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報酬エルフとハッピーエンドを目指すたび  作者: くじらのはら
ヴァルハラ編:『幽霊騒ぎ』
23/40

2日目:『事件場所調査』p.3

「アキエダとアーシェ、遅いね」

先に迷路から抜けた3人は鮮やかなグリーンのバラの植え込みの近くでトモカズとアーシェを待っていた。

「先に行っててって言われたけど…大丈夫かな……。」

「男女2人きり…庭園……何も起こらないわけがなく」

「ハルター、あんた何言ってんの?」

「あ、いや…なんでもないよ」

軽く冗談なんかも言いながら、2人を待っている。

5分、10分と過ぎ行く時間。彼らはまだ現れない。

「遅すぎじゃない?さすがに探しに行く?」

「位置共有の魔法確認してみようか?」

などと話し合いが始まった時、2つの小気味よい足音が聞こえてきた。

アンナが 待ったよー!遅かったね、迷子?なんて言おうとした瞬間

ーー現れたのは、互いが瓜二つの美少女。

精巧に作られた、人形の如く似通っている彼女たち。その瞳は程よく潤み、世界を映す鏡のようである。

どこかの国の民族衣装のような服に身を包んだ少女たちが西洋風の庭園から出てくるなど、異質そのものである。

固まっている3人に軽く会釈をすると、少女達は音も立てずに歩いていった。

その後に続くようにして急いだ足音が2つ。

「すまん!遅くなった。」

「ごめんなさい、少し迷ったわ…。って、3人ともなんで固まってるの?」

「…ううん、なんでもないよ。アーシェ」

「そ、それより、どこまで行ってたの?随分遅かったじゃん」

「アーシェが花見て迷ってた」

「そんな正直に言わなくたっていいじゃない!」

「実際そうだろ、アレはこうでコレはああでってめっちゃ長かったぞ…」

「それは、そうだけど…でも!」

プッ

「あははは!そんなことだったの、くふ、ふ、安心したよ。幽霊に連れ去られたんじゃないかと心配だったよ」

「そうだね、あまりにも遅かったからアーシェさんになにかあったのかと」

「トモカズもアーシェも、だめだよ!なんの連絡も無しにどっか行っちゃうなんて!」

笑い飛ばすアンナ、心配するハルター、ぷりぷり怒り出すステラ。

「ごめんって…」

「ごめんなさい…」

おそらく最年少のステラに叱られる大人2名にアンナは更に笑っている

「次からは気をつけてね?わかった」

「「わかりました」」

「…ふはっ」

さすがのハルターもこれには笑ってしまった。

「トモカズさん…子供に叱られないでください…ふふっ…」

「うちはそういうパーティだから。しょうがないんだよ、うん。」

「なんだそれ…くふっ」

「はーっ!よく笑った。んじゃみんな、そろそろ幽霊騒ぎが起きた現場に行くよ。さすがに遠回りしすぎたし」

「そうだな。幽霊騒ぎが起きたのは…。」

「ダリアの花畑ですね」

「このエリアのすぐ近くにあるわよね?」

「そうだね。ダリアの花かぁ…」

そうステラが言い放つと、ステラとトモカズの視線はアーシェ・ダリアへ向けられる

「え、なに?なに?」

アンナが興味深そうにアーシェに顔を向ける

「な、なにかしら…」

あからさまに動揺しているアーシェ。

「いや、ダリアの華はもううちのパーティにいるからなぁと。」

「花畑もきっと綺麗なんだろうけど、アーシェには適わないんだろうな〜って!」

「ちょ、ちょっと、ステラ?トモ?」

シンプルに褒めだしたパーティの仲間達に驚くとともに顔が赤くなっていく。火が出そうなくらい真っ赤な顔

「なるほど、アーシェさんの苗字はダリアなんですか。」

「なるほどー。そゆことね。急に褒めだして何事かと思った」

「普段褒めることあんまないからな。たまにはいいかと思って」

「トモ、何よそれ…!」

なんとなく理解したキュンストル。照れるアーシェ。中々にカオスな空間

「まぁ、現場見に行くか」

トモカズのその一言で、彼らの足はダリアの花畑へ進んでいく

「なんなのよ…もう。」

ダリアの華、ねぇ


心地よい風が吹く丘、花畑。

1面には色とりどりのダリアの花

