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12.トランタの町

名前、偽名になってます。

狭山茜=アキ(料理)

村雨涼=リオ(無機物干渉)

波川静=ナズ(被服)

林千晴=ハル(隠密)


適度に寄り道(森)を挟みつつも、ついにトランタの町に到着した。

ちなみに、町が見える前にキャンピングカーから降りて徒歩で向かう。普段あんま歩かないもんだからしんどかった…

服装は波川さんもといナズが頑張ってくれた。カツラなんて無茶言ったなと思ったけど、髪は『糸をそれらしく見せる形』として作成したらしい。

この糸は『糸紡ぎ』ではなく『加工』で布を割く感じで作ったと。マジで『加工』って色々出来るんだな。

田舎者で旅をしてた設定なので、髪はゴワついてるような感じだ。つやさらの髪なんてこの世界の平民には縁がないからな。

そして服も、新品ではあるが『加工』の色の調整で薄汚れた色合いに仕上がっている。汚れて見えるが新品なので清潔だ。

すごいな被服スキル。そして作ってしまうナズもすごい。結局レベルは5から上がってないけど、僕から見れば充分プロの所業だ。

元々貧乳なので胸元は誤魔化さなくていいって言ったら、めちゃくちゃ怒られた。

でもサラシ的なものを作る余裕はさすがになかったので、僕とアキ兄さんはマントやケープで体格を誤魔化す作戦に出た。ちょこざいな。

アキ兄さんは足の膝あたりまであるマント。胸元は、マントのデザインで隠れている。左肩のあたりに留め具をつけて、前に流す感じなので胸元はマントで隠れるのだ。

動けば左右に開いて腹から下は見え隠れするが、前を閉じでくるまればそのまま寝れる防寒具みたいになる。こうして野宿の旅したんだろうなと想像してくれるかもしれない。

僕はケープというべきか、喉元に襟があり、厚めの生地で上半身をすっぽり覆い隠している。前は紐を結んで完全に閉じている。

全体的にダボっとした服装なので、体のラインはほぼわからないだろう。初めて着た時「思ったより余った。細すぎなんじゃ…」って聞こえたけどきっと幻聴だ。

そういえばこの世界、ボタンはないらしい。なので、服のデザインにボタンは使われてない。まあ、まだボタンのあるものはスキルで作れないらしいが。

なのでケープの前を紐で留めてるように、この世界の服は紐で結んで合わせを閉じたりサイズの調整したりしている。入院着とか甚平みたいだ。

ナズもハルも女用ではあるが、旅人を装ってるので動きやすいデザインの服である。ハルはちょっと黒が多いかもしれない。



「門で入場記録か。身分証ないから現金だな」

「いくらなんだろ?」

「この規模の町はそこまで高くないはずです。町全体で栄えてますから」

「あー、貧乏な町とかの方が高く取られるんかー」



順番待ちの間こそこそ話してると、すぐ順番になった。四人組ですと答えて門番に質問される。代表としてアキ兄さんが答えてた。



「ふむ、冒険者登録しに来たのか」

「ああ、そろそろ村でタダメシ食らいも申し訳ないからな。森の採取ならそこそこ自信あるし食い扶持ぐらいは稼いでみせるさ!」

「…魔物退治とは言わないんだな?」

「女が二人もいるのに無茶できないって」

「ああ確かに。それなら安心か。お前達の年頃なら魔物を倒して一獲千金って言う奴が多くてな…」

「あー」

「まあいいだろう。身分は田舎の村人で、目的は冒険者登録だな。名前を教えてくれ」

「俺はアキだ」

「僕はリオ」

「あたしナズ!」

「私はハルです」

「よし、登録した。出身の村の名前はわかるか?」

「村って言ったけど集落みたいなもんでさ、長みたいなじーさんの名前が一応、住んでる場所の証明みたいなのになんのか?」

「ああ、何かしらの被害者が落ちのびて暮らしている所なのか。であれば名前はいい。悲しいがよくあることだ」

「そっかあ。じゃ、入っていいか?」

「ああ、一人1000Gだ。冒険者登録をすれば無料で町に入れるようになる。すぐ登録するか宿を探してからにするかは任せるが、早めに行った方がいいぞ」

「わかった!ありがとう!」

「ああ、じゃあ四人とも、ようこそトランタへ」



