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報酬エルフとハッピーエンドを目指すたび  作者: くじらのはら
ヴァルハラ編:『幽霊騒ぎ』
27/40

3日目:『幽霊騒ぎ発生』p.2

腰が抜けたアンナをどうにかベンチへ座らせて話を聞く。

「アンナ、なにがあったか話せるかしら?」

少し、間が空いて

「…ハルターが、幽霊騒ぎの調査を辞めたいって言って、今日話し合おって話し合って、その最中に…」

そこまで話してアンナは言葉を詰まらせた

「昨日、喧嘩みたいになって…。まだ、まだ、ちゃんと…仲直り出来てない…のに、なんで…。」

一ヶ月前に仲間を奪われ、また。突然奪われた。

「あたし…神様に嫌われちゃったのかな。なんか悪いことしちゃったのかな…。」

ただ楽しく仲間と冒険をしていた、ただの冒険者。

「あはは、悲しんでる場合じゃないよね、早く見つけてあげないと。」

涙を袖で拭い、無理をして明るく笑って。

「…なぁ、アンナ。俺にはお前の悲しみや苦しみ、痛みはわからない。けどな、無理してまで明るく振る舞う必要はない。そんな義務はないんだ。辛い時は辛いでいい、そう叫べばいい。その声は俺が聞くから。」

抑えていた涙が溢れるには、その言葉で十分すぎる

仲間が残したハンカチを握る手に、更に力を込めて。アーシェとステラに慰められて。

子供のように泣き、泣き喚く。

「ねぇ、ソフィー、ルーカス。どこ、どこにいるの、ねぇ。もうかくれんぼは、終わりにしよう…?出てきて…お願いだよ…、ねぇ、」

それは懇願。叶えられることのない願い。

ただひとつ零れる、(こいねが)う、言葉

闇に熔けて消えることはなく、残された仲間たちだけが聞き届ける、望み。

それを叶えることが出来るものは……。



ヴァルハラ:双子(ツヴィリンゲ)の塔内最上部

「獣人、あなたの仲間はここにいるよ。」

白い民族衣装の少女が話す。

2人の少女に連れていかれた先は、ヴァルハラにある高い2対の塔、双子(ツヴィリンゲ)の塔。右側にある(シュヴェスター)の塔最上部。その部屋の中には鉄格子で3分の2ほどが区切られている。その鉄格子の奥には無造作に積まれた人の……。

思わず、目を逸らした。

「獣人、彼らは生きています。恐れることはなにもありません。」

赤い民族衣装の少女が言うと、続けて白い民族衣装の少女が話す

「彼らは深い眠りの底に堕ちて、夢を見ているだけです。ですが自力で這い上がることは出来ません。」

ただ淡々と説明文を読み上げる自動音声かの如く話し続ける少女。

─この格子の奥には、一体どれほどの人間がいるのだろうか

軽く数えただけでも20。いや、30はいる。

薄暗い部屋でわかりずらいのに、とても沢山の人間がいることが伺える。

「ソフィーとルーカスはどこにいる。」

手の震えを必死で隠し、言い放つ。

すると、白い民族衣装の少女が牢の中に入って、ガサゴソと人の山をかきわけた

「これです。」

とても雑に、軽々と持ち上げられた腕と共に体が持ち上がる。

華奢な見た目とは裏腹に力があるのか、それとも魔法か。

ソフィーとルーカスの顔が見えた。

「ありがとう。彼らも夢に?」

「はい、夢の中です。」

赤い民族衣装の少女が答える。

「…無事なんだな。」

「えぇ、無事です」

白い民族衣装の少女が答える。

「ならいい。」

ぶっきらぼうに、そう返して。

置いてきてしまったアンナの身を案じた。

アンナと出会った頃は気丈で明るい活発な少女。という印象だった。彼女とオレは同じクラスで、彼女に誘われて入った部活にソフィーとルーカスがいた。

ソフィーは物静かで知識が豊富、ルーカスはお茶目だが皆を落ち着かせてまとめる部長(リーダー)だった。

アンナは、最初こそ明るいだけが取り柄です!みたいなテンションだったクセに、いざ仲良くなってみれば心が繊細で、感受性が高いことを知った。

どおりで相談したときの言葉選びが丁寧だなって思ったんだ。

仲間のことを思い出した後、オレはつい数時間前のことを思い出す。


「…それでね、アンナ。オレは…この調査をやめるよ。」

「…うん。」

少し落ち着いてきたアンナにもう一度己の気持ちを伝える。

アンナを1人にしてしまうから、だから

言葉を紡ぐ

「それで…」

アンナも、身を引こう。と

紡ごうとして。

─音が、した

「ッアンナ!!!」

アンナを押してベンチから落とす。嫌な予感が満ちる

……白い霧だ。

一ヶ月前、仲間を奪った悪しき霧

白く、オレを覆う

10秒ほどでアンナの姿は見えなくなった。オレの番が来たのか

悟って、これから起こる現象に構える

「ねぇ彼岸、獣人見つけたよ」

「えぇ此岸。獣人見つけたわ」

現れたのは、赤い民族衣装を纏った少女と、白い民族衣装を纏った少女。

赤い少女は彼岸と呼ばれ、白い少女は此岸と呼ばれた。

精巧に作られた人形のように瓜二つの見た目はとても麗しい。行動一つ一つから品格を感じ取ることができる。

「ねぇ獣人。あなたに用があるの」

「ねぇ獣人。あなたの仲間に会わせてあげる」

怪しさ1200点の言葉。信じる必要などない、罠だ。

「…お前たちが、幽霊騒ぎの正体か?」

問う。

すると、少女たちは瓜二つの顔に2人同じ、静かな笑みを浮かべた

「…無言は肯定だからな。」

そこで考える。この少女たちが本当に幽霊騒ぎの正体なのであれば…。

「アンナに危害を加えるな。オレにはなにをしても構わないから、アンナに、ソフィーに、ルーカスに。決して危害を加えるな」

「えぇ獣人、わかったわ。」

「えぇ獣人、約束するわ。」

そう言って、彼岸がこちらに手を向けた

「アタシ達について来て。」

続いて、此岸がこちらに手を向ける

「ワタシ達について来て。」

「ああ、わかった。」

直後、青白い光。正体は転移魔法か

転移する直前にオレは振り返って。

「アンナ、がんばってね」

そう言い残した

▨▨▨▨

「よくもまぁ、こんな怪しさしかない誘いに乗ったな…。オレ」

1人呟く。少女達には聞こえていない

「獣人、あなたはここで待っていて。」

「獣人、アナタはここから逃げないで。」

念を押すように言い放ち

少女達は音もなく消えた。

オレは、これから一体どうなるのだろう

くじらのはらです。ハルターカッコよすぎや。

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