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14.ヴェノムタランチュラ


あかん。死んだわこれ。



種族:ヴェノムタランチュラ

年齢:4ヶ月

性別:メス

LV:47(あと375649646)

状態:普通

HP:8354271/8354280

MP:4359821/4359832


スキル:毒牙LV34 猛毒LV48 麻痺毒LV28 石化毒LV24 蜘蛛糸LV50 糸操作LV47 土魔法LV32 毒魔法LV33 付与魔法LV19 形状変化LV8 熱感知LV23 隠形LV22 強化LV34



ヴェノムタランチュラって、思いっきり地球の言葉じゃん。直訳したら毒の毒蜘蛛。どんだけ毒の主張激しいんだよ。

それも当然のステータスだったがな!何だこの毒まみれのスキル群!毒だけで5種類あるんだが!?

そんで納得したわ。熱感知、これだな、僕らを発見できた理由。ていうか感知系スキルのレベル高いし、これは隠密レベル4が負けても仕方ないかもしれない。

つか、魔物ってスキルこんなに持ってるもんなの?そんで生まれて4ヶ月?人間ならまだバブーだぞ大人しくしてろよ。

HPもMPも文字通りの桁違い。こっちは最大で僕の100だからな。3桁だぞ。


うん、うっかり目の前に現れた蜘蛛の魔物、しかもこっちを認識してる様子なのを感じて思わず鑑定してしまいました。

もう気づかれてるならいいかなって。せめて情報だけでもと思ったわけですよ。絶望しましたけど。

ここから出来ることと言ったら、ハルをここから逃がすことくらいか。ハル単独なら逃げられる。隠密は自分一人にかけるなら誰にも触れなくなるからだ。

蜘蛛からだって逃げられるはず。攻撃対象に攻撃が届かないなら、どうとでもなるはずだ。

こちらの行く手を塞ぐ蜘蛛に、三人は固まって動けないらしい。僕が一番に復帰できた理由は、年齢だろう。自慢じゃないが中学生より人生経験豊富だからな。

想定外の状況から頭が真っ白になったまでは同じだとしても、そこから復帰できる早さが違ったらしい。



「…ハル、ヴェノムタランチュラだ。ギルドに知らせて。隠密で、頼む」

「…え…?」

「スキルやばい。逃げられない。レベル47だ。情報持って、逃げて」

「っ、そんな…」

「僕が前に出て飛び掛かるから、その隙に三人、逃げて」

「や、やだ、嫌です、リオ兄さ…」

「俺も付き合う。二人なら逃げられる確率上がるかもしれない。ナズも逃げろ」

「待って、リオ兄、アキ兄も」

「急げ、ナズ。膠着状態がどこまでもつかわからない」

「だから待って、リオ兄、そうじゃない、多分違う」

「………は?」

「…この魔物、敵意、ないと思う」

「………はあ?」



信じられない思いでナズを見た。真剣な顔をしてたので、現実逃避じゃなくて、ちゃんとした根拠があっての発言らしい。

視線だけで蜘蛛を見ると、微動だにしない。八つの目が虚ろにこちらを見てるように…いや、ナズを、見てる?

ナズが一歩前に出て蜘蛛に近づく。蜘蛛はその場から動かず、ナズの方を見ているように見えた。顔が、少しナズの方に向く。

キィ、と小さく鳴いた声に、さっきのような固さはなかった。むしろ喜んでいるような高い声。

何が起きているのかわからない、だけど、最悪の事態は避けられたんじゃないか。

ナズが更に近づいて、蜘蛛とはほんの二歩程度しか離れてない。その距離になって、突然蜘蛛がナズに向かって糸を吐きかけた。

焦ったのは一瞬、糸はナズの背負っていた荷物に張り付き、バリっと布の割ける音がして、再度蜘蛛の元に戻る。

蜘蛛の前には、布の残骸が。ナズの背には、布を剥がされて露出した薬箱が見えていた。

結局、薬箱を布で覆って大荷物に見せかける作戦は、ナズとハルが担当していたからだ。

何が起きたのか、頭の中は大混乱だったけど、蜘蛛がその破った布を見て大喜びしてるらしいことはわかった。

キィキィ鳴いて、前の足四本を上に上げ…まるで万歳をしてるような動きをしていたからだ。魔物の感情表現が人間と一緒かはわからないけど。



「あっ、剥がされた!?頑張って作ったのに!」

「キィ?」

「見たかったら見せたのに!剥がさなくても!」

「キー」

「ヤベー魔物相手に説教するんじゃありません」

「だってー!」



まあ、かなり頑張って作ってたのを知ってるので、気持ちはわからなくもないけどさ。

でもこれのおかげで命拾いしたなら儲けものでは…?



