部ろくでもねえんだけど!犯罪っぽさが消えたのはいいけど!」
「MP200の衝撃ふっとびましたよね」
「うわマジだ。えらいことになっとる」
「比較するとHPが少なく見える不思議。もやしっぽい。みんなと大差ないのに…」
「アキ兄が一番HP高いね、そういえば」
「一人だけ50の大台に乗ってますね。四捨五入したら100」
「五入せんでもろて」
「よし、切り替えていこう。残るはハルだけだな」
「そうですね。頑張ります!よろしく、ラテちゃん」
「キー!」
少しうろつけば、早々にライビが出た。最後の最後で2匹出たので、片方は肉欲に負けた(語彙力)アキ兄さんが突撃した。
結局ウサギ肉、7匹分とか手に入ったからな。アキ兄さんは疲れも忘れてニコニコしてた。
ちなみに、一匹目の処理をしてる時、解体ついでに肉の一部を食ったらしく、アイテムボックスに入るようになっていた。なので全部新鮮なまま保存できている。
ハルの方も問題なく倒せたらしく、レベルアップできていた。こっちもニコニコだ。杖についた血を無視すれば文句なしに可愛い。
思い切り頭割ってるからな、この子…ナズがドン引きしてるけど、これは無理もない。
ひとまず、ステータスを共有することにした。
名前:ハル(林 千晴)
年齢:14
性別:女
LV:2(あと183)
職業:忍び
HP:15/36
MP:14/44
スキル:隠密LV5(あと388)
「しのびィ!?何でやねん!」
「潜むの得意だから、かな?」
「正直安心しました。隠蔽でステータス改竄できるようになったから、それこそ詐欺師になってるかもと…」
「ま、まだ実践してないから…」
「それ、したら詐欺師になるかもってことでは!?」
「い、いやあ、しかし全員HPとMPは倍になったな。レベル3になるとどうなるんだろうな」
「露骨に話題変えましたねリオ兄さん!」
「いや、でも悪意あって変えるわけじゃないし、大丈夫じゃないか…?」
「リオ兄も悪意無しだったけど詐欺師になったよアキ兄」
「…ごめん、もうフォローの言葉が浮かばん…」
「うう…詐欺師になるくらいなら、忍びのままでいいです…!分身とか出来ませんけど」
「ま、まあ、これでノルマは達成したし、町へ戻ろうか。全員HP半分以下になっちゃったし、疲労でやばいだろ。今日はもう休もう」
「そうだな、賛成。俺ももう今日は料理以外何もしたくない」
「あ、アキ兄、料理はするんだ…さすが料理番…職業に偽りなし」
一日休めば回復してるだろうし、細かいことは明日考えようという意見で一致した。
今疲れてていい案出ないだろうしな。多分、明日はレベル3目指してレベリングとかになりそうだけど…
森は浅い場所にしか足を踏み入れてないし、1時間かからず戻れるだろうから、ギルドに納品して軽く買い物して人の少ない場所にキャンピングカー出して…
あれ、意外とやることある…?いや、まあ大丈夫か。このくらいならまだ出来るはず。ケガしてるわけでもないし。
変なトラブルとか起きない限り、ゆっくりできるはずだ。
…そう考えたのが、フラグだったのかもしれない。