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90.冷遇組の今


「一応予想はしてたけど…桜庭くん、かなり精神キてるみたい…」

「え、返信来た?」

「いいのか悪いのか…ちなみに正気っぽいか?」

「操られてるとか、そういうのは無いと思うけど、超荒んでるっぽいわ」

「そっちかー…」

「でも正直、あの城にいると無理もない気がするな。僕もあと何日かいたら狂ってた気もする」

「そうかな?リオくん、結構メンタル安定してたように見えたけど…」

「私も」



あれ?

ま、まあ、これでも24歳ですし?

そう考えれば、14歳のみんなの方が不安定でも仕方ないのか。


それにしても、桜庭くん、何て返信してきたんだ?

レベリング組に合流しようとしてた矢先に返信がきたみたいだから、アイさんが止まっちゃったんだよな。



「なら、今すぐ欠損も治せる魔法か道具をよこせよ」

「は?」

「え?」

「なら、今すぐ欠損も治せる魔法か道具をよこせよ、って、桜庭くんが」

「…え?マジで?」

「桜庭くんってそんなキャラだっけ?」

「いや違うってリオくん。普段とキャラ違いすぎるからアイちゃんが戸惑ってるんだし」

「あ、そっか」



アイさんからは多分協力するよ、みたいな感じの内容を書き込んだんだろう。

その返信が、これ?

