88.招待者の選別
アイさんの権能『掲示板』は、なかなかヤバイ能力だった。
と言っても、権能は全員クソヤバ能力なわけだけど。
その中でもヤバイ理由は、利用者が限定されてる代わりにMP消費がかなり少ないという点だ。
もしかしたらアキ兄さんの『倍化』より少ないかもしれない。
なお、ぶっちぎりでMP消費が激しいのは僕の空間転移だったりする。
「何がヤバイって、これ、距離関係ないのよ」
「距離ってーと…?」
「この後、私たち別れるでしょ?ナズさんの伝達での連絡も、距離があると出来ないでしょ?…これなら連絡取れるのよ」
「マジで?」
「本当ですか!?これで連絡取れ合える!?」
「ええ、一度参加者になってるから、念じてもらえばいつでも書き込みって形で連絡が取れるわ」
「…ならさ、スレタイ、変えようぜ…」
「すれたい?」
「スレッド…掲示板のタイトルっていうか名目だよ。ほら、今これラージフールぶっころってなってるだろ」
「確かにこれはなあ…同意できるけど、ちょっと…」
「咄嗟に思いつかなくて、心の願望が漏れたの!」
「ヤバイもん漏らすな」
「ターク…言い方…」
ただ、アイさんの権能なので、アイさんの権限が大きい。
掲示板…スレッドは複数立てることが出来るが、アイさんでないと作成できない。
つまり、アイさんの管理下にある掲示板を、こちらが利用させてもらう、という形だ。
そしてスレッドの削除もアイさんしか出来ない。アイさんに見れないようにすることも出来ない。
なので、仮に男同士で猥談でもしようものなら、それはアイさんに筒抜けになる。アイさんが参加していなくてもだ。
そして、掲示板に書き込みが出来る、閲覧が出来るメンバーはアイさんが設定できる。
スレッドを三つ立てたとして。
「二組オンリー」。参加者、アイさん、アキ兄さん、僕。
「ちびっこの悩み」。参加者、アイさん、ナズ、ハル。
「後追い逃亡組」。参加者、アイさん、タークくん、ルートくん。
こう設定した場合、アイさんは全部閲覧できるし書き込みも出来る。というかデフォルトで参加者となっている。
僕は「二組オンリー」だけ閲覧と書き込みができる。「ちびっこの悩み」「後追い逃亡組」は閲覧さえ出来ない。
そんな感じらしい。
「誰がちびっこですか」
「リオ兄のセンスほんとひどい」
「仮題だって!思いつかなかったんだって!」
「それはそうと、猥談のくだりマジでひでーな。しねえわ、そんなん」
「ま、まあでも、わかりやすい例えじゃない…?」
「アイさん、無理にフォローしなくていいんですよ」
ひどい。フルボッコだ。
というか、本当に僕センス皆無だな…
「ところで、アイ。掲示板の利用者の条件って何だ?限定されてるから、これだけの能力なんだよな?」
「あ、確かに。ラムとかは参加できるのか?」
アイさんはルートくんとアキ兄さんの質問に、ちょっと気まずそうな顔をした。
もしかして、僕たち七人だけなんだろうか?それでも破格だと思うけど…
「条件は、こういう掲示板を知ってる人…つまり、召喚者全員よ」
「…ネットの、掲示板を知ってる人、ってことか」
「召喚者、全員…!?ってことは、城に残ってる人たちも、利用できるってことですか!?」
「私が、許可すれば、ね。…今は、ここにいる七人しか許可してない」
たとえオリジンでも、テイムしている従魔でも、『掲示板』は利用できないそうだ。
ドラゴンなんかは割と日本の知識を得てるみたいだけど、『聞いたことがある』と『身近に感じている』のは明確に違うせいか、無理らしい。
たとえ日本人でもネットの大型掲示板なんて利用したことがない人はいる。というか、僕やナズにハル、ルートくんも書き込みをしたことはない。
存在を知ってるだけだ。あと、何となくこういうもの、という認識があるだけ。
それでも、条件を満たしているんだから、条件は『異世界人』に限定されるのだろう。
この世界、クラーフの総人口を考えると、かなり少ない人数だ。だからこそこれだけ破格の性能なのかもしれない。
『ぷ…残念です。ちょっと見てみたかったです…』
『おしゃべり、したかったですのー…』
「ご、ごめんね、私も従魔のみんなが参加できないかって色々確認してみたんだけど、メニューとかにも出ないのよ…」
「あー、アイには管理者画面みたいなのが見えてんのか?」
「うん、参加者の設定とか、掲示板の新規作成とか、色々ある。ひとまず私たち七人専用のを作ろうと思うの」
「さっき作ったのあるじゃん?まあ15くらいまでしかコメントしてないけどさ」