「キー、キィ」

「え、なに?うん、これ作ったのあたしだけど」

「キィ、キー、キー!」

「えっこれ喜んでるの?欲しいの?」

「さ、さあ…?さすがに魔物の言葉は…僕じゃ道具しかわからん…」

「喜んでるのは何となくわかりますけどね」

「…なあ、ナイフくん、君はあの蜘蛛の言葉わかる?」

(無茶言わないで。カケラも刃物使われてないやつの言葉なんてわからないよ。アイアンゴーレムが出たら呼んで)

「そっちこそ無茶言うなってかアイアンゴーレムとかいんのかよ怖いわ」

「…ナイフくん、何て言ってました?」

「刃物が使われてないやつの言葉はわからないって」

「刃物使われてたらわかるんですか…」

「…うわっ!?」

「ナズ姉!?」



馬鹿みたいな話をしてたらナズの悲鳴が聞こえた。

ただ、驚いただけみたいなので悪い前兆ではないらしい。一体何が…



「へ…?」

「ど、どうした?大丈夫か?水飲む?水出そうか?」

「いや、テイムしますか?って…アナウンスが…」

「………は???」

「て、ていむ?…って、何?」

「リオ兄さん、魔物使いって言ったらわかります?今、仲間になりたそうにこちらを見ている、という状態です」

「超わかりやすい説明ありがとう把握したわ」

「ど、ど、どうしよう…?」

「や、テイムしていいんじゃないか?だって味方になるなら頼もしいし、人間の敵側にいない方が町も安心だろうし」

「アキ兄さんに賛成です」

「ええ…?じゃあ、テイムする、で」

「キー!」



ぱっと光ってナズと蜘蛛が包まれた。光はすぐ収束して、うっすら一人と一匹に糸のようなものがつながって見えて、それもすぐ消えた。

蜘蛛の頭にぼんやりと何かのマークが見える。こんな柄はなかったはずだけど。

ハルが、従属紋またはテイムの印と教えてくれた。テイムしたらこうなるのか。知らなかった。ハルはそういうのも調べていたらしい。



「名前をつけてくださいってアナウンスが…どうしよう、ネーミングセンスないんだけどあたし」

「多分僕が一番ないぞ」

「カツラ帽子の悲劇を忘れるな…」

「そうでした…この子の種族、何だっけ?」

「ヴェノムタランチュラ」

「えー、かっこいいなー?何か意味あるの?」

「毒の毒蜘蛛」

「リオ兄、何て???」

「そんな頭痛が痛いみたいな名前なのか?」

「ヴェノムは毒、タランチュラは毒蜘蛛を指します」

「あっマジでそのままの意味だった!ええー?そんな怖そうなのやだなー」

「でもヴェノムってかっこいいな。この子男の子か?」

「メスらしいよ。生後4ヶ月」

「おっとマジか。赤ちゃん?ミルクあったかな…」

「何気にしてるんですかアキ兄さん。…あんまり、攻撃的じゃない名前がいいですね。だってこの子、テイムしたってことは町に連れて行くんでしょう?」

「あ、確かにそうだね」

「従魔の登録をすれば大丈夫のはずですが、名前がミナゴロシとかだと絶対警戒されます。女の子なら可愛い名前にしません?」

「キー、キィ!」

「あっ何か喜んでる。ハルの意見に賛成っぽい」

「えっナズ、言葉わかんの?」

「いやあ、言葉はわからんけど、感情っぽいのは何となくわかるかも?」



従魔術の効果だろうか。

それとも、テイムしたら誰でもわかるものなんだろうか?

