『変化』,旅立ち
「おはようトモカズ、お寝坊さんだね」
日が差す部屋、いい匂いの朝食、耳触りのいい声。
いつも通りになった日常。いつも通りの日常。
「おはよう、ステラ。」
だがあの日から少し変わった。
ネモから依頼を受けたあの日、歩き出した俺たちの後ろでステラが立ったままなにかを見ていた。
だがあの日、ステラは何を見ていたんだ?
あの日から以前のような天真爛漫さは消え、なにかを考え込むことが増えたような気がするのはきっと俺の気のせいではない。
「トモカズ、ぼーっとしてたらご飯冷めちゃう。」
「あ、あぁ。ごめん、いただきます」
温かな朝食を頬張る。
湯気でヤケドしそうだがそれすらも美味しさに変わってしまうステラの料理上手はいつでも尊敬できる。
ぼんやりと俺を見てたステラが急に話す
「ねぇ、トモカズ。わたし、みんなで旅がしたい」
「急だな」
「ここ何日か考えてたんだけど、わたしの記憶を取り戻すには今いる環境じゃ小さい気がして…いや、楽しいんだけどね?今を否定してるわけじゃないけど、もっとおっきい世界が見てみたいの。」
「なるほどな…。」
「2人に迷惑かけることになっちゃうから、ダメならわたし1人でも行きたいの。」
本当に急な相談、というより願望に近い規模のデカい話。正直なところ俺だけで決めるのは難しい。なぜならアーシェも関わってくることだ。
そう思ったところでドアについてるポストからカタン と音が鳴った。郵便は頼んでいないはず…税金か支払いの封筒や書類が届くにしてもこんな朝に…?
俺は疑いながらポストに向かった。
ポストを開けると出てきたのはひとつの封筒。
いや、封筒…?
届いた封筒はよくある書類が入った封筒ではなく、知人に渡すような正方形に近い長方形の赤い封筒。
封はシーリングスタンプが押されていて、その柄は豪華絢爛といった感じだ。
不思議がって首を傾げながら部屋に戻ると、手に持っていたそれにステラも反応した
「トモカズ、それなあに?」
「いやわからん、とりあえず開けてみるか。」
そう言い、中を開けると出てきたのは手紙と…押し花?
3種類ほどの押し花が封筒から降ってくる
オレンジ色の、向日葵のような花に、紫色のブルーベリーみたいな花、そして白い…なんだこれ。
1つはガーベラっぽいけどあとの2つはなんだ…?
「そのお花見せて」
そう言い、花を拾い上げたステラ。
「うーんと……これは…こっちはスイートピー、それでこっちは複数個花を人工的にくっつけられてるけどムスカリっていう花だね」
「そうなのか、ステラは博識だな」
「えへへ、でしょー?」
小さく笑うステラの頭を撫でたあと、手紙を読む
『やぁ、アキエダトモカズ、ステラ。先日はお世話になったね。ワタシはネモ…。いや、ペル。と名乗り直そうか。
偽名を使ってしまって申し訳ないね。外ではあまりワタシの名前を口にしたくないもので、咄嗟に何者でもない(nemo)と名乗ってしまったよ。
さて、本題だが。キミたちにまた依頼がしたいものでね。セントラムの西にある国、ヴァナヘイムの都市ヴァルハラで最近巷を騒がせている幽霊騒ぎ、その全貌を解き明かしてほしい。
勿論、報酬は心配いらない。相場より多めに支払おう。
キミたちに探偵のようなことをさせてしまうことになるのは残念だが、これも経験だと思って受けてくれると助かる。
最後に。ステラ、キミの目標は決まったようだね。その目標を果たすべく精進したまえ。
ではキミたちの冒険に幸多からんのことを。
ペル』
「なるほどな…。依頼は一旦別件として、ペル…どっかで聞いた名前だな…。」
「本に書いてあった『人と魔族の1000年戦争』を終戦させた人物と名前が一緒だね」
「さすがに偶然だろ…。そんな大物だとしてもなんでそんなに長生きなんだよ。あれは人間が終結させた戦いだぞ。」
そんな雑談をしつつトモカズはスマホに手を伸ばす。
メッセージアプリからアーシェを見つけ、メッセージを送った。
「なるほどねぇ、急にそんなこと言うとは思わなくて私もびっくりよ。」
