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『報酬』 遭遇

「ちょっと!なによこのダンジョン!!」


女の怒号が響き渡る。

文句を言いながらダンジョンの中を駆けている男女。


「俺だってこんなに敵がいるなんて聞いてねぇ!!」


大量のスライムに追われながら叫ぶ。


冒険者の2人は冒険者ギルドでダンジョンの攻略、お宝の回収の依頼を引き受けた。そうして洞窟のようなダンジョンに潜っていた…。


だが、男が宝箱に気を取られ(トラップ)に引っかかったばかりに、このような惨状を招いた。


「こんなに大量のスライムが出てくるならこんな依頼受けたくなかったんだけど!?!!」


焦りながらも口は達者に回る。

そもそもこんなにスライムが出るなんて説明されていないのだ。


「騒いでないでスライム倒すぞ!!」


男は覚悟を決め急停止する。

その勢いのまま剣先をスライムの大群へ。


「わかってるわよ!」


女もそれに応え、魔法の杖を敵に向ける。


「ヴズルイフ!!!」



ドゴーン!!!!



爆音がダンジョン内に響き渡る。

スライムの軍勢は1部が溶けてしまった。


彼らは平凡な冒険者、故にスライムなどはお手の物。

ドタバタと騒がしくも焦ることはなく。


切る、斬る、斬る。斬っても斬っても切れぬことのないスライムの軍勢に息を荒らげつつ着実に数を減らしていく。


そして


「はぁ、はぁ……やっと終わったかしら……」


走り続け、魔法を撃ち続けた女。


「ぜぇ……ぜぇ……疲れた……」


目の前のスライムを叩き切ること以外頭になかった男。

両者の額……否、全身には汗が滲んでいる。


ようやく終わったスライムの襲撃。2人は息を切らしてその場に座り込んだ。


「そもそも、あんたが宝箱に気を取られすぎて簡単なトラップに気づかなかったのが悪いんでしょ!」


女は声を荒らげる。どこかの男のせいで危うく死にかけたのだ、怒るのも無理は無い。


「だってお宝だぞお宝!冒険者たるものお宝は回収しないと……」


男も負けじと反論する。目の前の宝箱に食いつかないなんて冒険者の恥!と言わんばかりに。


「でも今回の依頼には必要ないでしょ?中身もガラクタだったし」


冷静に女が言い放つ。それもそのはず中身は古ぼけた魔術書が1冊入っていただけだったのだ。


「はい、すみません。とりあえず今のスライムのことも記録しておくか」


と言うと男はスマートフォンを取り出し、文字を打ち込む。冒険者ギルドの情報版に書き込み共有するのだ。


「えぇ、そうしましょう。でも、依頼の文書にはあの大量のスライムに関する記載はなかった気がするけど」


女は考え込む。


「冒険なんてそんなもん!イレギュラーの方が燃えるだろ!」


明るく言い放つ男に呆れたのか、女はそれ以上話を進めなかった。


その後も会話を交しながら奥へ奥へと歩みを進めていく2人。


階段を登り、坂道をくだり、ハシゴを登り、坂道をのぼり、川を渡る……。


そしてたどり着いた先、そこにあったものは。


「お、これが今回の攻略のお宝か?」

「にしては…大きすぎない?」


首を傾げる2人。


地図(マップ)に書かれている場所はここで合っている。だが目の前にあるのはただの木箱。

人1人入れそうな大きさの立方体の箱、華美な装飾があるワケでもない至って普通の箱。

なぜここにあるのか、どのようにして運ばれたのかすらも検討がつかない。


「ねぇ、これを持って帰るってどうするの?」


女は問う。縦横2mはありそうな箱を持ち出す術は思いつかない。


「この箱ぶっ壊して中身取り出してみるか?」


ぶっ飛んだ提案をする男。にへらと笑いながら言い放った。


「そんなことして中のものが壊れたらどうするのよ」


女は男を冷たく睨む。


「たしかに……。てか、これ中になんか入ってんのか?」


気にしてない男はそのまま続けた。


