第4章: ゼンカの儀式
目を閉じて、ただ息を整える。
深く、もっと深く、自分の奥底へと潜っていく。
過去でも未来でもない――
今の「自分」が問われる場所。
力とは、ただ強いだけのものではない。
それは、信念に呼応し、意志に導かれ、そして…選ばれる。
火が灯る。
その炎は、運命を照らすのか、それとも破滅を招くのか。
その答えは、まだ誰にもわからない。
(薄暗い鍛錬場。汗を光らせながら懸命に鍛錬するエデン。その様子を離れた場所から見つめる二人の男――シュンとテンザク。)
テンザク「……本当に間に合うのか? 試験の日までに。」
シュン「間に合うさ。アイツなら絶対にやれる。」
テンザク「……その自信はどこからくるんだ?」
シュン「見てみろ。あの体から溢れている気配、毎日増してる。制御してこのレベルなんだぞ?解放したら、どれほどの力になるか想像もつかない。」
テンザク「……確かに。今のエデンの気は、まるで野獣のように荒々しい。殺気すら感じる。」
シュン「ああ。今のアイツの頭には、ただ一つ。“あいつら”をぶっ倒して、じいさんを取り戻すって気持ちだけだ。」
テンザク「……本当に、彼の祖父は生きていると思うのか?」
シュン「ブラックライツの目的が『連れ去ること』なら、まだ生きてるはずだ。」
テンザク「……つまり、“餌”として使われてるってわけか。」
シュン「そうだな。だが、一つだけ腑に落ちないことがある。」
テンザク「なんだ?」
シュン「仮にヤツらが本気なら、もっと上の連中を送り込むべきだった。あの時現れた雑魚じゃ、話にならなかった。」
テンザク「……そういうレベルの人材が、本当にいるのか?」
シュン「……さあな。ただ、ヤツらの規模を考えれば、いてもおかしくない。」
(場面転換。エデンは腕立て伏せを続けている)
エデン「……998、999、1000……っ!」
エデン「シュン、終わったぞ!」
シュン「よし、次は“空撃ち”1000発だ。」
エデン「は、はいっ! 一、二、三……!」
シュン(心の声)「……もしかして、アイツらは最初から知っていたのか? あの力を…。だとしたら、狙われて当然かもな。」
テンザク「お前らしくないな。考えすぎだろ。」
シュン「……そうかもな。」
(数カ月が経過し、場面が変わる。空気が違う)
テンザク「すげぇな……あのエネルギー、もう別物じゃねぇか。」
シュン「言っただろ? 想像以上の成果だ。」
テンザク「ああ、じゃあ始めるか。」
シュン「よし、準備をしてくれ。」
シュン「エデン。来い。ついにその時が来た。」
エデン「はいっ!」
(扉が開き、無数の蝋燭が灯された広間が現れる。空気が張り詰める)
エデン「……ここは?」
シュン「“ゼンカの儀式”の場所さ。お前の中の“ゼンカ”を解放する唯一の方法だ。」
エデン「それって……どうやって?」
シュン「さぁな。自分で確かめてみたほうが面白いだろ?」
エデン「またそれかよ……」
(シュンが指を鳴らすと、すべての蝋燭が一瞬で燃え上がる)
エデン(心の声)「あいつ……力をほとんど使ってない。なのにこれは……!」
シュン「さあ、円の中に入れ。」
エデン「了解。」
シュン「テンザク、準備は?」
テンザク「ああ、失敗は許されねぇ。」
エデン「……ちょっと待て。もし失敗したら?」
シュン「んー、まぁ……死ぬかもな?」
エデン「はあああああああああ!?!?!?」
シュン「いけっ!」
(地響きのような音。エネルギーが爆発し、炎が巨大な渦となってエデンを飲み込む)
エデン「うわあああっ!? 呼吸が……できな……」
(意識が遠のいていく)
――そして、彼は“扉”の向こう側へと辿り着く。
(静寂に包まれた意識の中——)
(ユラ… ユラ…)
