1日目:『聞き込み』p.2
「すみません、幽霊騒ぎって知ってますか?」
「いえ、知らないです…。」
「ちょっとごめんね〜。あんた、幽霊騒ぎって噂知らない?」
「うーん、妹の友達がなんか言ってた気がするけど知らないかなぁ。」
「すみません!幽霊騒ぎって知りませんか?」
「さぁ…?」
昼過ぎの大通り、手当たり次第に声をかけてみるが、大抵は怪訝そうな顔をするばかり。
知っているという声があったとしても本人ではなく他の人物が噂している程度だった。
「そっち収穫あった?」
「いいえ、全く。」
「俺全く相手にされないぞ」
「そんなもんですよ、アキエダさん。」
「悲しくなるな…。」
道行く人に尋ねては、無視、疑いの目を向けられる、知らないの連続。さすがに彼らの心が疲弊してきた頃
「あなたたち、幽霊騒ぎのこと聞いて回っているの?」
突然、一人の女性から声をかけられた。
「え、なにか知ってるんですか?」
思わずハルターが聞き返す
「知ってるもなにも…私の母が幽霊騒ぎでいなくなってしまって…」
30代くらいの女性。観光客のような浮き足立った心持ちなどではなく、親族がいなくなってしまって心配と不安の気持ちが入り交じった複雑な表情をしている。
「な、なるほど。えっと、ちょっと待っててもらっていいですか?他のメンバー呼んでくるので」
「えぇ、わかったわ」
幽霊騒ぎを知っている人がいた!そう言うだけで集まる5人。手柄なしか…と落胆していたこともあり、その情報を知っている人がいたという事実だけで彼らの行動には十分意味があるものだと示された。
「私が知っていることはあまりないんですけど…。」
「ううん、全然大丈夫。とりあえず何があったか教えてほしい」
アンナがそう言ったことを皮切りに女性は少しずつ話し出した。
「母がいなくなったのはちょうど1か月前で、その日は朝から父と共に犬の散歩に行っていました。楽しそうに出かけた母の顔をよく覚えています。いつも通りの散歩コースを歩いて、途中の公園で一休みしていたところ母が消えたらしいのです。父が言うには『唐突に濃い霧がかかったと思ったら青白い眩しい光が見えて、それと共に妻が消えた』と言っていて……。母がいた場所には不安そうに鳴く犬だけが残されていたんです。その日から私たちがいくら探しても母は見つからず…。」
息を飲んだ。平和な日常が一瞬にして消え去った、あまりにも不可解極まりない話に耳を疑いたくなる。
「なるほど…話してくれてありがとう、辛い話を思い出させてしまってごめんなさい。私たちは実は幽霊騒ぎを解決するためにこの都市へ来たの。だからきっと、あなたのお母さんも見つけてみせるわ。」
「ほんとうですか…!?ありがとうございます…。」
消え入りそうな声で話していた女性の声は、解決の糸口が見えて少しばかり明るくなったように感じた。
その女性と話をした後、『幽霊に兄が連れ去られた』『友達のお父さんが』『恋人が』などとひっきりなしに情報が集まった。
一度に何人も集まったため、二手にわかれて話を聞き、最後に情報をまとめることになった。
「よし、これで全部だな。」
「思っていたより被害者は多いのね。」
「そうだね。でもなんでこんなに人を攫ってるのかな…」
「わからないけど、一先ずキュンストル側と合流しましょう。」
「これでだいたい聞き終わったかなぁ」
「今日聞いただけでも10…20はいたかな」
「思ってたより大事に首突っ込んでるのかもね、あたし達」
「これもルーカスとソフィーを見つけるためだから」
「そうだね。よし、ディユシエルと合流しよう」
手頃なカフェで落ち合い、席で飲み物を注文したところで情報をまとめ始めた
「男女差はあまり関係なさそうだな。」
「うーん、年齢も特に意味なさそうかな。上は100歳超えるし、下は15…」
「みんな『白い霧に覆われて、その後青白い光を見た時に連れ去られた』って言うのが共通してる」
「職業に関係性はある?」
「冒険者が攫われたケース、学生が攫われたケース、働いていない人もいるな。」
「職業って本当に関係ないかな…。」
皆が頭を悩ませ始めた。その時、コツコツと高い音を鳴らし近づいてくる足音があった
「やぁ、ディユシエル。順調かい?」
白銀の髪を揺らし、大きな魔女帽が店内では少し窮屈そうだ。紅く瞳孔が縦に長い爬虫類のような瞳、新月の夜を閉じ込めたかのような闇に溶けそうな漆黒のローブ。ディユシエル、彼らはソレを知っていた。