「ひっっっっっろ」

一面全てにダリアの絨毯が敷かれているような光景に思わず感嘆の声が出た

赤、ピンク、クリーム色や白。驚くほどの量の花。

ここまでとは思っていなかった

「いやー、いつ見ても綺麗だね。」

「そうだね、去年もこのくらいの時期にみんなで来たよね」

「もう1年も前か、早いなぁ〜」

「2人は来たことがあるの?」

「そうだよ、ステラ。あたしたちキュンストル4人で遊びに来たんだ」

「今は2人だけだけど、4人で来た時も楽しかったな…」

遠くを見つめるハルター。その表情には仲間への心配の色が見える

「ハルター。そう湿っぽくなっても2人は帰って来なかったでしょ」

「そうだけど…」

耳としっぽが垂れる

「大丈夫だ、ハルター。俺達で絶対に見つけよう。」

そう力強く励ますトモカズ

「…そうだね、ごめん。現場の調査をしようか」

「…無理はするなよ。」

「うん、大丈夫。」

トモカズに勇気づけられたのか、ただ何もしないで思い出に浸っていた己に嫌気が差したのか、気持ちを切り替えハルター。

それを察し、トモカズは状況の整理を始める

「ここで攫われたのは10代後半の女性、黒いショートカットの髪に青色のワンピースを着用していた…と。」

刑事ドラマで見たような口調で整理を進める

「事件当時は夕方17時頃。夕陽が出始めた頃霧に覆われ、青白い光を見た直後彼女は忽然と姿を消していた…ってところだな」

「トモ、それドラマの真似?」

「そうだぞ。1回やってみたくないか?こういうの」

「わかります…!カッコイイですよね。」

「だよなハルター!!」

男子2人が共感しあっている

「トモには似合わないわよ、そういうの。自然体の方がカッコイイわ」

「それで褒めてる?貶してる?」

「さぁ?どうでしょうね」

不敵に笑うアーシェ。その顔も映える

「ずりぃな…なんか。」

「なにがずるいの?」

「いや、こっちの話。」

「いやー、わかんない。お手上げ」

「魔力の痕跡は少しあるけど…巧妙に隠されてるからわかりにくいなぁ、どういう魔法使ったんだろう…。」

なんかわちゃわちゃしていた3人を他所に、めちゃめちゃ真面目に調べているアンナとステラ

「あ、3人話終わった?あたしたちで今魔法の痕跡とか調べてたんだけど全くわかんなくてさ」

「魔法?ちょっと調べてもいい?」

そう言うとアーシェは杖を取り出すと

「解析魔法、展開」

そう呟き、目を閉じる

脳に入ってくる情報を1つずつ丁寧に処理していく。

「…うん、?」

「アーシェ、なんかわかった?」

「たしかにここで魔法は使われてるけど、なにかしら、これ。知らない陣形の魔法、ね。ステラなら何かわかるかもしれないけど…。」

「わたしはアーシェみたいに解析魔法上手くないけど…もう1回やってみるね」

そういうと、本の1ページを開き

「解析魔術、展開」

目を閉じるステラの足元には、アーシェと違う形の魔法陣。金色に輝く、六芒星の魔法陣。

「…んー!むずかしい…。」

「やっぱりなにもわからない?」

「うーんと、古い魔法。魔術式っていうのが使われてるんだけど…どんな魔法かはわからなかった…ごめんね」

「そーいえば、魔法と魔術って実際何が違うの?」

「魔術っていうのは現代魔法より前に作られたもので、魔族の固定概念に基づく原理主義的なもので、魔法は魔術を元にして作られてて、魔術よりもっと柔軟で人間向きかな」

「ごめんステラ、あたし眠くなってきた…ふあぁ…」

目をぱちぱちと瞬きさせ、あくびをするアンナ

「ステラ、記憶が戻ってきたの?」

アーシェが問う

「魔法にはよく触れてるから、その部分の記憶が整理されてきてるのかも。」

「よかったわね」

ステラの頭を撫でるアーシェ。

「えへへ」

照れくさそうに、笑うステラ

それを少し後ろから見ていた男2人が話す

「これ、めっちゃ観光だな。幽霊騒ぎさえなければ」

「トモカズさんたちも災難ですよね、幽霊騒ぎの解決なんて依頼…オレたちなら絶対受けないです」

「俺もこんな依頼普段なら受けないんだけどな。タイミングがたまたま良かったから受けたんだ」

「タイミング…ですか?」

