4日目:『救出作戦』p.3
「はい、コーヒー」
温かなコーヒーの入ったカップをのせたトレーを持ってステラがキッチンから現れる。
ダイニングテーブルの席に着いたアンナとトモカズの前に置かれたカップからは湯気が立ちのぼる
1口啜ってみると胸の辺りがじんわりと暖かくなり、安心感と心地良さで心が充ちて焦燥感が落ち着いていくのを少し感じた。
「…ごめんな、ステラ、アンナ。少し焦りすぎてた」
謝罪の言葉は素直に口から出た
「大丈夫だよ、アキエダ。あたしもおんなじだもん」
同じだと。孤独ではない、独りではないと。
安心させるように、かつ同情的になりすぎないようにアンナは話す
「トモカズが落ち着いてよかった。ひとまず安心」
優しく語りかけるステラ
「とりあえず、今後の作戦どうしよっか」
いつもの調子で本題に入るアンナ
「あぁ、そうだな…あ、こうしよう。」
トモカズはそう言うと立ち上がり自室へはけていった
数分経って戻ってきた彼の手には小さめのホワイトボードとホワイトボード用の水性ペン
「作戦決めは目に見える方がわかりやすいよな」
椅子に座った彼はそう話した
「ありがとアキエダ。可視化は大事だね」
アンナも同調する。その横でトモカズはスマホを使い双子の塔の図を書いていく
「…こんな感じか。」
「うーん、だいたいこんな感じだね。あ、アキエダ、ここ違う」
アンナが指を指したのは塔の名前だった
「右側が姉の塔じゃなかったか?」
疑問を投げかけるトモカズ
「あー、あたしのこないだの説明が悪かったね…。あとネットの画像も基本的に左右ごっちゃごちゃでどっちのパターンも出てくるからわかりにくいんだ。説明忘れててごめんね。えっと…内側から見た右が姉だから…こっちが姉、こっちが弟だね」
アンナが指を指した向かって左の塔が姉、右の塔が弟…。トモカズは脳が混乱しそうになるのを必死に咀嚼し飲み込む。
「ありがとう、アンナ。ところで俺が作戦を立てるより塔のことをよく理解してるアンナが作戦を立てた方がいいと思うんだが、どうだ?」
トモカズからの唐突な指名。当然のようにアンナは困惑する
「えぇっと…。キュンストルだと基本的にソフィーとかルーカスに任せてたから拙いけど…それでもいい?」
それでも、やらない選択肢は無い。
それは仲間を救うため。
「もちろんだ。よろしくな」
明朗な返事がトモカズから返ってくると同時にペンが渡される
「こほん。えっと、じゃあ、そうだな…。」
慣れないことで早速テンパリ始めるアンナ
「大丈夫だよアンナ、落ち着いて」
励ますステラ。
「うん、ありがとステラ。…えっと、この塔は中が同じ作りになってはいるんだけど鏡合わせ的な感じで左右対称に出来てるんだよね。だから偶数階の螺旋階段は基本的に注意が必要…。あ、そもそもが10階建てではあるんだけど1、2階には階段以外何も無いんだよね。閉じ込められた人がいるとするなら1番上辺りだと思う」
ペンを使いトモカズの書いた図に線を引く。
最上階から線をのばし"ここにいそう!"と強調した文字。説明が得意ではないのは間違いないのだろうが、それでも情報は的確に伝わってくる
「それで…。敵は……」
「『彼岸』と『此岸』だね。この世とあの世を意味する名前だよ。」
ステラが名前を出す。そしてその意味も補足で説明した
「うげっ、不吉〜。あーそうそう、その彼岸と此岸は魔族なのか判明してる?」
苦虫を噛み潰したような顔をするアンナ。だがすぐに表情を戻す
「わかんない…。けど魔力の痕跡的には人が使った魔法なのはまず間違いないと思うよ。でも…」
ステラが言葉を濁す
「でも?」
アンナは聞き返す
「でも、魔力の痕跡の消し方が魔族と似てた。だからどこかしらで魔族に繋がるのかもしれない」
そう告げるステラの表情は暗く曇っていく
「ステラ、そんな不安がらなくて大丈夫だ」
その曇りを晴らしたのは他でもないトモカズ
俯いていたステラはトモカズへ顔を向ける
「…大丈夫、だよね?」
ステラは少し震えた声でトモカズへ問う
「あぁ、大丈夫だ。今はアーシェはいないけど、必ず俺が守る。だから安心していい」
トモカズはできるだけゆっくり、落ち着いた声で告げる。
「…わかった。ありがとう、トモカズ」
少し笑えた、エルフの少女。
「あ、ごめんね!アンナ」
「気にしなくてだいじょーぶだよ。ねぇステラ、今はあたしもいるから心配しないでね」
アンナもステラを励ます
「…うん、ありがとう」
「じゃ、続きで作戦立てよう。敵さん2人を人間と仮定して…。おそらく魔法を使った戦闘になるね。ってなるとあたしは全然役に立たないかも…。」
家に入る時に傘立てに挿した剣を思い出すアンナ
「アンナは魔法が苦手なの?」
ステラが問いかける
「残念なことにね。あたしは魔力低いのか魔法試験苦手なんだ…。トモカズも剣使ってるけど魔法苦手だったりする?」
同志であってくれと願わんばかりのアンナ。
「いや、そういうわけじゃないが…。体が動かしたくて剣使ってるだけだ」彼女の期待は虚しく散った。
「あはは…残念。あー、話を戻して。敵と戦う時は基本、トモカズとステラがメインで攻撃して、あたしは支援に回る形になるかな」
戦闘スタイルから敵と相対した時の動きも決まっていく。
「そうだ、ひとついいか?」
トモカズが声を上げた
「うん、なーに?」
アンナが返す
「攫われた人たちを見つけたらどうする?」
素朴な疑問だった。
「あっ!忘れてた…。」
ショックが隠しきれていないアンナ
「状態がわかんないからなんとも言えないけど…意識があるなら状況説明して家に帰す。意識がないなら彼岸と此岸からどうするか教えてもらう…しかない?」
「敵から教えを乞うのか」
声から笑いが隠せてないトモカズ。嘲笑ではなく微笑ましさから出たものだったのだが
「笑うとこ?でもたしかに…。だとしてもそれ以外方法ないし。」
納得し、なんなら目からウロコといった様子のアンナだった。
「うーん、意識なくて、それな呪いの類なら多分わたしが解呪できるからそこは気にしなくていいよ」
天才少女、ステラの降臨。
「ステラ、あんたほんとになんでもできるのね…。てかアキエダ、こんな子どこで見つけてきたのよ」
「見つけてきたって言うのは言い回しがなんとも言えないが…。ステラ、そんなことまでできるのか」
トモカズは驚き、直後にはステラの頭を優しく撫でる。
「えへへー!わたし結構すごいからねー!」
ドヤ顔をしながら邪気に笑う少女。
「すごいな、ステラ。それでアンナ、作戦の方針は結構決まったから最終確認をしよう」
ステラを褒めた後アンナに確認する
「そうだね。ハルターがいることがわかってる姉の塔から攻略、攫われた人たちは見つけ次第保護。彼岸、此岸の討伐…かな?」
「了解だ。決行開始時間は何時からにする?」
「遅い方が見つかりにくいだろうし…23時30分にしよう。」
「了解」
「りょうかい!」
「OK。とりあえず時間までは…」
「ここの調査の続きしよう!情報は多くあった方がいいし」
「わかった。」
そう決めた3人はまたアーシェが攫われた状況の確認、痕跡などを探すことにした。
くじらのはらです。報酬エルフ久しぶりな気がします
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