「アキ兄、試したかったのはわかるけど顔文字三連発とかやめたって…」
「タイトルが酷すぎるし、試用運転だったし、作り直すわ…」
「お、おう…」
【逃亡召喚者】情報交換【七人用】というスレッドが浮かんだ。
さっきまで書き込みしていたものは削除されたようだ。
常に目の前に浮かんでいるわけじゃなくて、ネットのページの窓を閉じるように、縮小化みたいな感じでしまうことも出来る。
そして、スレッドに意識を向けた時に、番号が進んでいたら進んだ番号の数字が見られるようだ。
感覚として、右端に「▽」みたいなものが見えて、その記号に重なるように数字が見える。
レス番号が10進んでいたら、「10」という数字が見えるといった感じで。
何も進んでいなければ「▽」の記号しか見えない。なのでわざわざ中身を見る必要がない。
あと、緊急だと「▽」の色が赤に見えるという設定も出来るようだ。普段は白に見えるけど。
ひとまず、使って感覚を掴むのが一番かな、という結論に達した。
そしてもうひとつ、気になるとすれば。
「…これで、『冷遇組』と連絡を取り合えたり…するんでしょうか?」
「出来る、とは思うわ。ただ、みんなも何となくわかると思うけど…書き込みしようと思わない限り、書き込みは出来ない」
「…あちらが反応してくれるかどうかは、あちら次第ってことですね」
「ええ」
やっぱり、連絡を取り合える可能性あるのか。
そうだよな。僕だって気づいたんだから、権能所有者のアイさんも気づくよな。
アキ兄さんとナズとタークくんとルートくんは思いつかなかったのか、驚いてるけど。
「そ、そうか、召喚者全員と連絡出来る可能性あるのか。距離関係ないって言ってたもんな…」
「でも、誰と連絡取るかって話じゃないか?まずヒャッハー組は無しとしても、冷遇組の誰と…」
「誰でもいいんじゃねえの?いっそ全員とか?」
「タークくん、ある日突然DM送られてきて『おめでとうございます!10億円当選しました!詳細はこちら!』なんて内容書かれてたりしたら、信用するか?」
「迷惑メールとして削除するな」
「この『掲示板』は、ある意味そういうやつだよ。権能どころかスキルを新しく取得できるってこと自体知らないかもしれない相手だぞ。何の罠だって警戒されてもおかしくない」
「あ、そういえばそうか!?」
「…ええ、そうね。私の名前を書いたとしても、『鈴城さんって覗見スキルしか持ってないはずだから偽物だ』って思われかねない」
「ぅああああ…そうかー…」
『でも、もし、召喚者と連絡取れるなら、お願いしたいです。どうにか城の外に出てくれさえすれば、オリジンが手出しできるかもなので』
「…そういえば、そうね。オリジン側としては、接触したいわよね」
城に置いてきた召喚者については出来るだけ考えないようにしていた。
僕たちには出来ることはないと思っていたのも理由だ。
でも、もし、接触出来るなら。こっちで出来ることがあるのなら。
「…ダメ元で、誰か一人か二人、仲が良いか、信用してくれそうな相手に連絡してみるか…?」
「それ、誰にするか、だよな。ぶっちゃけ俺は二組で姉貴以外に仲いいのいねえぞ」
「ほとんどが二組の生徒ですからね。アイさん達に任せた方がいいでしょうか?」
「あー、三組って俺ら三人しかいないもんな。あと全員違うクラスの生徒」
「アイさんクラス委員長だし、俺やリオくんより信用度高い気がするなあ。鈴城さんの名前出せば信用度高くなると思う」
「そうだな。…というか、こういう権能になったの、クラス委員が関係してんのかな?みんなにお知らせです、みたいな」
「え、ええー…?まあ、便利そうだから使っちゃうけど」
この中で、二組は僕とアキ兄さんとアイさんだけだ。
ナズは一組だし、ハルとタークくんとルートくんは三組だ。
召喚の現場が二組の教室なので、ほとんどが二組の生徒なのは当然と言えば当然か。
さて、アイさんもとい鈴城さんと仲が良かった子とかが狙い目か?正直、僕は覚えてないな。
でもアキ兄さんには覚えがあったらしい。
「仲が良さそうだったのは、…あー、ヒャッハー組かぁ」
「そうね。だから、こっちに来てからは全然話してないわ。まあ、仲が良いというか、よく話しかけてくれる子なんだけど」
「あれ、案外仲良くはなかったのか?」
「話すのは楽しいから仲が悪いってわけじゃないのよ。でも、私から積極的に話そうとしたことはないわね」
というか、アイさんもとい鈴城さんが積極的に誰かに話しかけてるっての、覚えがないな。
強いて言うなら双子の弟のタークくんくらい?
