第77話:ふたたび
「だから! ちゃんと契約の解除を望んでください!」
「いいえ! このヴィーヴルが一生コウガさんを守って差し上げます! だから素直にお受けなさい!」
予期せぬ形で契約を結んでしまった竜人のヴィーヴルと何とか契約を解除しようとしているのだが、先ほどからずっとこの調子で埒が明かない。
「ちょっと! そこで見てないでなんとか言ってくれ!」
「コウガよぉ。竜人の女ってのは強い奴に自然と惹かれるんだ。その上、一度惚れると竜ってのは生涯つがいでいるものだからよぉ」
周りでただ見守っているだけの他の竜人たちにも言葉をかけるが、既に諦め気味で手助けひとつしてくれない。
姫様って呼ぶぐらいだから、それ相応の立場のお嬢様だと思うのだが、そんな適当な態度でいいのか? こういうのも種族の文化の違いなんだろうか……。
そして、とうとう一番の話がわかりそうなゼトラまでもが匙を投げた。
「コウガ。すまないな。竜人の恋にはたとえ親でさえ口を出せない掟になっているんだ」
はぁ!? なんだその変な掟は!?
「ちょっと待ってくれ! そもそもヴィーヴルは最初オレのことを見下してたじゃないか! ギフトが何か作用して、それでオレのことを好きになったと錯覚してるんじゃないのか?」
もし仮に本当にオレに惚れたのなら話ぐらいは聞いてもいいかもしれない。
だけどさっき出会ったばかりな上に最初は人族を見下していたヴィーヴルが、急にそわそわしだしてオレに惚れたとか言われても、どう考えてもギフトの副作用な気がしてならない。
「そんなことないわ! 私がコウガさんに一目惚れしたのはギフトのせいなんかじゃない! 契約してから感じるの! その内に秘めた『竜気功』のすさまじい波動を!」
え? よくわからないが竜人の女性は竜気功に惚れるのか?
リリーとルルーが獣人の女性は強い男に惹かれる……とか言ってた気がするけど、それと似たような感じ?
ちょっと予想外な話に驚いていると、別のことに驚いたゼトラが話に割って入ってきた。
「な!? こ、コウガ! ドラゴンをすべることができるだけでなく、もしかして『竜気功』まで使えるのか!?」
「そうだな。ジルニトラのサポートが必要だけど『竜気功』を纏うことはできるよ」
まだ一人では纏えないのだが、練習を重ねたお陰でジルにすこしサポートしてもらえば一応は『竜気功』を使えるようになっている。
ただ、まだ制御が甘いので出力はかなり抑え気味だし、長時間は使えないが……。
「おいおいマジかよ!? も、もしかして……人族で竜気を纏えるってことは、まさかコウガは公国の王族なのか!?」
「いやいやいや!? 違うぞ!? 王族とかありえない! 普通の冒険者だ!」
「は? 普通の冒険者はドラゴンゾンビと単騎で渡り合ったり、ドラゴンをテイムしたり、竜気纏ったりできねぇから」
う……そう言われると反論できないのだが、でも公国の王族と無関係なのは事実だから、そこはちゃんと話をしておかないと。
「た、たしかに普通の冒険者じゃないかもしれないが、ただ、公国の王族ではないから! 変な噂でも広がって公国に目をつけられるのは勘弁だからやめてくれ。それから見ての通り、オレは竜人でもないからな」
「いや。見た目じゃ竜人かどうかなんてわかんねぇぞ」
ん? どういうことだ?
あらためて竜人たちを見てみるが、どう見ても一目でそれとわかる。
背中に生えた翼に大きな手足と鋭い爪、体を覆う鱗の鎧。
頭部こそほぼ人そのままだが、やはりどう見ても人族の容姿からはかけ離れている。
「コウガ。俺たちは竜化しなければ見た目は人族と変わらないんだ」
ゼクトがそう言って何か呟くと、光に包まれ、収まったときにはもう普通の人の姿になっていた。
「驚いたな……。たしかに今の見た目じゃわからないな。でも、オレは竜化なんてできないし、本当に竜人ではないよ」
「それはそうだろう。俺たちの一族以外で竜人は存在しないはずだ」
竜人のことがわかったし、オレが竜気を使えるからって竜人ではないことはわかってくれているようだが、問題はそこではない。
話を戻すが、ヴィーヴルをどうすればいいのかってことだ。
「そうなんだな。それならいいんだ。それで、オレはこれからどうすればいい? 正直ヴィーヴルに解除を承諾してもらえないと打つ手がないんだけど……。それに、依頼は片付いたけど、おそらく試験は失敗になってしまった。だからひとまず王都に戻りたいんだ。それで、悪いがそちらで解除の説得をして貰えないか? 承諾を取れたら冒険者ギルドに連絡をくれれば、オレがそちらの指定の場所に解除しにいくから」
ゼクトはその形で了承してくれそうだったんだが、ヴィーヴルがそれを許してくれなかった。
「なにを言ってるの! 私がコウガさんについて行くのは決定事項です! ぜっったいに承諾なんてしないんですからーー!!」
ややこしいことになったな……そう思ってため息をこぼしたその時だった。
オレたちは急に辺りが暗くなった。
「ん? なんだ?」
それは突然現れた。
振り返り、仰ぎ見るそこには空を覆う巨大な影。
先ほどの巨大なドラゴンゾンビをさらに上回る大きさのドラゴン。
いや……ドラゴンゾンビの姿がそこにはあった。
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