01.振り返り
初投稿です。時間潰しにでもなれば幸い。
今までに起きたことについて軽く話をしたところ、この状況は所謂「ラノベでありがち」な展開だと言われた。
マジか、というのが正直な感想だ。どうやらテンプレのような展開がいくつかあり、私たちに起きたことも「読んだことあるような状況」らしい。
と言っても、まったく同じというわけではなく、大筋が同じだけらしいが。それでも、ありがち展開と言われるものが起こったことに変な感動を覚えた。
感動してる場合じゃないって?でも、角からパンくわえた女の子が走って来てぶつかるみたいな、ありがち展開ってそういうことでしょ?
それが目の前で起きたら感動しない?あ、しない…?
というか私以外の三人は、ずっとラノベみたいだと思っていたらしい。私?私は…ラノベを読んだことないから知らなかった。
ラノベか…ゲームやアニメ、マンガはそこそこ履修済みなんだけどな。
でもゲームも据え置きしかしないし、オンラインゲームはちんぷんかんぷん。というより、ゲームでまで対人を気にしたくないので何となく避けてた。
SNS?それコミュ強か機械に強い人が手を出すもんでしょ?…こんなレベルの認識である。現代人失格だと言いたきゃ言え。
古代人・村雨涼です。地球産の女子です。よろしくお願いします!
…それはさておき。
思い出したくもないが話も進まないので、みんなで今まで起こったことを思い返すことにした。
自分が知らなかったことも判明するかもしれないし。
「…いわゆる、これは異世界転生ということでよろしいか?」
「挙手!よろしくないです!どっちかっていうと異世界転移だと思います!」
「ごめん、それどう違うの?ラノベ初心者に教えてくれ」
一発目で躓いた。何てこった。
でも波川さん、手を挙げて言う必要なくない?授業じゃないんだけど?元気いいなあ。
ちょっと変な方向に思考飛ばしたけど、質問にはしっかり答えてくれた。いい子かな?
「簡単に言うと異世界に『転生』するか『転移』するかやな。どっちも異世界に行くってのは同じ」
「ほうほう」
「転生だと、その世界の人として生まれること。転移は自分は日本人そのままで異世界に行っちゃうこと」
「あー、なるほど。似てるようで全然違うのか」
「そうそう、転移だと花子さんは花子さんのまま。転生だと別人のファナーコさんとかになるってこと」
「エセ外人っぽいな」
「だまらっしゃい」
「で、静のを引き継ぐけど、ファナーコさんには花子さんの記憶だけがあるっていう」
「ってその名前採用すんの!?今突発でつけただけだからもう忘れてええんやで!?」
「んー、何となく理解した」
「リオくんが理解したなら良くない?」
「…ソウダネ」
にわか知識はあったけど、さすがにわか。詳細が全然違った。
正直に「ラノベ未履修です!」って言ってよかった。言ってなきゃ、知ってる前提で謎単語が飛び交いまくってたかもしれない。
「とりあえず、めちゃくちゃ今更だけど転移したことで記憶が改竄されてても怖いから、認識の相違がないか調べよう」
「えっなにそれこわいんやけど」
「たまーに記憶いじられてることもあるけど、ほぼないよ?リオくんラノベ知らないのによくその発想出たな?」
「異世界転移を別世界に連れてこられると解釈しました」
「うん、間違ってないな?」
「つまり誘拐だな?」
「う、うん、せやな…」
「宇宙人にUFOで光の柱と共に回収されてるのを連想した」
「待って何か全然違う方向に舵切ったよ今!茜、静、矯正して!」
「無茶言うなあ、ちーちゃん!?いや確かに宇宙人に連れ去られたら記憶いじられそうだけども!」
「あれ…違った…?」
「いやうん、まあ、うん…ともかく記憶いじられてないって確信持てた方がいいってことで、自己紹介からする?」
「そこから?いいけども。茜、ちょっと自棄になってない?」
発想が昭和とか傷つくこと言われた。
そうか、発想の引き出し、古いのか…やっぱり古代人かな私…
「まずあたし。狭山茜。小玉利中学二年二組」
「じゃ次は私。村雨涼。小玉利中学二年二組」
「次あたしな。波川静。小玉利中学二年一組」
「最後あたし。林千晴。小玉利中学二年三組」
ここの認識は間違ってない。それぞれの顔を見て全員がひとつ頷く。
「ええと、あの日、昼休みもうすぐ終わるなって時間、急に教室の床が光り出して…光がやんだと思ったら、謎の城にワープしてた…でいい?」