どちらにせよ、ある程度の意思疎通が出来ているならいいか。



「ヴェー、ヴェノ、ノーム…何か別の生物になりそう」

「土の精霊とかにいそう」

「ちなみに土魔法スキル持ちだぞその子」

「マジか、すごいな!魔法使えるのか!すごい!」

「キー!」

「アキ兄さんの語彙力…てか、即蜘蛛ちゃんと仲良くならないでください」



蜘蛛は前足の二本、アキ兄さんは両手を合わせて、手を取り合うようにして喜んでる。

まさか、精神年齢が一緒…?いやまさか。

それを放置してなのか、ナズとハルは名前を考えていた。



「タランチュラからタラちゃんとか…いや、お茶の間アニメに出そうなので却下ですね」

「蜘蛛って意味だとスパイダーとかアラクネ…は何かのモンスターだっけ?」

「スパちゃんアラちゃんタラちゃ…は却下で、えっと、タランチュラ、タラン、タチュ、チュラー、タロー」

「迷走してるな」

「太郎て。太郎て、ナズ姉」

「ランちゃん、チューちゃん、タッラ、チュタ、ヴェチュー、ノムタ、ノムテ、チョラ…」

「原型崩れてきてるぞ」

「しっナズ姉真剣だから!」

「タチュ、タチ、タチョ、ダチョー、ラチ、ラチュ、ラテ、ラト…うん、ラテにしよう!」

「ダチョーじゃ別の生き物…ってか、コーヒー飲みたいのか?」

「うん!」

「ごめんな…コーヒー、どこにあるんだろうな…」

「アキ兄さん、しっかり!」

「うわごめん!催促したいわけじゃなくて何となくなのー!」

「ラテ可愛いけど、蜘蛛ちゃんは納得…してるっぽい、ですかね?」

「踊ってるけど、喜びの舞かな?」

「キー、キィ、キー!」

「僕が言うのも何だけど、途中ひどい名前出たな。でも、ラテなら危険性は無さそうな名前か」

「ネーミングセンスが最大の敵でしたね。二度と戦いたくありませんな!」

「威張らないでナズ姉」



まあ、テイムしたなら危険性はない、のかな?

