第80話:朽ちた遺跡の真実
「あくまでも状況からの推測なんだけど……どうやら魔王が邪神を降臨させたようなの」
一瞬言っている意味がわからなかったが、何度か頭の中で言われた言葉を繰り返してようやく理解できた。
「邪神を降臨って……」
ジルから名前ぐらいは聞いたことがあるが、魔王みたいに強いだけの存在じゃない。もう神話に出てくるような存在じゃないか!?
「そうよ。信じられないような話だけど……でも本当なの。邪神か、少なくともそれに近い存在が降臨されたのは間違いないと思うわ」
「俺たちなりにいろいろ探ってみたところ、その邪神というのを降臨させるためにはとてつもない数の死を贄とする必要があるようなんだが……」
「しかし、おかしいんだよな~」
「ん? なにがおかしいんだ? そもそも、そのとてつもない数の死って言うのはそんなにすごい数なのか? それに死っていうのが天寿を全うした者でも贄に含められるのならそこまで難しい条件では無くなってしまいそうだが……」
すくなくともオレの知る限りでは、魔王軍に比べてこちらの被害はかなり少ない。
もしかすると、その贄を用意するために攻めてきたのがあの魔王軍だったのかもしれないが、でもそれもジルがすべて返り討ちにしている。
だから普通に亡くなった者も贄にされてしまったのかとすこし怖くなったのだが、どうやら違うようだ。
「そこがおかしいとこなんだよ! なんせその贄にするのは、その死に痛みを伴う者たちでないといけないらしいんだ!」
「痛みを?」
「簡単に言うと敵ではダメってことだ」
敵ではダメってことは……。
あれ……? 今、すごい悪寒が走ったのだが……。
「邪神降臨の儀式のことが書かれた古い書物を見つけたんだけど、それによると魔王軍目線でいう味方、つまり魔王軍側の魔物や魔族でないと贄として扱われない。しかも無意味な死も駄目らしく、争いの中で亡くなった者の死じゃないといけないらしい」
「しかもその数、聞いて驚け、すくなくとも一〇万とかいう馬鹿げた数の贄が必要らしいんだぜ!」
俺たちも一万の魔王軍を退けたけど、全滅させたわけじゃねぇし……と首をひねっている。
あ、あれ……? その贄になんだか心当たりがあるんだが……。
「コウガさん? すごい汗ですけど大丈夫なの?」
もしやさっきの『竜気功』には代償が!? などとヴィーヴルが騒ぎ出した。
贄の話とかしてたので連想したのかもしれない。
いや、そんなことは今はどうでもいい。
どうする……?
後で知られたら関係が拗れそうだし、ここは正直に話しおくべきか……。
「えっと……落ち着いて聞いて欲しいんだが……。実は、その贄ってのに心当たりがある」
「「「え?」」」
「オレの相棒が、魔王軍十九万ほどを全滅させていたりする……」
「は? 魔王軍十九万を?」
「そう。魔王軍十九万を」
「え? 全滅?」
「そう。全滅」
「「「えええぇぇぇーーー!?」」」
オレはヴィーヴルたちの絶叫を聞きながら、引きつった笑みを浮かべることしかできなかった……。
それから根掘り葉掘りめっちゃいろいろ聞かれたのは言うまでもない。
三十分ほどかけてようやく一通りの話が終わった……。
「嘘をつく理由もないし、きっと本当のことなんでしょうけど……」
「どうせ嘘を吐くならもう少し現実味のある嘘つくだろ?」
「俄かには信じられんが……でも本当の話なんだろうな……」
「「「あの泣く子も黙る伝説の邪竜なら」」」
どうやら大昔、竜人たちの集落近くに正気を失っていた頃のジルが現れたことがあるらしく、名前を出したら畏怖と共に信じてもらえた。
ジル、いったいなにした……?
正気を失っているジルとか想像すらしたくないんだが。
ちなみに竜人の集落では、みんな子どもの頃に「悪いことをしたらジルニトラが来るぞ~」と言われて育つそうだ。
いや、ほんと、なんかうちのジルがごめん……。
「お爺様に聞いた話では、なんでも二千年前にふらりと現れて大暴れしたそうよ。その時に、この深き森にあった文明が絶滅させられたみたいで、今、森のあちこちに遺跡や遺構が点在しているのは、その文明のものなんですって」
今明かされる朽ちた遺跡の数々の真相……。
うん、聞かなかったことにしよう。
「そ、そうなんだ……はは、ははははは……」
引き攣った笑顔でそうこたえると……。
「でも、その文明ってかなり邪悪な文明だったみたいだから気にしないでいいと思うわ」
滅ぼされた文明ってのが他種族を支配して、逆らうものはすべて殺すか奴隷にしていたような奴らだったみたいだ。それなら天罰ってことでここはひとつ……。
「そ、そうか。うん……それなら……いいのか?」
とりあえず良かったということで……いや、良かったってことにさせて……。
「しかし、コウガはギフト自体もとんでもないが、そのギフトで従えているのが邪竜ジルニトラと竜姫ヴィーヴル様というのが、なにか運命のようなものを感じるな」
ん? どういうことだ?