その代わり、用事があれば誰にでも臆さず話しかけていた。具体的には、僕みたいなのとか、オタク野郎とか普通の人は話しかけるのに躊躇するタイプだ。
それがクラス委員だったからか、そういう性格だからクラス委員に抜擢されたのか、それはわからないけど。
「…クラスメイトって言っても、グループ出来てるから案外他のグループの人には話しかけないんだよな。でもアイさんは一通り話してるよな」
「って言っても、プリント提出してねとかそういう連絡がほとんどよ?」
「それでも、多少の人となりはわかるだろ。アイさんの中で、接触しても大丈夫そうな奴いる?アイさんがそう判断したなら僕はそれで正しいと思う」
「…それ、は…」
「僕は論外としても、アキ兄さんもそれなりにクラスメイトと交流してたし、二人がいいと思った人なら『掲示板』で接触していいんじゃないかな?」
「俺も?…うーん…」
「俺たちは別のクラスだからなあ…それでいいんじゃないか?」
「でもリオ兄さん、冷遇組にスキルの説明して回ったんですよね?その時話してますよね。こちらの話が通じそうな対応をした人とかいます?」
「…あー、そういやそうだっけ?」
「何のスキル持ってるかも大事じゃない?リオ兄、覚えてる?てか、覚えてるだけ書き出してみない?」
「いいな、二組三人ともが協力して、これだって人見つけりゃよくね?」
言われてみればそうか?
でも、みんな似たり寄ったりの反応だったからなあ。
最初は警戒ってか構えるけど、自分のスキルが実はこういうスキルだったって話してたら食い入るように聞いてきた感じだ。
そして、最後は教えてくれてありがとうって言って別れる。ほぼ全員こんな感じだったなあ。
「アイはクラス委員、アキくんは人当たり良し、リオくんはスキル教えてくれたいい奴、冷遇組はこんな認識じゃないか?」
「そうだな、少なくとも俺はそうだ。俺たちを助けに来てくれた時、リオはスキルのこと教えてくれたし味方だなって思ったもん」
「え、そうだったのか?」
「そうだよ。だからついてったんだよ。いや、他の奴でもそうするしかなかったとは思うけど、お前らだから信用しようって思ったよ俺は」
「俺もタークと似たような感じだ。アキくんとリオくんなら大丈夫だろう、アイも助けてくれたみたいだし、って、そう思った」
「おお、案外リオ兄への信用度高かった!」
「ま、まじか。そんなとこで信用されてたとは。城の連中って実は節穴だったんだぜってのを知らせたかったのがスキル教えて回った理由なのに…」
「むしろ、そういう理由だからこそ皆信用したのでは?共通の敵がいると協力的になるって言いますし」
「あー、単なる親切心じゃなくて、そういう『奴らを見返したい』みたいな気持ちで行動してるよってわかると納得するものね」
「逆に親切心だよ!って言い張ってたら信用してなかったな、俺」
意外。僕、信用度底辺だと思ってたよ。
だから僕は関わらない方が成功率高いとすら思ってた。
ともあれ、三人で意見を出し合って接触する人を決めようという話になった。
午後のレベリングでタークくんのレベルを上げるつもりだったけど、当のタークくんが「こっちの方が大事だろ!」と言ったのでこっちを優先することに。
権能は大きな力だと思ってたけど、アイさんの権能は思った以上の力だったなあ…
「むしろ、タークくんの権能もクソヤバ能力の可能性、ない?」
「へ?」
「…あの、別行動しませんか?これだけ人数いますし、ここはまだ初心者用ダンジョンの2階層。タークさんのレベリング、私たちが協力すればいいのでは?」
「あ、確かに!?何も全員で回る必要ないのか!?」
「二組と他クラスのメンツで別れましょう。アキ兄さん、リオ兄さん、アイさんはこのままカーくんで相談、それ以外はタークさんのレベリングです」