「うん、あたしも茜と同じ認識。今思えばあれ光ってたの魔法陣なんかな?」
「あー、地面にらくがきして魔法出すアニメあったよな」
「リオくんちょいちょい例え古い。や、面白いアニメだったけど」
「何だと…同い年なのに…!」
「話戻すよ?で、その時、教室にいた人全員がワープして同じ部屋に飛ばされた…でいい?」
「うん、廊下にいた人とかは見当たらなかったから、あの教室の中にいた人…ていうか、魔法陣の上にいた人が対象かな?」
そう、昼休み中だったから先生っていう大人枠もいなかった。
いたのはほぼ二組の生徒。あとは遊びに来てた別のクラスの人。波川さんと林さんがそれにあたる。
もちろん遊びに行ってたりトイレ行ってたりで二組なのにいない人もいた。それでも一クラス分、30人以上はいた。
その人数が一気にワープだ。信じられなくても現実だと受け止めるしかない。
そして着いた先が、でかい魔法陣が描かれてる部屋だった。石造りの部屋に黒いローブを来た人達。そして騎士に守られるように佇む金髪の若者。
王子とか呼ばれてたのを聞いて「イギリスかよ」と思ったのは申し訳なかった。イギリスじゃなかったよ。ごめんな。
私のイギリスのイメージ酷いな。石造りと魔法使いっぽいのと王族ってだけで連想しちゃったよ。偏見がひどいね。
でも私と似たような感想を持った人もいたらしい。
日本人は全員サムライかニンジャというイメージ抱かれてるようなもんだよなこれ。大英帝国さん大迷惑だわ。
それはそれとして。
転移先は、城のような建物と思ったけど正真正銘の城だったらしい。まあ王子いるしな。
ワープ直後の混乱の中、その王子が大声で「よく来た我が国を救う使命を持った勇者諸君!」とか世迷言ほざいたけど。
それ聞いて半分は「何言ってんだこいつ」という顔をして、半分は何か喜んでた。
ちなみに喜んでた奴の何人かがラノベかよって言ってたので、ああこれラノベでよくある展開なのかーと思った。
王子はそのままいかに自分や国が素晴らしいか、召喚が出来るのは魔力の高い選ばれた一握りの者にしか出来ないとか戯言垂れ流してたけど半分以上聞き流した。
あ、選ばれた私たちはとてつもない幸運に恵まれてるそうですよ。絶対嘘だろ今まさに不幸な目に遭ってるもん。誰が選んでくれって言ったよ。
私の心境は、終始「くっだらねえ」だった。こいつらの価値に微塵も興味ないし、他人の自慢話ほど退屈なものはない。そんなことよりさっさと教室に帰せと思った。
しばらくご高説()を垂れ流して満足したのか、私達に着いてこいって命令しやがった。結局知りたいことひとつもわからなかった件。ここで殴らなかった自分を褒めたい。
集団心理もあって、大人しくしといた方がいいと思い、そのまま連行された。着いたのは豪奢な…多分、謁見の間みたいなところ。
王と王妃と思われる二人、その近くに王女と思われる女が一人。
そして王らしきおっさんから芝居のように語られる言葉。
『我が国を救うために召喚されし勇者たちよ!』
それさっきバカ王子から聞いたわタコ!
そのイベントもう終わってんだよ繰り返すな!スキップさせろスキップ!スキップボタンどこだ!
大体、無許可で強制的に呼んでおいて召喚されしって何だ。お前ら立派な誘拐犯だぞ。犯罪だわ。ここにいるの漏れなく未成年者だからな。
『父上、それはさっき僕が言いました』
『おおそうか。なら二度言う事もないな』
ちょっと王子の好感度上がったわ。ミクロン単位で。
『王族たるもの、平民に何度もへりくだってはなりません。既に僕が礼儀は尽くしてます。父上は堂々とご命令ください』
『おお…さすが我が息子よ。なれば遠慮はいるまいな』
ごめん前言撤回。好感度下がったっていうか、マイナス突破してんのに更にブチ抜いて下がったわ。ブラジルまで行きそう。
つか勇者なのか平民なのかはっきりしろや。あと礼儀なんざ尽くされた覚え、とんとねえんだわ。ひたすら上からご高説()を垂れ流されただけなんだわ。
このあたりで、最初はテンション上がってたらしい男子生徒の何割かがイラっとしてた。
うん、こいつらの言う事聞く価値ねえよね。
そう思ったのは私だけじゃなかったのか、手を上げて元の場所に戻して欲しいと意見する子もいた。
近くにいた大臣っぽいのに「王の言葉を遮るとは何事か!身の程を知れ!」って返されたけど。
は?勝手に連れてきたのそっちだろ?その説明もほぼないまま身内で話してんのそっちだろ?
