3日目:『幽霊騒ぎ発生』p.2
腰が抜けたアンナをどうにかベンチへ座らせて話を聞く。
「アンナ、なにがあったか話せるかしら?」
少し、間が空いて
「…ハルターが、幽霊騒ぎの調査を辞めたいって言って、今日話し合おって話し合って、その最中に…」
そこまで話してアンナは言葉を詰まらせた
「昨日、喧嘩みたいになって…。まだ、まだ、ちゃんと…仲直り出来てない…のに、なんで…。」
一ヶ月前に仲間を奪われ、また。突然奪われた。
「あたし…神様に嫌われちゃったのかな。なんか悪いことしちゃったのかな…。」
ただ楽しく仲間と冒険をしていた、ただの冒険者。
「あはは、悲しんでる場合じゃないよね、早く見つけてあげないと。」
涙を袖で拭い、無理をして明るく笑って。
「…なぁ、アンナ。俺にはお前の悲しみや苦しみ、痛みはわからない。けどな、無理してまで明るく振る舞う必要はない。そんな義務はないんだ。辛い時は辛いでいい、そう叫べばいい。その声は俺が聞くから。」
抑えていた涙が溢れるには、その言葉で十分すぎる
仲間が残したハンカチを握る手に、更に力を込めて。アーシェとステラに慰められて。
子供のように泣き、泣き喚く。
「ねぇ、ソフィー、ルーカス。どこ、どこにいるの、ねぇ。もうかくれんぼは、終わりにしよう…?出てきて…お願いだよ…、ねぇ、」
それは懇願。叶えられることのない願い。
ただひとつ零れる、希う、言葉
闇に熔けて消えることはなく、残された仲間たちだけが聞き届ける、望み。
それを叶えることが出来るものは……。
ヴァルハラ:双子の塔内最上部
「獣人、あなたの仲間はここにいるよ。」
白い民族衣装の少女が話す。
2人の少女に連れていかれた先は、ヴァルハラにある高い2対の塔、双子の塔。右側にある姉の塔最上部。その部屋の中には鉄格子で3分の2ほどが区切られている。その鉄格子の奥には無造作に積まれた人の……。
思わず、目を逸らした。
「獣人、彼らは生きています。恐れることはなにもありません。」
赤い民族衣装の少女が言うと、続けて白い民族衣装の少女が話す
「彼らは深い眠りの底に堕ちて、夢を見ているだけです。ですが自力で這い上がることは出来ません。」
ただ淡々と説明文を読み上げる自動音声かの如く話し続ける少女。
─この格子の奥には、一体どれほどの人間がいるのだろうか
軽く数えただけでも20。いや、30はいる。
薄暗い部屋でわかりずらいのに、とても沢山の人間がいることが伺える。
「ソフィーとルーカスはどこにいる。」
手の震えを必死で隠し、言い放つ。
すると、白い民族衣装の少女が牢の中に入って、ガサゴソと人の山をかきわけた
「これです。」
とても雑に、軽々と持ち上げられた腕と共に体が持ち上がる。
華奢な見た目とは裏腹に力があるのか、それとも魔法か。
ソフィーとルーカスの顔が見えた。
「ありがとう。彼らも夢に?」
「はい、夢の中です。」
赤い民族衣装の少女が答える。
「…無事なんだな。」
「えぇ、無事です」
白い民族衣装の少女が答える。
「ならいい。」
ぶっきらぼうに、そう返して。
置いてきてしまったアンナの身を案じた。
アンナと出会った頃は気丈で明るい活発な少女。という印象だった。彼女とオレは同じクラスで、彼女に誘われて入った部活にソフィーとルーカスがいた。
ソフィーは物静かで知識が豊富、ルーカスはお茶目だが皆を落ち着かせてまとめる部長だった。
アンナは、最初こそ明るいだけが取り柄です!みたいなテンションだったクセに、いざ仲良くなってみれば心が繊細で、感受性が高いことを知った。
どおりで相談したときの言葉選びが丁寧だなって思ったんだ。
仲間のことを思い出した後、オレはつい数時間前のことを思い出す。
〃
「…それでね、アンナ。オレは…この調査をやめるよ。」
「…うん。」
少し落ち着いてきたアンナにもう一度己の気持ちを伝える。
アンナを1人にしてしまうから、だから
言葉を紡ぐ
「それで…」
アンナも、身を引こう。と
紡ごうとして。
─音が、した
「ッアンナ!!!」
アンナを押してベンチから落とす。嫌な予感が満ちる
……白い霧だ。
一ヶ月前、仲間を奪った悪しき霧
白く、オレを覆う
10秒ほどでアンナの姿は見えなくなった。オレの番が来たのか
悟って、これから起こる現象に構える
「ねぇ彼岸、獣人見つけたよ」
「えぇ此岸。獣人見つけたわ」
現れたのは、赤い民族衣装を纏った少女と、白い民族衣装を纏った少女。
赤い少女は彼岸と呼ばれ、白い少女は此岸と呼ばれた。
精巧に作られた人形のように瓜二つの見た目はとても麗しい。行動一つ一つから品格を感じ取ることができる。
「ねぇ獣人。あなたに用があるの」
「ねぇ獣人。あなたの仲間に会わせてあげる」
怪しさ1200点の言葉。信じる必要などない、罠だ。
「…お前たちが、幽霊騒ぎの正体か?」
問う。
すると、少女たちは瓜二つの顔に2人同じ、静かな笑みを浮かべた
「…無言は肯定だからな。」
そこで考える。この少女たちが本当に幽霊騒ぎの正体なのであれば…。
「アンナに危害を加えるな。オレにはなにをしても構わないから、アンナに、ソフィーに、ルーカスに。決して危害を加えるな」
「えぇ獣人、わかったわ。」
「えぇ獣人、約束するわ。」
そう言って、彼岸がこちらに手を向けた
「アタシ達について来て。」
続いて、此岸がこちらに手を向ける
「ワタシ達について来て。」
「ああ、わかった。」
直後、青白い光。正体は転移魔法か
転移する直前にオレは振り返って。
「アンナ、がんばってね」
そう言い残した
▨▨▨▨
「よくもまぁ、こんな怪しさしかない誘いに乗ったな…。オレ」
1人呟く。少女達には聞こえていない
「獣人、あなたはここで待っていて。」
「獣人、アナタはここから逃げないで。」
念を押すように言い放ち
少女達は音もなく消えた。
オレは、これから一体どうなるのだろう
くじらのはらです。ハルターカッコよすぎや。
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