名前を聞いたのは、恐らく僕たちが字を書けないから代筆してくれた感じなんだろう。この世界の平民の識字率は高くない。

同じような目的で町に訪れる子供は多いようだし、その他大勢と同じ対応なのかもしれない。その他大勢と見做されるのは大歓迎なので文句はない。

他の三人も、こういうことがあるかもしれないと事前に話してたので(ハルが)、字なら書けますよ、なんて声をかけたりしない。

四人でパーティを組んで冒険者登録というのはかなりいるらしい。というか、三人から五人で組んで冒険者というのが多いそうだ。

うまく紛れ込めたと心の中で笑う。いかん、また詐欺師とか言われる。

トランタの町は、事前情報通り栄えていた。ゲームでいうところの中規模の町レベルだろうか。

王都の城下町は通ってないので比較ができないな。実地訓練の時は馬車で運ばれたようなもんだったし。

外を見れないように、外から中が見られないように言うなれば荷物みたいに運ばれていた。道順を覚えさせたくなかったのかもしれない。

なので僕達はラージフールの王都にはいたものの、城の中も城下町も地理はさっぱりだ。別に知ったところで二度と行かないからどうでもいいけど。



「門番さんも言ってたし、先に登録に行こうか」

「宿、決める必要ないですしね…」

「うん、そうしよう。登録した後ちょっと町ブラつこうか」

「了解」



事前に、町滞在中は空き地などの広くて人が来ない場所にキャンピングカーを出して寝泊まりしようと決めていた。

最初は町の外でとも思ったけど、町は出入りが記録されてる。外に行って戻ってこないのが続くと怪しまれる。そのため、こうなった。

町の中にいれば多分誤魔化せるだろうと。キャンピングカーに乗るところを見られないように人気のない場所を探すつもりだ。

変な奴のたまり場になってなければなお良し。

というか、普通の宿だと色々気になるので逆に落ち着けない気がする。現代人、結構贅沢というか基準がかなり高いからな。

ベッド1つ、壁の薄さ1つで不満が出そうだ。あの城での経験もあるしな。ということでキャンピングカー泊に全員が賛成したわけである。

そろそろ四人揃ってベッドで並んで寝るのもアレかなあと思ってはいるけど、今のところ不満はないらしい。

まあ布団も余分なのないしな。選択肢がないとも言う。ナズのスキルでも、布団は何故かないらしい。綿があるのはまだ召喚できないのかな?

僕のスキルも、ほぼ木とか植物が原材料のものがほとんどだ。金属はない。ペーパーナイフはあってもナイフはない。包丁も。

多分レベルアップしたら出せるようになるんだと思うけど。だってキャンピングカー、車だし。鉄製だ。少なくとも鉄製は出るようになるだろう。

しばらく歩くと、大きな建物が見えた。丸い看板に剣と盾、草の模様らしきものが縁に描かれてる。冒険者ギルドの看板だ。



「テンプレ起きませんように、テンプレ起きませんように…」

「アキ兄さん?どうした?テンプレって何?」

「あー…ガキが冒険者ナメんなって因縁つけられるパターン多いもんね…ラノベでは」

「でも門番さんの話だと私達のような子供は多いって言ってました。そうそうないのでは?」

「それもそうか。よし、行こう」



ギルドに入ると、人はまばらだった。朝と夕方は混むらしい。これはラノベ情報らしいけど。

朝は仕事探す人がいて、夕方は仕事の報告の人でごった返す。そんな感じなんだと。ここも例に漏れないのかもしれない。

ちょこちょこカウンターに人はいて仕事の受注だか報告してるっぽいけど、並んでる人がいないカウンターもあった。

四人でそこに並ぶ。割と綺麗なお姉さんだ。愛想よくニコニコしてた。



「こんにちは、ご用件をお聞きします」

「冒険者登録したいんだけど、いいか?」

「はい、もちろん」



ちなみにアキ兄さんはわざと敬語は使ってない。

敬語を当たり前のように使える田舎者の子供は珍しいはずだからだ。だからこの中で敬語はハルだけにしようということになった。

アキ兄さん的には「失礼になってそう!ごめんなさい!」みたいな気分らしいが。

僕とナズはその気持ちになりたくないので長男(暫定)のアキ兄さんに任せきりなのである。口開いたら敬語になりそうだからな!

