93.獣族捕獲作戦
「全員固まって行動するよりバラけた方がいいよな?」
「二班に分ける?投擲玉持ってるのは分かれた方がいいよな」
「ネズミの子素早そうだし、足速いのも分かれた方がいいかも?」
「それ僕とハルは分かれた方がいいパターンだな?」
「あとは別に分かれなくても大丈夫か?ああ、でも接近戦メンバーばっか固まったらアレだな」
「一応全員中距離攻撃ありますし、そこまで気にしなくていいのでは?」
「捕縛対象が三人いるんだから、三班に分かれた方がいいんじゃね?」
そんな話をしつつ、三つの班に分かれた。
名付けて僕とアキ兄さんの兄貴組、ナズとハルの妹組、アイさんとタークくんとルートくんの双子+α組。
+α扱いのルートくんにジト目で見られたりはしたものの、組み合わせに文句は出なかった。というかこの組み合わせにしたのハルだからな。
従魔も含めば戦力不足とはならないだろう。ドラゴンはアイさん達と一緒に行くと言ったし。
あ、名前が気に入らない?名付けたのは僕だから?それは…はい、ごめんなさい。
「よし、お前らも分かれ…何だ、レスパイダーとレスネイクは同じ組か?」
「駄目ですか?」
「その組が本命なんだよ。捕縛組。俺たちは捜索組ってか、弱らせる組?鼻を殺すか体力削るかして捕縛しやすくするのが目的」
「投擲玉持ちその一のリオくんだ。よろしく」
「投擲玉持ちその二のタークくんだ。よろしく」
「あー、なるほどな?んで、こっちのチビっ子が捕縛すると」
「私も投擲玉持ちです。あと、ナズ姉が鞭なので牽制役が出来ます。ラテちゃんと一緒に足止めしてるところを私が投擲玉で仕留めます」
「仕留められちゃ困るんだが。捕縛してくれ」
「わかりました。では半殺しにして捕縛します」
「おい、これ操縦できる奴いんのか?」
「いないっすね」
「自由にのびのび、それが我が家の家訓」
「初耳だよリオ兄」
「ごめん今作ったから」
「…俺はお前らを探索に行かせて大丈夫なのか心配になってきたわ」
やっべ、そういや僕たちってこの世界の人にとっては11~12歳くらいに見えるんだっけ。
何か先輩冒険者が後輩冒険者を見る視線じゃなくて、近所のおじさんがはしゃぐ幼児を見て心配してる視線になってる、ような…
「まあ俺たちはオマケみたいなもんで。実際は他の冒険者のみなさんの方がやってくれそうだし」
「何だよルート。俺らが捕まえてやるぜーくらいの意気込みで行こうぜ」
「あのな、数日前に冒険者になったばかりの俺たちにどれだけのことが出来るって言うんだ」
「そうだった。なりたてほやほやだった」
「ほんとだわ…オマケもいいとこよね、私たち。というか殺すくらいの気持ちで臨まないと、反撃されてあっさり逃げられそうよね」
「そうです、それが言いたかったんです。本気で行かないとっていう思いです。殺意が籠ったのは致し方なしというか」
「…本当か…?」
捜索兼捕縛に出る冒険者は、銀級が中心だ。僕たちと同じ銅級もいるけど、人数合わせのようなものだと思う。水増しとも言う。
多分戦力的な意味で、銅級はここセーフティエリアに残って、情報の精査や回復などの雑用をするのだろう。
僕たちもここに混じっていいんじゃないかと思ったけど、投擲玉の持ち主ということで出陣用戦力扱いされてしまった。
他に参加してる銅級も、それぞれ探索やら何やらに有利な技術や装備を持っているのだろう。詳しくは聞いてないけど。
つまり、銅級で参加してるのは、そういう特技のあるメンバーなのだと思う。
「いいか、銅級は見つけたら合図だ。それから、捕縛できても絶対に銀級冒険者を呼べ」
「俺たち銀級は、隷属の首輪や魔道具を一時無効化する魔道具を貸与されてる。これをつけることで、獣族の子たちは馬鹿の理不尽な命令を聞かずに済むようになる」