多分、ナズの作った布に興味持ったっぽいけど。糸を使う魔物だから、何か布とかに興味あるんだろうか。

あれ?何か引っかかった。と思ったら、アキ兄さんが先に思い至ったようで言及してた。



「糸を出せる魔物…糸…この子、普通の裁縫の糸って出せたりするのかな?」

「え?…そういえば?」

「キ?」

「もし出来るとしたら糸足りない問題、解決かな?って思ったんだけどさ」



全員でそれだ!って顔をした。

この世界、糸とか高そうだし、手に入れる手段が増えるならありがたい。

だって被服スキルって絶対無限に糸を使うし。



「ということはレベル50の蜘蛛糸を刺繍糸に使うのか…なんて豪華な…」

「レベル50!?MAXじゃね!?」

「まあ、種族特有スキルだろうし、レベル上がるの早かった…いやそれでも4ヶ月でMAXはすごいな?」

「この子どんな暮らししてたのかな…てか何食べるのこの子?餌いるよね?さっきの狼は忘れるとして」

「確かに、餌問題ありますね」

「蜘蛛って確か雑食だからりんご食うんじゃないか?」

「あげてみようか?ほい」

「キ?…キー、キー!」

「え、超喜んでる。日本仕様のりんご、お気に召したみたい。アキ兄すごい!」

「マジか。それなりに数あるし、あげてもいいけど」



そういえば結構ストックしてるって話だったな。

ご飯大事だし、ありがたい。特にりんごはそのまま齧ってもいいし便利なんだろう。



「餌問題解決?あとは…見た目かなあ。さすがにこのサイズの蜘蛛は町に連れてけないよね…」

「しかも見るからに毒蜘蛛。紫だか藍色だかに黄色と赤のラインって、綺麗だけど明らかに触るな危険!の印だよなあ」

「キィー…」

「お?おおお?す、すごい、すごいぞ蜘蛛ちゃん!」

「アキ兄さん、語彙力取り戻して。ラインが白になったってことは、色彩変化みたいなスキルがあるんでしょうか?」

「えっと…あ、『形状変化LV8』と『隠形LV22』がある!多分これだ」

「隠形はともかく、形状変化なら、サイズ変更できるかな?ちっちゃくなれる?ラテ」

「キー、キー!」



任せろと言いたげに鳴くと、みるみる小さくなっていった。



「拳大、レスパイダーと同じくらいの大きさです!」

「むしろレスパイダーのフリできないかな?蜘蛛最弱でしょ?危険性少ないって思われると…」

「それだわナズ。なあなあ、レスパイダーのフリってできる?あんな弱いののフリが嫌とかなら無理言えないけど」

「んー、嫌ではないっぽいな。むしろそんなことでいいの?って言いたげ、かな?」

「いいんです。それがいいんです。あなたへの危険も少なくなりますから」

「キ!」

「あ、レスパイダーになった!かわいい!ラテかわいい!」

「初めて見たレスパイダーが、ヴェノムタランチュラの変化か…」

「そんなこと言わないのリオ兄」

「レスパイダーって思ったより鮮やかなピンクなんだな。森だと目立つんじゃね?」

「隠形スキル持ってるんじゃないか?それかモロバレだからすぐ狩られるとか?」

「あーなるほど」

「まあ蜘蛛って潜んで糸にかかる敵を待つ感じですし、種族単位で隠形持ちの可能性あるのでは」

「そうだね…てか、ラテが危険じゃないなら睡眠草探せるんじゃない?あと2本探して町に戻ろ?」

「あ、そうだった!」



依頼のこと、完全に頭から飛んでた。

冒険者失格と言われても仕方ない…と思いつつ、初心者だし許される気がしなくも…ないか。



「てかあたし、これ直さないとなー。薬箱モロ出しはさすがにまずい」

「ああ確かに。んーと、薬箱部分は傷ついてないな」

「キッ…」

「あー、怒ってない怒ってない。そうだ、直すとこ見る?被服スキル気になってるっぽいし」

「キー!」

「あ、やっぱスキルで作ったそれが気になってナズのこと見てたのか」

「ハルも同じの持ってるけど、ハルのことは見てなかったよな?俺が見た限りだから違うかもだけど」

「ナズが作ったってわかったんじゃないかな?だって作品からナズの魔力感じるだろうし」

「あー」



少し開けた場所に移動して、休憩することになった。

地面に直接座るのもどうかと思って、ござを出す。ビニールシートとかあればよかったけど、ないんだよな。

2~3枚重ねたら湿った土の上でも問題ないだろう。尻に被害が出たらそれはその時だ。



「あるだけありがたいけど、リオくんの召喚もなかなかの謎ラインナップだな」

「植物が原料のが多い気がするな。これ、い草だし…」

「そのうち畳とか出そうですね」

「どこで使えと言うのか」