無礼って思わないかなと少し心配したけど、これが当たり前という認識なのか表に出してないだけなのか、受付のお姉さんはまったく気にしてないようだ。



「この紙が登録用紙です。代筆しますか?」

「…頼む。四人分だけど」

「ええ、結構です。では名前から教えてください」



そうして登録情報が記録されていく。名前と年齢、出身地、特技程度だ。

年齢は14と言ったら驚かれた。この世界の基準では11~12に見えたらしい。僕達全員。ああ、日本人の童顔問題、ここでも…

出身地については門番さんに説明したのと同じことを言ったら納得された。それなりにあることらしく、空欄で問題ないらしい。

特技は、戦闘が出来るかどうか、得意かどうかの目安だろう。



「料理?」

「え?」

「この中で、俺が料理番」

「…ああ、なるほど」

「僕は薬草とか植物なんかを見分けるのが得意かな」

「まあ、薬草採取の依頼で便利ですよ、それ」

「あたしは、うーん、繕い物…?服のほつれとか、縫ったり?」

「なるほど。資源の少ない集落では貴重な能力ですね」

「私は小柄なので、こっそり行動できます。よっぽど近づかないと魔物にも見つかりませんでした」

「まあ、それはすごいですね」

「見ての通りガキだから、大人に比べたら大したことないだろうけどな」

「いえいえ、自分の出来ることをしっかり把握できてるのはとても凄いことですよ。必要事項は聞きましたので、登録に入ります。少々お待ちください」

「はい、お願いします」



どうやら、登録自体は本当に簡単に出来るらしい。犯罪者も登録したい放題では…?

もっとも、指名手配されてるレベルの犯罪者はギルド全体で把握されてるし、ギルド入り口にある魔道具で判別できるらしい。監視カメラみたいなもんか?