「呼び出しの魔道具の使い方はわかるな?捜索班の中に、一人は持ってる奴はいるか?もし誰も持ってなければ貸し出すから申し出てくれ」
一斉に捜索に出るので、出る前の確認事項を知らせていた。
僕とアキ兄さんの組は、呼び出しの魔道具はアキ兄さんが持っている。
形は腕輪のようなもので、小さな魔石が嵌まっている。この部分を押し込めば、受信用の魔道具に信号のようなマナが届くらしい。
捕縛どころか、見つけ次第使えと言われている。
あとの二班はナズとアイさんがつけている。どちらも中距離攻撃のメンツだな。
僕とアキ兄さんはどっちも接近戦だからな…それでも、僕の方が魔物と近づく戦い方でもあるので、アキ兄さんが持つことになった。
魔道具を無効化する魔道具なんてあったのかと思ったら、これは一時的なものということだった。
厳密に言えば、完全に永久に無効化するものもあるが、いち冒険者が持つようなものじゃないレアものらしい。
一時的なものでもかなりレアらしいけど。それだけに、あまり数がない。なので銀級の一部にだけ貸与されている。
もちろん僕たちは貸し出しされてない。当たり前なので文句はない。
「―――よし、全員、安全第一で行ってくれ!獣族の子供以外にも、魔物もいるんだからな!」
「出来るだけ倒さない方がいいのかな、これ」
「向こうがこっちを認識しちまったら倒せ!ただ、こっちから無理やり倒しに行く真似しなきゃそれでいい!」
「わかりました!」
「よし、出撃!」
セーフティエリアを順番に出て、決められた方向へ向かう。
ここは森のエリアなので、道らしい道はない。僕たちはセーフティエリアを出て、南西の方へ向かえと言われた。
簡単な地図は見せてもらったので、決められた場所まではまっすぐ向かう。到着後は、その周辺を捜索だ。
「つっても、僕たちの探索能力なんてラムとスー依存だよなあ」
「リオくんも空間把握あるじゃん」
「森は視界が悪すぎる。僕、上から眺める感じだから、障害物多い場所は役に立たない」
「あー、木ばっかだからか。なるほどな」
『でも、魔力感知もあまり役立たない気がするのだ。獣族は魔力が低い。魔物の方が魔力高いから混ざるのだ』
『この階層にいるのはほぼ虫の魔物だからまだ区別つくです。ぼんやり形がわかるですから』
『言われてみればそうなのだ』
「あー、なるほど、獣系の魔物がいたら混ざっちゃうのか。ライビとか四足歩行のは」
「そっか、獣に近いタイプだと確かに四足歩行の可能性あるのか」
「あとは頼れるとしたらラムの嗅覚感知かな?」
『ですね。頑張るです』
念のため、何かあったら『伝達』や『掲示板』で連絡し合うようにしようとは言ったけど、どうかな。
『伝達』はナズから送信されないといけない。掲示板は、読む作業があるからタイムラグがある。それでも連絡手段としては上等だけど。
しばらく探し回ったけど、感知範囲に反応はない。
やっぱり、他の場所にいるのかもしれない。これだけ広いんだから、ピンポイントで僕たちの所に来るはずないか。
***
144:アイ
ねずみの子発見したー!
145:ルート
飛び掛かるネズミ「ヂュアアアア!!!」
間一髪避けたターク「おんぎゃあああああ!?」(咄嗟に臭い玉投げる)
鼻やられたネズミ「ヂュ、ァアアアアアアアアアアアア!」(絶叫)
うるせえええええええwwwww
俺の腹筋と鼓膜に大ダメージ!
146:ターク
バラしてんじゃねええええ!
147:アイ
産声上げないでよ、14歳にもなって
148:アキ
すいません、こっち真面目に巡回中&捜索中なんです
笑かすなwwwwwwwwww
149:リオ
すさまじいスピード感。
咆哮、悲鳴、絶叫の大音量がスリーコンボて。
コントかな?
そんなことある???
150:ナズ
まさか巡り会うとは
てかネズミの子って目撃情報なかったやつじゃん!