「リフォーム…?和式キャンピングカー?あ、キッチンはそのままがいいな」

「やらんて」



ナズは薬箱を開けて裁縫セットを出した。何入れてんだこの子。裁縫系のものならアイテムボックスに入るだろうに。

曰く、何となくあの国のものは入れたくないらしい。ちょっとわかるけど。

持ってきたのは針と糸とハサミ…というか、ハサミ代わりのものだ。形はハサミにそっくりだし用途も同じだけど、日本のに比べると使いづらい。

切れ味悪いし力が込めにくいと不満らしい。それでもこれしかないから使ってる状態だ。早く自分か僕の召喚にハサミが出ないものかと祈っているらしい。

城で裁縫をしていた人達も普通にこれを使っていたことから、使いづらいのを渡されたとかじゃなくて、元々こういうものだそうだ。

仕方ないので今はそれを使ってるとナズは言っていた。一度僕も使ってみたけどめちゃくちゃ切りづらかった。刃が通らない。

端っこが少し切れて、あとの大部分の刃は布を挟むだけだった。多分ナズが一応切れてるのはスキルの補正もあるんだと思う。

まあ、そんな道具を用意して、ストックしていた布をアイテムボックスから出していた。蜘蛛は突然現れた布に驚いてたけど。

適当な長さに切って、破れた部分に宛がい、針を通したところで蜘蛛が非難するように鳴いた。



「キィ!ギィッ!」

「えっ?どうしたのラテ?」

「ギー!」

「わあ!?」



ナズに飛び掛かって、針から伸びた糸を噛み切った。それで満足したのか、すぐ離れたけど。

何事かと見てたら、やっとわかった。蜘蛛の尻みたいな部分から、細い糸が出て、それの先をナズの方に放り投げた。

ナズは反射的に糸の端っこを握ったらしいが、意味がわかっていないらしい。



「ナズ、蜘蛛の糸を使えって言いたいんだと思うよ。さっきも話しただろ?」

「え、そういうこと!?まさか今から有効とは思わなくて」

「多分ってか確実に城から持ってきた糸よりいいやつだし、提供してくれる気満々っぽいから使ったら?」

「キッ、キー!」

「蜘蛛糸LV50らしいですしね。多分めちゃくちゃ高級品ですよね」

「もう『糸紡ぎ』いらなくなる可能性あるんじゃね?」

「何てこと言うのアキ兄!そっちは将来に期待です!」



とりあえず、蜘蛛糸で布の補修をやってみるとのことだった。

スキル補正もあってか、すぐに終わって、魔力を流すとツギハギが消えて傷なんてない1枚の布だったかのような見た目になった。

補修に使った布も、蜘蛛糸も溶け込んだように消えた。テイムしてるためか、自分のスキル以外のもの(糸)が混ざってても反発もせず成功したらしい。

三人で、仕上がりに思わず「おおー」なんて声が出た。



「っ、すごい!ラテすごい!いつもより楽にできた!」

「キッ、キッ、キ~」

「高い高いすな」

「いつもはもっと手こずるんですか?」

「うーん、やっぱ糸かな?今まではあたしのスキル一切関係ない糸使ってたから、異物ってほどでもないけど、反発…とまではいかないけど違和感があって」

「ああ、わかる。俺も料理で少しあるな。召喚で出した材料だけの時と比べて違うの入れた時魔力が多めに消費されるっていうか」

「そう、そんな感じ!」

「その分経験値もらえるっぽいから全然いいんだけどな」

「もしかしてキャンピングカーにある調味料とか、米とかも…?」

「あ、うん。でも今言った通り経験値稼ぎにいいから、今後もガンガン使うつもりだぞ」

「…プラスになってるならよかったけど」

「あれがプラスになってなかったらヤバイだろ。俺のスキルだけだったら未だに味付け無しの果物丸かじりになるぞ?」

「そ、そっか」



ナズも不満はなかったらしいけど、今の作業がものすごく楽に出来て感動したんだそうだ。

取得経験値は減りそうだけど、糸も減ってきてたし今日からは蜘蛛糸を使って作業すると決めたらしい。

蜘蛛が喜んでるみたいだから、その方がいいのかもしれない。というか、この子それが目的っぽくてテイムされたみたいだしな。



「ところでさ、あたしテイムした時のアナウンス半分聞き逃したんだけど、何か増えてない?」

「え?」

「いやまさかテイム出来るなんて思わなくて、感動して…」

「ナズってばお茶目さん」

「お前は…まあいいや、鑑定してみようか」

「ごめん、お願い!」



名前:ナズ(波川 静)

年齢:14

性別:女

LV:1(あと100)

職業:お針子

HP:20/22

MP:13/20


スキル:被服LV5(あと122) 従魔術LV1(あと91)