指名手配の犯罪者として登録されてる人がギルドに入ると、警報が鳴るそうだ。で、ギルドは荒くれが多い。腕の立つ冒険者も多い。

そういうのがこぞって捕縛にかかるらしい。うわあ…

僕達は当然そういうこともないので、何もなく入れたと。ギルドに問題なく入れてる時点である種『問題ない人』と判定されてるのか。


アキ兄さん達が言ってたテンプレとやらも発生せず、壁に貼られた依頼表を眺めてると、登録が完了したとカウンターから呼ばれた。

四人でカウンターに移動すると、四枚のプレートが渡される。名前とギルドの紋章である剣と盾と植物の模様。看板にも描かれてたあれだ。それが刻まれてる。

茶色いプレートなのはランクを表しているらしい。ランクは銅。これは初心者のランク。

どうやら字を読めない冒険者が多いので、ランクを文字で刻むのではなくプレートの色で判別できるようにしたらしい。ああ、うん…

ランクは銅から銀、金、白金と上がる。途中までオリンピックかな?と思ったのは申し訳ない。その上は、プラチナか。それから最上級に虹が存在するらしい。

もっとも、虹級冒険者は世界に数人しかいない、まさに伝説級なのだとか。まあ、そんな雲の上みたいなのに興味はない。普通はそれに憧れるらしいけど。

僕達の反応が鈍かったのをちょっと疑問に思ったらしいけど、(この年頃は最上級の虹に憧れて目指すんだそうだ)簡単に説明はしてくれた。



「銅ランク冒険者は、依頼を2ヶ月以上受けないと登録抹消になります。再度の登録には厳しい審査があります」

「うげえっ」

「何て声出すんだアキ兄さん。でもまあ一回やらかした奴なら仕方ないだろうなあ…」

「確かにそうですね」

「ええ、そうなんです。なお銀ランクに上がると、1年依頼を受けなくても抹消はされません」

「えっ随分余裕できるんだな?何で?」

「銀ランクはそこそこ実績があるランクですから。長期の依頼などもあるのですよ。遠方の護衛任務だと片道数ヶ月なんてこともありますし」

「あー…確かにそれだと一回の依頼で数ヶ月潰れるから、1年くらい余裕もたせないと抹消しまくる羽目になるのか」

「ご理解いただけでありがたい限りです。ですので、皆様まずは銀を目指しますね。狭き門ですが」

「1つ上がるだけで結構違うんですね。銅ランク冒険者は多いんでしょうか?」

「全体の半分以上は銅ランクですね。もう一段階ランクを設けるべきではとの意見もありますが、現在はこの状態です」

「そっか、わかった」



あとは軽い注意事項。冒険者同士の争いはご法度だとか、人として当たり前では?ってことばかりだった。

逆に言えばこんなことさえ守れない奴がいるんだろう。

あとは冒険者であれば提携してる宿が割引になるだとか、ギルド2階の資料室は無料で閲覧できるだとか聞いた。

資料室でハルが目をきらめかせたのでこれ利用することになりそうだな。宿は全員スルーしたけど。

説明も15分程度の短いものだった。それが終わり、登録料を払って冒険者登録は完了だ。ちなみに一人2000Gだった。

一応まだ金はあるけど、早めに稼いでおきたいな。



「どうする?依頼さっそく受ける?」

「私、資料室行きたいです」

「いいな。依頼表見て採取依頼の植物見よう。俺、薬草毒草はわかるけど、他の草の見た目よくわからん」

「そだね、それ資料室で見よう。魔物の情報も見たいけど」

「そうするか」



そう話して、銅ランク用の依頼を眺める。依頼内容が書かれた紙が壁に貼り付けられてるので、ひとつひとつ読んでいく。

そして途中で気づく。



「あのー受付の人、内容読んでもらっていい?この絵の描かれてない依頼内容、何?」

「「「………!」」」

「あら、そうですね。少々お待ちください」



字を読めない設定、頭から消えてた。そしてそれに気づいて慌てて受付の人を呼んだ。

てか他の三人もすっかり忘れてたっぽいな。無理もない。ちょっとヤベって顔してた。

大体の冒険者は、依頼表の中央に描かれた絵で何となく依頼を理解してるらしい。草だったら薬草などの採取、魔物だったら魔物退治といった具合に。

あとは町の雑用なんてものもあって、箒が書かれてたりする。字が読めなくてもある程度何とかなるようになってる。

銀ランクの方は絵が描かれてないものも多い。もしかすると銀への昇格条件のひとつに字が読めることってのがあるのかもな。



「これは薬草の採取依頼です。常設任務ですね。10本採取で500Gの報酬です。こちらは魔力草の採取依頼。10本で2000Gの報酬です」

「魔力草、知らないかも」

「資料室で調べましょう」

「茎全体に青い線が入ってる草が魔力草だったはず」

「あ、あれが魔力草なの?それなら森で見たよね。あたし心の中でブキミ草って呼んでた」

「見た目も色合いもまずそうだったから無視してたな。リオくんが食えないって言うから興味なくして忘れてた」