「アイさんの空間収納使えないのちょっと不便だけど、あたしの鞄とかなら多少荷物は何とかなる。皮系ならあたしのアイテムボックスに入るし」
「私とナズ姉、一応鑑定もありますしね。ダンジョンの情報はタークさんとルートさんも知ってますし、いけるのでは?」
「お、おお…」
「カーくんの隠密はハルがかけてるから、ハルがいるなら問題なく見えるしな…」
「いざとなればナズの伝達もあるから、こっちに連絡も取れるか…?」
「感知系はラテとサンとステラがいれば何とかなると思うし、うん、そうしよう!タークくんの権能もきっと大事!」
「でも俺にアイと同等の能力期待するなよ!?俺、クラス委員でも何でもないからな!?」
ナズが牽制できるし、ハルは中距離と接近戦も出来る。
ルートくんが前に出て足止め役になるなら、確かに能力バランスはいい方なのか?
戦闘員が四人なら確かに心配いらないか。
ボス戦は一旦スルーで、2階層を回るという話だった。
『余はタークたちと一緒に行くのである!』
「おう、ドラゴンも一緒なら心強いぜ!」
「何か進退があれば、さっきアイさんが作ってくれた掲示板で連絡取り合えばいいんです。早速活用しましょう!」
「え、あ、確かに!?」
「そうだな…こっちの相談に付き合わせるのも、時間もったいないしな。接触する相手が決まったら、こっちからも知らせればいいし」
「タークくんがレベル上がったらスレに書き込むし!」
「…それでいきましょうか?」
そんな感じで、一旦別れて行動することになった。
カーくん残留は、アキ兄さんと僕、そしてアイさん。従魔はラムとスーだ。
そしてレベリング部隊は、ナズとハル、タークくんとルートくん。従魔はラテとサン、ステラ。ドラゴンも着いて行く。オーバーキルでは…?
「ひとまず、タークくんのレベルが5になるまでは戦ってくるねー」
「錬金調合スキルの方も5にしたいですね」
「火炎瓶とか投げると錬金調合と投擲に経験値入るから、それメインで戦うつもりだけど…」
「うん、バンバン使っていいと思う!ルートくんは大丈夫?」
「ああ、攻撃は任せるよ。俺『盾術』の経験値溜めたいからタンク役メインにやるつもりだ」
「オッケー!」
案外バランス良さそうだな。
何かあったら『掲示板』に書き込めとだけ伝えて、四人+αを送り出した。
…さて。
「考えたくないけど、最悪のパターンは相手が死んでることだな」
「死っ…!?」
「…あー、でも、ありえる、のか…こんな世界だもんな」
「…言われてみれば、そうね。私たちだって、もしかしたら…ううん、でも、それはないわ」
「全員生きてるってこと?」
「ええ、だって、選べるもの。多分だけど、死んじゃってたら、選択できない。今は全員選択できるわ。掲示板の閲覧許可を出す相手として」
「なるほど、納得の根拠だ。最悪の事態にはなってなくてよかった」
「…選べたとして、正気かどうかはわからないけどね」
生きてるかどうかの判別は出来る。でも、その相手の精神状態はわからない。
思えば、こっちの世界に来てそれなりに日数が経っている。
僕たちが城にいたのは10日ほどだ。それより先はわからない。
アイさんたちが言うには、自由が減ったりはしたけど、暴力を振るわれたりとか、そういうことはなかったらしい。
でも、今どういう状態なのかはわからない。
何せ、僕たちが把握してるだけでも、少なくとも七人は逃亡しているのだ。
残った召喚者がどういう扱いになってるかは、まったくの未知数。
「私たちでさえ、隷属なんて状態異常があったんだもの。何されてるかなんて…想像つかないわ」
「そうか、連絡が取れたとしても、あっちの傀儡みたいになってる可能性もあるのか。不本意ながらも」