すごくない!?
151:ハル
ふぁいとー
152:アキ
そうだな、頑張れー
こっちは見つからなくて成果なし
153:リオ
どうやら、アキ兄さんにとっては食えないものは「成果なし」扱いになるようだ。
(積みあがった皮だの糸のドロップを眺めながら)
(蚕の繭に容赦なく火魔法ぶち込むアキ兄さんをじっと見つめる)
(担当エリアが蚕の巣だったらしい)
154:ナズ
大惨事起きとる(震え声)
155:アキ
ナズに会いたいな
(意訳・ドロップ邪魔)
156:ナズ
荷物持ち扱いすなwww
いや、ありがたく貰うけども!
157:ターク
お前ら、俺らの心配しろ???
突然獣族に襲撃されてんだぞこっちは
158:アキ
喉大丈夫?のど飴いる?
159:ターク
うん…そこ(悲鳴)の心配かあ…
***
どうやら、ネズミの子は素早さはあるものの、攻撃力に乏しかったらしい。
最初のタークくんの先制(臭い玉)で嗅覚をやられ、悶えているところを状態異常で沈めたとのことだった。
うん、臭いって時に暴力だからな。鼻痛いし頭痛にも繋がるし。
それに、あの組はアイさんとタークくんという状態異常を発生させるメンツがいる。
麻痺やら睡眠やらを使いまくり、結果沈めたらしい。この双子怖すぎるだろ。
素早い相手に遠距離攻撃がよく当たったなと思ったら、ルートくんが盾で押し留めていたとか。戦略が嵌まりすぎてる…
そういや盾術の派生能力に『注目・微』があったな。これは敵に注目されやすくなる、というか、まあヘイトを集めるものだ。スキルレベル3で覚えてる。
それで引きつけ、ルートくんに向かってきたネズミの子に向かって、アイさんとタークくんが矢と投擲で状態異常付与した攻撃を繰り出したと。
ステラも鞭術で足払いしたりと活躍したようだけど、ほぼ三人で完封しとる。ドラゴンは完全に出番がなかったらしい。え、この三人こんなに強かったん…?
ラージフール、よくこれを捕まえられたなって思ったけど、あの時はこんな力なかったのか。
レベル5でこんな戦力になるのか。勇者って凄いんだな。あれ、もしかして僕たちも結構な戦力だったりするのか?魔物しか相手にしてこなかったからよくわからん。
どうやら、見つけて即呼び出しの魔道具を発動させていたようで、ネズミの子を無効化したあたりで他の冒険者が到着したらしい。
信じられないものを見る目で見られたそうだ。タークくんは解せぬとか言ってたけど、僕たちは解すわぁ…と思った。
肩とかに矢が刺さったりしてるのでネズミの子は怪我はしてるが、命に関わるものじゃないし、状態異常も麻痺と睡眠のみ。
隷属の首輪と、足に嵌まっていた機動力上昇の魔道具を無効化し、すぐセーフティエリアに抱えて連れて行かれたそうだ。
あの指揮をしていたムキムキ冒険者、どうやら回復魔法を使えるらしいので、回復してもらうのだとか。すごい。
なお、捕縛に超貢献したし、消耗もあまりしてなさそうということで、アイさん達の班は立派な戦力と認識され、もう一度捜索に行けと放り出されたのだとか。わかる。
「あとは犬と猫の子か」
「あと二人か。多いと思うべきか、少ないと思うべきか」
「なんかさ、俺たちの班に一人、ナズたちの班に一人行きそうじゃないか?」
「アキ兄さん、フラグって知ってる…?」
「…ごめん」
直後、『掲示板』に、ナズが「ミケか茶トラっぽいにゃんこが出たわあ…」という投稿をしていた。
これで僕たちの方に犬が来たらどうするんだ…
まあ、あっちはラテとナズという捕縛に適したメンツが揃ってる。
ハルも苦無に麻痺を付与してたはずだし、投擲玉もある。サンも単純戦力として強い。どうとでもなるだろう。
「こっちに出たとしてさ、僕たちは捕縛ってとりもち玉くらいしかないぞ」