「私も毒草の亜種だと思ってました…」

「み、見たことはあるんですね。森の少し深い所に行かないと生えてないものなのですよ。薬師や錬金術師が必要としてるので、こちらも常設依頼ですね」

「明日採取系の依頼受けようか?俺ら、もうちょい森の植物の詳細覚えた方が良さそうだ」

「うん、そうしよ。常設依頼だし、難易度は低いはず。あたしら初心者だから簡単そうなのからやろ」



少し安心したような、微笑ましそうな顔の受付嬢にあれこれ聞いて、満足したところで資料室に向かった。

多分一発目から魔物退治だーって言う無謀なクソガキ初心者がたくさんいるんだろうな。

こっちは城で理不尽な目に遭ったし現代日本から来たこともあり、危険は絶対避けたいって認識だからな…

依頼で出そうな植物を調べたりこの辺に生息してる魔物の種類を調べてたら結構時間が経っていた。

依頼は明日の昼前(朝は避ける)に受けに行くことにして、今日はキャンピングカーを出せそうな場所を探そう。

怪しげな路地裏なんかは避けて、倉庫やらが多い区画に入る。この辺ならいい場所があるんじゃなかろうか…って。



「あ」

「どしたリオくん?」

「あそこ、武器屋だ」

「おお、テンプレっぽい。剣の看板かっこいいな」

「武器かあ、そういえば、いるかなあ…?」

「護身用はあった方がいいかもしれません」

「ぶっちゃけ、防御面てか服はあるからいいとして、攻撃手段なさすぎるなって思って」

「でも使えなきゃ意味…あ、リオくんなら使えるかな?」

「どうかな。でも欲しいのはナイフなんだよな」

「ナイフ?何でですか?」

「それなら一応武器にもなるし、採取にも使えるから」

「あーーーーー、なるほどな。明日採取に行くし、いいかもな」

「それならナイフ一本買っておきませんか?手頃な値段のものがあれば」

「そだな、それくらいなら買えるか」



そんな話をして武器屋に入った。やる気のなさそうなオッサンが店番してたけど、スルーしよう。

無駄に営業してこないだけマシだ。鑑定も使いつつナイフを見たけど、どれもそこまで質はよくない。でもそれだけに安い。

今は暫定で使えるものがあればいい。そう思って眺めて、使いやすそうなサイズのナイフを手に取った。



(…僕を使ってくれるの?切れ味あんまりよくないよ?)



お、声が聞こえた。相性はそこまで悪くないらしい。

会話が出来る無機物は、全部じゃない。あの部屋にあったものはどれも長く存在したから話せたけど。

新しく出来たばかりの道具は会話なんてできない。生まれたばかりだから、大気のマナだって浸透してないし、そんな力はない。

作られてからそこそこ時間が経ってると会話くらいはできるけど。それと、傑作と呼ばれるようなものは完成した瞬間にすごい力があって会話できたりする。

もっとも、そんなものは見たことない。

あとは単純に僕と相性がよかったりすると意思疎通が可能になる。今回はそのパターンだ。

暫定でって思ったけど、しばらく使うことになるかもなあ。



「これ買いたい」

「お、決めた?いいよ」

「重い?軽い?」

「結構軽いよ。ナズ、持ってみる?」

「うん…あ、ほんとだ軽い。ナイフってもっと重いと思ってたなぁ」



買うとは思ってなかったのか、店番のオッサンはちょっとびっくりしてた。

普通に表示されてる金額の300Gを払う。いい買い物した。

と思ってたら。



「これもやるよ」

「え?…杖?」

「ウチの息子が作った失敗作の杖だ。殴るしかできねえし殴ったら折れるかもしれねえ。店に置けねえ」

「ああ、魔力的な何かはないってことですか」

「そうだ。杖ってのは魔術補助の武器だからな。付与に失敗したんだよ。でも初めて作ったもんだし見た目は普通なもんで、処分すんのはって思ってな」

「あー、確かに魔法使えそうな見た目かもな」

「でも実際そういう力はねえんだ。見たとこ武器らしいの持ってねえだろお前ら。そのナイフもあんまいい出来じゃねえ。オマケだ。持ってけ」

「うわあ、ありがとうおじさん!」

「ああ、ウチのガキと同じ年頃のガキが死ぬのは寝覚めが悪いからな。魔物に襲われたらそれで目とか潰せ。逃げる隙くらいは作れるだろうさ」

「おお、嬉しい!ありがとう!」

「じゃあな。あと金ができたら通り向こうの武器屋がオススメだ」

「オススメ、ここじゃないのか?別の店紹介しちゃっていいのか?」

「勧められるような品物ねえよ。あっちにゃ弟と上の息子がいるんだ。金落としてけ」

「ひええ、商売人!商売人、卑怯!」

「うるせえ。ほら帰れ。お買い上げありがとよ」

「はーい」



そこで今度こそ店を出た。ナイフ1本のつもりが杖もゲットしちゃったぜ。

しかし、アキ兄さんとナズがオッサンと地味に盛り上がってたな。僕?杖受け取った後は後方兄貴面で見守ってたよ。



(目潰しする?目潰しやるよ!振りかぶってー)