「この掲示板が、本当の思いを反映してくれるのか、隷属で操られてしまった精神状態で書き込みがされるのか、わからないのよね…」
「か、考えることが多くて頭爆発しそう…アフロなアキをよろしく…」
『ご主人様、しっかりするです』
『アキちゃん、大丈夫なのだ!?』
「アフロになってないから落ち着いてアキ兄さん」
でも、こればかりはわからないからな。
掲示板は、ネット上でもそうだけど、文面しか見えない。相手の顔も見えない。嘘をつかれてもわからない。
それがいいっていう面もあるけど。
「有効かはわからないけど、ラージフール…城の人や王族最高って言ってみるとか?肯定したら多分操られてるよ」
「…単純だけど、いい手かもしれないわね。操られたりしてないのが一番だけど」
「ただの利用者からアイさんに干渉するとかは出来ないだろうから、こっちの居場所が見つかったりする危険はないと思うな。僕の体感だけど」
「…逆に、こっちから干渉とかは出来ないのか?具体的には操られてるの解除する、とかさ」
「私にそんな力がないから無理ね。オリジンを招けていれば…スーさんやラムさんが浄化魔法とかぶちかますって手も使えたかもしれないけど」
「掲示板を通して魔法って通じんのかな?」
「あ…確かに…ごめん、無理かも。お互いに干渉は出来ないわね、これ」
こっちが見つかる可能性がないなら、やってしまった方がいいだろう。
あとは誰に接触するか、だな。
「ヒャッハー組は無し、冷遇組だな。出来れば二組の生徒がいい。そのくらいか?」
「該当者多いわね…うーん…」
「やっぱスキルで選ぶ?全員覚えてないにしても、これだけ判明してるなら…」
僕の記憶力の関係で、約半分しか判明しなかった。ほんとごめん。何のスキルだっけ…年かな…?
味方に引き込みたいというか、城の中の情報収集を頼むとしたら、感知系だろうか?
あと性格面も、信用できる人って考えると…
「うーん、難しい…そもそも城の中歩き回れるのか…?」
「私がいた時点では、許可されてる範囲なら大丈夫だったわね。範囲狭いけど。私は『千里眼』で範囲外も見てたりしたかな」
「アイちゃんのスキルがめっちゃ便利だな。同じようなスキルある人がいればよかったんだけど」
「僕も思ったけど、アイさんがまだあっちにいたら『掲示板』もなかったわけだし…」
見事に全員違うスキルだったからなあ。
似たスキルはあったけど。『剣術』『聖剣』とかな。
「うぅん、悩ましいわね。感知系、察知系、って考えると…菫さん?」
「…『看破』スキルの坂下さんか。うーん、情報収集には向いてる…か…?」
「坂下さんって大人しいけど納得できないことあったらとことん調べつくす人だったよなぁ。案外いいかも?」
「もしくは…スキルを使いこなせるとしたら、桜庭くんが結構いいスキルなんだよな…本人超嫌がってたけど」
「桜庭くん?…ああ、うん、彼、ホラー系苦手だものね」
「えーと、桜庭くんは…『死霊術』スキル?どうやって使うんだ?」
「死霊系の魔物と意思疎通が出来る。で、霊体の魔物なら、姿を見られず移動も出来るんだよ。その分弱いけど、情報収集には有利かなと」
「はえー、凄いじゃん。…あ、でも、ホラーが苦手ってことは…」
「…うん、絶対使わないって半泣きになってた」
「もし、逃亡のためならって覚悟を決めてくれれば…絶対すごい力になってくれるはずなんだけどね。責任感は強い人だし」
「マジで?僕はスキルの話しに行った時の『ネクロマンサーじゃなくて書類まとめたりする系の資料術の間違いって言ってくれ!』って嘆きの印象が強すぎてな…」
「そ、そこまで嫌がってたの…?」
「おばけも幽霊もゾンビも骸骨も全部嫌って言ってた」
「全滅じゃない…」
そうなんだよなぁ。やっぱりやめた方がいいかな?
