第56話:神の御業
グラムさんからギルの話を聞き、なんだかすごく嫌な予感がしたオレは、冒険者ギルドの外へと駆け出した。
「やばいやばい! ギル早まるなよ!? あっ! リリー! ちょっとジルを止めに行ってくるから後を頼む!」
「え? は、はい! わかりました! ……にゃ」
リリーにあとの状況説明などを任せると、オレはそのままジルがいる場所を目指してまずは北門へと向かう。
オレの【ギフト:竜を従えし者】は、ジルの正確な位置を感覚的に理解することができる。
街から出て、おそらく馬なら一時間かからない場所だ。
「ジル……くれぐれもほどほどで頼むぞ……いや、ほんとに……」
しかし……オレのこの呟きは、すぐに叶わぬものとなってしまった。
このセデナの街の中央にある市が開かれる大広場。
ちょうどそこに差し掛かった時だった。
「なっ!? なんだあれはーーー!!」
前方にいた年嵩の男が空を指さして叫んだ。
そして次々にあがる別の者の叫び声。
「きゃぁー!? あれは何!? なんなの!?」
「こ、この世の終わりだーーー!!」
「女神アセト様! どうか、どうかお救いください!!」
「俺、ここで死ななかったら村さ帰って結婚するんだ……」
あっという間に阿鼻叫喚の図が広がる。
オレは「見たくねぇ……」と呟きながらも、本当に嫌々ながらも北の空に目を向けた。
「うわぁ……まじか……」
そこには空を覆いつくすほど巨大な、馬鹿げた大きさの魔法陣が展開されており、次の瞬間には、これまた数えるのも馬鹿らしくなるほどの無数の岩……いや、隕石が次々と出現していた。
この距離から隕石だとわかる大きさなのだ。
たぶんあれ一つでこの街は壊滅するかもしれない……。
それが本当に数えるのも馬鹿らしくなるほど宙に浮かんでおり、いまだその数を増やしている。
「ジル……お前いったい何してるんだよ……」
オレのその呟きが合図だったわけではないのだろうが、次の瞬間、その無数の隕石が次々に赤い尾を引いて地上へと降り注いだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォ………!!!!!!!!
周りにいるほとんどの者が跪き、天に祈りを捧げ、それ以外の物は頭を抱え込んで絶叫しているか呆けて天を仰ぎ見ていた。
しかしその絶叫も、それを遥かに上回る轟音でかき消されている。
それほどの轟音だったのだが……。
「はぁ……ジル……あんなとんでもない魔法を使いながら、同時に辺り一帯に結界魔法を張ってるのか……。そういう配慮は出来るのな……」
やりすぎだと怒ればいいのやら、実質的な被害を出さないように配慮していることを褒めればいいのか。うん、絶対に褒めちゃダメだな。
隕石が爆ぜる光と轟音が街を包み込んでいるのに振動一つ起こらない。
しかし、その現象が周りを勘違いさせる。
ようやく轟音がおさまり、うって変わって辺りを静寂が支配すると、人々が皆、口を揃えてある呟きを漏らし始めた。
「え……? どういうことだ? すさまじい光と轟音だったのに衝撃一つこなかったぞ?」
「いったいどういう現象なの……」
「……神だ……」
「「「え?」」」
「これはきっと神が地上に天罰を下したのだ!!」
何かあらぬ方向に話が展開していっているぞ!?
いや、たしかに元『魔法神』で『邪神』でもあるらしいから、神ってのもあながち間違ってないんだけど……。
「これ、どうしたらいいかな……もう誰でもいいから教えてくれ……」
オレは空を見上げると、とりあえず周りと同じように手を合わせて祈ってみるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
いまだ周りは、天変地異だ、神の御業だと騒いでいた。
だけどオレは一人立ち尽くし、これ、本当にどうするかな~なんともならないよな~……なんてことを考えて……なにも思いつかずに放棄した。
「うん。なにも見なかったことにして、リルラやリリーたちに癒して貰おう……」
そうするか。現実逃避とも言うが。
しかし……現実逃避すらさせてくれない奴が現れた……。
≪主よ。いったい何を癒してもらうのだ?≫
あーあーあー。オレには何も聞こえない。何も見えていない。
周りが「飛竜よー!」とか「逃げろー!」とか騒いでいる気がするが聞こえない。
ドォォン!
何でこいつは飛竜サイズのまま街の中に舞い降りて来てるんだ?
馬鹿なの? 死ぬの? いや、死ぬとしたらこっちだったわ。
≪主よ? 戻ったぞ?≫
「……………………」
≪む? もしや聞こえぬのか? はっ!? もしやさっきの我の『終焉の天隕石』の轟音で!?≫
何か無詠唱でとんでもない高位の治癒魔法が飛んできた。もう観念するか……。
「えーと……ジル、ちょっとそこに座れ」
≪なんだ? 褒めるのはあとでもいいぞ?≫
「あ”? そこに、すーわーれ!」
≪う、うむ。わかった≫
そこから周りの目も忘れて、ジルの言い訳を聞いたのだが……。
「く……オレが連続で【月歩】を使ったからだと……」
だからって……この町もあの町もないわぁ!! と、叫びたいところだが、オレもオレで反省すべき点があるので、怒るに怒れなくなってしまった。
いったいこの行き場をなくした怒りをどうすれば……。
≪すまぬ。いつも自重しろと言っているのがドアラの街だけかと思ったのだ≫
くっ……ジルが人の常識をなかなか理解できないように、オレも竜の思考回路がぜんぜん理解できていなかったわ……。
「あららら? こんな所にいたのね~」
「あ、ウィンドア学院長……」
「えっと~コウガさん、ちょ~っといろいな人に頼まれて~お迎えに来たんだけど~いいかしら~? いいわよね~?」
あの、いつもおっとりとしているウィンドアさんがめっちゃ怒ってる……。
「はい。すみません……どこでもついて行きます……」
オレはジルにフェアリードラゴンサイズに戻ってもらうと、ウィンドアさんが用意した馬車に乗り込んだのだった。
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