わざわざ連れてきといて説明せず放置されてるこっちが「はよ説明しろ」って求めて何が悪い?
仕方ないなとばかりに呆れたように王が説明を始めたけど、コイツまじで殴っていいだろ。多分、生徒大半がキレかけてた。
「…思い出したらイラっとしてきたあああああ…!」
「あたしも。きっとリオくんだけじゃない」
「涼と茜に同意ー。心の中で王と王子と宰相っぽいオッサンぼこぼこにしてたよね」
「あれ、波川さんあれ宰相と思ってた?私大臣かと思ってたよ。もう今となっちゃ何でもいいけど」
「せやな、何でもいいな。…実はヒラだったら指さして笑ってやるのに」
あ、やっぱりみんなキレてたっぽい。ですよね、としか言えん。
詳しく思い出してたら精神衛生上よろしくないので(私の)まとめると。
曰く、魔族がこちらの国に戦争をしかけようとしてる。
曰く、魔族が先兵として大量の魔物を送り込んできてる。
曰く、魔族は数は多くないが、戦闘力が高い。
曰く、対抗するためには強い助っ人が必要。
曰く、勇者召喚で異世界から勇者を呼べば戦力の問題は解決する。
曰く、召喚は一方通行で、呼べても帰すことは出来ない。(は?)
曰く、生活の保証はしてやるから国のために働くべき。(は?)
曰く、召喚された勇者は召喚の際に1つ以上スキルを得る。しかもレアスキルの可能性が高い。
これだけの情報を一時間以上も偉そうに喋りやがりましたよ。まとめりゃ十分かからんだろ。話ヘタクソか。
すぐ横道に逸れるし自国自慢とか王族がいかに尊いかを語るので生徒の大半ダレてたよ。校長先生の話の方がマシだって誰かが言ったし。
帰れないって言われて泣きだした子もいたのに、スルーで話してたしな。こっちのこと何も考えてねえんだなって嫌でもわかったよね。
最初テンション上がってた奴でさえイライラしてた。
後で聞いたら、ゲーム感覚で活躍したい気持ちはあるけど、現実でやりたいわけじゃない。いつでも日常に戻れて、生活のスパイスになると思ってた、らしい。
それも馬鹿馬鹿しいけど、ある意味現実的か。あくまでコンティニュー可能な命の危険がない状態で楽しみたいってことだった。
ガチの命のやりとりなんてふざけんな、らしい。ゲームと混同してないようでよかったと思った。や、最初のテンションは完全にゲーム楽しみーって感じだったし。
まあ、そんな苛立ちしかない話が終わった後、鑑定するから並べとか言われた。
また何か言い出した、と思わず手を顔にかざそうとして、眼鏡に指紋ついたら面倒だな(眼鏡拭きないし)と思って眼鏡のつるを押さえた。
完全に呆れた時にするような仕草だったかもしれないけど、誤魔化すのも面倒だから遠慮はしなかった。
気持ちを切り替えるように、眼鏡を押し上げてピントが合うように指で少し揺らして―――…
「…あれでさあ、格差社会生まれたよね。私ら召喚された側の中だけでも」
「うん、攻撃系スキル出た子ばっか優遇したしな。あたし面と向かって役立たずって舌打ちされたわ。煮えた油ぶっかけてやろうかしらって思った」
「茜、自重して。あとさ、スキル二個持ちとか、あからさまだったよね。そいつらも手のひら返しで王族にすりよってたし」
「知ってる?そいつらの部屋めちゃめちゃ豪華な部屋だったらしいの。あたしら、掃除されてないような部屋で薄布一枚かぶって寝てたのにな」
「ベッドもない床で寝てたしな。タオルケットの方が暖とれるってヤバくない?床の冷えが伝わってくるし。途中でタオルとか追加してちょっとマシになったけどさ」
「…や、それでもリオくんの待遇が一番悪かったか。あたしらゴミスキルって言われたけど一応スキルあったし」
「でも、ホントはスキルあったってことだよね?どうやって隠してたの?あの時、鑑定でスキルなしって言われてたのに」
「…まあ、『コレ』見たら、絶対有用スキルだーって囲い込まれてたやろなー」
「うん、だろうと思って様子見してたよね」
「よくあの仕打ちで耐えれたな!?あたしならすぐ音を上げてスキルありましたーって申告するけど!?」
「まあそれはアレですよ」
「は?あ、あー…ラノベ二号…」
「その言い方やめて!?」
この世界には魔道具と呼ばれるものがあって、色々なことが出来るらしい。
