アルト・レクシアの訪れ
フローリア伯爵家を出て、近くに止めた馬車に向かう。
しかしフローリア伯爵家の屋敷の前には、ある人物が立っていた。
「一週間ぶりだね、俺の愛しいリーネ。・・・大好きな家族との再会は楽しめた?」
フローリア伯爵家の前には、アルト・レクシア様が立っていた。
「アルト様、私はリーネではありません。リーネット・アステリアですわ」
「あれ、リーネット嬢の愛称はリーネって聞いたけど?」
「愛称で呼ぶような仲ではないでしょう?」
「そんな冷たいことを言わないでくれ、愛しいリーネ」
アルト様が私に近づき、私の頬に触れる。
私はアルト様の目をじっと見つめた。
「何を企んでいますの?」
「何も企んでなどいないさ。ただ君を愛しているだけだよ?」
「私を殺したと仰る人間の言葉を信じろ、と?」
「では、こうしようか」
その仰ったアルト様は、私に強引に口づけをした。
「何をするのですか!」
アルト様を突き飛ばした私の手を、彼は掴む。
「リーネ、君は何も考えず私に愛されていればいい」
私は、アルト様から目を逸らさない。
怖くないと言えば、嘘になる。
しかし、ここで怖気付く自分になどなりたくない。
「絶対に嫌ですわ!・・・何も考えず、貴方に愛されるなど冗談じゃない。私は、自分の気になることは自分で解明すると決めていますの」
「・・・それでこそ俺の愛するリーネだ」
アルト様が満足したように、私の元から去っていく。
私たちを照らす夕暮れの光が、残酷なほど輝いていた。