第63話:商会
みんな思い思いの店で買い物をし、屋台で色々なものを買い食いして市を楽しんでいた。
まずルルーは、宣言通りにチーズをホールで大量に購入していた。このパーティーだけで食べるなら毎日食べても数年かかるほどの量を……。
ただ、これはルルーの暴走だけが理由ではなく、チーズがあまり得意でないリリーまでもが美味しいと言うぐらい美味しかったからだ。なので、大量購入自体はパーティーメンバーの総意だったりする。
次にリリーは、聖エリス神国で流行っているという少し袖の部分などが透けているちょっとセクシーな服を何着か買っていた。それを眺めていたら顔を真っ赤にして照れていたのが可愛かったのも付け足しておこう。
そして一番楽しみにしていたリルラは魔道具に興味があるようで、オレが村を出る時にもらったのと同じ水の出る水筒や調理に使える高熱を発するプレート、それに魔力で虫よけの光を発するランタンなどを買っていた。
リルラは最近は料理にも興味を持ち始めていたので、そのうち何かご馳走してくれるのではないかとちょっと楽しみだ。
ちなみに虫よけランタンだが、森育ちの普通のエルフと違ってハイエルフは精霊界で過ごすことが多いらしく、虫が苦手な者が結構いるという話だった。精霊界には虫いないのね。
最後にオレは……みんなに感謝の気持ちということで、アクセサリーをいくつか内緒で購入した。これはそのまま渡すのではなく、後でジルに頼んである魔道具にしてもらうつもりだ。
「それなりの時間を一緒に過ごしていたのに、みんなの好きなものとか知らなかったな~」
「そうですね。コウガ様が意外と甘いもの好きだというのを初めて知りました!」
なんのことだと思ったら、そう言えば綿菓子のようなものを屋台で買い食いしたな。美味しかったので思わずもう一つ買ったのだけど、それのことを言っているようだ。
「そうだな。そこまで甘党ってわけではないんだけど、甘いお菓子とか村ではあまり食べれなかったから、その反動かな? たまにだけど無性に甘いものが食べたくなる」
この世界は前世と比べて食べ物の質は数段落ちる。素材自体は豊富で美味しいのだが、主に流通面の弱さと調味料や料理の種類が少ないためだ。そして砂糖も高級品とまではいかないが、毎日の調理に気軽に使えるほどは安くない。
「夢中で食べるコウガはちょっと可愛かった……にゃ」
「うん。食べ方が小動物みたいだった……にゃ」
「な!? そ、そんなことないだろ……」
うわぁ……そんな見られているとは思わなかった。ちょっと恥ずかしい。
「でも、それならオレよりもジルの方がずっと甘党じゃないか?」
「そうですね! ジル様四つも食べてました!」
ジルはその綿菓子みたいなお菓子がずいぶんと気に入ったようで、結局三回もおかわりしていた。
≪うむ……あのような甘いお菓子は初めて食したのでな。神代は甘いものと言えば果物ぐらいしかなかったのだ……≫
ジルも隠蔽魔法のお陰で一緒に買い物を楽しめたのだが、最近は食事を娯楽として楽しむようになっており、今日一番いろいろと食べていたのはジルだったりする。
もともと何も食べなくても生きていける超常の存在なのだが、オレたちと一緒に過ごすようになって二週間ほど経った頃だろうか。みんなでの食事中に、一人なにも食べないジルが気になり「ジルも試しにちょっと食べてみないか?」と串焼きを食べさせたのをきっかけに、それ以来すっかり食べることにはまっているのだ。
「昔っていつの話だ……。いや、やっぱり聞くの怖いから言わなくていい。まぁ何にせよ、今日は楽しかったな」
話をそう締めくくって宿に戻ろうとした時だった。
「コウガ君!」
遠くからオレの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ん? だれだ?」
振り返ると、そこにはすこし懐かしい人の姿が見えた。
「コウガ君! 久しぶりだね! 元気そうで何よりだ!」
息を切らして駆け寄ってきたのは、ドアラの街に向かう時に出会った商人のテリオスさんだった。
「テリオスさん! お久しぶりです!」
「いやぁ、まさか王都でコウガ君と会えるとは思わなかったよ! お? もしかして市で買い物してくれたのかい?」
まだチーズ以外は次元収納に入れていなかったので、みんな荷物を抱えている。
ここで買い物をしていたのはすぐにわかるだろう。
「はい。品揃えが豊富だったので、いろいろと買ってしまいました」
「お? そうなんだね。そうなるとお客様として扱わなければいけなくなるかな?」
と言って、ガハハと笑うテリオスさん。
「え!? もしかしてこの市って?」
そう言えばテリオスさんは聖王国の方で商売を成功させたとか言ってた気がする!
「そうさ! 私の『テリオス商会』が主催している市だよ! なかなかの規模だろ?」
後ろを振り返り、大きな身振りで自慢げに紹介する。
商会の話は馬車での移動中にすこし話は聞かせてもらっていたが、ここまでの規模だとは……。
「すごいですね! この市を開いているのが、まさかテリオスさんの商会だなんて思いもしませんでした!」
偶然再会できたことが嬉しくて、それからつい話し込んでしまっていると、リルラに袖を引っぱられた。
「コウガ様。私たちにはそちらの方を紹介してくれないのですか?」
ぷくっと頬を膨らませている姿は可愛いらしいが怒っているようだ。ちゃんと謝っておこう。
「あぁ~ごめん! つい懐かしくてね」
オレは振り返ってみんなに頭を下げると、あらためてテリオスさんにみんなを紹介していく。
そしてリルラから順にリリー、ルルーと進んでいき、最後にジルを紹介した。
「へ……? ど、どらごん!? もも、もしかして、ど、ドラゴンを従えた冒険者がいるって噂はコウガ君! 君だったのかい!?」
急にジルを認識したことで、テリオスさんは素っ頓狂な声をあげて尻餅をつきそうになるほど驚いていた。
ジルが自分の番になったのでテリオスさんにだけ隠蔽の効果を解いたのだが、急に現れたような感じなのだろう。
「驚かせてすみません。ちょっとジルには騒ぎにならないように隠蔽魔法を使ってもらっているんですよ。噂というのがどんな内容か気になる所ですが、冒険者でドラゴンを従えているのはオレだけだと思うんで、それはオレたち『恒久の転生竜』で間違いないと思います」
さっき自慢げに教えてもらったので、お返しにすこしだけ自慢げに教えてあげた。
「いや~まいった! これは私の完敗ですね! でも、これで噂の冒険者は私の同郷の知り合いだと自慢ができますよ!」
でも結局最後は、テリオスさんは嬉しそうに笑い飛ばしていた。
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