日本で言う電気にあたるものが、こっちでは魔力…マナと呼ばれるもので、魔道具はそのマナを動力にして動く。用途は様々。
スキルの有無を鑑定できる『鑑定板』というもので、私達のスキルは調べられた。
その鑑定板で調べられるのはスキルだけで、名前やらレベルやら、そういった情報は見れないらしい。
その代わり、スキルだけならスキルレベルまで見れる高性能なものなんだとか。
王城にあるだけあって、希少だとか自慢してた。スキルレベルはMAXで50で、その鑑定板はレベル30までは測れるそうだ。
ちなみにスキルレベル20で達人だそう。
転移特典で取得した私達のスキルレベルはほぼ1で、たまに2がいた。
陸上部エースが『体術 レベル2』だった。運動神経の良さが反映されたらしい。
あとは『剣術』『魔術』あたりが喜ばれていた。そしてレアスキルらしい『光』『聖剣』『結界』など。
ただ、レアスキルでも『死霊術』はイメージが悪いとかでひどく罵られていた。ネクロマンサーか…
…彼の名誉のために補足しておくと、日本でそういう趣味があったわけではなく、骨は骨でも骨組み。プラモデルの組み立てが大好きなのだとか。
それが死霊術になるんだから、判定ガバガバである。ちなみに彼はグロ系は大嫌いだそうだ。骸骨もゾンビも嫌だと。何故そんなスキルに…
関節の動かし方や仕組みの理解が深いからだと、そう思っておこう。本人は全力でこんなスキル使いたくないと泣いてたが。
私は後ろの方にいたせいか、鑑定板で調べられる順番は後の方だった。
最初の数人で、攻撃系スキルとそうでないスキルであからさまに差別したのを見て、間違っても有用なスキル保持者と判断されるわけにはいかないと思った。
攻撃スキル持ちは全力で囲い込もうとしてたからだ。もうこの時点でこの王族どころか国にいたくないと思ってたので、価値のない人間だと思われたかった。
逃げ出したとしても、追ってくる可能性が少なくなるからだ。
帰れないのは、この国が知らないか秘匿してるだけで、他の方法があるかもしれないと思ったのもある。
何というか、この国そのものが信用出来なかったので、留まるより脱出した方がいいと考えた。
そこからは脱出のことだけを考えて行動した。
この国に不信感を持ってない生徒はいないだろう。程度の差はあるだろうが。
特にスキルで蔑ろにされた生徒の不信感はすさまじいはず。…もしかしたら、協力出来ないだろうかと考え始めた。
自分一人で逃げられるのか、同志がいた方がいいんじゃないか、それなら旅に役立つスキルの子の方が。もし同行するなら何人まで。
そんなことで頭がいっぱいだった。
鑑定板の件はちょっと小細工をしてみた。すると信じられないという顔で「スキルが、ない…!?」と驚かれた後に本日最大ともいえる侮蔑の表情。
傷ついたフリをしてみたけど、内心大歓喜だった。想像通りすぎて。
当然、待遇は最低のものだった。寝床さえない隙間風が吹き込む物置に宛がわれた。食事さえ役立たずは食うなと言われるレベルだ。
内心、これじゃ単独でもすぐ脱出した方がいいな、死ぬ。と思ったくらいだ。それでも留まった理由はいくつかあったがひとつはこれだ。
『リオくん、これ』
『…りんご…!』
『うん、これあたしのスキルで出したやつ。あいつら、城で出した食事は許さんとかぶっこいたらしいけど、これなら食べてもバレないから』
『………ありがとう』
『あ、ヘタとか芯はどうにか捨てて。ゴミ程度ならどっかに混ぜてもバレないだろうから』
『わかった』
狭山茜。料理スキル。
この世界にも料理系の、調理のスキルは平民が所持してるような希少価値の欠片もないスキル。
鑑定板でこのスキルが明らかになった時、思い切り侮辱していた。
調理スキルなど、平民でさえ持てるスキルだ!勇者のくせに平凡とは情けない!そう、口汚く罵っていた。
そう言われて狭山さんは落ち込んでいたし、ここで疑問に思ったのがひとつ。
どうやら私達転移者は、こちらの世界の文字は自動変換で読み書きできるらしい。
この世界の文字と思われる文字と、日本語の文字が重なって見えたのだ。どちらかを意識して見ることも併記することもできる。
鑑定板の文字は、私達にも認識できた。そこで思ったことはひとつ。
…『調理』?『料理』じゃなくて?
