『人攫いの森』,冒険
9月18日午後14:00
イザベル北部『人攫い(ひとさらい)の森』入口
「パーティ名、ディユシエル。アキエダトモカズ現着。」
「同じくディユシエルアーシェ・ダリア現着。」
「お、同じくステラ現着!」
「ディユシエル、3名揃いました」
「御苦労さま。ではディユシエル、今回の依頼は先日話した通り黄鱗龍の討伐だ。」
そう言いながら魔法で地図を展開するネモ。開かれた地図にはいくつかの印が付けられている。
「この印を辿って行った先が黄鱗龍の住処だよ。確認したいことはあるかい?」
「先日の約束は覚えているか?」
「あぁ勿論だ。報酬の倍額に危険があった際の撤退だね?」
「そうだな。それを守ってくれれば俺からは何もない。」
ピリつく空気の中ステラが声を上げた
「依頼が終わったら森の中の薬草をとってもいい?」
「いいよ。ワタシは……いや、なんでもない。」
やけに含みのある言い方。不自然に間の空いた言葉が引っかかるがそんなことは気にしていられない。
人攫いの森、木々が生い茂り鬱蒼としているが、陽の光は入るようだ。だが、そこに入った人間は何人たりとも2度と姿を見せることはない魔境。黄鱗龍、すなわち龍との戦闘。危険以上の何物でもないこの依頼
…断るべきだったか?
いや、後悔をするにはまだ早い。
「では最後に、キミたちが互いの位置を確認できる魔法をかけるからね。少しじっとしていてくれ」
そう言ってどこからともなく杖を出し、展開される魔法陣。青白い光に身を包まれ…。
「よし、もう動いていいよ。体になにか変化はあるかい?」
「俺は特にないな。」
「私もないわ。」
「わたしも元気!」
「…大丈夫そうだね。」
ふっと目を細め微笑む女。その美しさに虜になる人は後を絶たないだろう。
「ではディユシエル、キミたちの冒険に幸多からんことを。」
そう言われ、冒険者たちは深い森の奥へと足を進めた。
「うーーん…。暗いわね。」
木漏れ日が多少差し込むとはいえ大量の木々で空が覆われそうな森ではそんな光は微々たる力しか持たない。
「ステラ、魔法で光源作れるか?」
「任せて!」
そう言い魔法書を開く、呪文を囁くとパッと輝く星型の正多面体
「できたよ!先へ進もう。」
「さんきゅー」
「陽の光みたいに明るくて道が見やすいわね」
どんどんと足を進める3人
茨道、大きさがまばらな石だらけの道、川、大木が倒れた橋。
地図で見たより遥かに大きく長い道のりを無言で歩く。
「こりゃ、人攫いなんて名前がつくよな。マップがないと本気で迷う」
「マップがあってもキツいわね…。」
「ここじゃ太陽と星の位置関係で方角を図るのも難しそうだね…。」
そんな言葉が急に口から出た
「え、ステラ、そんなことが出来るの?」
「え?なにが…?」
「シッ!静かに。」
咄嗟に茂みに隠れ前方を伺うトモカズ、アーシェ、ステラも追従して茂みに隠れ様子を伺う。
足元には美しい湖、大きな岩場がいくつか存在していて、その近くには木々でできた巣のようなものが見受けられる。崖の谷間に巣を作っているようだ。
「ステラ、明るさ調節してくれないか?」
「りょうかい。…えーっと、これくらいでいい?」
「OKだ。さんきゅ」
「トモ、急にどうしたの?」
「前方に黄鱗龍確認。」
「了解。」
先程までの雰囲気はさっと消え、空気が張りつめる。ここから先は命懸けの戦場、生きるか死ぬかの2択だけが存在する世界。
「アーシェ、黄鱗龍の状態は」
「解析魔法、展開。…1匹は睡眠状態。もう1匹は確認できないわ。」
「了解。ならば…」
数秒の沈黙、トモカズの頭がフル回転する。
「確認できない1匹に警戒しつつアーシェの魔法で奇襲、そこからは俺が剣で飛行能力を失わせるからアーシェとステラは援護射撃を頼む。」
「わかっ…りょうかい!」
「了解。ステラ、飛行魔法は使える?」
「うん、だいじょうぶ」
「ならよかったわ。それじゃ、いくわよ」
静かな声でそう言い、軽く息を吸うと魔法陣が展開された。金色の魔法陣。それは、人類には観測できない魔力の結晶。
「ストームバースト!」
言葉と共に発せられる爆風と水
ギャァァァァァァァァ
龍が目を覚ました。
大きな翼を振るい近くにいるであろう敵に攻撃をするが翼は空を切るばかり。
戦闘の合図が知らされる。
「飛行魔法、展開!」
トモカズがそう叫び崖から飛び降りた
続いて2人も魔法を展開し飛び降りる
トモカズは空中で剣を引き抜きそのまま
ガチン!
