第54話:学習したのだ
◆◇◆◇ 時は少し遡り、ジル視点 ◆◇◆◇
我は主を転移魔法で冒険者ギルド前まで送り届けると、この小さな竜の姿で我自身も冒険者ギルドへと向かった。
この姿でも音速を超えることは可能なのだが、それをすると周りに被害が出るからな。
衝撃波で街を壊してしまっては主にまた常識がないと小言を貰ってしまう。
ふふふ。我も学習したのだ。
そのまま慌てずに移動し、特に何事もなくギルドまで後わずかの所まで来た。
途中、従魔の証である赤いスカーフを巻いているのにもかかわらず、金になるとか言って我を捕まえようとする不届き者がいたので深き森に転移させておいたが些事だろう。
主の言いつけを守って無闇に傷つけたり破壊したり消滅させたりはしていないのだ。
そんなことを思い返していると、千里眼で主の戦闘が終わったのを知る。
≪うむ。どうやら魔族に逃げられたようだな。だが主に危害を加えたわけではないし、帰還魔法へ干渉して捕縛するのは控えておくか≫
千里眼で見ていたが、あの魔族は今のところ主を攻撃したりはしていない。つまり、ここで我が捕縛するとまたやり過ぎだと言われてしまうというわけだ。
ふふふ。我も学習したのだ。
しかし、我がここで待っていても仕方がない。
そのまま冒険者ギルドの方に向かうとするか。
ようやく待ち合わせに指定された広場まで来たのだが……どうやら主は双子の娘の方に向かったようだ。
あの娘たちなら大丈夫だと思うのだが、主は本当に心配症のようだ。
≪ん? 急いでいる時は街中でも音速を超えて良いのか? あ~なるほど! いつも街中でこれやってはダメ、あれやってはダメと言っている、あの街とは、ドアラの街のことを指していたのか。つまり学術都市セデナは当てはまらないと! なるほど。そういうことか≫
しかし主も人が悪い。それならそうと最初から言ってくれれば良いものを。
いや……そうすると、もう街の中なら従魔の証のスカーフをしていれば隠蔽の魔法は使わなくてもいいと言ったあの街はドアラの街のことで、こちらの学術都市セデナでは隠蔽魔法を使わなければいけなかった?
むむむ。そうすると絡んできた奴らを森に飛ばしたのは不味かったか?
いや、森に飛ばすなとは言われてないからな。
うむ。やはり何も問題ないようだ。
しかし、だから主は街中でも音速で移動していたのだな。
ただ千里眼で見るに、主は双子とすでに合流して敵を圧倒しているようだし、特に急ぐ必要もなさそうだ。
そう思い、冒険者ギルド前をパタパタと飛んで通り過ぎようとしたのだが……男が我に話しかけてきた。
「お、おい! そこのフェアリードラゴン! お前はコウガの従魔だよな? ……って、おりゃぁドラゴンに話しかけるとか、いったい何してんだか……。いくら魔法郵便に『恒久の転生竜』のドラゴンに渡してくれって書いてるからって……」
ひとりでブツブツ何か言っているが我に用事があるようだな。
そうだ。ここはドアラの街のような制限はないことだし、我の方から話しかけておくか。
ドアラの街では主の許可した者以外には話ができることがバレないようにと言われていたが、ここは学術都市セデナだからは問題ないだろう。
≪そこの男。我に何か用か? ん? その手に持っている紙に我の名が書いてあるな。うむ。受け取ってやろう≫
「……へっ?」
≪聞こえなかったのか? それを我に渡すつもりで持ってきたのではないのか? 違うのなら我は行くぞ?≫
そう言うとようやく我に返ったのか、その男は慌てて口を開いた。
「い、いや待て、待ってくれ! こ、これだ! これを渡してくれとドアラの街の冒険者ギルドから……カリンとかいう職員から至急と魔法郵便が届いているんだ!」
カリン……? たしか主が世話になっている受付の娘か。
主も仲間や知り合いにはやさしくといつも言っているし、どれ、手紙は受け取っておくか。
≪うむ。知った名だ。手紙を受け取っておこう≫
我は手を伸ばして手で受け取ると、広げて内容を確認する。
「ど、ドラゴンってあんな風に器用に手を使えんのかよ……」
手紙を渡してきた男が何か呟いているが独り言のようだな。
それなら無視しても問題なさそうだ。広げた手紙を読み始めるとしよう。
≪うむ。なるほど。いつもコソコソしている妖精どもの主はあの娘だったか≫
読み進めてみると、どうやらさっき見逃してやった魔族が悪巧みをしており、それが実行されるとコウガたちにも多大な迷惑がかかるという。
そして手紙の最後には、我がそれを阻止すればコウガに褒められること間違いなし! と書かれてあった。
うむ……褒められるのか……。
最近は自重しろとばかり言われているからな……悪くない。
≪うむ。しかと受け取った。男よ。礼を言うぞ≫
「へ? あ、あぁ、か、かまわねぇよ」
≪それでは我はちょっと急用が出来たので失礼させてもらう。そうだ。男よ。我が主コウガに伝言を頼まれてはくれぬか≫
男が首肯したので伝言を伝えると、飛竜のサイズまで体を大きくする。
どうしても大きくなりたい時は、なるべく飛竜サイズまでと言われておるからな。
ドアラの街中では飛竜サイズも禁止と言われているが、ここは学術都市セデナだから問題ない。
≪男よ。腰が抜けているようだが大丈夫か? それでは伝言を頼んだぞ≫
そう言葉をかけると、我は冒険者ギルドの前から天空へと飛び立ったのだった。
ふふふ……褒められるだろうか。
ジル「ふふふ。褒められるだろうか」
※たぶん褒められない……
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