第88話:できる男(竜)
諸事情で更新が遅れてすみません。
来週中には元のペースに戻れると思いますので少々お待ち下さいませ。
◆◇◆◇ ジル視点 ◆◇◆◇
我はリリーとルルーが今いるこの試練の地をまるごと神域化してやることにした。
この神域化により、ここは外界とは断絶され、時が緩やかに流れる一種の異界と化す。
さらに、この神域化した世界の時の流れで、約一年ほどで神域化が自動的に解除されるように魔法も追加しておいた。
この既に完成した異界に後から手を加える技術は、中々普通の神々ではできんだろう。ふっふっふ。だが、我は魔法神だからな。他愛もない。
ちなみにこの神域で何年過ごそうが歳はとらないようにも追加しておいた。
これでリリーとルルーが年老いることもない。
ふっふっふ。人種は寿命が短いのでな。その辺りの気配りに抜かりはないのだ。
我は人の暮らしや生き方について勉強したのだ。
だというのに……なぜかリリーとルルーに説教をされてしまった。げせぬが、人種の女は感情に流されやすいと聞く。仕方ないのだろう。
我は寛容なので許すのだ。
≪わかったわかった。次からは事前に説明してから神域を展開すれば良いのだな。気をつけよう。とりあえず水と食料などはこのアイテムボックスに入れ替えておいたから飢えることはないはずだ≫
「いや、事前にとかそういう問題じゃ……」
我は次元収納から水と食料などを詰めたアイテムボックスを取り出してリリーに渡してやる。
気配りのできる竜になれと日頃から言われておるからな。
準備も万端である。
「なんでしょう……。至れり尽くせりなので感謝しないといけないのですが、なぜか、とても、すごく、どうしても釈然としません……にゃ」
やはり女心はよくわからぬ。
ただ、我まで神域いては暇を持て余してしまう。
さっさと出ることにするか。
≪体感で約一年後に自動的に神域が解除される。これから一年間、修行に励むのだぞ≫
セツナがなんだか悲しそうな目でこちらをみていた気がするが、獣の表情というのはよくわらぬ。口元がひくひくしている気もするが……気のせいか。
こうして神域を出た我は、フェアリードラゴンサイズになって飛び立つと、日当たりのよさそうな広場を見つけたので一眠りすることにしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
うたた寝していると、コウガから我との繋がりを通して呼びかけが届いた。
まぁうたた寝といっても本当に寝ていたわけではない。我は眠る必要がないのでな。それっぽい仕草をしていただけだ。
最初は形から入るのもありだとリルラが自慢げに語っておったからな。
しかし、これで二度目だな。
コウガからの竜気功のサポート依頼だ。
ちなみに我と主との間には絆があるのだが、遠隔での念話だけでなく、なんとかそれを利用して竜気の補助などできないかと思い、魔法を生み出しておいたのだ。これはなかなか便利だ。さっそく役に立っておる。
今ではどれだけ距離が離れていようと楽々となんでもできるようになっておる。
まぁ前からちょっと頑張れば出来たのだがな。
必要は発明の母……といったか。
いい言葉を教えて貰った。これは本当に楽で良い。
『ジル! もう一度遠隔サポートを頼む!』
その声に合わせてコウガが内に秘めていた魔力を高めていく。
我が絆を通じてその流れをそっと誘導するように魔法陣を組み上げるサポートを行うと、見事に竜気功が発動した。
≪うむ。一度ならず二度も竜気功を使うとは、それなりの敵が現れたという事か≫
我は独りそう呟くと千里眼にて主の様子を伺う。
≪む……? このアスなんとかという奴とビフなんとかという奴から、どこか懐かしい気配がするぞ≫
我は千里眼を発動させると、その精度をさらに上げていき、その魔族の力の根源を見極めていった。
≪おぉ!? やはりこの気配は彼奴であったか!≫
久しぶりに感じたその禍々しい気配に、我はちょっと嬉しくなる。
しかしそれと同時に、これからどう動くべきかと頭を悩ますことになったのだった。
◆◇◆◇ コウガ視点 ◆◇◆◇
オレはジルの遠隔サポートを受けて魔法陣を組み上げると、集中を高めていき……。
≪滾れ! 『竜気功』!≫
いつもの全能感に包まれた。
「ここで決めさせてもらう! 黒闇穿天流槍術、【幻月】!」
オレは最近ようやく実践レベルで使えるようになった【幻月】と言う名の究極奥義を発動した。
この【幻月】とは、高速で移動しながら突きを連続で放ち、そこに虚実を混ぜた無数の姿を映し出すという奥義だ。
敵からはオレの姿が幾重にもぶれて見えており、虚空に映し出された幻が如く、そこから虚実を混ぜた突きを次々と繰り出していく。
「ぐがぁ!? なんだそれは!?」
最初のいくつかの突きは、その尋常ならざる身体能力と野生の勘で躱していたアスタロトだったが、すぐに躱し切れなくなり、そこに杏と柚が加わったことで完全に防戦一方となった。
それからわずか数分。最後に驚異的な粘りを見せたアスタロトだったが、とうとう膝から崩れ落ちた。
そして、今まさに止めを刺そうとしたその時だった。
「かはっ!?」
後ろから杏と柚がオレに体当たりしてきた。
いったいなにが!?
「えっ!? いったいなんなんだ!?」
幸い竜気功の守りのお陰でダメージはまったくなく、そのまま前転して受け身をとって立ち上がったが……どういうことだ?
腰に抱きついていた杏と柚を振りほどくと、すぐさまアスタロトの方を見て身構える。
するとそこには身の丈一〇メートルを超える怪物の姿が……。
「ぐがぁががが!? デドラポドざまぁ!! いっだいなにをずるのでずが!?」
どうやらその怪物はアスタロトで間違いなさそうだが、どうも自ら進んで巨大化したというわけでもなさそうだ。苦痛に顔を歪め、もがき苦しんでいた。
杏と柚は危険を感じ、オレを助けようとしてくれたのか。
するとそこへ、ほかの者たちも集まってきた。
≪コウガ様! ちょっとこっちも不味いかも!?≫
状況を見極めるために一旦距離を取っていると、ちょうどそこへ、先ほどビフロンスを抑えてくれた高位妖精のセイルと、退避していたはずのヴィーヴルたちが集まってきた。
「コウガさん! 大変です! 迷宮が活性化してとんでもない数の魔物が!」
「どこも魔物がすごい早さでわきでてきている! もう逃げ道がないぞ!」
ヴィーヴルたちが元いた方に視線を向けると、牛の頭を持ったミノタウロスのような大型の魔物を中心にした、すごい数の魔物が次々にわき出していた。
「いくら迷宮だからってこんな数の魔物が一度にわくなんてありえねぇよ!」
≪こっちもスケルトンを中心とした下位のアンデッドたちだったのが、徐々にデスナイトなどの高位のものに切り替わってきちゃって……≫
その言葉を受けて今度はセイルの元いた方を見てみると、おそらくスケルトンナイトよりも高位な、灰褐色の禍々しい鎧に身を包んだデスナイトの姿が見えた。
いきなり窮地に追いやられつつある。だが、なぜかオレの前ではビフロンスがもがき苦しんでいる。
「いったい何が起こっている……?」
そう呟いたその時だった。
「かっかっか! 魔王降臨なのだ! 妾の力の前にひれ伏すがよいぞ!」
とても場違い感半端ない言葉遣いの自称魔王が現れたのだった。
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