『報酬』▷『星』
「あ、やっと起きた」
「遅い朝だなー。おはようさん」
「自分で立てるか?…おっと、足元フラフラしてんな…。」
抱えていた少女をゆっくりと地に立たせる
「…?…?」
「ここはセントラム国の大都市『イザベル』国の中央に位置していて、魔族が暮らす都市の中でも結構大きい都市よ」
「おい、お前、自分の名前わかるか?歳は?住んでる場所は?」
「ちょっとトモ、そんなに質問攻めにしたら混乱するでしょ。あと、名前聞くなら自分から名乗りなさい」
「アーシェ…お前俺の母親かよ。あーえっと、俺は秋枝燈数、それでこっちが…」
「アーシェ。アーシェ・ダリアよ、よろしくね」
少女と目線を合わせ、2人は名乗る
「あなたの名前を教えてくれる?名前がわからないとそれ以上のことはどうしようもないだろうし…。」
「えっと…わたし……」
静かに、ゆっくりと言葉を紡ぐ少女
「わたし…名前…わからなくて、えっと、住んでる場所も思い出せなくて…」
「記憶喪失か。オーケーオーケー、じゃあ俺が名前をつけてしんぜよ〜〜」
うーんうーんと悩む男、彼がつけた名前は
「ステラ!ステラにしよう!目金色だし!」
「なんて安直な。はぁ…でもまぁ、名前が無いと市民権すらもらえないだろうし…トモがつけた名前でもいい?」
「ステラ…ステラ…」
自身につけられた名前を忘れぬよう、確認するように何度も口にする少女
「ステラ…わたしの名前はステラ…!ありがとう…!えっと…」
「あー俺?俺のことは気軽にトモカズって呼んでくれ」
「ありがとう、トモカズ!」
「んじゃ、名前も決まった事だし役所行くぞー…」
「すごいだるそうに言うじゃない。ステラのためにもう一仕事頑張りましょ」
「これからなにするの?」
「市民権っていう、なんていうんだろ、簡単に言うと人間の居住区に魔族が住むための権利があってな」
「それを獲得したら魔族でも安全に暮らせるのよ。逆に、市民権がない状態で都市にいると討伐対象になっちゃうの」
「大体都市に入って1日か2日以内に市民権取らないと討伐対象になるんだ」
「基本的に市民権の申請って長引くんだが…ステラはエルフだし大丈夫か。」
うんうん、と頷きながら難しい話に頭を悩ませる少女
「あと、今はもう起こることはないと思うけど…魔族と人間が対立した時には、市民権を獲得した魔族たちは人間側につく事が条件とされているわ。」
「ステラ、正直これは難しい話だからすぐに考えろって言われても大変だろうけど…」
「わたし、それでもいい。トモカズとアーシェがいるなら」
「えっ?いいのか?」
「自分の同胞を傷つけることになるかもしれないのよ。」
「わたし、長い間、ずっとずっと狭いせかいにいて…そこから出してくれたのはトモカズとアーシェなの。
寂しくて暗いところでひとりぼっちだったところから眩しい光がたくさんあるこのせかいに連れてきてくれたのは2人だから…。昔のことは今は思い出せないけど…でも、2人の力になりたいから」
「ステラ…あんたいい子ね……!!」
「わっ。ちょっとアーシェ、くすぐったい」
幼い少女の決意に胸打たれたアーシェはこれでもかとステラの頭を撫でる
「じゃあ決まりだな。まず市民権獲得!話はそれからだな」
「うん!」
「これから賑やかになりそうね」
これは、まだ茹だる暑さの残る9月の話
彼らが出会った最初の物語
くじらのはらです。報酬はステラと命名されましたね。かわいい
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