無機質な木箱に生命の温もりはひとつも感じられない。


「蓋も扉もないし、なにか入れようと思っても難しいわよね……」


「「うーーーん……」」


どうなってんだ、と考えながら男は箱の側面をノックしてみる。


「お、中になんか入ってるっぽいぞ」


中で音がくぐもっていた。空ではないようだ。


「中身自体はあるのね。そしたら箱を丸ごと破壊するわけにもいかないし……」


「じゃあ箱の板の角の部分に空間作ってこの剣で1箇所斬ってみるか?」


唐突に浮かんだアイデア。実行するのに時間かからない、リスクもあまりない。


「そうしましょうか。トモ、頑張ってね」


名案だと言わんばかりの声色で女は同意し、剣を持っている男に任せた。


「おう、危ないかもしれないから一応離れとけよ」


一応の忠告を済ませ、男は木箱に近づいた。


立方体の箱の角に傷をつけ、慎重に剣を差し込み、少しずつ切っていく。丁寧に、中のモノに傷をつけないように刃を下へ進めていく。


そして1面切り終え、箱の中を見る。


2人は唖然とした。


箱の中に、長い髪の少女が座っていたのだ。



「は、エルフの子供?」


箱の中には小さく縮こまるように座る少女の姿。

肌は青白く、皮と骨ばかりの痩せ細ったカラダ。

首、両手首には金の腕輪が嵌められていて、少女の身に対して随分重たそうに見える。


そして、特筆すべきは長いエルフの耳。

上級魔族がなぜこのような箱に、そんな疑問を2人は抱く。


「報酬にエルフ……ちょっと依頼書見せて?」


疑問に思った女が男に要求する。


「あぁ、これだ」


男は女に依頼内容が書かれた紙を手渡す。


「えっと……お宝、立方体の木箱…………。本当にこれしか書いてないわ」


確認し終えた女が呟く。


「とりあえず連れて帰るしかない、よな?」


終わりの見えない驚きを抱きつつ、男は確認する。


「そうね。あなた、自分の名前はわかる?住処は?」


──はじめてみるせかい、ここはどこだろう。


「聞こえてる?名前を教えてほしいんだけど」


─わたし、どうしてここにいるんだろう。


──つかれた、ねむたいな。


「ちょっと!?ねぇトモ、この子倒れちゃったわよ!」


焦る女が男に話す。


「衰弱か?とりあえず携帯食料と水分補給!!頼めるか?」


男は焦りつつも冷静に対応する。どうして急に倒れたのかわからないが、今は救助の方が大切だ。


「了解!」


エルフの少女を仰向けに寝かせ、冒険者の携帯食料と水を口移しする。

食料と水分のおかげか、先程まで浅かった呼吸が少しずつ落ち着いていく。


「これで少しは落ち着いたわね、安心」


目を閉じて一定のリズムですーすーと軽い寝息を立てるエルフの少女。


「にしてもわけわからん子供だな……身元がわからないとなると下手に連れて歩けないし」


身元不明の魔族を連れて歩く、となれば誘拐の可能性も有り得る。

下手をすれば自分達に罪を着せられる危険性だって存在するのだ。


「うーん……。そうね、ダンジョンで倒れていたところを保護したって名目なら問題はないかしら」


少女の痩せ細ったカラダ、ボロ布のような服。

何日もダンジョンを彷徨っていたと言えばまぁそんな気がしてくるだろう。


「ちょー名案!それでいこう」


男もその案に乗り、少女を抱き抱えてダンジョンをあとにする。



光が差すダンジョンの入口、先を歩く男の背には少女がいる。


「……あら?」


後ろに気配を感じて振り返る。


洞窟の奥には暗い闇が広がっているのみで、なにもいない。


「おい、なにぼけっとしてるんだ。置いていくぞ」


男の声で我に返った。


「あ、ごめんごめん……」




遠くで、かすかに笑う声がした。






──気がした。

はじめまして、くじらのはらと申します。

処女作です。たのしんでね

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