「キャラ濃いなこの杖」

「え、喋れるの?」

「オッサンのせいで自分は目潰しするのが役目って思いこんでるっぽい」

「うわあ、嫌な英才教育やん」

「まあ俺らの中に魔法使えるのいないから、鈍器でもありがたいけど」

「ナズかハルが持つ?魔術師っぽくない男が杖持つのって個人的に違和感」

「うーん、じゃあハルは?変態が寄って来たらこれでボコりな?」

「何で私?武器はありがたいですけど」

「見た目ロリ巨乳はちょっと危険な気がするから」

「ナズ姉???」

「あっごめんその目やめて怖い超据わってる!」



ひとまず、これで採取は楽になるはず。

薬草は根から必要だけど、魔力草は根っこは残して採取するの推奨らしいしな。

根が残ってたらまた生えるからだそうだ。魔力草は薬草より数が少ないから、根っこまで抜くともう生えなくなる。

薬草は薬の材料に根も必要なこと、根っこが埋まってる土のあたりに薬草の魔力っぽいのが残るから、またそこに薬草が生えるらしい。

なので薬草は絶滅の心配はほぼないけど、魔力草は間違うと数を一気に減らす。なので気を付けるように注意してるらしい。

中には聞かない冒険者もいるし、覚えない奴もいる。その場合は受注を断ることもあるそうだ。常設依頼断るってやばいな。

もっとも、魔物退治より報酬が安いので、ほとんどの冒険者は採取依頼にこだわらないらしい。いいのか悪いのか。

そんなわけで、採取依頼は常設依頼にしなければならないほど、数が足りてないと受付の人が言ってた。

僕達が採取依頼やろうってやる気になってたから、ありがたいって思ったんだろうなあ。

いや、戦闘力がないから魔物退治できないだけなんです。何なら町の雑用でもいいと思ってるくらいです。ごめんなさい。

だんだん人気が少なくなってきて、少し開けた場所を見つけた。

ここならキャンピングカー出すのにいいんじゃないか。そう思ったら、みんな同じ思いだったらしい。

周りに誰もいないのを確認して、キャンピングカーを出し、即乗り込む。これで安心だ。



「っあー、つっかれたー!」

「お疲れ!アキ兄大活躍だったね!ありがとう!」

「とりあえず、最低限やれることはやったな。冒険者登録、依頼の吟味、必要な情報収集」

「明日から少し冒険者として活動しますけど…鞄、加工した方がいいかもしれませんね」

「え、ナップザック(加工済み)駄目?」

「もう少し大きい鞄を用意した方がいいかも。今日はアキ兄さんとリオ兄さんのマントの下に荷物あるかもって誤魔化せたけど、旅には少なすぎます」

「あー…周りの冒険者たちを見てたら確かに。結構な大荷物持ってたもんな」

「ポーターらしき人もいたな、ギルドに」

「ごめん、ポーターって何?」

「あ、リオ兄知らんか。荷物持ち専門の人だよ。アイテムボックスとまでいかなくても、荷物をたくさん持てるアイテムかスキル持ってたりするはず。ラノベ情報だけど」

「実際ポーターの職はあるみたいですよ。あとマジックバッグは実在するみたいです。お高いそうですが」

「うーん、便利そうだけど、今はいらんなー」

「ある意味リオくんがポーターだよな。このキャンピングカーに荷物置いとけば身軽で済むし」

「人ごと運ぶポーターか。やばいなリオ兄」

「ギルドで知れたら冒険者に囲まれて勧誘されまくるやつです。絶対秘密にしないと」

「そ、そこまでか?まあここに荷物置いとく分にはいいけど」

「荷物はそれでいいとして、お金はどうしようか。キャンピングカーに置いててもいいし、ギルドに銀行っぽいのもあったよな?」

「登録したらその人しかお金引き出せない謎技術か。日本の銀行より凄いな。稼ぎが大きくなったら使ってもいいんじゃないか?」

「報酬は振り込んどいてくださいって言えばいい感じかな。あっ何かセレブっぽい!」

「いや、ナズ、現代日本人、給料は大抵銀行振り込みだからな。手渡しの方が少数派だから、ただの一般人だよ」