テイム:ヴェノムタランチュラLV47



ガッツリ増えてるし、スキル獲得しとるぞ。よく聞き逃せたな。

伝えると、思いっきりポカーンとしてたけど。



「従魔術スキルって知ってる?僕、名前は知ってるけど詳細調べてないや」

「調べました調べました。テイマーが稀に獲得できるスキルだったはず」

「稀に?」

「というか、スキル獲得自体がそこそこレアらしくて、料理人だって調理スキルや料理スキル持ってる人は一部だそうです」

「そういえば。スキルは技術の後押しとかしてくれるけど、スキルはなくても料理も裁縫もうまく出来る人いるもんな」

「勇者は、こっちの世界の人よりスキル獲得しやすいって説もあるらしいです。数が少ないので研究できてないそうですが」

「そりゃそうだろうなあ。俺らみたいなの大量にいるわけでもなし」

「てか、人間でスキル複数持ちはかなり珍しいって話だよな。ナズ、気を付けないとまずいかも」

「鑑定できる人も魔道具も希少なのがせめてもの救いですね」

「う、う、うわ、何かまずいことになってた!ラテをテイムしたことに一切後悔はないけど!」

「キ…」

「まあナズの作業が助かるってならラテちゃんは大歓迎だな、俺」

「そうですね」



被服スキルと相性良すぎるもんな。

それに、カツラ帽子といい、冒険者用の服といい、鞄といい、ナズに負担かけっ放しだ。

少しでも負担が軽くなるなら大歓迎だ。元より糸だっていくらかかろうが買おうと思ってたし。個人的にはだけど。

それがタダになるんだから、ありがたすぎる。



「あ、今更だけど、蜘蛛苦手な人いる?僕は平気」

「蜘蛛?よく家に這ってるし全然気にならんなー」

「益虫ですしね。嫌悪感ないです」

「あたしも。そういや掃除の時に蜘蛛の巣にキエーってなったことはあるけど、蜘蛛自体は別に嫌いでも何でもないな。見つけても、いるなーくらいの感想」

「掃除、面倒だもんな。ラテ、巣、作らないでほしいんだけど大丈夫?」

「キッ、キ!」

「大丈夫みたい」

「でも寝床いるよな?どうしよう…人間が乗ることしか想定してなかったから」

「猫とかみたいにさ、籠の中に毛布敷き詰めたりクッションとか入れたりしたやつはどうだ?」

「ああ、試してみようか。町に戻ったら材料もあるだろうし。いや、召喚から出せるか…?」

「キャンピングカーも紹介しないとだし、戻ろ戻ろ!」

「キィ…?」

「私達四人の家のようなものですよ」

「キ!」



薬箱リュック(…)も直せたし、休憩も出来たので町に戻ることにした。

川沿いに下流へ歩いていたところ、睡眠草を2本発見できたので、依頼分は達した。

ちなみに、魔物をテイムした場合は、冒険者ギルドで従魔登録をすれば問題ないらしい。

ただ、テイマーでもないのにテイムしたことについて聞かれるかもしれないというのがハルの予想だ。



「ナズ姉、テイマーって言い張ります?」

「裁縫しかできんって言って登録したけど大丈夫かな?」

「さ、さあ…?」

「でもまあ、レスパイダーはこの森に生息してる魔物だし、脅威度も高くないから問題ない気もするな」

「本当はヴェノムタランチュラですけどね…絶対上位魔物とかですよ、これ」

「た、多分、蜘蛛の魔物でも強い方なんだろうなーとは思うけど」

「キー…?」

「何でこの子、この森にいたんだろうな?レスパイダーが進化したのか?いや、どこかから流れてきた…?」

「まあ考えてもわかんないだろ。ラテちゃんが話せるってなら別だけど」

「生後4ヶ月の蜘蛛って人間換算で何歳くらいだろうな。まだ子供なのかな。言葉が通じたとして、バブーじゃ意思疎通は無理な気が」

「さ、さあ…?魔物だし年齢はマジでわからんけど、ラテ、あたし達の言葉に反応してるし、ある程度の意思疎通は出来ると思うけどな?」

「それもそうか」



ここで考えても仕方ないということで、町に戻ることになった。

僕達は帽子(※カツラつき)を被ってるせいか、蜘蛛はその帽子が気に入ったのか、時折帽子から帽子に移動している。

ナズの帽子というか頭の上にいるのが一番好きらしいが、デザインの違う帽子が楽しいのか感触が好きなのか、頻繁に移動している。

上に乗ったところで全く重くないので構わないけども。重さも見た目通りになるのかもしれない。

町の近くまで歩いてきたところで、すれ違う人や近くにいる人にビビられたり二度見されまくった。

剣を構えそうになった冒険者もいたけど、僕達がのんびりした雰囲気であることやレスパイダー(見た目)であることで警戒は薄れたらしい。

それにぴょんぴょん帽子を行き来してるだけで何もしてないしな。

門まで着くと、さすがの門番も顔が引きつってた。通行人は究極関係ない人としてスルーしてくれたけど、門番はそうもいかないからな。

脅威があるものを町に入れるわけにはいかない。この蜘蛛が何なのか、聞かないわけにはいかないのだ。貧乏くじだな。可哀想に。(他人事)