多分これ、罠か何かだと思って、攻撃的な気持ちになってる気がするなあ…

そう言ったら、二人とも同意してくれた。

もしかしたらラージフールが桜庭くんを罠にかけようとしてるとか、そんな風に解釈しちゃったのかもしれない。

だとしたらこの内容…というか、乱暴な物言いもある程度納得できる。

それにしたってかなり攻撃的だけど。



「桜庭くん、欠損するような怪我した、のか?それでピリピリしてる…?」



なるほど、その線もあるか。

だから欠損を治せる…なんて内容だったのかもしれない。

多分、まともな答えは期待してないんだろう。投げやりな感じがする。



「…桜庭くん本人が怪我したわけじゃないのかも。ううん、文面だけじゃわからないけど」

「友達がやられたか?…やったとしたら、ラージフールか?だとしたらクソだな」

「魔物との戦いで怪我したなら、さすがに治すだろうしな。俺もラージフールがやったに一票。ついに暴力に訴えてきたか…」

「多分、私たちが逃げてからよね…あっちも逃げ出されてイラついてるのかしら」



いや、あの扱いで何で逃げないと思ったんだよ。

まあ、これ以上逃げ出さないように、暴力による恐怖で繋ぎとめようとしたのかもしれないけど。

こういうやり方になるあたりがクソたる所以か。本当にどうしようもねえな。

心なしか、そばで聞いてるラムとスーが怒りを抑えてるような気配がする。



「返信、困ったわね…これじゃまともな話し合いに持ち込めそうにないわ」

「そうだな。多分、アイさんの言葉の半分も届いてないんじゃないか?」

「本物のアイちゃん…鈴城さんだとも思ってなさげだもんな、これ」



とりあえず、書き込みはできないけど、閲覧の許可はもらった。

アイさんの言った通りのレスがついてた。マジで荒んでんな、これ…



「要望に答えたら、冷静になる可能性あるな。逆に激昂するかもしれないけど」

「え?そうね…桜庭くんは、本来物事をもっとよく考える人だし、こんなほとんど話も聞かないまま噛みつくような人じゃないはずだもの」

「でも、要望ってどうするんだ?欠損を治す方法なんて…」

「スー、ラム、回復魔法や回復魔術で欠損って治せるのか?出来るとしたらどの程度出来るのか教えてくれ」

「…あ、そうか、魔法…!」

『わかったです』



ラムとスーから聞いたところ、だ。

『回復魔法』は、欠損を治すことは出来ない。

ただ、斬られたり千切れたりして腕が飛ばされた場合、分断された腕を傷口にくっつけた状態で回復魔法を使えば、繋がるそうだ。

けど分断された腕を失った場合、傷口が塞がるだけで、生えてはこない。

『回復魔術』は、欠損の治癒も可能だった。

腕を肘から下の部分を失ったと仮定して、その状態の腕に回復魔術をかけると、肘から下が再生して元通りになるのだとか。

ただし、それが可能なのは腕を失ってから長くて10日以内。

それまでは、腕の周辺だか傷口だか周りのマナに、元あった腕の情報だか残滓だかが残ってる。それを参考に、無くなった腕を再生するそうだ。

つまり、日が経ちすぎて残滓が完全に消えてしまった場合は、欠損を治すことは出来ない。情報がないから。

もしくは歪な形の、それこそ棒みたいな形のものしか生えないのだと。元の形にはならないそうだ。



「簡単に言えば、早期治療が大事ってことだな」

「そんなまとめ方?癌か?まあ、何となくわかるけど」

「つまり、欠損したであろう誰かが、10日以内に怪我したのなら治るってことか。アイさん、それ伝えとく?」

「…そうね。もしかしたら、それでいつ怪我したかを教えてくれるかもだし」

「あともうひとつ方法があるな」

「え?」



テーブルの近くの棚を開けて、目当てのものを出す。

使うことになるとは思わなかったな…

アイさんは不思議そうに見てるけど、アキ兄さんは思い当たったらしい。



「ダンジョンの初回攻略報酬、ポーションセット。うち二本が、エリクサーだ」

「エッ、リ、…エリクサー、って、あの?」

「どのかはわからないけど、これはHPとMPと状態異常と欠損も回復させるやつだよ。多分これなら効く」

『はいです。これは、回復魔術みたいに時間制限ないです。極端な話、50年前に失った足でさえ生えるです』

「え、え…?すごいわね…?」



ポーションセットの中から一本エリクサーを抜き出して、アイさんの前に置く。



「これ、交渉に使っていいよ」

「え…!?でも、こんな貴重なものっ…!み、みんなに相談とかしないと!ナズさんとハルさんに!」

「いや、リオくんがいいって言うなら誰も文句言わないと思うよ。これ、リオくんがもらった報酬だし」

「そう、所有権は僕だから。一応みんなに使っていいよとは言ったけど、優先権は僕だ」



それにエリクサーは二本ある。一本くらい交渉に使ったって問題ないだろう。

みんなへの報告は、事後報告でもいい。

何より、事情を知ればナズだってハルだって率先して使えと言うはずだ。

交渉の材料にするだけでも、実際に欠損した誰かに使うでも、好きにすればいい。

空間収納にしまっちゃえば劣化もしないし。



「…ありがとう。今聞いた情報、掲示板で、桜庭くんに伝えるわね。これで彼がどう反応するかで、対応は変わるけど」



罠だと思い込んだままか、こちらの味方になるか。

一旦、レベリング組との合流は保留にして、このまま待機しようという話になった。

書き込みにも多少集中が必要だし、長い文面を書き込むなら内容を考えないといけない。

魔物と戦いながら、片手間にするのは危険だ。