(エデンは漆黒の空間に浮かんでいた。上下の感覚もなく、ただ冷たい闇の中に漂っていた。)
エデン「……ここは、どこだ?」
(ふと、足元に光が集まり始める。淡い青い炎が円を描き、道を作る。)
エデン「また…この感じ。前にも見た、あの長い廊下……?」
(彼が歩み始めると、遠くから低く響く声が聞こえてくる。)
???「よく来たね、エデン・ヨミ。」
エデン「……誰だ?」
???「お前の中に眠る“始まり”だ。」
(青い炎が舞い上がり、空間が変化する。無数の星が浮かぶ宙に、黒と金で構成された巨大な影が現れる。)
???「わたしは存在であり、無でもある。名前はない。だが、必要なら好きに呼ぶがいい。」
エデン「“始まり”?それって、あの時の声と同じ…!」
???「そうだ。お前がまだ無力だった頃、ほんの少しだけ助けた。」
エデン「じゃあ、お前が俺を守ったのか? あの爆発の時…」
???「ほんの興味でな。だが、今は違う。お前に問いたい——お前はこの力を、何に使う?」
エデン「……復讐のために。」
???「正直でよろしい。」
(影が微かに笑う。どこか懐かしい温かさすら感じるその笑みに、エデンの警戒心が少し和らぐ。)
???「だが、忘れるな。復讐とは、ただの始まりに過ぎぬ。」
エデン「……?」
???「お前の中にある力は“火”と“闇”。どちらも破壊をもたらすが、創造もできる。」
エデン「創造?」
???「そう。破壊しなければ、新たな秩序は生まれない。だが、その炎をどこへ向けるかは、お前自身が選ぶんだ。」
エデン「…………。」
???「見せてくれ、エデン・ヨミ。この世界に…お前の意思を。」
(その瞬間、エデンの身体に熱が走る。六つの球体が彼の周囲を旋回し、闇と火が強く輝き始める。)
???「行け。目覚めの時だ。」
(闇が収束し、火が弾けた——)
——パチッ。
(現実へと意識が引き戻される。)
(※神聖な部屋に沈黙が広がる。すべての蝋燭が消え、空気が急激に重くなる。)
テンザク「……エデン、大丈夫か?」
エデン「うん……でも、体が……変な感じがする。まるで……何かが目覚めたような……」
(エデンの手のひらが淡く赤黒く光り始める。脈打つようにエネルギーが波打つ。)
エデン(心の声)「なんだこれ……体の奥から、何かが……あふれそうだ……!」
シュン「……どうやら、儀式は成功みたいだな。」
(エデンが顔を上げた瞬間、目に飛び込んできたのは――床に転がるシュンの“右腕”だった。)
エデン「なっ……!? お前の腕……どうしたんだよ!?」
シュン「ん?ちょっと刀で遊んでたら、こうなった。」
エデン「ふざけてる場合か、このバカッ!!」
シュン「落ち着け、ただの“予定外の来客”のせいだ。」
――数分前。
(ズゥゥゥン――)
(空間が歪むような轟音が響く。空気が裂け、光と風が爆発的に渦を巻く。)
???「……やはり監視が必要だったか。」
(天から降り立つように現れたのは、黄金の翼を持つ男。その一歩で、大地が震える。)
テンザク「っ……ア、アークエンジェル……!」
シュン「久しぶりだな、ガブリエル。」
ガブリエル「……お前の“遊び”には毎回、頭が痛くなる。」
(光を帯びた剣を構えるガブリエル。その重圧だけで地面にヒビが走る。)
ガブリエル「歓迎の意がないなら、その舌を引き裂くぞ。」
シュン「敵意がなければ、歓迎くらいするさ。」
ガブリエル「命令だ。あの少年は、私と来てもらう。」
シュン「……断る。」
(バチバチッ――)
(互いのエネルギーがぶつかり、空気が砕けたように波紋を広げる。室内の重力さえ変わる。)
テンザク(心の声)「この二人……次元が違う……!」
ガブリエル「邪魔をするなら、敵と見なす。」
シュン「なら、敵として戦うまでだ。」
(バァンッ!)
