第83話:唯一の可能性
オレはアスタロトの一撃を受け流して逸らすと、今度はこちらの番とばかりに反撃を始める。
「黒闇穿天流槍術 閃光!」
技を次々と繰り出していくがそのすべてはことごとく防がれる。
だが、最初からこんな単純な攻撃で倒せるとは思っていない。想定内だ。
ザイルは動揺している上に竜化が解けていて、とてもアスタロトと戦える状態ではない。
ほかの四人も死んでこそいないがかなりの怪我を負っているようで、未だに立ち上がることもできていない。
今はすこしでも時間を稼がなければ!
「ザイルっていったか! 動けるなら今のうちに後ろに下がってくれ! 出来れば竜化しなおしてゼクトたちも頼む!」
そうして作り出した時間で、唯一怪我をしなかったザイルに他の五人の救出を頼むが、思うようにはいかなかった。
「くそ!! なんでだ!? 竜化できねぇ!」
竜化し直して倒れている仲間を助けようとしているが、やはりなぜか竜化できないようだ。
「ザイル! いったん竜化はあきらめて手分けして運びますよ! ここにいてはコウガさんが思うように戦えません!」
ヴィーヴルも竜化が出来ないようで、そのまま倒れているゼクトたちの方へと駆け寄っていくが、今度は周りに次々と不死の魔物が現れだした。
くっ……ビフロンスって奴も動き出したのか!?
「きゃぁ!?」
突然現れたスケルトンやゾンビどもが、倒れているゼクトたちのところへと群がっていく。
「なめないで! 竜化できなくても竜言語魔法で蹴散らしてくれるわ!」
今度は竜言語魔法を唱えようとしたヴィーヴルだが、どうやらそれも使えないようだ。
「え!? 竜化出来ないだけじゃなく竜言語魔法も使えないの!?」
ヴィーヴルとザイルがゼクトたちを必死に守るが、完全に包囲されつつあり、このままでは危険だ。
「くっ!? 【雷鳴】! 今のうちに……」
アスタロトと接近戦を演じながら無理やり放った雷が、ヴィーヴルを囲んでいた雑魚どもを一掃する。
しかし……その隙を見逃してくれるほどアスタロトは甘くなかった。
「仲間をぎにするどは余裕じゃねがっ!」
アスタロトの放った回し蹴りがオレの頭を打ち抜こうと放たれる。
まずい!?
いくら強化された今の体でも、これをまともに喰らえば頭が砕け散る!!
回避も受けも間に合わない!
オレは咄嗟に奴の懐に踏み込むと、打点をずらして威力を殺してなんとか肩で受けとめた。
だが、それでもとんでもない衝撃が襲ってきた。
「ぐぁっ!?」
威力を殺してしっかり肩で受けたはずが、気付けば迷宮の壁まで吹き飛ばされていた。
ジルから貰った防具がなかったら危なかったかもしれない。とんでもない膂力だ。
「きゃぁ!? コウガ!!」
遠くでヴィーヴルの悲鳴が聞こえるが、ちょっと今はそれにこたえる余裕はなかった。
「ぐっ……!?」
不味い! 左肩が砕かれたか!?
なんとか痛みに耐えて起き上がるが激痛が走る。
伊達に破壊王とか呼ばれてないな。
威力を殺して受けたにもかかわらず、今のオレの頑丈な体でここまでのダメージを受けるとは思わなかった。
「よぐ凌いだなぁ。でも、もゔごれで終わり"か?」
まだなんとか動けそうだが、この怪我のまま戦って勝つのは難しい。
奴はこちらを舐めていて本気になっていないからまだなんとかなっているが……。
それに、今は『不死王ビフロンス』の方は雑魚を適当に召喚しているだけで静観しているが、いつ気が変わって本格的に参戦してくるかわからない。そうなれば詰む。
吹き飛ばされて距離が開いた隙に、奥の手の竜気功が使えるか試してみたが、竜人たち同様にやはり竜言語魔法は使えなかった。
今は、さっきこっそり口に放り込み、噛み砕いたクコの実の効果が出るまで時間を稼ぐしかないか……。
ある程度回復したら、あとは黒闇穿天流槍術を駆使して、オレ本来の力だけで何とかしなければいけない。
「痛ぅ……しかし、まさか間合いをずらして威力を殺して受けたのに、ここまでダメージを受けるとは思わなかった」
何とか三分……いや一分でもいいから時間を稼がないと。今追撃されたら防ぎきれずに押し切られる。
「それに竜人たちの力を封印するような魔道具でも持っているのか?」
オレはヴァジュランダを右手だけでくるくると回しながら、時間をかけてアスタロトの元まで時間をかけて歩いていく。
倒れているゼクトたちの方には不死の魔物たちは向かっていないようだし、半数はさっき雷鳴で蹴散らした。今のところはヴィーヴルたちの方も大丈夫そうだ。
「ざぁなぁ? 知りだがったら俺をだおじでみろ」
そうだ。会話に食いついてきてくれ……今はとにかくすこしでも時間を……。
「まぁ倒さなくてもなにをやったかはだいたいわかるんだけどな……ギフトだろ?」
「え!? 魔族がギフトなんてありえないわ!!」
えっとヴィーヴルが食いついてどうする……。
でも、驚くのも無理はないか。
ギフトとは本来人族が魔物や魔族に勝てる唯一の可能性であり、希望なのだから。
「ほう……アスタロトみたいに筋肉馬鹿じゃないようですねぇ」
アスタロトは早く戦いたいみたいであまり反応は良くなかったが、ビフロンスの方が話に付き合ってくれそうだ。
「あの体が発光する現象……あれはギフトの光り方だ。でも、オレたちのとは色が違う。つまり邪神が復活するか、復活が近いってところか? おそらく邪神から加護でも得たってところじゃないのか?」
ヴィーヴルたちから聞いた邪神の復活の話。
先ほどのザイルの竜言語魔法が無効化された瞬間にわずかに見えた、アスタロトの体が発したほのかな光。
たぶん間違っていないだろう。
ただ……そのギフトがどういったものかが問題だ。
「ほう……貴方はいったい何者ですか? 竜人ではないようですし、ただの冒険者でもなさそうだ」
時間は稼げて左肩はだいぶん回復した。
しかし、ここでちょっと誤算が生じた。
ビフロンスの気配が徐々に剣呑なものに変わってきたのだ。
はたしてこのまま静観しててくれるかどうか……。
「何者と言われてもな。それよりそのギフトは何なんだ? どうせオレが知ったところでオレが負ければ死ぬし、オレが勝てば意味のない情報になるだろ?」
「調子に乗るな。そんなこと教えるとで……」
「聞いで驚け! おでさまのギフどは【竜殺し】だ!」
アスタロトが即答で教えてくれた。だが、そのギフトは竜人やオレには最悪のものだった。
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