朝の話をアーシェにしたところ偶然にも予定がないということでカフェに集まった。一通り話をして、今朝届いた封筒も見せたりした。聞いたアーシェにステラは謝罪をする。
「ごめんなさい、アーシェ。でも…わたし、きっと忘れちゃいけないことを忘れた気がして…」
「すまんなアーシェ、事情が事情だから俺一人では決めらんないし。単刀直入に聞くが、旅、どうする?」
「うーーーーん。」
深く、長い沈黙。そりゃそうだ、すぐに決められるはずがない。
流れる時間は悠久の時を過ごすかのように長く感じる。
「よし、決めた!」
「うぉ、びっくりした」
急に明るく話すアーシェにおじさん驚いた。普通にびっくり
「行こう、旅。」
優しくそう言うアーシェ。そうだ、この子は昔からこんな風に優しく、明るく、思い切りがすこぶる良い。
彼女はずっと変わらない。
思わず頬が緩んでしまう
「なに笑ってんのよ、トモ」
「いや、変わんねぇなって思っただけだよ。」
予想外の反応にワンテンポ反応が遅れたステラも話に加わる
「いいの?多分わたしいっぱい迷惑かけるし、旅だってきっと楽しいことばっかじゃなくて…」
「もー、ステラ。そんなのお互い様でしょ?」
そう言って優しく微笑むアーシェ。その姿はまるで女神のよう
「…ありがとう。アーシェは慈愛の女神さまみたいだね」
「どういたしまして。これくらい普通のことよ」
「冒険の話もまとまった事だし、もう一個いいか?」
「なあに?トモ」
「この封筒なんだが…」
今朝届いた赤い封筒をアーシェに差し出す
「読んでいいかしら?」
「もちろん」
封筒を開き手紙を読み進める。
「……なるほどね。ペル、英雄の名前と同じね」
「英雄本人じゃないとは思うけどな」
「まぁ、こんなに長生きしてたらおかしいものね」
「てことで俺たちはこの依頼を受けようと思ってるんだが。アーシェもそれでいいか?」
「いいわよ。度のついでだし、まず最初の目的地はヴァルハラね!」
「そういえば、宿泊施設とか、お金とかってどうするの?」
ステラが話す。
「えっとな、宿泊施設はギルド側が用意してる物を使えるし、お金はギルドに寄って依頼こなしてってやっていけば基本そこは尽きないかな。各国の通過の両替もギルドでできるし。かかるのは交通費くらいだと思う」
「なるほど…。ねぇ、トモカズ、アーシェ」
話を聞いて納得したかと思えば突然真剣な顔で話し出すステラ
「ほんとうに…本当にありがとう。わたし、2人と出会えて幸せ。記憶がないわたしを受け入れて、仲間にしてくれてありがとう!」
「真面目だな、ステラ」
「そんなに畏まらなくていいのに」
そう言って手を伸ばしステラの頭を撫でる。
「あら?」
アーシェが不思議そうな声を発する
体を戻す際に封筒に何かが当たったのか、中身が出ていた。
「これ、押し花ね。懐かしい…昔よく作ってたなぁ」
取り出した押し花を見て目を丸くしたアーシェ
「オレンジのガーベラ、スイートピーにムスカリ…。」
ぶつぶつと呟いて、感心しているようだ
「何ひとりで言ってるんだ」
「いや、この花の花言葉を思い出して。ペルはセンスがいいなって思っただけよ。」
「なるほどわからん。てかやっぱ詳しいな、昔の夢は花屋だったっけ」
「そうね。綺麗なお花に囲まれるのが夢だったけど…冒険者になるとは微塵も思ってなかったわ。」
感傷に浸り出す大人2人
「ってこんなこと言ってもステラにはわかんないでしょ。ほら、随分話し込んだからもう夕方よ。そろそろ解散にしましょ」
窓を見て驚愕する。もうそんなに時間が経っていたのか
「明日は10時にステーション南口集合で。」
「了解。荷物を詰めて向かうわ」
「楽しいたびになりそうだね」
微笑む大人2人、楽しげな少女。
この先の過酷な旅も楽しんでいける。3人で
皆そう思い、団結した。
きっとこの瞬間は家族よりも深い絆で結ばれている。と
そう、想った。
くじらのはらです。ついに旅スタートです
今更ですが良ければTwitterフォローお願いします
@kujirrrranohara
よろしければブクマといいねお願いします
作品作りの励みになります




