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92.4階層での騒ぎ


あれから情報共有で、オリジンのことも改めて伝えたそうだ。

簡単に言うと、勇者(召喚者)全員がダンジョンへ連れ出されるその道中でオリジンが襲来し、召喚者を掻っ攫う手筈だ。

力押しにも程があるが、一番確実な方法でもある。

このことはラムたちが創造神に提案したところ、大変気合の入った了承の言葉がもらえたそうだ。

むしろ参加したがるオリジンがそれなりにいたことで、選別しなければとか言ってたらしい。


人里近くにオリジンが行くわけにはいかないので、どうしてもダンジョン付近になる。

むしろダンジョンに着いて、目的地に到着したことで油断した時を狙うかもしれないとのこと。

なので、なかなか来ないと心配しないようにと伝言されていた。

搔っ攫うのは、冷遇組全員だ。捕らわれて今はどうなってるかわからない三人も対象。

オリジンの中には、当然ながらスーのように浄化魔法や浄化魔術に優れた種もいるそうで、隷属や呪印などの状態異常はその場で解除出来るらしい。

まあ、見た目は魔物の襲来のようなものなので怖いかもしれないが。


それらを伝えたところ、少なくとも桜庭くんたちは受け入れていた。

ラージフールから逃げられるなら何だっていいという心境なんだろう。

ちなみにラージフール(大馬鹿)という名前には大笑いしたそうだ。



『一応、攻撃系スキルを得た…ヒャッハー組であるか?奴らのことも見るとは言っていたが、どうであろうな』

「改めて考えてもヒャッハー組って言い方ひどいわね。まあいいけど」

「見るって、どういうことだ?」

『ラムたちオリジンは、召喚者の裁定者でもあるです。善人か悪人か。善人なら助けて、悪人なら世界の害なので処分する。そういう役目です』

「そういえば、言ってたな。悪人ならこの世界で殺してしまった方がいいとか何とか」

「善人なら、元の世界に戻るための旅路に同行するんだっけ」

『そうなのだ。今のわたしやラム、ドラゴンがその役目を進行中なのだ』

『その冷遇組とやらも、恐らくはオリジンが同行するであろうな。誰がついてゆくかはわからぬが』



こればかりは相性らしい。

料理スキルのアキ兄さんに惹かれたラムのように。

魔術無効に望みを託したスーのように。

ドラゴンのように、召喚者に寄り添い続けたパターンもある。

ともあれ、複数のオリジンが複数の召喚者と邂逅するわけで、その中で相性の良さそうな相手と旅に出るのだろう。

マッチングアプリみたいだな…



『五日…いや、四日ほどあれば目的地に着けるオリジンはいるはずなのだ』

「ああ、今近くにいるオリジンがダンジョン付近に集まるのか」

『移動手段は様々であるからな。余のように空から行くか、ラムやスーのように空間魔法を使うか、地上から駆けるか』

『動物系オリジンは足が速いですし、四日あればまあ、5~6匹くらいは…?』

「オリジン集合か…やばいな。その場所、焦土と化しそう」

「ダンジョンぶっ壊れるんじゃないの?」



もしかして、とんでもねえ光景産み出そうとしてないか僕たち。

え、この情報、創造神に開示してよかったやつ?いや、オリジンが三匹もいる以上、隠せるわけじゃないけど。

うん、ラージフール、ご愁傷様?成仏しろよ。まあ遠征に行くなんて兵士か騎士とかばっかりだろうから王族は痛くも痒くもないと思うけど。ケッ。

第一オリジンは無暗に人を殺したりしそうにないし、殺人が起きる可能性は低い。

ただ、召喚者が攫われるだけだ。


攻撃系ヒャッハー組の中に善人寄りがいたら、それも攫うとは言っていたけど。

うん、周りに同調せざるを得なかった子がいないとも限らない。

…今のところ、全員が冷遇組を見下した態度をとってるらしいけどな。本音かどうかはわからない、か。

オリジンたちがその辺りも見ると言っていたそうだ。もうこれは任せておいた方がいいだろう。

僕がさっき得た真偽スキルみたいなのを持ってるオリジンがいるかもしれないし。



「今日のところは、ここまでね。冷遇組は遠征に備えて準備と、情報収集を明日から本格化するみたい」