ゼクトだけでなく、他の竜人もその言葉になんだか納得しているような感じだが、意味がわからない。
「ゼクト? どうしてその二人を従えているのが運命って話になるんだ?」
「あ。そう言えばこの話は俺たち竜人以外には伝わっていないんだったか」
「そうね。私とコウガさんが結ばれる運命だって話かな。わかった?」
「いや、違うだろ」
とりあえずヴィーヴルには即答したうえで、ゼクトに説明して欲しいと視線を向けた。
「ところがヴィーヴル様が言ってることもあながち間違いってわけでもない……かもしれない。ヴィーヴルの名は代々姫様に受け継がれているんだが、その名はジルニトラに仕えた古代竜ヴィーヴルの名から頂いたものと言われているんだ」
ゼクトはそう言って一度話を切ると、オレの方を向いて話を続けた。
「そして受け継いだのは名前だけじゃない。ヴィーヴル様は数千年に一度訪れる『竜昇る日』に生まれた……古代竜ヴィーヴルの生まれ変わりなんだ」
「え……生まれ変わり……?」
一瞬自分の前世のことを思い出してドキッとしたが、オレとはまったく違うことのようだ。
ゼクトが言うには、大昔、神代にジルに仕えていたヴィーヴルと言う名の古代竜がいて、その生まれ変わりが今目の前にいる竜人のヴィーヴルだというのだ。
でも古代竜が竜人に生まれ変わったりなんかするものなのか?
まぁオレ自身が異世界から転生しているわけで絶対ないとも言い切れないが。
「種族の枠を超えた転生なのか。でももし生まれ変わりだというのなら、前世の古代竜の時の記憶とか竜格も受け継いでいるのか?」
古代竜なんか寿命がとんでもないことになっているだろうし、その記憶なんて恐ろしいことになっていそうだ。
いくら竜人と言えども、基本は人の身みたいだし大丈夫なのか?
そう、心配したのだが、その疑問にはヴィーヴルが答えてくれた。
「記憶や人格までは受け継いでいないわ。ただ、知識を受け継いだの」
悠久の刻を生きる古代竜の知識を受け継いでいるってすごいことなんじゃ!?
古代竜の知識、つまり古代文明の知識を……あ、オレの相棒って古代どころか最古の竜とか言ってたな……。
なんだろう……この、驚きたいのに驚けない悶々とした気持ちは……。
「ちなみに、その古代竜ヴィーヴルとすでに竜の眷属だった人族が恋に落ちて生まれたのが我らが竜人の始まりなんだ。その後も竜の血は力が強いのでな。竜人と人との間にできた子もみんな竜人になる」
「そういう訳だから私とコウガさんは運命なのよ♪」
ヴィーヴルが嬉しそうにはにかむと、竜化を解いて一人の少女の姿となった。
淡い光を纏ったかと思うと、光がおさまった時には既に人の姿となっていた。
その姿は長い真紅の髪に赤い瞳の少女。
勝ち気な性格が顔に出ているが、間違いなくリリーやルルーにも負けない美少女の姿をしていた。
「あれ~? もしかして私のこと見惚れていました~?」
年相応の少女の笑みを浮かべ、まさしく花がはじけるような可憐な姿をしていた。
オレも何か言い返そうかと思ったのだが、ほんとにちょっと目を奪われたのは事実。だから上手く言い返せなくて、そのことを素直に認めて謝った。
「いや。参ったな。そんなことあるかと言い返したいところだけど……一瞬見惚れてしまっていたかもしれないな。わるい」
オレがそう言って苦笑しながら頭を下げると、ヴィーヴルは素直に認められるとは思っていなかったのか「ぼんっ」という音が聞こえそうなほどに顔を真っ赤にして焦りだした。
「そそそ、そうよね! じゃじゃ、じゃぁ私がついて行くことに、もも問題はないわね!!」
「いや? それとこれとは話が別だから……」
即答すると、今度は怒りで顔を真っ赤にして……。
「ぜぇぇぇったいに着いて行きますから!!」
と、叫んだのだった。
お読み頂きありがとうございます!
すこしでもお楽しみ頂けましたら、励みになりますので
ブックマークや★評価などによる応援をよろしくお願いします!
※評価は↓広告の下にある【☆☆☆☆☆】をクリックでお願いします
※旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっています




