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10.森の探索(茜視点)


この世界は、創造神クラフェルが造ったとされている。名前は創造神をもじってクラーフというらしい。

これは資料室に載っていた、この世界の常識だそうだ。

この異世界・クラーフに勇者召喚されて、城でないがしろにされて逃げ出した。

召喚13日目、今日は朝からすっきり目覚めて元気です。


今日の朝ごはんは、昨日と同じフルーツ入りのヨーグルト。新しい材料がないので仕方ないとはいえ申し訳ない。

三人は喜んで食べてくれてたけど。一日に多くても2種類しか新しい食材補充できないからなあ…どうにか…



「あっ」

「茜、どうかした?」

「リオくん、今、どのあたりまで進んでる?」

「へ?進捗?ええと、目的のトランタの町まで3分の1きたとこかな」

「あ、思ったより進んでた!」

「茜に同意。逃げた直後の夜中と昨日の数時間しか進めてないから5分の1進んでれば上等くらいに思ってた」

「悪路らしい悪路にまだぶつかってないからね。ちょっとしたら山脈近くなってくるし、そこまで行くとペース落ちるかも」

「ええんやで。ぶっちゃけ最初20日以上かかる想定で逃げ出してるからな」

「静に同意。めちゃくちゃペース早いね、そう考えると」



頭の中で地図を思い浮かべる。

リオくんの言った山脈ってのはあれだな、トルース山脈とかいう、トランタの近くまである結構な規模の山脈。

そしてその周りに森がある。これは魔の森には関係ない普通の森だ。

魔物も出るけど弱いので、トランタの町の冒険者のいい狩場になってるという話だったはず。

それの近くまで来ているんだろう。そしてあたしの目当てはその森だ。



「トルース山脈の周りの森に、木の実とか果物とかあるって本に書かれてて!」

「ああ、トランタの町で売買されてるんだっけ?茜、そのあたり熱心に調べてたよね」

「うん、でさ、その森に寄り道することって出来るかなって」

「それって森に入るってこと?ちょっと危ない気も…いや、最初は自分達の痕跡消すために積極的に森に入ろうって話だったっけ?」

「そうなのよシズっち。キャンピングカーさんの登場でその予定なくなったけどな…」

「誠に申し訳なく」

「計画大幅変更になったのはともかく、安全性が段違いに上がったから涼は気にしない!」

「ちーちゃんの言う通り!それで話戻るけどさ、あたし、最初は森に入った時、食べられそうな木の実とか果物を採取しようって考えてたんだ」

「そうだったの?まあ、道中で食料探すのは普通の旅人ならありがちだけど、茜のスキルあるから考えてなかったな」

「でも、新しい種類の召喚、1日2個が限度だし、同じメニューばっかだと飽きるし」

「うーん…まあ、確かに最初は種類が少ないからそうなるかも。もっと召喚できる種類が増えてきたらアレンジして別の料理できるだろうけど」

「ああー…今んとこは気にならんけどなー?」

「あと単純に、こっちの世界の食材が気になってる。スキルに使えそうだし」

「…そうなの?」

「うん」



どうやらこの料理スキルの召喚内容は、スキル保持者の『食べたことがあるもの』が少なからず影響するらしい。

本にも似たようなことが書いてたけど、あくまで本はこの世界の住人基準。召喚内容も最初は『シブベリー』という世界全体に普及している果物らしい。

けど私の場合はりんごとみかんだった。シブベリーは多分食べたことがないか、どんなものか知らないから出てこないのだと思う。

ちなみにシブベリーを調べたところ、ベリー系の果物で、形状はさくらんぼに近い。そしてかなりすっぱくて渋いらしい。基本ドライフルーツにするものだそうだ。

それだと適度な酸味と苦み、まぶされた糖分でそれなりに食べられるものになる。しかも干してるので保存も可能。保存食の1つとして広く知れ渡ってる。

だからこの世界の人が料理スキルを得た場合、シブベリーは誰でも1度は食べたことがあるものの代表格なので真っ先に召喚リストに載るのだと。

もしかしたら、あたし達の食事にも出たかもしれないけど、これは何を使った料理だとかそんな説明受けてないので、よくわからないものを食べてるという状態だった。

あたし、基本皿洗いとかの雑用と、何か野菜っぽいのとかをひたすら包丁で切る作業しかさせてもらえなかったからな。

ああ、沸騰したら火を止めてって言われて鍋の前に連れてかれたことが1回あったか。それから料理を盛る皿や食器の用意。…給仕係って出たのも仕方ないなこれ。

まあそんなわけで、この世界の食材にあたるものをほぼ知らないので知りたいのである。召喚リストに出るようになるかもしれないし。

利用するようで申し訳ないけど、リオくんの鑑定スキルで実の名前とか知りたい。名前は知ってても実物がどんな形をしてるかわからないのだ。

図鑑も、微妙な絵だったしね。いや、上手いとは思う。でも写真が当たり前だった世界から来たので、微妙に見えてしまう。

その辺りを話せば、みんな納得してくれた。



「茜の、ひいては料理スキルに役立つって言うなら、やるべきでは…?」

「この世界の食材もさ、悪くはないと思うんだよね。加工方法が微妙というか調味料とかが広まってないせいで味が淡泊な感じするけど」

「うん、食べれるものだけじゃなくて、草とかも知った方がいい。私達、トランタの町で冒険者登録するって話したじゃん?薬草の1つもわからないのはさすがに怪しまれる」

「それだわ。田舎の出って誤魔化すつもりだったし、田舎者が薬草さえ知らんのは怪しすぎるやろ…!」

「てか、元々そういうのも探しながら森の中を行くつもりだったしね。道すがら覚えて行こうって。ついでに食材もって考えてた。でもキャンピングカーで…」

「ごめんー!」

「いや、うん、涼は悪くない。悪くない…予定変更時にこういうのフォローしないとなのに忘れてたのが悪い。茜ナイス」

「お、おう…」



そんな感じで、森が見えてきたら浅い場所を探索しようって話になった。

もちろん隠密かけて、魔物や動物には会わない方向で。

山脈が近づいて、森が見えてきたのはその日の昼頃。昼食を食べた後探索することになった。

塩だけのおにぎりにそんな喜んで…!海苔もないし具もないのに…!あ、塩はキャンピングカーのキッチンスペースにありました。

これ、使ってもしばらくしたら使った分補充されるっぽい。便利すぎる。リオくん曰く、マナで勝手に補充されるってことだった。

デフォルトであるのは塩とか砂糖とか胡椒。液体系は醤油、みりん、めんつゆ、料理酒、サラダ油。冷蔵庫のドアポケットにケチャップとマヨネーズ。

一通りというか最低限の材料は揃ってる。ただちょっとお高い系の調味料とかはない。クレイジーソルトとかオリーブオイルやごま油もない。

そういうのは自作するか、あたしのスキルで出てくるようになるのかも?多分塩とかの調味料はあたしの召喚でもそのうち出るんじゃないかなとは思う。

でも、一応最初からここに減らない調味料があるんだから、召喚リストに出たとしても後回しだ。まず食材の種類が足りなさすぎる。

このスキル、色々出来るんだろうけど、まだまだレベルも低いし使いこなせてない。食材が出せるって言っても単純なものばっかりだ。

一応、加工せずそのまま食べれるものがほとんどなのでガチで飢えることはないだろうけど、物足りなくなるのは確実である。

多分今のところ、加工されたものって小麦粉と茶葉だけだし。ビニールに入った100gの小麦粉と、紙製フィルターっぽいのに包まれたインスタント茶葉。5つセット。

しかもこいつら消費魔力量が他のより高いっぽい。だって消費量示すバーみたいなの、他のは半分くらいなのにこいつらだけ7割以上使う。

MPに換算すると、14か15だ。最大MPが20なんだからこれ1つで使い切るようなものである。だって残りのMPは調理作業に回したいので。

うーん、茶葉出そうと思ってたけどやめた方がいいかなこれ。和食にはお茶だろって思ったけど、これはちょっと…

ちーちゃん(皿洗いとか手伝ってくれてる)に話してみたら、やっぱり効率悪いから消費量少ないの二種類増やす方がいいって言われた。

うん、茶葉一種類しか出せないより、じゃが芋とサツマイモの二種類出せた方がいいよね…

サツマイモって言った瞬間「焼き芋!」「ふかし芋!」って喜ばれたけど。

ちなみにあたしもシズっちもレベル4だけど、新規召喚の消費魔力量は8でした。あれ、7じゃなかった…いいけど…

多分小数点以下のところで消費魔力は減ってるけど、数値にした時それが反映されてないのではってことだった。ややこしいね。



「よし、手袋出したからみんなつけて」

「何これシズっち。軍手代わり?」

「そう。生地厚くないから防御力はお察し。でも素手よりはいいはず」

「シズっち最高」

「一応、隠密かけなきゃだから全員まとまって移動ね。ほんとは分担した方が効率はいいんだけど」

「でも涼の眼鏡鑑定さん必要だから、どの道別行動はできないよ」

「そうだなー。鑑定の作業もちょっと経験値得られるっぽいから、そこら中鑑定しまくってやるぜ」

「いいね。案外見逃しがちな食べれるものが見つかるかも。こっちの人達はゲテモノって思ってるけど実は食べれるやつとかあったりして」

「ゲテモノ…ドリアン的なやつかな?」

「ヤシの実だって普通鈍器にしか見えないよね。あれを飲食物にできるって初めて発見した人偉大だと思う」

「鈍器て。千晴、鈍器て」

「ヤシの実か、私はストローさしたらジュースとして飲めるってことしか知らないな。実はあるのかあれ」

「さあ…?硬そうってことしか知らない…」

「ちーちゃん、結構物騒な思考回路してるね???」



全員でキャンピングカーを降りて、森に向かう。キャンピングカーはその場に放置じゃなくてリオくんのアイテムボックスにしまうってことだった。

乗車登録してない人や獣には見えないけど、車体自体はそこに存在してるので、隠密を切ったらどこぞの暴走動物がぶつかる可能性があるから、らしい。

めったにそんなこと起きないだろうけど、安全第一って考えると、その方がいいのかもしれない。



「そっちの、シブベリーっていうらしい。一応可食ってなってるけど」

「出たシブベリー!これか!」

「見た目小さいサクランボかな?茶色いけど…あんま美味しそうには見えんなー?」

「ドライフルーツにすると保存食になるってやつだったっけ。そのまま食べるのは怖そうだな。渋くてすっぱいって鑑定に出てる」

「…後で一個食べてみる」

「茜、勇者か?」

「やめて」

「レモンとどっちがすっぱいのかな?ちょっと比べてみたくない?」

「レモンは美味しいけどね。千晴も食べてみたら?」

「…挑戦…しようかな…?」

「ちーちゃん、何で狩人みたいな目してるの。レモンは一応新規召喚の中にあるけど、後回しにしてるなー」

「まあ、嗜好品っぽいしな、レモンって。あたしは好きだけど」

「静、レモンティーとか好きだったよね」



他にも野イチゴっぽいザベリーってやつとか、色々見つけた。薬草と毒草も。どっちも食用不可(加工せず口にしてはいけないって注意つき)なので採取はしなかった。

でも形だけは覚えようってことで全員で葉っぱの形とか確認しつつ、覚えた。

木の実もクルミっぽいやつとかがあったので採った。鑑定、便利すぎでは…

獣の唸り声っぽいのが聞こえるたびに離れたりして、おかげで怪我なんかもせずに採取は終了。

キャンピングカーに乗り込んだところで、全員が脱力した。ここの安全性が凄すぎる。



「採取に3時間ってとこか」

「うわ、4時前!晩御飯の準備しないと!」

「慌ただしいな?究極白米とみそ汁だけでいいからな、茜!」

「さすがにそれだけは…」

「でも茜、採ったやつの確認したいんじゃないの?一通り味見したいって言ってたし」



う、それ言われると…

味見とか考えると料理にかける時間ってあんまとれない、か…?

それに献立もまだ考えてなかったや。採取してきたやつ使えるかな?

シズっちが出してくれたタオルに包んだ採取物を見て悩む。何にしようか考えてると、ちーちゃんから助言が。



「キノコあるし、炊き込みご飯みたいなの出来ない?それなら結構腹に溜まりそうだしみそ汁あれば立派な晩御飯では」

「それだ!」

「キノコご飯もありじゃない!?キノコ大好き!」

「シズっちテンション高いな?てか、ここにいる全員キノコ好きで良かったな。キノコ嫌いっているし。味ってより食感が嫌らしいな。従兄弟がそうだった」

「確かに。でも鑑定で可食とは出てたけど、美味しいかはわからんな。日本基準で考えない方がいいかも」

「ちょっと切ってカケラ食べてから考えるわ。炊き込みご飯なら、材料と調味料混ぜて炊くだけだし」

「茜、味付けとか大丈夫?調味料足りる?」

「うーん、多分何とかなる。みんなが想像してる炊き込みご飯になるかはわからんけど」

「でもスキルの補正あるだろうし、不味くはならないと思うなー。スキル補正馬鹿に出来んし」

「洗って切るだけならあたしも手伝う。味見はよろしく」

「あたしも手伝おうか。キノコ何種類かあるし、千晴だけじゃ大変そう」

「私はちょっと運転しようと思ってたけど、手伝う?」

「ううん、運転の方がありがたい。ありがとリオくん、気持ちだけで嬉しい」

「オッケー、安全運転で行きます!」



リオくんは運転席に、あたし達はキッチンスペースに。狭いから三人は入らない。ギリギリで二人だ。

キノコを水洗いして、まな板の上で端っこを切る。二人はわかりやすいように切ったキノコを並べて置いてくれてた。

切ったカケラだけだと、どのキノコの破片かわからなくなるので、本体とカケラは近くに並べてくれている。ありがたい。

リオくんが言った鑑定結果を思い出しつつ、ひとつずつ食べる。エノキに近い、シイタケに近い、初めて食べる、食感が柔らかい。

そんな風に考えつつ感想を言いながら食べてると、レベルアップした。え、マジで?



《スキルがレベルアップしました》

《料理スキルレベルが5になりました》

《召喚マナ消費量が減少します》

《召喚内容が増えました》

《保存対象が増えました》

《短縮調理が可能になりました》



「うわうわうわ、何か増えたナニコレ」

「どうした茜!?」

「スキルレベルが5になった」

「マジか、おめでとう!」

「ありがとう!えっと、短縮調理は…面倒そうだから後回しにして、こっちはすぐ確認できるな」

「どうしたの?」



取得した内容はぼんやりどうすればいいのかわかった。スキル取得者あるあるの現象らしいのでスルーする。

自分のスキルの使い方がまったくわからないのはさすがにアレだし、最低限はわかるようになってるんだろう。

それでも思いもよらない使い方が出来たりして、それに気づかなかったりはするけど、それは応用の範囲だから仕方ないのかもしれない。

『保存対象が増える』のは、そのままの意味だ。召喚が出来るシズっちもリオくんも使ってるけど、召喚したものは専用のアイテムボックスにしまいこめる。

あたしも今その中にりんごとかみかんが何個も入ってる。この中だと劣化しないので、新鮮な状態が保たれるのである。

なお、専用のアイテムボックスの名の通り、自分が召喚したものしか入れられない。つまりあたしのアイテムボックスに、シズっちの出したハンカチは入らない。

同じ『召喚から出したもの』だとしてもだ。それでも便利だったけど、この保存対象が増えるというのは、自分が召喚したもの以外も入れられるということだ。

ただし、あたしのは料理スキルの能力なので、食材などに限る。しかもあたしが食材と認識したもの。つまり、一度でも食べたことがあるものだけ。

今、キノコを食べたので、これをアイテムボックスに入れることが出来るようになった。あたしが召喚したものじゃなくても、だ。

もしくは自分が採取した食材であることも条件かもしれない。わからないけど、とりあえずキノコは収納可能になった。

何となく食べたことのないものは味を含めてしっかり覚えようと思っていたのだが、まさかこういう理由だろうか。スキルの影響?

もうひとつの『短縮調理』は、明日確認しよう。準備もいるし、何より使える気がしない。多分MPが足りないのだと思われる。

これ、あとで涼に協力してもらおう。



「うおお、キノコが消えた!?どこ行ったあたしらのキノコ!」

「アイテムボックスに入れられるようになったから試してみた」

「マジか、え、すごくない?そんなことできんの?できたっけ?レベルアップでできたってこと?」

「つまり、採れるだけ採ったら、腐るの考えずに保存できるってこと?え、茜、すごくない?」

「食料関係がまた一段階便利になってしまった…茜、拝んでいい?」

「やめて…」



アイテムボックスに収納できる条件は多分これって想像したのを伝えたらまたすごいって褒められた。やめろ照れる。

テンション上がったのか、運転中のリオくんにまで突撃した。やめなさいシズっち!リオくん集中してるでしょ!

まあ何か運転席の方から歓声がふたつ聞こえたけども。

レベル5はひとつの区切りなのか、オプションがふたつもついてしまったぜ。

ちなみに、ワクワクして召喚リストを見たけど、キャンペーン(仮)はありませんでした。うん、リストの一覧は種類増えてたけど。いいんだ…

もうすぐシズっちもレベル5のはずだし、こっちも楽しみになるね。

シズっちもそう思ったのか、レベリングじゃー!って言って作業を始めてしまった。まあキノコは終わってるからいいけど。

ちーちゃんと二人で晩御飯の準備を始めた。料理って、調理器具や食器の片づけが面倒なのよね。使い終わった包丁とか洗ってくれるのマジ助かる。

キノコはどれもご飯に混ぜて問題なさそうだったから、刻んで味付けして炊飯器に入れる。スイッチオンで、後は待つだけだ。

この炊ける時間は自動なんだけど、ちょっと短くなってる気がするのは、白米オンリーじゃないからかスキルの恩恵なのか。まあいいけど。

みそ汁にもシイタケっぽいの刻んで入れちゃおう。

召喚できないからキノコ類は今日採った分だけだ。また採りに行きたいな。

ちなみにシズっちはレベルが上がらず、MPもやばそうな気がしたとのことで今日は作業を終了していた。

もしかして、あたしの場合食材を採りに行くとかそういうのも経験値になるんだろうか。買い物とかで経験値溜まったらすごいんだけど。


キノコご飯は大絶賛でした。

今度は採った瞬間にアイテムボックスに入れられるので、今日よりたくさん採取できるかもしれない。

今日はね、あんまり採っても食べきれないって理由で一通りの種類採るだけにしたからね…あんま採りすぎて生態系狂ってもアレだしって理由もあるけど。

晩御飯食べてシャワー浴びてすっきりしたとこでリオくんに話しかけた。



「リオくん、新規召喚ってまだ出来る?」

「ん?出来るよ。そういや今日まだやってなかった」

「ホント?じゃあ、ノートって出してもらっていい?」

「ノート?うん、優先順位低いと思って放置してたし、別に出してもいいけど」



リオくんの召喚リストに出るノートは、普通に横線が入ったキャンパスノートみたいなのと無地のノートがある。

紙は便利だろうけど、記録するようなものもないし、何より城で紙の束をくすねてきてるので尚更必要なかった。

と言っても、こっちの世界の紙は日本のものよりかなり粗い。羊皮紙とまではいかないけど、ちょっと厚みがある。

そしてわら半紙よりちょっとザラついてる感じだ。城で使われてるだけあって、これは最高級レベルのものらしい。この世界にとっては。

そもそも字を読める人も平民だとあんまりいないので、記録に関するものはあまり発達してないんだろう。

ちなみにこの紙、一応ちーちゃんが簡易地図書いたり、記憶が鮮明なうちにってことで資料室で得た内容を書き出したりして使ってる。

もちろん、覚えていた方がいいことだけらしいけど。それでもリオくんがかなりスってきたらしく、かなりの量がある。

この子、テントとか盗む予定だったけどキャンピングカーあるからテントいらんなっ思って、他の頼まれたものを多めに詰めてきたそうだ。

筆記用具もそんな感じで結構な量がある。それでも、これは『この世界で作成された紙』として、今後残しておいた方がいいかもしれないと思った。

あたしのスキルで無駄に使うのはよくない。それに、もしかしたらかなりの枚数を使うかもしれない。

となれば、召喚でほぼ無限補充が可能なノートを使えばいいんじゃないかと思ったわけである。

何に使うかと言えば『短縮調理』にだ。これは、一度自分一人で作ったことがある料理を瞬時に作成することが出来るものだ。

ただ、条件として材料が揃っていること。そして作ったレシピを書き留め、保存しておくことが必要になる。

一瞬で作成できるので、今後絶対使えるはずだ。作る時間が短縮されるのは純粋にありがたい。そのため、条件を満たしたくて提案した。

レシピを書き留めるための紙…ノートが欲しいと。

理由を話すとリオくんは納得してくれて、そういうことならとノートの新規召喚に賛成してくれた。近くで聞いてたシズっちとちーちゃんも大賛成してくれた。



「じゃあ、えっと書き留めるなら横線ありの方がいいかな…?」

「あ、ごめん。もう出した」

「あれ!?どっち!?」

「両方出したから、好きな方使って」

「え、まじで?いいの?」

「涼、太っ腹ー。細いけど」

「やかましいわ」



うん、リオくんは細すぎ。

城でしばらくろくに食べてなかったの抜きにしても細い。

もっとお食べ…



「…てか、ノートあたしも欲しいかも」

「林さんも?いいよ。どっちにする?」

「横線入ってる方。日記ってのも変だけど、日誌…も違うか。思いついたこととか書き留めたいというか考えをまとめるのに使いたい」

「いいよ。自由に使って。何なら何冊か出しとく?」

「必要な時に出せばよくない?涼のMP多いけど無限じゃないんだし」

「それもそっか」

「とにかく、リオくんありがとう!これで明日『短縮調理』試してみる!」

「うん、楽しみにしてる!」

「一人で作った料理ってことは手伝いが入ったら駄目なやつか。千晴はお休みだね」

「明日の朝ごはん、またフルーツのヨーグルト?それなら手伝いいらないか」

「単純なやつだし、それでまず試してみる!」



うん、さすがにいきなり難易度高いのはやらない。

そう考えると確かにヨーグルトは簡単だからいいかも。



「狭山さん、レシピ書いたら保存って、ノートに書き残しておけばいいってこと?」

「ううん、書いた紙をパネルに近づけて…スキャンするみたいな感じ?それで書いた紙のページが取り込まれて『短縮調理』の一覧に出てくる」

「ははあ、じゃあ書いた紙の原本はなくなるってことか」

「あー、それでほぼ無限に補充できるノートがいいってこと?こっちの世界の紙、数に限りあるしね。使いまくってるあたしが言う事じゃないけど」

「そうそう。それに書き慣れてる紙の方がいいかなって」

「それだとノートよりルーズリーフ的なやつの方が便利かもな。バラ扱いのやつ」

「ノートでも多分大丈夫。これ1枚1ページにレシピ1つ書いて、その1枚の紙が綺麗に切り取られて取り込まれるから。まあ、最終的に表紙裏表紙だけ残ることになるけど」

「残ったガワはダストシュートにぶち込んでくださいまし」

「はーい」

「ちなみに涼、ルーズリーフの召喚ってできるの?」

「できない。今後に期待。今は1冊20枚綴じのノート2種類だけ」

「じゅーぶん助かる!リオくんありがとう」

「どういたしましてー」



リオくんはそれから、いくつか新規召喚してた。あとあたし達もMPの残りを見てもらって、ギリギリまで使い切って寝た。

次の日、レシピは昨日のうちに取り込んだしってことで、お試しのようにフルーツ入りヨーグルト(仮)を『短縮調理』で出すことに。

別に手動で作っても大した手間じゃないけど、そこはそれ。消費MP次第じゃ1つ以外は手動で作った方がいいし。

パネルを出すと、いつもの召喚リストが並ぶ。それの右上に『メニュー』という項目があり、タップすると『短縮召喚』が表示される。

それを選択すると、レシピ登録とか参照とか作成実行の文字が浮かぶ。参照は専用アイテムボックスに入ってるものが表示されるやつだ。材料が揃ってるかの確認である。

選ぶのは当然、実行だ。ちなみに材料はアイテムボックスに入ってるものを自動で消費してくれる。逆に言えば材料が足りないと実行できない。

レシピには1つ作るのにどのくらいの分量が必要かも書いてるので、余計な量を消費されることもない。

準備は万端ということで、実行のボタンをポチった。透明な器に盛られたフルーツ入りヨーグルトが目の前に出現した。

この器はオプションのようなもので、中身を食べると消えてマナに変換されるらしい。器の用意もいらないとか至れり尽くせりである。

大成功と言っていいだろう。隣でちーちゃんも大喜びだ。

ただし。



「…そうそう使えないな、これ」

「え、何で?もしかして劣化版とか?味が落ちてる?」

「いや、その辺は大丈夫。あたしが一回作ったやつそのままの味。スキル補正も入った完成品」

「そうなんだ。じゃあ何で…」

「…今ので、MPほぼ使った」

「………えっ」



直後、ちーちゃんが大声でリオくんを呼んだ。何事かと走ってきたリオくんに鑑定をお願いしたところ、MPが「3/20」になってた。

めちゃくちゃ便利だけどめちゃくちゃ消費が重い!リオくんも啞然として、しばらく封印だなって言った。ウン、ソウダネ…

今日は新規召喚は諦めて、調理に精を出そうと思います。ぐすん。

最大MPが増えるか、消費MPがもっと軽減されるまではしばらくレシピ登録だけにしておこう。

これ、もっと高レベルにならないとまともに使えないやつでは。何で5で習得してるのこんなん。

まあ、最初の方からまめにレシピ登録してないと、レベル30とかで取得したとしたら今まで作ってた料理のレシピとか忘却の彼方だろうし。

そう考えると、低レベルで習得するのはおかしくない、のか…?使えないけどな!畜生!



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