「ステラが旅をしたい。って言い始めてな。世界を見たいって話を聞いてる最中に依頼が入ったんだ」

「なるほど、運命の巡り合わせみたいなものでしょうかね」

「どうなんだろうなぁ…。まぁでも、受けてよかったな。」

「それはどうして?」

「あんまり知らない土地で、現地の人と仲良くなって友人になった。結構いいことだろ。人の縁ほど強いものも今日日あまりないからな」

「なるほど…たしかに、そうですね。」

依頼なんてどうでも良くなるほど平和で穏やかな時間

和やかな会話、綺麗な景色。

そろそろ日も沈み始める頃だった

「今日の調査はここまでにするか?」

「そうだね、これ以上ここにいてもあんま進展ないし。明日は別の場所調べよっか」

「んー、!お疲れ様!」

「えぇ、お疲れ様。バス停まで戻りましょ」

「俺が先導するよ。ついてきて」

ハルターを先頭に、歩く

華を踏み潰す音は、最後尾のトモカズにすら聞こえなかっただろう。

ハルターの耳には、しっかりと届いた。


バスを待ち、乗り込む

3人掛けにはディユシエル、2人掛けにはキュンストル

「今日も疲れたな〜」

軽く体を伸ばすトモカズ。

「そうね、今日こそは帰りに食材を買って帰りたいけど…ステラ、疲れてない?」

「大丈夫だよ。アーシェこそ、位置共有魔法疲れたら変わるからね」

「優しいのね、ありがとう。でも大丈夫よ。気持ちだけ受け取らせて」

「うん、わかった」

「ディユシエルは食材買いに行くの?良いマーケット教えてあげよっか。安い美味いで有名なとこ!」

「お、耳寄り情報。アンナ、教えてほしい」

「早速食いついたね〜?えっとね〜…」

楽しそうな会話、揺れ動く車内。

窓の外はオレンジ色の空から藍色に変わる頃合い

疲労で、寝てしまいそう。

うつらうつらとし始めるハルター。目もくれず話し続ける4人

"この人かな?"

"この人は獣人だから違う"

ーーどこかから聞こえた会話を最後に意識は深い海に落ちた。


ハッと目を覚ました時にはバスは停車していて、今まさに仲間が降りようとしている。

自分もついて行き、バスを下車する

夜の空気は少し冷たく、気持ちが良い

「ハルター。ぼーっとしてるけど、疲れた?」

「いいや、なんでもないよ」

「ディユシエルは買い物行ったから、あたしたちは帰るよ」

「わかった。…ねぇ、アンナ」

「なーに?」

「オレたち、幽霊騒ぎに首突っ込むのやめない?」

「なんで!?」

大きな声が夜の街に響く

「なんとなく、嫌な予感がするんだ。オレたちは1ヶ月調査を続けて何も進展がなかった。それに、事件の真相を追い求めるとどんな危険があるかわかったもんじゃない。それに彼らが関わり出してからすぐに証拠が出てきたなんて不自然すぎる。……オレには、彼らが、ディユシエルが、幽霊騒ぎの犯人に思える。」

不安、心配。色々な感情が入り混じる

なにも見つけられることなくただ過ぎ去った1ヶ月。

その期間に価値がなかったのか、と。あまつさえそう思ってしまう己が憎たらしい

「…だから、安全なうちに……」

「嫌だ。」

はっきりと聞こえる拒否の声

それは、とても力強く。

「あたしのことも、自分のことも心配してるのはわかる。でも、そしたらソフィーは?ルーカスは?ずっと会えなかった仲間に、一番最初に「心配した、探したよ」って言って、安心させてあげることが出来るのはあたしたちだけなんだよ。

ハルターが嫌ならこのまま抜けてもいい。でも、あたしはこのままあの子たちを探す。」

強い、意志。

アンナの優しさ、強さ、かっこよさ。

ーーそして、仲間を思う心

全てが詰まった言葉。

「………」

「………」

沈黙。長いような、短いような。

それを破ったのはハルターだった。

「………ごめん、言いすぎた。お互い熱くなりすぎてる。少し頭を冷やそう。」

「あたしもごめん、言いすぎた……。明日また、話し合おう。」


分かれ道。

彼女と別れ、そのまま帰路に着く。

眩い月は、少し欠けていた

くじらのはらです。

シリアス来ましたね

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