「でも犬だと嗅覚凄そうじゃないか?臭い玉使えば有利になると思う」
「それもそうか。そうなったらラム、気を付けてな」
『ラム、嗅覚感知あるですからね。大丈夫、そうなったら使わないようにするです』
「あー、そういやラムにそれあったかあ」
『む、主、アキちゃん、あっちの方にそれらしいのが出たのだ。別の班が対応してるようなのだ』
「げ、マジで出た。あ、でも既に対応中か。よかった」
「フラグ折れたな。これで全員捕縛出来たようなもんだろ。ナズたちが失敗するのはちょっと想像できないし」
「さすがに銀級にかかれば捕まるだろうしな」
『やっぱり獣族は魔力感知だとちょっとわかりにくいです』
『わたしもわからないから千里眼で確認してるのだ』
ナズたちは対峙中なのか音沙汰なくなったし、このあたりに魔物もいそうにない。
すぐ撤収してもいいかもしれないけど、どうしようか。
アイさん達はナズたちと同じ方面に送り出されていたらしく、合流すると言っていた。
オーバーキルでは…?いや、殺したらまずいか。ハルがちょっと殺気立ってたし、止めてくれるならありがたいな。
ハルもハルで動物は好きみたいだからなあ…獣族がこんな扱いされてる現状に腹が立ってるのかもしれない。獣族自身に当たることはないだろうが。
当たることはない、よな…?仕留めるだの半殺しだの、比喩だよな?そうだと信じたい。
ナズはどちらかと言えば、助けないとっていう心情に傾いてるようだ。
でもやらかした奴を見たら多少の報復は考えるかもしれない。丸坊主にするとか。
うん、二人とも、報復は馬鹿商人とやらにやってくれ。
『ん?あれ、まずいかも、なのだ?』
「え、どうしたスー?」
『翻弄されてるみたいなのだ。動きについていけてないのだ。もしかしたら銅級の班かもしれないのだ』
「え、ヘルプ行った方がいいやつ?いや、でも銅級なら呼び出し魔道具使ってるよな?すぐ銀級が駆け付けてくるんじゃ」
『それらしいの、いないですね。探索範囲より外にいるかもしれないですが』
「…いや、ラムの探索範囲外ってだけですぐ合流できる距離にいない証明になってるだろ。これ、僕たちが向かった方がよくないか?」
「ここで逃がしたら、どこ行くかわかんないもんな…」
『行くです?』
『行くのだ?』
「行くかぁ…」
「じゃあ走るか。スー先行してくれるか?」
『わかったのだ主!』
『劣勢みたいです。魔力減ってきてるです。急いだ方がいいかもです』
「うー、近づいたら俺が魔道具使って銀級呼ぶわ」
「よろしく!」
微妙にフラグ通りになってしまった。
うーん、銅級を近くのエリアに配置するなと文句言いたいけど、思えば銀級は余所の班のヘルプに行く可能性もあるから移動しやすい場所の配置になってても仕方ないのか。
多分、エリアの端の方は銅級で、中央付近に銀級がまとまってたとかかも。銅級は捕縛や探索に有利なメンツにしたって言ってたけど…
あ、探索とかに重きを置いた結果、戦闘力が乏しかったのかもしれない。
犬ってどっちかと言えば戦闘力の方が高そうだし。多分これがネズミの子だったらうまく捕獲出来てたかもしれないのか。
ああ、じゃあ、作戦ミスって程でもないな。それか、犬の子が想定以上の戦力だったかだ。
念のため、掲示板に「近くの班が犬の捕縛に苦戦してるみたいだから加勢してくる」と残して、スーの言う方向に駆け出した。
そして辿り着いた先に、爪で攻撃されたらしい怪我を負ってる冒険者が数人、そして辺りにばら撒かれたとりもちの群れ。
捕まえようとして失敗したのだろうとわかる光景が広がっていた。
そして唸り声を上げる灰色の毛の獣が一匹、こちらを鋭い目で睨みつけていた。
…豆柴?中型犬サイズの?
これがこの世界で初めて見た獣族だった。