鑑定板に記載されていたのは『料理』だ。けれどそれを見た大臣らしき男は『調理』と言った。
同じスキルなのか?それとも別のスキル?もし同系統の、まったく別のスキルなら…
狭山さんはショックだったのか、特に何も言ってなかったし、周りにいた生徒も何の反応もしてなかった。いや、馬鹿にしてるのはいたけど。
後で調べられるなら調べようと思った。調理スキルの詳細。そして、狭山さんのスキルは本当は何が出来るのか。
そして調べた結果、調理スキルと料理スキルはまったくの別物だとわかった。だが、それを教えてやる義理もない。特に国の奴らには。
もちろん狭山さんには隙を見て話した。驚いてはいたけど、それまでの扱いが酷すぎたせいか、自分のスキルが本当はこういうものだと報告する気になれなかったらしい。
ただ、私には多少感謝してくれたようで、ご飯抜きにされてるのを知って、自分のスキルで手助けしてくれた。
調理スキルは、本当にそのままで、上手く調理できるというもの。レベルが高くなると、発酵や混ぜる時間が短縮されたりするらしい。
あとは味が良くなること。同じ料理を同じ手順と材料で作っても、スキル持ちが作ったものの方が遥かに美味しいのだとか。
そして、極稀にではあるが、バフがつくこともあるそうだ。効果は微々たるもので、体が温まり寒さに少し強くなるとか、疲れにくくなるとか。
大した効果じゃないけど、あったら便利というものだ。
そして料理スキルは、調理スキルの上位互換とも言えるものだった。調理スキルで出来ることは当然出来る。
追加で、食材を召喚することが出来るらしい。対価は自分の魔力…マナなので、多くは出せないらしいが。
どうやらネットショッピングの一覧みたいに出せるリストが並んでいて、必要なマナもどのくらいかわかるそうだ。
小さいものほどマナの消費は少ないが、どれを出すにも自分のマナの半分以上を必要とする数値だった。
ただ、一度召喚した食材は、次以降かなり消費マナが減るらしい。マナ総量が100として、最初はりんご1つに70消費。次回以降は5に減る、といった具合に。
まだレベル低いので確定はしてないが、レベルが上がるにつれて消費マナも減るはずだ。レベル上がったらりんご1つ65、とか。
そして一度出したものは、保管が出来るんだそうだ。食材限定のアイテムボックスのように。
え、この子いたら飢えることなくなるんじゃね?
打算で言うなら脱出する時、この子絶対ついてきてほしいんだけど。そう思ったくらいだ。
…実際、勧誘してついてきてもらいましたけどね。狭山さん自身もかなり協力的でしたとも。脱出したいという思いはあったらしい。
そう、脱出にあたって。
企画したのは、私、村雨涼。
便乗…というか、私が誘って了承してくれたのは、狭山茜、波川静、林千晴の三人。合計四人。
全員が、城でないがしろにされていて、脱出したがっていた面子である。
他にもひどい扱いをされている子もいたけど、彼ら彼女らは残ることを選んだ。
その意思は尊重したい。脱出しても逃げ切れるとは限らないからだ。連れ戻され、もっと待遇が酷くなる可能性もある。
よしんば逃げ切れたとしても、立ち行かなくなると思ったのかもしれない。確かに今は生きるだけなら問題ない。雨風しのげるし食事も出る。
脱出する気力が持てない、という面もあるけど。あとは友達がいるからという理由もあるかもしれない。
気持ちはわかる。だから責めはしない。彼ら彼女らは、自分の生き方を選んだのだから。
ただ、私がその生き方を我慢できなかっただけの話。
苗字は全員場所。
狭「山」、「村」雨、波「川」、「林」。特に意味はない。
しばらく過去話です。そこまで一気に投稿してます。
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