「お、お前ら、その魔物は…」

「テイムした!」

「は?」

「テイムした!」

「蜘蛛を?」

「テイムした!」

「本気か?いや、ほんとにテイム出来てるならいいが…」

「出来てるよ!大人しいよ!」

「…まあ、なら、少しオッサンにその魔物を渡してくれるか?」

「酷いことしないならいいよ!」

「しないしない」



ナズ、ゴリ押し作戦でいったか。

まあテイムしたのは事実だし、嘘はないけど。こっちの主張押し通して終わらせようとしてるな。

門番のおっさんは蜘蛛を手に乗せて眺めていた。ああ、テイム印てのを確認してるのか。

そして手のひらで大人しくしてるのを見て、脅威はないと判断してくれたらしい。



「嬢ちゃんがテイムしたのか?」

「そうだよ」

「何でまたレスパイダーを…女の子ならライビとかの方がいいんじゃないか?」

「ライビまだ見たことないし。それに蜘蛛は糸出せるし」

「糸?」

「あたし、裁縫得意だから。でも糸、買うと高いし」

「あー、なるほど。そういうことか。スパイダー系はごくたまに人間に糸を分けるのが好きな個体いるしな。こいつはそうなのか。レスパイダーにもいるとは初めて知ったが」

「そうなの?」

「ああ、綺麗な糸を出すスパイダー系の一部とか繭を作る虫系の魔物にはたまにいる。服飾職人がテイムしてることもあるしな」

「へー!」



なるほど。言われてみればそうか。

糸が高いなら、そうやって手に入れればいい。

腕に覚えがあるか、知り合いに腕の立つ人がいるならテイムするための協力をお願いするという手段もある。

もちろん金で買えるなら店で買う方が何倍も安全だけど。

何であれ、割とありえるパターンのようだった。



「スパイダー系の魔物はまあいいが、同じ蜘蛛でもタランチュラ系は違うから近づくなよ。あいつらは毒があるんだ」

「えっ」

「この付近にはいないから大丈夫だがな。でも蜘蛛は安全って思いこむのは危ない。嬢ちゃんも、お前らもだ。絶対近づくな。見かけたら死ぬと思え」

「え、ええー、まあ、俺ら危ないのには極力近づかねえけども」

「門番のおじさん、タランチュラ系とスパイダー系ってそんなに違うんですか?」

「ああ、毒無しと毒持ちで分かれてんだ。スパイダーは毒がないから大丈夫だ。何でも昔、偉い奴がそんな風に分けたとか何とか」

「毒無しがスパイダー、毒持ちがタランチュラ、ということですか」

「ああ。と言ってもタランチュラ系は色も派手だし毛が生えてるのが多いらしいから見たらわかるぞ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「詳しく知りたいならギルドで聞いた方がいい。この辺りはレスパイダーしかいないから、それ以外の蜘蛛はよく知らないんだ」