「セレブの道は遠かった!」



銀行っぽいのはゴルダムスとかいう名前らしい。ゴルダはお金の単価でムスが預けるとかそんな意味だそう。まあ銀行みたいなもんである。

荷物を預ける倉庫もあるらしいが、それは商人ギルドに登録するか、冒険者が銀ランクにならないと利用できないと。

ゴルダムスはギルドカードがキャッシュカード代わりで、施設で引き出したい金額を言えば引き出される。人を介さず、個室の魔道具がやるらしい。

なので中抜きなどの心配はないとのことだった。人がやるのは魔道具のある個室への案内だ。重要施設みたいなものなので、常に鍵がかけられてる。

その鍵を開けるのが人というか、職員の役目。利用者も大物が多いため、かなり厳重に管理してるんだとか。



「ともかく、数日は冒険者やろうか。それで多少お金溜まったら次の町に行こう」

「そうだな。次はガレメナか。ここは多少亜人が住んでるって話だっけか」

「確かそう。ここはそういや人間族ばっかだね」

「ラージフールが人間族至上主義らしいですからね。付近の町は自然とそうなるでしょう」



それだけ話して、解散した。

というか僕はこういう時運転してたもんだから何していいかわからなくなった。

アキ兄さんは夕飯の準備だしハルも手伝いだ。ナズはナップザックの加工をしてデカめの鞄を作るそうな。

町に入るのにギリギリまでスキル使ってたので残りのMPもそう多くないはず。頑張るなあ。

さて何しよう、と思ったところでさっき買ったナイフと杖を思い出した。



「明日はよろしくなー」

(何か切ればいいのかな?切れるかな?解体かな?)

(何を殴るの?目?瞳?)

「さすが武器。物騒。切るのは多分草とかかな。殴るかは…不明。君の出番が来たら僕達がヤバイ事態になってるってことなので、ない方がいいな」

(あれ?僕が言ってるの伝わってる?)

「聞こえてるよ。よろしくね」

(わあ、すごい!頑張らなきゃ、いっぱい切らなきゃ!)

(殴らないのかー。まあ殴ったら壊れるかもだけど、私は殴りたいなー)

「多少強度は補強できるから一発で壊れることはないと思うけど、君の出番はない方がいいな」

(必要だったら使ってね?)

「その時は遠慮なく使うよ」

(ならいい!)

(草くらいなら切れるよ。いっぱい使ってくれると嬉しいな)

「君は明日使う予定だな。よろしく」

(よろしく!)



《スキルがレベルアップしました》

《無機物干渉スキルレベルが4になりました》

《召喚マナ消費量が減少します》

《召喚内容が増えました》

《干渉範囲が増えました》



おや、レベルアップした。

特に特別なことはないか。干渉範囲も最初は手を触れてないと干渉できなかったのが目に届く範囲なら干渉できるようになったとか、そういう増え方だし。

あとは長く接してると力を送りやすいとかあったけど、それが早くなったとか地味に強化されていってる。

あの部屋の『彼ら』も最初はほんと小さなことしか出来なかった。できるだけ動かないようにとかちょっと感触変えるだけとか。

石が多少柔らかくなったことで、寝るの楽になったんだよな。石の床って固いから。

まだ入手して1時間も経ってないけど、ナイフの切れ味とか杖の耐久度強化とか多少ならいじれるかもなあ。まあ今は必要ないけど。

多分レベル1の時だったら、数時間経たないとまったく反映できなかったはずだ。



「リオ兄、何しゃべってたの?もしかしてナイフとかと?」

「うん、明日やる気になってくれた。話してたらレベルアップして4になったよ」

「え、おめでとう!何か増えた?」

「ううん、召喚内容増えたのと干渉範囲増えたくらい。それでも助かるけど」

「そっか。てか召喚内容増えるのって地味に楽しみじゃない?いつもワクワクする」

「わかる」



召喚内容を確認してみたけど、バリエーションが増えたくらいで特に必要そうなのは…

あ、これ使えるか?