「ペル…!いや、ネモって呼んだ方がいいか?」
「いいや、ペルでいい。」
友達に話すようなフランクさに疑問が浮かび続けるアンナ
「アキエダ、こいつ誰?」
「あー、えっと」
「ディユシエルに騒ぎの解決を依頼した、友人のペルだよ。よろしくね、キュンストル」
「は、はぁ……?」
「よろしく、?」
「ふふ、そんなに警戒しなくたっていいじゃないか」
そう言って、机の上のメモ書きを手に取り始めた
「ふぅむ……へぇ…。なかなかいい進み具合じゃないか」
パチパチと乾いた拍手を2、3回するとさっきまで微笑んでいた顔からフッと表情が消えた。
「ワタシの方でも独自に調査を進めていたが、ここまでの進展はなかったよ。…ただ、1つ。辿り着いてほしい場所にはいけなかった。」
言葉とは裏腹に失望の感情はなく、真意の読み取れない声色だった
「そんなキミたちの為に、ワタシの考察を1つ。」
その声はどこまでも通っていきそうな、済んだ声。
「コレは恐らく、魔力保有者を狙った騒ぎだろう。ワタシの考察にすぎないけれども、真実に近いと思うよ。真相に辿り着くのはキミたちの役目だけれどね。」
とても、とても穏やか。穏やかながら、ピンと張ったピアノ線のように鋭い声で話して、時計に目をやったペル。
「おっとすまない、ワタシはこれから急ぎの用事があってね。これで失礼するよ。キミたちの冒険に幸多からんことを。」
そう言い残し足早に去っていった
呆気にとられるキュンストル、助言と言って渡された考察を書き留め、真意を探るディユシエル
「なんなんだ、あの女」
ディユシエルは気づいていないんだと悟るアンナ
いや、それどころかハルターさえも気づいていない
あの女の、全てを見抜き、正解へ導こうとする視線。それに伴う殺気
アレは、並の人間が出せるようなモノではなく…。
「アンナ?大丈夫?」
その声でハッと我に返る
ーーあれ、何考えてたんだっけ。
「ごめんごめん、ボケっとしてた」
「とりあえずペルの言ってたことと私たち全員が集めた情報を見比べたんだけど」
「魔法使いだったり魔法科の高校生だったり過去に冒険者をしていた人達が狙われたみたいなの。」
「なるほどね。でも、魔法使いだけなの?あたしもハルターも一応魔法使えるけど」
「そこで仮説として立てたのが『普段から魔力の操作に慣れている"魔法使い"だけを狙っている』って話だ。」
「魔法使いは普段から、杖とか、時には魔法書とかを媒介して魔力操作を行ってるから、それに慣れてる人達だけを集めてるっていう説!」
「ただ、それだと不思議なんだよなぁ…。」
トモカズが零す
「何が不思議なの?」
アンナが聞き返すと、トモカズは心底不思議そうに話す
「魔力操作に慣れているんだったら、魔族を攫った方が確実なんだよなって思ってさ。わざわざ人間の魔力保有者を捕まえてるのにはなにか理由があんのかなって」
「あ〜、なるほどね」
「たしかに不思議よね…。」
「オレも獣人の端くれだし、いくら魔力を扱うことに慣れてるソフィーやルーカスがいたって魔族の血が入ってるオレが狙われなかったの、たしかになんか変だね」
「とりあえず、今日はここでご飯食べて解散にしない?」
彼らが頼んだ飲み物は冷め、氷も溶けかけた頃。アンナが提案する
「たしかにもう遅い時間だしな」
「長いこと話してたわね。思考も煮詰まってきた頃だし」
「わたしお腹すいた…」
「じゃあご飯頼も頼も!」
「あんまりお金もってきてないんだからほどほどにね、アンナ」
冒険者の緊張は解け、同年代の友達と集まったようなフランクさで食べ物を注文する彼らはひと時の幸せを堪能したようだ。
「スパーコナ様!どちらへ行ってたんですか!」
憔悴しきった女が白銀の髪の女へ駆け寄る
「いや、少し面白いものを見てね。ちょっかいをかけてしまったよ。」
「スパーコナ様…」
女は見た。今までに見た事がない女の笑顔を
頬が緩んだその顔は少し火照っていて、月明かりに照らされた髪は普段より一層輝いていた。
「彼等、真実には辿り着けるかなぁ…?」
「?スパーコナ様、そんなことより業務ですよ。」
「あぁ、すまない。そんなにカッカしないでくれ。」
「…今日、やけに楽しそうですね」
「気のせいだろう。さて、ワタシたちは行こうじゃないか。」
「ハッ。仰せのままに」
くじらのはらです。
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