「もっとも、絶対持ち出した方がいいのは制服とか、あっちの世界から持ってきたものくらいか?」

「ええ、あとはスキルに使えそうなものとか、武器があればとか言ってたけど」

「武器はオリジンが同行してからスキル取得頑張ってから選んだ方が…」

「簡単に振り回せそうなナイフくらいなら、持ってた方が安心じゃないですか?武器に出来なくても採取に使えますよ」

「…それもそうよね。これ伝えておくわ」

「よし、じゃあ明日はボス戦やって4階層だな。冒険者いっぱいいそうだしトラブル起きなきゃいいけど」

「子供とはいえ七人いるし従魔もいるから、馬鹿が絡んでくることはないんじゃないか?」

「何が起きるかわからないから、警戒はしておいた方がいいと思うな…」



そんなわけで、それぞれ経験値稼ぎに散って行った。

ルートくんはほぼMPがないのでタークくんの手伝いとかするそうだ。

ナズは伝達するか迷ってたけど、結局ドロップした素材を確認したり、作業をしてアイテムボックスに入れられるようにすると言ってクロちゃんに籠った。

僕たちもスキルレベル上げないとなあ…この日はそんな感じで終了。


朝ご飯はクロワッサンだった。何かオシャレ。

中にハムとかレタスとか挟んでるので割と腹に溜まる…んだけど。

やっぱりステラに食われるんだよな、野菜系。何か、食べてたらいつの間にか肩に乗ってて、食いかけが横から食われるっていう…

いいけどな。卵とかソーセージとか挟んだやつも美味しいし。

朝っぱらからステラへの「めっ!」が聞こえる。今日はタークくんか。



「お前も怒れよ、リオ」

「可愛いから怒れない…」

「わかるよリオ兄…」

「そういやお前も怒らねえな、ナズ…」

「怒らない人を選別してるわね、ステラ…?」

「ぴ、ぴひゅっ…」



案外ちゃっかりしてんな、このスライム。

アキ兄さんは料理関係はきっちりする派だから、横取りも怒る。

ただし最初にいっぱい食べたいという要望を出す分には喜んでくれる。

ハルは…うん…怒らせたらやばいから…一回やろうとしたステラににっこり微笑んだだけで、ステラは引っ込んだ。

どうやらハルの中で「ご飯が減る=栄養が不足する=身長が伸びない」みたいな方程式があるらしく、横取りはガチで怒る。

僕たちとしては、どうせその栄養、身長じゃなくて胸に行くだろ…とは思ってるものの、ハルが怖すぎて言えてない。

まあそれからステラはハルの食事には手を出してない。


そんな食事事情はいいとして。



「じゃ、ボス倒して4階層行こうか」

「ええ!」

「おう!」

「ああ!」

「やる気充分だなー。じゃあ俺たちは基本手出ししないから、三人で頑張って」

「ええ、もちろん」

「ぷーぷ」

「ステラも一旦下がっててくれ。でも俺たちがやばそうだったら助けてくれ」

「ぷぴっ」



レベルも5になってるし、初心者用ダンジョンの3階層目だ。

役割もはっきりしてるし、大丈夫だろう。


想定通り、ピンチにもならずにボスは撃破できた。

というか、タークくんが火関係の攻撃を持ってるので弱点をつけた形だろう。

ルートくんが足止め、アイさんが矢で牽制、タークくんが弱点攻撃。やばすぎる。



「できれば今日、4階層もクリアしちゃいたいわね。でも冒険者多いならボス戦まで時間かかるかしら?」

「この階を周回したい人ばかりならボス戦待ちの冒険者はいないと思うよ。食材ダンジョンがそうだった」

「ああ、そっか、用事があるのが4階層だから、5階層には行かないのか」

「あー、なるほどな。じゃあ案外あっさり5階層に行けるかもな」

「今日中のクリアは…さすがに無理よね。目標は5階層のボス部屋前にする?」

「4階層の周回はしなくていいのか?ナズちゃんが欲しいものとか…」

「道中のドロップだけでいいよ。糸はラテの糸があるし、布だって言っちゃえば召喚できるし。まあ、多少はこの世界産の布地も欲しいけど」

「そっか、じゃあ普通に素通りだけでいいか…?」



そんな計画を立てつつ4階層に進み、セーフティエリアに入ったところで。

予定はあくまで予定、計画通りになんて行かないよな、と実感した。


何だこの騒ぎ…?



「何かあったのかしら…?」

「商人も冒険者も何か慌ててるようですね…?」

「…あ、君たち、今ここに来たのか!?」



商人は恐らく、布やら糸の仕入れだろう。

冒険者は依頼か、商人の護衛か何かだと思われる。そんな人たちが皆騒いでいる。

何が何やらわからない僕たちに、近くにいた商人のおじさんが声をかけてきた。



「え、ええ、今来たばかりだけど…」

「ちょうどよかった!君たち探索系の魔道具やスキルを持っていないか!?」

「…え?」



相当焦ってるのか、マナー違反もいいところなことを聞いてきた。

僕たちの服装を見れば、冒険者であることは察せられるだろう。

そして、冒険者は自分の力などは商売道具も同然。なので、スキルの開示などはしないし、聞くのはマナー違反とされている。

まあ、ポーターを始め、自分を売り込みたい冒険者は自分から開示するので、探るのが駄目だというわけではない。

が、今回のこれはマナー違反にあたりそうだ。商人だから仕方ないとも言えるけど。



「こら!冒険者にそういうのを聞くのはマナー違反だ!君たち、答えなくていいぞ」

「え、あ、え…?」



問われたアイさんは戸惑って答えずにいたわけだが、それに業を煮やしたらしい商人が再度問いかけようとしたところ、冒険者が割って入ってきた。

あ、良かった。まともな人もいた。

しかし、何だ?この言い方からすると、何かを探してるのか?

何か特殊なアイテムがドロップしたりするエリアだっけ?いや、それならここにいる人たち全員が慌ててるのはおかしい。

なら、人探しか?…商人が?



「しかし、一人でも人手が必要だろう!」

「ならアンタは、緊急事態だからってアンタの販路や取引先の情報や仕入れ方の秘密を喋るのか?」

「う、い、いや、それは…」

「冒険者にとって、自分の持つ力や道具は商売道具だ。無理に聞くな」

「う、そうか…悪かった…」

「君たちもすまん、今ちょっとバタバタしててな。色々と混乱してるんだ」

「い、いえ、何かあったんですか?これ、普通にダンジョンを進んで大丈夫なんでしょうか?」

「それはまあ、大丈夫…じゃないかもな、うーん…」



これは事情を聞いて判断した方が良さそうだな。

全員そう思ったのか、冒険者に話を聞くことにした。商人は気まずげな顔で去って行ったところを見ると、悪い人ではないのだろう。

割って入って来てくれた冒険者は、中心部にいた冒険者を紹介してくれた。

彼自身は、このセーフティエリア全体の混乱を諌めに向かって行った。さっきのようなことが度々起こっているのだろう。



「てめえらが、今この階層に来たばかりって冒険者か。初めて見る顔だしガキばっかだな。ボス戦でケガとかはしてねえか?」

「え、あ、大丈夫」

「…従魔にレスパイダーとレスネイクがいるのか。いいな。…熱感知、持ってたな…それにヂュンはチビだから森でも飛べる…いや…」

「あ、あの、俺たち、事情なんもわかってないんだけどさあ、何があったんだ?」



紹介されたのは中年くらいのガタイのいい冒険者だった。

どうやら金級らしいとさっきの人は言ってたけど…自分の考えに没頭する癖でもあるんだろうか。

でも、何かを探してるらしいのは確かのようだ。

アキ兄さんの言葉に、それを思いだしたのか、事情を話してくれた。



「この階層のドロップが商人に人気なのは知ってるか?」

「知ってるわ。オーレンの町にあるギルドで聞いたもの」

「そうか。まあそれでな、人気があるのはいいんだが…たまに良からぬ奴らも紛れ込んできてな」

「良からぬ…?」

「ここは狩りすぎると魔物の数が減るんだ。大体三日くれえで回復はするんだが、それでも安定仕入れしたい商人が多いから、狩りすぎは厳禁なんだ」

「そういえばそんな注意を聞いたわね」

「言ってたな、受付の姉ちゃん」

「えー、そうなのか。やべ、俺、前のダンジョンで狩りまくってたよ…」

「どのダンジョンだ?」

「食材ダンジョン」

「ああ、そこなら問題ねえ。パーティ単位ダンジョンだろ?他のパーティにゃまったく影響しねえから、そこはいくら狩ってもいい」

「え、そうなのか!よかったー!」

「ダンジョンごとに特色はあるからな。ここのダンジョンの注意は他のダンジョンじゃ気にしなくていいこともある。んで、ここの話に戻るが」

「あ、うん」



アイさんも、意識してないと敬語になりそうで、ちょっともぞもぞしていた。

うん、目上っぽい人にタメ口で話すのってちょっと度胸いるよな。

アキ兄さんは若干慣れたみたいだけど。慣れるくらい任せてしまってたとも言う。


まあ、何と言うか、狩りすぎ禁止と言われる場所で魔物を狩りまくろうとした奴がいたそうだ。

そいつ自身は捕らえてるが、問題はそいつが連れていた他のメンバーだという。



「隷属で行動を縛ってる奴隷なんだよ」

「…え?」

「いや、奴隷ってのも違うな。無理やり誘拐した子に隷属の首輪をつけて、命令してるだけだ。当の子らは普通の平民だよ。恐らくな」

「はあ!?何だそれ!」

「落ち着け、気持ちはわかる。だからこそ俺たちは、その子らを助けてやりたい」



隷属という言葉に過剰反応してしまったのは、少し前まで自分たちが隷属という状態異常だったからだろう。

タークくんが思わずといったように叫んだ。アイさんもルートくんも不快感を露わにしていた。

そして、『子ら』と言うからには、恐らく子供なのだろう。しかも複数。クソだな。



「馬鹿商人は、隷属されてる子たちに既に命令をしていた。『この階層の魔物を全て倒してドロップを集めろ』ってな」

「はあ!?」

「だから、今、この階層はその子たちの捜索する冒険者でごった返してるんだ」

「う、うわー…」

「あー、つまり、早くその子たちを見つけないと魔物が狩りつくされるかもしれないし、逆にその子たちが魔物にやられかねないと」

「そういうことだ」

「え、ちょ、やばいやばい!早く見つけなきゃ!」

「そうなんだがなあ…」

「人海戦術で見つけりゃいいだろ!ここにいる冒険者全員で行けば何とかなるんじゃねえの!?事情が事情だし拒否しねえだろ?」

「…その子たちに返り討ちにされてる冒険者が多発してなあ…」

「えっ」



つまり、ある程度の戦力がないと、その子たちを捕まえられないと…?

あ、それでこんなに混乱してるのか?



「見つけるのも一苦労、捕まえるのも一苦労。おかげでこっちの被害が広がるばかりでな。何とか二人だけは捕まえてるんだが、あと三人…」

「これだけ冒険者がいるのに、捕まえられないの?その子たちってそんなに強いの?」

「何と言うかなあ…その子たち、獣族なんだよ…」

「…へ?」

「人間より身体能力も高いし、危機察知能力も高いもんだから、魔物相手に戦ってきた冒険者にゃ、ちっと荷が重くてよ」

「あー…確かに、人と戦うのと魔物と戦うのは、違うな」

「しかも隷属の首輪だけじゃなくて力の腕輪とかの魔道具も装備させられてるみたいでよ。捕獲がうまく行ってねえんだわ」

「な、なるほどー…」

「でも早く捕獲しねえと、魔物が減るし、あの子らも危険だ。命令があるからな。魔道具を使うとマナも使う。獣族は、MPがあまり多くねえ」



それを聞いて、ぞっとした。

MPが0になったことはないけど、枯渇寸前になるだけで眩暈がしたり体が重くなったり体調に表れる。

もし、魔物がいる中でそんなことになれば?MP0になって気絶でもすれば?

…最悪の可能性だってある。全員がこれに思い当たり、真っ青になった。



「う、うわー!やばい!」

「ぶっちゃけるが、俺はタンク役でなあ…スピードのある相手は苦手分野なんだよ。おかげでここで指揮系統みたいな役をやらされてんだ」

「お、お疲れ様です…こ、これ、私たちも協力した方がいいのでは?進もうにも、魔物はともかく獣族の子が襲ってくる可能性ありますよ…?」

「…初めて見る獣族が、これになるのかな、僕ら…」

「そういやそうだな」



でも確かに、僕たちは獣族の領土へ向かってるわけだから、獣族がいてもおかしくないのか。

トランタにはいなかったけど、オーレンには住んでたりするのかもしれない。



「アキさん達、獣族見たことなかったの?」

「え、アイちゃんは見たのか!?」

「見たわよ。オーレンで。少ないけどいたわ。ていうか、私たちが泊まった宿の店主さんが獣族だったのよ」

「マジか、あの美味しいパン作った人!?」

「すげえ覚え方だな。間違ってないけど」



確か、元冒険者とか言ってたな。なるほど、獣族だったのか。

割と荒事にも慣れてるっぽかったし、熊とかの獣族なのかな?ちょっと見たい。



「おお、あいつの宿に泊まったのか。大丈夫だったか?」

「ええ、よくしてもらったわ。店主さんのこと知ってるの?」

「昔、一時的にパーティ組んでたからな。あいつはいいぞ、耳はいいし足も速い。斥候にピッタリの能力だ。ガタイがデカいから隠れるの苦手だったけどな」

「あー、耳、良かったな。叫んだら来てくれたもん」

「そりゃウサギの耳が悪かったら話になんねえだろ」

「…は?」



うさぎ?

