第84話:カリンちゃんの憂鬱 その5
◆◇◆◇ カリン視点 ◆◇◆◇
私は終わらない研修中の冒険者ギルド受付嬢見習いカリン。
受付嬢としてはまだまだなのですが、ただ、コウガさんたちA級冒険者パーティーの担当ということで私の評価はかなりあがってきています。
これは、ネバーエンディング・トレーニングと揶揄される私の研修が終わるのも間近では?
今の私があるのはコウガさんたち『恒久の転生竜』さまさまなのです。
でも、最近はそのコウガさんたちが王都に行ってしまっているので、仕事内容は雑務が大半に……。
まぁこっそり『恒久の転生竜』名義で依頼はこなしていたりしますが、それは妖精さんたちが片付けてくれているので私は特に何か仕事をしているわけではありません。
そんなちょっとばかり退屈な時間を過ごしている時でした。
書庫に重要な討伐依頼関係の書類を取りにいっている一人の時でした。とつぜん妖精さんが私の目の前に現れたのです。
妖精さんはギルドでは滅多に姿を見せないので驚きました。
なにか緊急事態でしょうか?
「あ! クイちゃんじゃない。ギルドに現れるなんてどうしたの?」
その妖精さんは、今では私の無二の親友となった妖精女王のクイちゃんでした。
私は嬉しくてクイちゃんに駆け寄るといつものように抱きしめたのですが、どうも反応がいつもと違います。
いつもなら≪カリンちゃ~ん♪≫って抱きしめ返してくれるのに……。かなしい……。
≪カリンちゃん。カリンちゃん。悲しまないで! それよりちょっとコウガ様が不味いかもしれないの!≫
「え!? コウガさんが!? 何があったの!?」
≪実はね……≫
幻影を交えて報告を聞いてみると、今ちょうどコウガさんが戦っている魔族というのが、【竜殺し】というコウガさんと非常に相性の悪い能力を秘めたギフトを持っているらしいのです。
ちなみに邪神が降臨しているのは前に報告を聞いているので知っていましたし、魔族なのに邪神からギフトを授かっている者が現れたというのも知っていたのですが、そのギフトの能力はちょうど調べて貰っているところでした。
「それで、そのアスタンとかって魔族のギフトは具体的にはどんな能力なの?」
≪アスたんって……可愛いけどアスタロトね。そいつのギフトはね。発動すると一定範囲内の竜気や竜言語などを無効化する能力みたいなの≫
すこし詳しく話を聞いてみると、その能力が発動されている間は、発動者を中心にかなりの広範囲にわたって竜気や竜言語などを無効化するらしいのです。
竜気が無効化されるということは竜が纏っているある種の防御障壁が無効化され、竜気により硬度のあがっていた鱗が柔らかくなったり、力までもが削がれて動きまでもが鈍くなるというのです。
これが竜ならまだ肉体的な強さはある程度残ることになりますが、竜人の場合は竜化ができなくなり、ほぼ普通の人になってしまうとか。
そして竜言語まで無効化されるので、ブレスや身体強化などの竜言語魔法も発動できなくなるらしく、竜人を強者たらしめている二大能力が完全に封じられることになって、大幅な弱体化をされてしまうということでした。
「そうなるとコウガさんの切り札も使えないということになるのね……」
私が把握しているコウガさんの切り札は、どれも竜気や竜言語魔法によるものです。
これは困りました……。
このアスたんとか言う魔族がいる限りコウガさんの苦戦は必至です。
まぁでも、コウガさんも黒闇穿天流槍術の免許皆伝ですし、神が創りし雷槍『ヴァジュランダ』や数々の伝説級、神話級の装備を身に着けていますから、互角には渡り合えると思うのですけどね。
≪そうね。コウガ様は基礎能力も高いからそうそう負ける事もないとは思うのだけど、相手も『邪神の加護』でステータスがかなりアップしているはずだから、かなりの苦戦を強いられるかもしれないわ≫
そかぁ~。コウガさんも強力な邪竜の加護を持っているから大丈夫だとは思うんだけど、やっぱりちょっと心配です。
「困ったなぁ。コウガさん大丈夫かなぁ……。あ! そう言えばさっき見せてもらった映像だと、もう一人魔族がいたよね?」
≪そうだよ。でも、そっちは大丈夫! もう手を打ってあるから!≫
うん。内容を聞いてみると、もう一人の魔族の方はクイちゃんに任せて大丈夫そう!
ふふふ、ちょっと安心しました♪
「まだちょっとコウガさんのことは心配だけど、一対一ならきっと負けないよね? あっ! そうだ! クイちゃん! ……………………だけお願い!」
≪ふふふふ。わかったわ! それじゃぁ早速作戦開始ね!≫
こうして『コウガさんの邪魔するものは何者も許さないよ!』大作戦が開始されたのでした。
ちなみに後日、こっそりやろうと思ってて書庫に置き忘れた『ゴブリンキング討伐依頼』を誤魔化すために、別の緊急大作戦が決行されたのは内緒です。
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