「何かさ、薬箱っぽいのが」

「え、救急箱的な?」

「それもあるけど、昔の医者が往診行く時に背負ってるようなアレ。ほら」

「あー、ほんとだ!それっぽい!」

「これさ、僕らの体格に合わせたサイズの出して、布で覆えば大荷物っぽく見えない?」

「それだわ。ナップザック加工よりそれっぽく見えそうかも。出してもらっていい?」

「いいよ。新規召喚やってなかったから」



ポチって、ハルが背負えそうなサイズの薬箱を出す。地味に重いけど、重さなら僕のスキルで多少軽減できる。逆に重くすることもできる。

ついでに強度を上げることもできるけど、必要かな?今はいいか。

ナズに渡すと、薬箱を触って大体のサイズを把握して、布を出した。これは幅1メートルくらいで、長さは10メートルくらいある。

あの手芸屋とかで見るくるくる巻かれてる状態のやつだ。適度なサイズに裁断して色々作ってるらしい。僕らの服の一部もそうやって作ってた。

まあマントとかケープはこれで作ってましたね。Tシャツやズボンじゃどうやっても加工に無理があるってことだったので。

結構使えるし経験値もおいしいらしいので、この布は何個かストックしてるそうだ。

それで薬箱を覆って、背負った時に背中が痛くならないように柔らかめの素材を仕込んだりして完成した。おお、それっぽい。



「ご飯でき…何それすごいな!?」

「わ、何ですかそれ?ナップザックから作ったんですか?」

「ううん、今リオ兄がレベルアップしたらしくて、薬箱みたいなの召喚リストに出たから、それ使って作った!」

「おめでとう!すごいな!」

「これなら冒険者がよく背負ってるみたいな荷物に見えない?実際は箱だけどこれならでかいリュックっぽいし」

「確かに!二人ともナイス!」

「いやー、経験値結構溜まった感じするわー、勘だけど」

「今加工しまくってたからな」

「二人とも凄いな!最高!お兄ちゃん鼻が高いぜ!」



布は半分くらい使ったらしく、いびつな形で裁断跡が残ってた。それにナズが魔力を送ると、布が長方形になる。

半端に使った分は、形は反映されず量だけ消費された扱いにできるらしい。残り5メートルのまっさらに見える布になった。

被服スキル、やばいな。まあ服って型紙通りに布切って縫い合わせてって作るらしいし、この仕様は『被服』スキルなら納得かもしれない。

現実なら裁断したらその形に布は残るけど。で、半端な形の布って使い道に困るんだ。『量だけ消費した状態』で長方形の布になるってすごい。

夕食を食べた後でナズとハルに背負ってもらった。負担はほとんどかからないらしい。よかった。まあ、今何も入ってないから大して重量ないしな。

アキ兄さんと僕はマントとケープなので、背負うタイプの荷物はちょっと無理があった。肩掛けの鞄とかは持ってるけど。

ちなみにこれもナップザック加工である。全然違う鞄になってないか?でも口を絞って閉じるタイプなので面影は残ってるか。

これも僕のスキルと同じように重量軽減が出来るらしい。マントなんかも見た目より重くないのだ。

あとは丈夫にすることも多少できるらしいけど、レベルが低いためかほとんど効果がない。なので防御力は普通の布と大差ないそうだ。

鞄はね、荷物を入れるものだから、軽減の能力が強めに出るらしいよ。すごいね。



「よーし、明日から冒険者の仕事、頑張ろうな!」

「おー!」

「返事がナズしかいないー!リオくん、ハル、返事ー!」

「イエス、マム!」

「アイアイサー!」

「突然軍人がログインした!」



安全第一を目標にすることを約束して、その日は寝ることにした。

明日も無事に過ごせますように。



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