「っ、流石に切れねぇよな!」
ギャォォォォン!!!
小型といえど体長は10メートルほどある体で必死に敵を認識する龍
手当たり次第に鉤爪で引っ掻き翼で斬る
ただその甲斐は虚しく
「ステラ!」
「エストレージャ!」
呪文の後降ってくるのは巨岩
ドォォン!
ギャァァァァァァァァ!!
大きく上がる龍の悲鳴
「隙あり!」
ザシュ!と音を立てて落ちる龍の右翼
だばだばと流れてくる大量の赤い血に龍の身が一瞬すくんだその瞬間
「っっ…!アーシェ!ステラ!上!!!」
ザバッザバッ と大きな音を立てて飛んでくるもう1匹の龍
「っ!デフェール!」
龍に杖を向けそのまま魔法は放たれる。
業火に焼かれ悲鳴をあげながら旋回する龍
翼で風を起こそうにも焼かれ続ける己の身は思うように動く訳もなく、そのまま大きな音を上げ墜落した
ギュェェェェェ!!!
翼を落とされ、仲間を焼かれた龍が怒りの声を上げる。
トモカズをしっかりと視界にとらえた龍は突進をしかける
「すまんすまん!今仕留めてやる!」
そう声を上げ空へ向かって飛び上がるトモカズ
「ブリクスト!」
そう唱え剣に雷を纏わせ龍の首に一撃を。
龍の会心の一撃は当たらず。
ギャァァァアァァァァァ……。
ひときわ大きな声を上げ、龍はそのまま動かなくなった。
ストン、と軽い音を鳴らし着地する3人。
周囲には龍の体が焼けた匂いが漂い、硝煙が舞っていて、先程までの戦いの激しさを物語っている。
「アーシェ、解析魔法。」
「了解。解析魔法、展開。」
先程まで魔法を使っていて魔力を消費しているはずだが難なく魔法を扱うアーシェ。
「…うん、2匹とも息絶えてるわ。」
「よし、討伐完了!!!」
「あとは森をぬけておうちへ帰るだけだね!」
「だな。じゃあ2人とも、飛行魔法で上へ上がるぞ。」
「「「飛行魔法、展開」」」
フワッと浮き上がる体、そのまま上へ上へあがり地面に着地する。
「じゃあステラ、明かりお願いしていいか?」
「もちろん!」
そう言ってまた現れる星型の多面体。
「ステラの要望通り薬草を少し摘んで帰ろう。」
「結構早く終わったわ…!やっぱり1人増えるだけでもだいぶ変わるわね。」
「やっぱ早めに人増やした方がよかったんかなぁ」
普段の明るい声で話し歩く2人。気を抜いてはいないところに冒険者としての風格を感じる。
振り返った少女は見た。ソレを
湖のほとりで、金糸のような髪が陽にあたりキラキラと風にたなびいている様子を、その容姿を。
ーーあれは…。
「ステラ、いくぞー」
「魔法の使いすぎで疲れたのかしら。変わろうか?」
「ううん、大丈夫。」
ーー見間違えだろう。だって、あの日、
ステラはブンブンと首を振り考えるのを辞める。
そのまま3人は魔族に遭遇することなく森を抜けた
「おかえり、ディユシエル。案外早かったようだね。」
満足気な笑みを浮かべた女が彼らを迎える。
もうすっかり夕暮れだ。行きは早く感じた道も疲労が溜まった体ではとても長く感じた。
「じゃあ、報酬はあとで振り込んでおく。ワタシは忙しいのでこれで失礼するよ。」
「結果は聞かなくていいのか?」
「キミたちにかけた魔法があっただろう。アレは実の所キミたちの様子も見れるスグレモノだったんだよ、結果は聞かなくてもわかるさ。」
「なるほど…って、そこの説明は必要だろ」
じっと睨むトモカズを前にケラケラと笑う女
「すまないね。」
そう軽く謝罪するとステラに向き直る
「いいモノは見れたかい?」
「……」
「そうかそうか、ならよかったよ。」
「じゃあね、ディユシエル。またどこかで会おう。」
そう言い夕日に解けるように去っていく女
「…考えすぎか。」
「どうしたの?トモ、ステラ。なんか様子変よ。」
「ううん、なんでもないよ。」
「俺も特には。今回の依頼は依頼者同行だったからギルドには寄らなくていいしイザベルまで歩いて解散するか。」
「そうね、明日はどうする?」
「休みでいいだろ、休息大事だぞ若者。」
「そんなに歳変わらないわよ。もう」
「ごめんごめん」
なにかを考え込む少女。うん、と1つ頷き、先に行った彼らの後に続いた。
くじらのはらです。時間少々遅れて申し訳ございません。
ステラ、なにを思い悩んだのでしょうかね。
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