結果、人が変わったように謝り倒してきた。

アイさん曰く、こっちの方が素に近いとのこと。

荒んでる気持ちが、欠損を回復できるという提案に驚いたことで吹っ飛んだのかもしれない。

思えば、『死霊術』スキルについて伝えた時の印象と書き込みの印象は重なる。

こっちが本来の桜庭くんか。



「…欠損するほどの大怪我は、坂下さんだったのか」

「『看破』スキルの子か。しかも片目って、わかってて潰してるな、ラージフールの奴ら」



確か『発見』スキルと勘違いしてるはずだが、どちらも目で見て見分けるものだ。

『発見』の場合、怪しい場所が光って見えるとか、そんな記載があった。実際どう見えるのかはわからないけど。

そして『看破』スキルは『発見』スキルの上位スキル。

怪しい場所がわかるだけの『発見』と違い、どういうものか、詳細までわかるものだ。

例えば地面の一部が光った場合、『発見』だと、その何かある場所全体がぼんやり光る。光の色で大雑把に判別はつけられるが。

『看破』だと、その光った部分が何なのかまでわかる。罠だった場合、落とし穴だとかワープだとか、仕込まれてる罠の種類がわかる。


他にも偽造を見分けたり、嘘をついてたらわかるとか、色々応用のきくスキルだったはず。

でもそれは全て目を通してわかるもの。目が見えなければ、発動しても読み取れない。

坂下さんが何かを『看破』で見つけ、痛いところをつかれて、報復のように暴力に訴えたのか。

どうしようもないな。


ともあれ、これで桜庭くんが完全に味方についたと思っていいだろう。

途中で坂下さんも掲示板に招いて欲しいと要望が出て、アイさんが了承していた。

そして坂下さんも参加して、雑談に近い情報交換がされている。

彼女も、ラージフールに放置されているようなものなので、正気のようだった。



「ダンジョン、か…」

「本当かな?」

「少なくとも、桜庭くんはそう認識してるみたいね」

「でも実際、召喚者を城の外に連れ出すか?実地訓練の時とは違って、七人が逃げてるんだぞ。逃亡したうちの三人は捕まってるけど」

「逃亡を考えたのは、これで10人ね。確かに、この状態で外に連れ出したら、逃げてくださいって言ってるようなもの…?」



さすがと言うべきか、アイさんは早速ある程度の情報を聞き出していた。

そして意外と情報を集めていた桜庭くんも凄いな。

ここまで来たら、疑ってはいないけど、一応試しておくか?



「アイさん、王族最高とか書き込んでみてくれる?」

「あ、洗脳されてるかどうかの選別にって言ってたやつ?まあ、100%正気だと思うけど…」

「うん、念のためだから。というか、隷属の状態異常はあるはずだし、逃げようとしない限りは顕在化しないと思うけど」

「そうね、一応書き込んでみるわ」



***



28:鈴城瞳


それにしても、そっちにいる王族って最高よね

きらびやかで、綺麗で、王子も素敵だったわ



29:桜庭要


は???(五度見)

は???(宇宙猫顔)



30:坂下菫


正気???憑かれてるの?(not誤字)



31:桜庭要


まさか現実でこう思う日が来るなんて

病 院 が 来 い



32:坂下菫


眼か頭が腐ったとしか思えない発言

眼科と精神科とどっちかな?どっちも?

今すぐダッシュで来て病院爆速で来て

いっそ殴って正気に戻すべき?

きらびやかでも綺麗でもないよ、あんなの

むしろ「汚い」「キモイ」「気狂い」「キチガイ」の3Kよ



33:桜庭要


それだと4Kだね

テレビかな?

だとしたら映った瞬間チャンネル変えるね



34:鈴城瞳


ごめん、隷属がどの程度なのか知りたかっただけで心の片隅でさえ考えてないから許して

思った以上のフルボッコで笑っちゃったわ



35:桜庭要


ああ、確かに洗脳に近い状態だったら鈴城の意見に賛同するのか

…隷属状態だったら、あいつらを称賛するってこと?


地獄かよ



36:坂下菫


瞳さん、頭どうかしたかと思ってびっくりしちゃったよ

お願いだから二度とそんなおぞましいこと言わないでね?

確認のために必要っていうのがわかったから、今のはいいけど



37:鈴城瞳


そうね、ごめん、二度と言わないわ

両腕に鳥肌立っちゃったし

そして菫さんがめちゃくちゃキレてて怖い

でもわかるわ

あの時はなすすべなく倒れたけど、今なら脳天に矢をぶっ刺してやるわよ



38:桜庭要


いざという時の女子ってガチで怖いよね

頼もしすぎる

むしろ男の方が乙女になる勢いで逞しいよ、肝の据わった女子って

勝てる気がしない



39.坂下菫


こんなにか弱いのに!

こんなにか弱いのに!


まあ、攻撃する術があるならそれを全力で駆使するのもやぶさかじゃないけど!

やられた分はこの手でやり返すって思いに溢れてるけど!

手始めにあの私をボコボコにしてくれた騎士に金的でも繰り出してやろうかしら…



40.桜庭要


やめて!!!(絶叫)



41.鈴城瞳


股間を射ればいいってこと?



42.桜庭要


やめて!!!(性別・男からの懇願)




***



「………少なくとも洗脳されても操られてもなさそうだな?」

「そう、だな………ん?」

「リオくん?」



《『真偽』スキルを取得しました》



「…ええー?」

「どうしたの?」



し、新スキル?ここで?しかも真偽って…あ、掲示板に書かれた内容が嘘か本当か見分けるために集中してたから?

