『ステラ』,観測
「ふぃ〜〜、やっと終わった」
役所から出て体を伸ばすトモカズ。吹いてきた夜風が火照った身を心地よく冷やしていく。
「受付終了時刻のギリギリに滑り込んだから後日に回されるかと思ったけど、今日中に済んで良かったわね。」
「悪いなアーシェ、こんな時間まで付き合わせて」
「別にいいわよ、もう子供じゃあるまいし。それに、トモだけにステラのこと任せるなんて心配だからね」
そんなに信用ないのか…。と落胆しつつ時計に目をやると、時計の針は18時30分を示している。空ももうすっかり紺に染まっている。
メインストリートの中央を目指し歩いているとき、ふとステラが足を止めた。
「…おいステラ、どうしたんだ?」
声をかけるも反応がない。なにか起きたのかと心配だったが、それは杞憂に終わった。
「……星。」
ぽつり、呟いた。
「星?」
アーシェも疑問を持ちつつ、空を見上げた。
「…星、きれいなの。」
今にも消えてしまいそうだ、と。
そんな儚さと不安を抱かせるような声色で話したかと思えばまた黙りこくる少女。
トモカズもまた空を見上げる。
ここは大都市、雑居ビルや街灯の明るさで星など1つも見えるわけがない。
「…エルフの能力か」
トモカズはふと思い出す。エルフの五感は人のソレとは打って変わっており、とても敏感で。
──時に、人には見えないモノが見えることもある。
「ステラにとってこの空は満天の星空なんだな」
そう微笑んでステラに目線を戻すと、
目が、青い…?
ステラの瞳は元々煌々と輝く一等星のような金の瞳。
それが今は、深い海をその目に宿したかのように青い
吸い込まれそうだ。
「…はっ、えっと、ごめんね?すこし、ぼーっとしてたみたい」
どれくらいの時が経っただろうか。我に返ったステラはぎこちない笑みを浮かべる。スマホで時計を見てみると時刻は19時8分。
「ステラ、大丈夫か?」
俺は問うと同時にステラの顔を見た。瞳は金色に戻っている。いつものステラだと安心する。
「うん、平気だよ。」
ステラの返答にも違和感は無い。これでようやく元に戻ったのだろうか。
「今の時間…って19時過ぎてるじゃない!ごめんねトモ!私帰るわね!ステラ、トモに変なことされたらすぐに教えるのよ」
慌ただしくそう告げるとアーシェはダッシュで駅へ向かった。
「うん、わかった」
ステラの返事は彼女には届いていないようで、少し笑みがこぼれる。
「変なことってなんだよ!気をつけて帰れよー!!」
俺はアーシェへ届くよう大声を上げる。きっと届いていないだろうが言うのと言わないのとじゃ気分が変わる。
本当なら駅まで送っていきたかったが、時間も時間だししょうがない。
「遅い時間だし、飯買って帰るか。あと俺が寝る用の布団くらいは買おう…。」
俺は確認するように呟く。
「わたし、トモカズと同じ布団でもいいよ?」
俺の声を聞いたステラがキョトンとした顔でそう言う。とても良くない。
「俺がよくないんですー。警察のご厄介にはなりたくないでーす。てなわけで買い出し行くけど体力大丈夫か?」
ふざけたように愚痴った後、ステラへ確認を取る。
「全然大丈夫だよ!やる気じゅうぶん!」
元気な返事がステラから返ってくる。これなら大丈夫そうだ。
「いい事だ。じゃあ行くぞ」
そして、俺たちはショッピングモールに向かった。
くじらのはらです。ステラは不思議系でしょうか。
このエピソードで書き納めです。年の暮れに書き始めましたこの物語たのしんでいただけましたでしょうか、たのしんでいただけていたら幸いです。
それでは皆さま良いお年をおすごしください。
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