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報酬エルフとハッピーエンドを目指すたび  作者: くじらのはら
ヴァルハラ編:『幽霊騒ぎ』
30/40

4日目:『救出作戦』p.2

朝、アンナと合流する。

「ねぇ、アーシェは?」

アーシェの姿が見えないことを不思議がったアンナは疑問を口にする。

「……幽霊騒ぎ」

絞り出すようにその言葉を口にするトモカズ。

「アーシェまで…?」

アンナから出た言葉は絶望を意味した。

ハルターが攫われ、アーシェまで攫われたのだから無理もない

憔悴しきっていたところに追い打ちをかけられたアンナは、先程の一言を発してから言葉を失ってしまった

「ごめん…俺が目を離したのが悪かった。」

トモカズに、ただただ自責の念に駆られる

「いや、あんたは悪くないよ…。だって、だって夜になんて想像つかないじゃん。」

「だとしてもだ。前例はあったんだ…なのに」

トモカズに後悔が募る。あの時部屋に戻らなければ、遅いからと部屋に戻していれば。

…あの時。

あの時、彼女はなにかに気づいていたのかもしれない。

思い返してみれば不思議だった。

いつも以上に少ない口数、言葉遣いも彼女にしては丁寧さが欠けてみえた。瞬きが多く、話す速度も早い。着替えてこいという直前の笑顔はどこか寂しげだった。

思えばアーシェが夜に散歩に行きたいなんて言い出したところは今まで1度も見た事がない。

昔も、今も。

思い返してみればあの時間、あの空間には不自然な点があまりにも多すぎる。

─なぜ、気づかなかった。

トモカズは黙りこくって、心中では自分を責め立て続ける。

気づけなかった、気づけばよかった。

何故、何故。

─すると

「ねぇ、トモカズ」

鈴のように軽い声、優しい声色。

ステラだった

「アンナとも合流できたから、わたしたちのおうちに行かない?騒ぎが起きた現場だし、一応調べてみようよ」

自分には無い発想。少女特有の頭の柔軟性だ

「…あぁ、そうだな。アンナもそれでいいか?」

トモカズはアンナに問う

「あたしはそれで問題ないよ。なんとなく、今はあんた達の家に行くほうがいい気もするし」

「ありがとう、アンナ。じゃあ俺たちが寝泊まりしてる家に行こう」

そう話すとトモカズは歩き出す

その足取りはとても重たい。それもそのはず、自分の仲間が自分の過失のせいで攫われたのだから。


集合場所からディユシエルの家は10分もかからない場所にあったが、彼らは20分ほどでそこに着いた。

「ここだ」

短く言い放つとトモカズは家の鍵を差し込み回した。

カチャリ。明るい音が鳴る

「…ただいま。」

「ただいま」

トモカズが誰もいないリビングに向かって帰宅を告げる挨拶をする

それに倣いステラも挨拶したが、返すものなど当然誰もいない。

トモカズはアーシェがいないか無意識で部屋を見回した。

家は、空。

「おじゃましまーす」

少し遅れてアンナが家へ入ると驚いた。

カーテンの開いていないリビング、座っていたところから急に立ち上がったのかと思うほど無造作な椅子。朝食に使ったであろう食器は片付けられておらず、朝に焦っていたのかと思った。

だが、彼らの様子を見るにそうではなさそうだ。

…主に、トモカズの方を見ただけだが。

「ゆっくり…は出来そうにないがゆっくりして行ってくれ。」

「あ…うん。」

先程からのトモカズは普段と全然違って覇気がない。そのテンションに押されアンナもしり込みした話し方になってしまう

「カーテン、開けていい?暗いの怖くてさ」

家に上がって開口一番、アンナはそう尋ねる

半分真実、半分嘘。家の中に光が入らなさすぎて息が詰まりそうだったのだ。

「ありがとう、アンナ」

ステラからの純粋な感謝。この子は割と平気そうだ

「うん、カーテン開けると結構いいね」

陽の光の明るさに安心する。陰鬱な気持ちに飲まれている場合ではない、とアンナは気持ちを入れ替えた。

「よし、なにから探そうか」

アンナはトモカズに問う

「…そうだな。」

曖昧な返事、思考が纏まらないトモカズ。

「わたし気になることあるから調べてみてもいいかな?」

金の瞳の少女が話す。

「何を調べるんだ?」

トモカズが聞く

「うーん、なんていうか…」

うんうん言って迷う少女。彼女の目的を表す言葉が見つからないようだった。

「…あ、敵の情報が知りたい!」

尖った耳を携えた、金の瞳の少女はとんでもないことを言いだした。

「え、そんなことできるの?」

アンナは驚き、思わず声を出す。

「うーん、難しいんだけどね。魔法の痕跡は今まで被害にあった人たちと変わっていないだろうし、占いの応用で人となりはわかると思うよ」

淡々と話すステラ。本当に人間離れしている。

人間ではなくエルフなのだが…。

「…わぁお」

アンナの脳の処理は止まり、それだけが音として口からこぼれた

「まぁまぁ、見てて」

自信満々に告げるエルフの少女。


紙を用意し、家に置いてあった酒と知らない葉をいくつか取りだしたステラ

紙に太陽と月、いくつかの五芒星を描き、葉を酒に浸した。

十分に葉に酒が染みたことを確認すると不思議な形で紙の上に置き、目を閉じた。

「陽よ、月よ。彼に標を、彼女に導きを。

汝の名の元に、星の標を。我が名の元に、星の運命を。聖なる父の恩寵を承けし汝よ、我に知恵を授け給え。」

祝詞の次に、葉に火をつけた。

そのまま葉の燃える音がしばらく続いた後、火が消えた。

どうやって確認したのかはわからないけれど、火が消えたことを確認したステラは目を開けた。

─瞳は、蒼く。


「ステラ、なにかわかった?」

アンナが尋ねる

「うん、すごくよくわかったよ。」

ステラは淡々と話す。先程までの柔らかさは声から消えていた。

「相手は『彼岸』と『此岸』という双子の少女。紅冬華(ホントンファ)という名前の花街で生まれ育ち、梅花という女性を慕っていた。」

そこまで話すと、ステラはため息を1つ吐いた

「…残念。もうこれ以上の情報は出てこないかも。でも彼女たちが攫った人数は100にも及ぶ程だから、早く塔に向かうのが1番だね」

話し終えたステラは瞬きを1つ。

目を開けた少女は、金の瞳を持ついつもの朗らかな少女に戻っていた。

「アキエダ、今の話聞いてた?」

「もちろん聞いてた。今の話整理しつつ救出作戦の計画を立てよう。」

焦っているのか、少し早口にそう告げるトモカズ

「りょーかい!」

アンナは気づかず返答する

「トモカズ…。とりあえず、コーヒー入れるね。」

ステラは心配そうに名前を呼んだが、すぐに調子を戻した。

「ありがとう、ステラ」

「ステラ、ありがとな」

口々にお礼の言葉を述べる。

「どういたしまして!」

明るく返し、キッチンへ向かう

「梅は梅によって散った…かぁ。」

1人呟いた声を聞く者は誰もいなかった。

くじらのはらです。

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