あー…アイさんの王族称賛の書き込みが何か嫌な靄っぽいの見えるな。嘘だからだろうな。

それ以外に靄は見えない。じゃあ、本音だろう。



「…新スキル取得チャレンジ、する?」

「…何か取得したのね?」

「マジか。って、今?どんなスキルだ?」

「『真偽』だって。嘘か本当か見分けるスキルっぽい。アイさんの28レス目が嘘の内容ってのがわかる」

「まあ全然本気じゃないものね。…でもそれ凄いスキルじゃない?私欲しいんだけど」

「確かに、こんな権能だと必須に近いスキルかもなー」

『主…!凄いのだ…!』

『確か『真贋』スキルの上位スキルです』

「これも上位スキルかー」



ひとまず、掲示板の内容を集中して読んでただけっていうよくわからん切欠だ。

これで取得できるんだろうか?

とりあえず、アキ兄さんもアイさんも取得できずに終わってしまった。アイさん落ち込んでた…何かごめん…



『真偽とまではいかないけど、似たようなことは『千里眼』でもわかるのだ。アイちゃん、スキルレベル上げてれば嘘は違和感として見えるようになるのだ』

「本当!?頑張るわ!」

「おお、千里眼のポテンシャル凄いな」

「見える系のスキルは、リオくんの場合『空間把握』に反映できるんじゃないか?使えるかはわからないけどさ」

「ああ、確かに?…使えるかなあ?」



スキルレベル上がっていい派生能力出たら使えるかもしれない。

後でハルに頼んでスキルメモ見せてもらおう。

それで、レベリング組にも真偽スキル取得チャレンジしてもらおう。


そんなことを考えていたら、レベリング組から連絡が来た。

タークくんがレベル5に上がったらしい。錬金調合は上がってないからもう少し回るとのことだけど。



「いえ、戻って来てもらいましょう。錬金調合は戦闘しなくても経験値稼ぎできるわ。情報共有とスキル取得チャレンジの方が大事」

「それもそうか」

「ついでにタークの権能の確認もしちゃいましょう。戦闘で試したいならボス戦で試せばいいのよ」

「わあ、頼もしいお言葉。僕、惚れ惚れしちゃう」

「姉、強いなー。一人っ子には得られない強さ」



さっそくアイさんが『掲示板』に、全員戻ってこいと書き込んでいた。

タークくんがちょっと反発したけど、さすが姉。さくっと言いくるめていた。

じゃああんただけ新スキル取得チャレンジ不参加でいいわね、という言葉でタークくんもあっさり主張変えたのは笑った。

綺麗な手のひら返しを見た…


そして書き込みから15分ほど経って、レベリング組が戻ってきた。



「こっちで重要な進展ありました?」

「ええ、冷遇組と連絡が取れたの。情報も得られたわ」

「マジか!それなら確かに俺のレベリングより大事かもな!」

「そういうことよ。あんたは話聞きがてら端っこで調合してなさい?それで経験値は稼げるでしょ?」

「笑顔でこえーよ、二人とも」

「ルートくん、ルートくん、この双子、いつもこんな感じなん?」

「割と」



まあ、タークくんも反対はしてないんだろう。

冷遇組と連絡がとれたのは間違いなくプラスだし。

それはわかってるけど、自分のレベリングを軽く見られた感じになったので文句だけは言いたい。多分そんな感じだ。

理解は出来るけど感情面でもやっとしたので発散したい。

アイさんはその心情を正確に読み取ってはいるけど、そんなん知るかという感じなんだろう。

ある意味これも以心伝心なんだろうか…



「掲示板でやりとりしたから、後で全員に閲覧許可出すわね。それを見てもらうのが一番いいと思う」

「ああ、わかった…けど、見ていいのか?」

「同行者に情報共有したいからスレ見せていいかって聞いて許可はもらってるわ。今は一旦解散して、情報の更新があったら書き込むって形になってる。今は音沙汰なし」

「なるほど!」

「あのー、それ、向こうの人、アイさんの同行者、タークくんとルートくんだけだと思ってるんじゃないの…?」

「あ…」

「嘘はついてないわよ?」

「イイ性格してるよお前…」

「あなたの姉よ?」



ぅゎっょぃ。

味方で良かった…この子敵に回ってたら何か怖いことになってたんじゃ…

ご愁傷様、ラージフール。えらい子を敵にしたぞお前ら。まったく同情は出来ないから大人しく滅んでくれ。



「ていうか、後って何だよ。戻ってきたんだからすぐ…」

「あんたの権能の確認がまだでしょ?こっちの情報は今更新されてない状態だから、多少確認が遅れてもいいわ」

「あ、そっか」



そうだな、権能の確認は大事だ。

どんな能力であれ、プラスには違いない。



「俺の権能は、『交換』だってさ」

「交換…?」

「えっと、アイ、預けた素材ちょっと空間収納から出してくれるか?」

「わかったわ。何を出す?」

「えーと、そうだな…」



若干バチバチしてたのに、もうそんな空気忘れたと言わんばかりにやり取りしてる…すごい…

そして、出されたものは鉄鉱石と銅鉱石がひとつずつ。そして水晶の欠片だ。

ちなみにこれは全部ランダムボックスから出たものだ。錬金や調合に使えそうなものが出たらアキ兄さんがタークくんに渡しているらしい。

それをテーブルに並べていた。水晶だけ小さく見えるな…石は拳大の大きさで、水晶は欠片だから親指の爪くらいの大きさだ。



「俺の権能、その名の通り交換するものなんだよ。例えば、ナズの前に置いた鉄鉱石を、アキの前に置いた銅鉱石と入れ替える、みたいな」

「まじか。やってみて!見たい!」

「お、おう」

「ターク、MPは大丈夫か?」

「鉄と銅なら、大丈夫だ」



鉄と銅なら?何か含みがあるな?