ってなると、坂下さん?もしくは『擬態』スキル持ちの新田くん?
そんなことをブツブツ言ってたら、アイさんが決意したような顔をしていた。
「…桜庭くんを『掲示板』に招待しましょう」
「え、桜庭くん?死霊術の?俺はいいと思うけど、協力してくれるかな?」
「彼は、まず間違いなくラージフールに取り込まれてないと思うの。だって、彼のスキルにものすごく拒否感表してたじゃない?あいつら」
「ああ、言われてみれば確かに」
「そういやそうだった。めっちゃ嫌そうな顔してた」
「私もそうだったんだけど、最低限すら近づきたくないって態度だった。だから、城の連中に接触されないと思うのよ」
「…なるほど、その視点はなかったな」
アイさんは『覗見』スキルと勘違いされていた。
まあ、千里眼と同様、壁一枚隔てた向こう側を覗き見れるというスキルだ。
やましいことがある相手は全力で拒否するようなスキルでもある。ラージフールはまさに、という感じだろう。
そう考えると、確かにラージフールは桜庭くんに接触しようとしないだろう。むしろ避けるくらいかもしれない。
それに『勇者』らしくないスキルという意味でも思いっきり見下していた。
なるほど、これはアイさんだからこそ気づけた視点だ。
僕の場合は、完全に格下扱いでナメきっていた。忌避感ってわけじゃなかったな。
あとは、スキルがないなら抵抗したくても出来ないと判断されて、ぶん殴ろうとしてきたこともある。
若干意味は違うが、僕も見下されていた側の人間だ。
「ほぼ100%正気だろうし、ラージフールにこっちの情報が漏れそうにない人材だな。僕は賛成」
「俺も。冷遇組だし、絶対ラージフールに味方しないもんな」
「他にも理由はあるけど…まあ、プライベートだから言わないわ」
「…ふーん?幼馴染とか?それならまあ突っ込んで聞くのもマナー違反か」
「まあ小学校は一緒だったけど、そうじゃないわ。でも去年図書委員で一緒だったから多少話すわね」
ああ、そういえば桜庭くんも読書好き系の子だったか?確か今年も図書委員だったはずだ。
と思ったら、単に静かな空間が好きなだけらしい。本が好きってわけじゃないのか。
そんな理由で図書委員になるなとアイさんは呆れたんだとか。まあ、仕事はちゃんとしてたので文句はなかったそうだけど。
「ええと、じゃあこれで…参加メンバーは…」
「一旦、アイさんだけでいいと思う。必要なら僕たちも参加するけど、男子にとっていきなり女子三人の相手って威圧感ないか?」
「そうだな、俺も桜庭くんとはそこまで話したことない。まずは二人で話してみるってのはどうだ?桜庭くんが俺たちと話してもいいって言ったら呼んで」
「…そうね、そうしましょうか」
【提案】城からの脱出方法【協力】
そんなスレタイで接触すると言っていた。わかりやすいけど、迷惑メール扱いでスルーされないだろうか…
無駄に捻っても仕方ないからストレートに目的を告げたかったとのことだ。
「…さすがに、すぐ反応とはいかないわね」
「そりゃなあ」
「七人のスレの方も特に連絡なしだな。まあ、いつ戦闘になるかわからん場所で書き込みとかしてる場合じゃないんだろうけど」
「ちょっと集中しないとだもんな」
「…桜庭くんから連絡があったら伝えるわね。あっちに連絡して、合流しましょうか?」
「あー、それもいいかもなあ。タークくんがまだレベル上がらないようなら、アイさんも一緒にレベリングした方がいいだろうし」
『ぷ…連絡、すぐ取れなかったです…?クラフェル様も気になってるようです』
「え、この件クラフェル様に伝えたの!?いや、悪くはないけど!むしろこれクラフェル様に伝えた方がいいレベルの事態なの!?」
「そういえば、接触不可能と思われてた人達と接触できる可能性あるもんな。案外気にしてたのか…」
『みたいなのだ。もし連絡取れて救出の目途が立ちそうならオリジンを派遣するって息巻いてたのだ』
「創造神、暇なのか…?」
まあ、超協力的っぽいから助かるけどさあ。
…さて、返答がないとどうしようもないし、あとは待つしかないな。
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