門番だから、この辺に分布してる魔物については詳しいんだろう。有事の際は戦うことになるだろうしな。

でも逆に言えば、この辺りにいない魔物には詳しくないということか。当然と言えば当然だ。門番をする上で必要ない知識だろうし。

それでも町を出入りする人と接してるため、遠くから来た人の話が聞こえてくることもある。多分、今の話はそういう聞きかじった知識なんだろう。

魔物については冒険者ギルドが一番詳しいはずだし、確かに調べるとしたらそこか。

テイムの確認が取れたので、門は通してくれた。でも寄り道せずに冒険者ギルドに行けと言われた。

うん、真っ先にラテを従魔登録してしまえということだろう。この登録さえしていれば、町をうろついても咎められることはない。

登録時にテイムした魔物に印をつけなければならないらしいが。登録していてもこの印をつけていなければ、野良モンスターとして討伐されても文句を言えないそうだ。

なので、その危険をなくすためにさっさと登録して印をもらえと、そういうことだろう。

レスパイダーの姿とはいえ、一般人や子供が行き交っている大通りで魔物の姿が見えたらいらないトラブルを招きかねない。

あと、子供は怖がるかもしれない。それを避けるために、帽子に乗せていたラテは、ナズが手のひらで覆うことにした。

両手で、呼吸のこともあるので完全に閉じてしまわないように。すれ違った程度では、何を持っているかわからないように。

大切に乗せられてるのがわかっているからか、ラテはご機嫌のようだった。小さくキーと一度鳴いた後は静かにしていた。声で蜘蛛の魔物がいるとバレないように。

駆け込み気味で冒険者ギルドに入る。依頼達成と、従魔の登録をしないと。

門番から連絡が行ったのか、受付嬢は事情をある程度知ってるようだった。従魔登録用の用紙が既に用意されていたのである。門番優秀だなあ。



「まず、睡眠草の納品を済ませてしまいましょうか」

「あ、そうだな。これで」

「…はい、30本。確かに。状態の確認と報酬を用意するので、その間に従魔登録をしてしまいましょう」

「あ、頼む」

「門番からは嬢ちゃんがテイムしたと聞きましたが、どちらの…」

「あ、あたし」

「ナズさんですね。あ、その手の中ですか?見せていただけます?」

「うん、どうぞ」

「…はい、確かに従魔の印がありますね。繋がりも、ナズさんで間違いないようです」



小さな機械を蜘蛛に近づけて判断していた。ラテからナズの魔力を感じ取ったのかもしれない。多分、そういうものを判断する機械だろう。恐らく魔道具だ。

従魔登録なんてものがあるくらいだ。冒険者の中に、一定数テイマーがいて、その登録の際に使う専用の魔道具なのだと思われる。

その後に何か箱を出してきて、開いた。首輪やブレスレットなどのアクセサリーが入っている。



「蜘蛛型ですからねえ…どうしましょう?邪魔にならないものは…」

「なにこれ?」

「従魔だと示す証のようなものですよ。これをつけてると、ギルド確認済みの従魔と見做されます。なのでずっと身に着けて問題ないようなものを…」

「あー、確かにピアスとか腕輪は、つけれないなあ」

「ナズ姉、これは?」

「なにこれ?カフス?ピンブローチ?」

「それは、基本的にゴース系モンスターに使用するものですね。銀なので霊体に干渉できるんです。実体がないと、人型でもアクセサリーつけられませんから」

「針でブッ刺す系のやつか」

「というか、衣服にあたる場所につけるものですね。針で衣服に刺して、裏側からこのカバーをつけると固定されるんです」

「ハル、ラテに針刺すの…?この子服着てないのに…」

「いや、直接体にこれつけるんじゃなくて、ラテちゃんにスカーフかリボン巻いて、布部分にに刺せばって思ったんですけど」

「ああ!」

「そのスカーフかリボンを、ナズ姉が作ればラテちゃんも喜ぶかなって」

「今めっちゃ喜んでね?」

「前足上に上げて喜んでますね。そうしますか?こちらとしては印が見える状態であれば何でも構いませんし」

「そうする!とりあえずスカーフっぽいのは後で作るとして、今はハンカチで代用しようかラテ!」

「ところで、そのレスパイダーの名前はラテでよろしいですか?」

「あ、うん、そう!」

「わかりました。ラテ、で登録しておきますね。…はい、これで従魔登録は完了です」

「ありがとう!」

「いいえ。あ、ちょうど計算が終わりましたね。睡眠草の報酬をお渡しします」

「お、やったぜ」

「採取方法、状態は良好。少しイロをつけておきますね。よければまた受注してください」

「やりぃ!」



これで一旦、ギルドでやるべきことは終わったか。

じゃあ次は、新しい仲間に家を紹介してやらないと。



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