けど、それを気にする間もなく、タークくんは権能を行使した。

権能は使ったかどうかわかりにくい。今回も例に漏れずそうだった。

特に光ったりするわけでもなく、何の余韻もないまま『交換』がなされた。

鉄と銅で色が違うからわかったものの、これ見た目が同じ鉄鉱石とかだと使ったかどうかわからないな。

…というか、それをわかっていて、一目で交換されたとわかる見た目のものにしたのかもしれない。



「お、おおお、銅鉱石になった!」

「俺の前のは鉄鉱石になったぞ!」

「へえー…すげえ、ぱっと変わるな…」

「これ、距離は関係あるの?」

「いや、ない。ここのテーブルの上に置いたのと、上の温室に置いた石を入れ替えても全く同じ消費」

「え、すごくね?」

「消費が変わるのは、距離じゃなくて大きさっぽいんだよな」



どうやら、拳大の大きさなら大した消費じゃなくても、これが顔より大きいとか身長の半分とかになればそれだけ消費が大きくなる。

まあ、これはわかる。当然だとも思った。

ただ、交換対象の大きさの差まで関係するとは思わなかった。

鉄鉱石と銅鉱石はどちらも拳大で、大きさにほぼ差はない。ただ、鉄鉱石と水晶の欠片を交換した場合、MP消費が跳ね上がったそうだ。

タークくん自身も、そうなる感覚はあったものの、実際やってみて、その消費の大きさにびっくりしていた。

ああ、それを確かめたくてこの三種類を用意したのか。



「だから、あんま気軽に使えねえな。一日に一回か二回ならいいけど。あんま練習できそうにねえなー」

「でも使い方を考えればものすごく使えそうな権能だと思うんですけど…」

「そ、そうか?うーん、俺には思いつかねえだけかな?戦闘とかで使えるかなあ…」

「人の交換だとどうなの?あまり大きさに差がない…タークとルートくんの居場所を交換、とか」

「出来なくはねえけど、使う機会あるか?それ」

「あれ、あんま集中力いらないタイプ?え、それすごくない?アキ兄並の手軽さじゃない?」

「確かに、私は集中しないとうまく使えないかも」

「ハルちゃんは?さっき、戦闘で苦無分身使ってたけど」

「小さいもので動かないし、何度かやってるので慣れてますが、私のも本来は集中力いるタイプですね。苦無以外の分身だと、戦闘中に使うのは無理です」

「あたし、集中しないと無理!」

「僕もだ。空間把握は多少使えるけど、戦闘中は多分難しいな。町を歩く時とかはまだ使えるけど」

「…俺は、交換するものがちゃんと頭に浮かんでれば、割と気軽に使える、かも?」

「ヤベー権能じゃねえか」



しかも距離関係ないってのもポイント高い。大きさ依存か。

…あれ?それ聞いてちょっと気になったことが…

ハルが隠密の説明してくれた時、確か…



「タークくん、大きさって言ってたけど、重さとかは関係ないのか?あと、細部違っても大丈夫?」

「ん?ああ、多分大丈夫だぞ。鉄と銅でやってみて、そんな感じしたから」

「ちなみに、この大きさだとどう?」

「デカッ…!出来なくはねえけど、結構MP使うぞ。同じ大きさでもそれなりに…」

「何この箱?薬箱よね?」

「そうだよ」



これは薬箱リュックを作る時に召喚した薬箱だ。

アイさん達にも必要だろうということで、何個か出したうちのひとつでもある。というか、既にルートくんが背負ってるしな。

ナズ曰く、色んな色のリュックにしてみたいと言ってたので、経験値稼ぎ兼気分転換みたいな感じで作りたいと言っていた。

そのため、何個か出してアイテムボックスにしまっていたのである。

人が背負うことを前提にしてるものなので、結構な大きさだ。成人男性の背中ほどの幅と高さになる。