(エデンの周囲で見えない結界が爆発し、凄まじい熱量が広がる。)
ガブリエル「……このエネルギーは……っ!?」
(後ずさるガブリエル。その眼には、明確な動揺が浮かぶ。)
シュン「見ただろ?これが“彼ら”には理解できない、“人間の真の可能性”ってやつだ。」
ガブリエル「……貴様……っ。……いいだろう。今回は引く……だが、覚えておけ。」
(ガブリエルの体が光に包まれ、やがてその場から消える。)
シュン「やれやれ……ああいう奴は、いつも“命令”しか信じてない。」
テンザク「シュン! エデンのエネルギーがまだ高まってる!」
(サークルの中心で、エデンの目が深紅に染まっていく。周囲の炎が暴れ出す。)
エデン「こ、これは……胸の奥が……燃えてる……! これが……オレの力なのか……!」
(※儀式は終わった。しかし、エデンの内側では何かがまだ目覚めようとしていた。)
エデン「……シュン……」(かすれた声で顔を上げる)
「なにか……僕の中で……燃えてる……」
(シュンが無言のまま近づいてくる。表情に焦りはなく、むしろ穏やかだ。)
シュン「それは、お前のゼンカだ。ようやく……お前の身体を自由に流れ始めた。」
エデン「これが……ゼンカ……?」
(エデンが自分の手を見つめる。黒と深紅の小さな炎が、指先でゆらゆらと踊っていた。)
テンザク「……その色……面白いな……」(眉をひそめる)
(その様子を、シュンがちらと見て口を開く。)
シュン「闇の球体が……点滅してたんだろ?」
エデン「それと……火のも……何か問題あるの?」
(シュンは数秒沈黙し、真剣な表情で口を開く。)
シュン「闇のゼンカは……神の世界で最も恐れられている。」
エデン「えっ?なんで?」
シュン「昔――数千年前の戦争で、闇を使った者たちが大災害を引き起こしたんだ。それ以来、“闇”は呪われた力とされている。」
エデン「ってことは……僕も“脅威”なのか?」
シュン「そう決めつける必要はない。ただ……制御できなければ、“恐怖”では済まないかもしれない。」
(少し間を置いて、声のトーンを和らげる)
「今は、火に集中しろ。あれは安定してるし……面倒も少ない。」
エデン「……わかった。」
シュン「じゃあ、試してみろ。俺に向かって打て。」
エデン「はっ!?バカなの!?下手すりゃお前が……!」
シュン「いいからやれ。」
テンザク「シュン、お前……正気か!?」
シュン「力を身体に巡らせて、掌から一気に放て。殺すつもりで構わん。」
(エデンは戸惑いながらも深呼吸をする。室内のエネルギーが彼の元に集まり始める。)
エデン(心の声)「……来い、炎よ……」
(その手のひらに、黒く縁取られた赤い炎が現れる。)
エデン「――黒焔!」
(ドォンッ!!)
(巨大なエネルギーがシュンに直撃し、彼の体を壁に叩きつける。石壁に亀裂が走る。)
テンザク「シュン!!」
(エデンはその場に膝をつく。息も絶え絶えだ。)
エデン「だ……だめだ……体がバラバラになる……っ……」
(テンザクが急いで駆け寄り、彼の体を支える。)
(シュンは瓦礫の中から立ち上がる。ボロボロの服のまま、どこか満足そうに微笑む。)
シュン「悪くない……初めてにしては上出来だ。」
「だが勘違いするな。今年のGODS受験者たちは……もっと強い。」
(テンザクが目を見開いて振り返る。)
テンザク「今のより強いやつが……そんなにいるってのか……!?」
(シュンが腕を組み、静かに答える。)
シュン「ああ。中には、すでにゼンカを完全に制御してる者もいる。」
「中には……それを超えたやつもな。」
(空気が静まり返る。エデンはまだ荒く息をしているが、その瞳には揺るぎない光が宿っていた。)
エデン「……なら……越えてみせるだけだ。」
おもしろい事実: Zenka のエネルギーには、水、土、火、空気、光、闇の 6 種類があります。ただし、ユーザーとその親のエネルギーに応じて、複数のバリエーションがあります。大多数の生き物は禅華のエネルギーを持って生まれます