信じられないような気持ちでアイさん達を見る。死んだ目で見つめ返された。

え…そんな可愛い種族だったのか!?絶対熊とかゴリラとか、そういうのだと思ってたよ!いや獣族って聞いたのも今だけど!



「ムキムキの、ごつい見た目で、たれ耳のウサギだったのよ」

「ごめん、想像できない」

「ていうか頭が想像を拒否してる」

「かわいく、ない…ッ!」



しかもロップイヤー!今日一番の衝撃!

ごめん、桜庭くん、余程の情報がないと多分この衝撃は超えられないぞ。

いい情報期待してます。

…勝手にハードル上げるなという幻聴が聞こえた気がした。



「お、おお、何かスマンな。俺は悪くないと思うが。まあ、今はそんな状況だな。手伝ってくれるならありがたいが…」

「見つけられても、捕まえられるかしら…?」

「ラテちゃんの糸なら、捕縛は出来るか?」

「多少の強度じゃ爪に切り裂かれて終わりだ。シルスパイダーをテイムしてる商人がいたが、駄目だったそうだ」

「ああ、試した後なんですね。ラテちゃんはそこそこ糸の強度は強いですけど…」



そこそこどころか、かなり強い。

まあ、ヴェノムタランチュラだと明かせないので、そういう言い方をするしかないんだろう。



「ちなみに、何の動物の獣族なんだ?鼻はいいのか?」

「ん?捕まってねえのは、犬と猫とネズミだったかな。この中でネズミがすばしっこいのか、目撃情報がなくてよお…」

「う、うわー、しかも全員素早そうだ。リオくん、何か策あったりするのか?」

「これ」

「…投擲玉?」

「臭い玉を使えば嗅覚を殺せるんじゃないかと。特に犬なら…」

「あっ」

「お、おお!マジか!すげえじゃねえか!」



僕たちが持ってる投擲玉の種類は五種類。

このうち、臭い玉ととりもち玉が捕縛に使えるんじゃないかと思った。刺激物のやつは…ぶつけられればいいけど、どうかな?



「なるほど、投擲玉。いいもん持ってるじゃねえか坊主。どっかのダンジョンのドロップか?運がいいな」

「いや、貰い物。黒の鉄槌っていうパーティに貰ったんだよ」

「…黒の鉄槌?あいつらの知り合いなのか坊主たち」

「え、おじさん知り合いですか?私たちは食材ダンジョンで会ったんです」

「依頼品がなかなかドロップしなくて集まらなかったみたいでさ、俺たちが持ってたドロップ品を分けたら、代わりにくれたんだよ」

「ああ、なるほどな。そりゃいい助け合いだな。…しかし、いいなこれ。使えるんじゃねえか…?」

「嗅覚にダメージ与えられたら、動きに精彩を欠くかもしれないと思ったんだけど、どうかな?」

「いいな!おい坊主、これちっと貸してもらえるか?出来るだけこの投擲玉を出したい。俺たちに分けてくれ。補充はこっちでやるから」

「え、ああ、いいけど…」



言うが早いか、ケースを奪われて、さくさくと玉を出していってた。うわ、もう数十個とか出してるよ…

で、ケースから出した玉を冒険者たちに配って、捕縛の助けにしろと言っていた。いつの間にか何人かの冒険者が集まってる。



「坊主たちも参加してくれるか?必要なアイテムがありゃ貸し出すぞ。あと投擲玉ありがとよ」

「あ、もういいのか?」

「ああ、あまりやりすぎても、こっちの鼻が死ぬからな。捕縛用の玉も結構出したし、うまくいくといいが」



しかし、短時間でかなりの数の投擲玉を出していた。補充も。この人、かなりMPが多いのかもしれない。

魔物が減りすぎる前に捕縛した方がいいなら、僕たちも参加した方がいいんだろうな。

でも、普通の冒険者と混じるのって大丈夫なんだろうか。

僕たちのレベルというか戦力って、普通の冒険者から見ればどうなんだろう?

レベル10だから、そこまで強いわけじゃないとは思う。でもステータスだけならそれなりに高い。スキルもあるし。


でも、基準を知るために、一度くらい見ておいた方がいいのかもしれない。

ちなみに僕以外も参加する気満々だった。特にナズは動物好きなせいか、獣族を助けたい思いでいっぱいらしい。

まあ、この状況で先に進めるわけもなし、三人の獣族の捜索をすることになった。


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― 新着の感想 ―
・そいつ自身は捕らえてるが、問題はそいつが連れていた他のメンバーだという。 隷属させてた奴を殺して解決ならそれでよかったんだろうが、どうやらそう上手くはいかんようだ。
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