もちろんハルやナズが背負うと大きいので、二人の分は若干小さめのサイズにしている。召喚時にSサイズにしたり、召喚後に『変形』でいじったり。

今出したものは完全にデフォルト状態だ。なので、いくらでもまったく同じ大きさ、デザインのものを用意できる。



「薬箱の中身が違った場合ってどうなる?それは差になるのか?それとも、体積というか、ガワがまったく同じなら、同じもの扱い?」

「え?えーと、それだと、多分同じ、かな?」

「隠密と同じ仕様か」

「ああ、確かに。カーくんに隠密を使った場合、中にいる人がどれだけ動いても変わりませんからね。カーくんが突然大きくなったらその分消費MP増えますけど」

「そういや、カバーみたいにかぶせる感じでスキル使うんだっけ?」

「あー、確かにそれだと、薬箱の『中身』がどれだけ変化しようと、外側が変わんない限り、同じモノ判定されるんだ」

「…確かに、隠密ってそんな感じよね。私まだそこまでレベル上がってないから実感ないけど」



ハルに隠密の仕様を聞いてたから思いついたことだ。

もしかしたら、と思って聞いてみる。



「たとえば、この薬箱を僕たちで一つ、アイさんたちで一つ持ってたら、『交換』で入れ替えられるよな?」

「まあ出来るとは思う。目の前にない場合ちゃんと認識しないと駄目だけどな。あと、でかいからMP消費ちょっと重いな…同じ大きさだからマシとはいえキツいかも」

「出来るなら、物資の交換が出来ると思ったんだけど。別れた後」

「…へ?」

「たとえば、そっちのポーション系とか毒薬しこたま詰めた薬箱、こっちのアキ兄さんの料理をしこたま詰めた薬箱、これを『交換』するなんてことが」

「一日一回絶対やるわ!!!」

「リオさん、最高」

「アキくんの料理…!」

「え、そこまで?」

「交換のタイミングはアイさんの掲示板でやりとりすればイケるんじゃないかな。普段薬箱はアイテムボックスや空間収納にしまっとくだろうし」

「アイ!それ用のスレ作るとかアリか!?」

「もちろん協力するわよ。いくらでも使って」

「…タークさんが毒ポーション作ってくれるなら、ありがたいです…!武器に毒付与が継続的にできる…!」

「うん、まあ、ポーションと料理以外にも交換できたらいいなってのがあるだろうし、と思ってさ」

「マジでそれは思いつかなかった。うん、大きさまったく同じなら、何とかなる。ぜひ頼みたい。アキの料理食いたい」

「…そこまで?いいけど…」



餌付けされてるなあ。まあ、アキ兄さんの料理美味しいからね、仕方ないね。

ていうか、双子揃って距離無関係の連絡手段の権能ってとんでもねえな。



「一旦、タークの権能についてはここまでにしましょ。詰めるのは夜でもいいし。次は冷遇組の話をしましょう」

「…あ、そうだった!それ大事だ!」

「そうですね。聞きたいです」

「新スキル取得チャレンジはどうするんだ?」

「大丈夫よ、ルートくん。それも一緒にやるから」



そう言って目を閉じたと思ったら、すぐに目を開けた。

掲示板を使う時は集中力がいると言っていたから、それでだろう。

書き込みは、ちょっと意識する程度でいいが、アイさんが出来るのはそれだけじゃない。

掲示板の作成、削除、設定の変更。これらは僕たちが思ってるより集中力がいるのだと思われる。


今やったのは、恐らく桜庭くんたちと連絡を取り合ったスレッドの『閲覧許可』だ。



「じゃあ、内容を確認してくれる?それから、話をしましょう」

「わかった」

「はい、すぐ見ますね」

「おっけー」

「おう!」



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