第46話:風の大精霊
≪顕現せよ! 風の大精霊『シグルステンペスト』!≫
魔力光が迸り、リルラの声に導かれるように渦巻く風は依代を得てその姿を現す。
身の丈五メートルの純白の馬。
蹄と鬣に輝く白き風を纏い、澄み渡った碧い瞳に高い知性を讃えた風の大精霊『シグルステンペスト』がそこに顕現していた。
「コウガ様! お待たせしました! 後は任せてください!」
リルラの綺麗な声が響き渡る。
そして一瞬オレを見て微笑むと、その表情を引き締めて戦いの始まりを命じた。
「行け! 『シグルステンペスト』! 我にその強さを示しなさい!」
シグルステンペストがその声に応じて嘶くと、纏った風が強さを増す。
悔しいが、オレでは攻撃をする上では役に立ちそうにない。
なので、せめて不慮の事態に備えてリルラたちを守れるよう一旦後ろに下がることにした。
敵が敵だけに万が一の時に備え、油断せずに構えをときはしない。
「あららら? まさか後年クロンヘイム様が契約したという伝説の大精霊と契約しているなんて、さすがにお婆ちゃん驚いちゃったわ~。結界頑張らないと~」
珍しくウィンドアさんがちょっと慌てた態度でリルラが風の大精霊と契約していたことに驚いていた。
でもそのふわふわした態度とは裏腹に、オレでもわかるようなすごい魔力が大ホールを包み込むように展開されていくのがわかった。
これで多少暴れても塔は大丈夫だろう。
そうだ。今のうちにジルに確認しておくか。
「ジル。リルラのシグルステンペストで神造機兵メグスラシルは倒せそうか?」
以前見たシグルステンペストの攻撃がすさまじいものだったのは覚えているが、どの程度の強さなのかまでは把握できていない。はたして本当にメグスラシルに勝てるのだろうか。
ジルはあの攻撃を実際に身を持って受けているし、意識が混濁としていたとは言っていたが直近の記憶はそこそこ残っているとも聞いている。
だから、ある程度の判断がつくのではないかと思ったわけだ。
それに、もしシグルステンペストでも勝ち目がないようなら、塔への被害を覚悟のうえでジルに倒してもらうほかない。
オレにとっては塔よりもリルラやみんなの身の方が大事だ。
そう思って尋ねたのだが……どうやら杞憂のようだ。
≪そうだな。まぁ安心して見ていて大丈夫とだけ言っておこう≫
ジルがそいいうのなら大丈夫なのだろう。
それに塔への被害を抜きにしても、オレたちは普段からみんなでS級冒険者を目指そうという話をしている。リスクが低いのなら、リルラの本気を見てみたいという思いもあった。
はっきり言ってリルラはとんでもない能力を秘めている。
それは人と比べてというだけでなく、ジルが言うにはどうやらハイエルフの中でもかなり抜きんでているようなのだ。
だが、そのせいで拮抗するような強さの敵との実戦経験が皆無だ。
なにせ普段は精霊にお願いするだけで、すべての敵を倒してしまうのだから。
だからリルラのためにもこういう場は貴重だった。
さぁ、いよいよ人知を超えた存在同士の戦いが始まるようだ。
その戦いは、まるで前世の子供時代に見た特撮映画のようだった。
見上げるほどの巨体同士がすさまじい力をもって衝突し、辺りに暴風を巻き起こす。
その存在に人のようなちっぽけな存在が抗ってはいけないのではないか。
そう思わずにはいられなかった。
しかし、その苛烈な戦いの天秤はすこしずつ傾き始める。
駆けまわるシグルステンペストにとってはこの大ホールはすこし狭くて戦いにくそうだったが、そのスピードと多彩な白き風の攻撃でメグスラシルを圧倒していく。
メグスラシルはその一撃こそ鋭く、振り下ろす槌の速さは脅威だったが、シグルステンペストは一定の距離を保ちつつ『光り輝く白き風』を自在に扱うことで、そのほとんどの攻撃を封じてしまっていた。
距離を何とかしようと『血の渇き』を放つなどして対抗するメグスラシルだったが、それも白き風で相殺される。
≪リルラよ。そろそろ奴は『裁きの鉄槌』という技を使ってくるはずだ。気を付けるのだぞ≫
ジルはそう言ってリルラに『裁きの鉄槌』がどのような技かを説明する。
「ジル様、わかりました!」
リルラは話を聞き終わるとシグルステンペストに命令を下す。
すると、シグルステンペストが纏う白き風がみるみる膨れ上がっていき、自身の頭上に白い竜巻のようなものを作り出した。とてつもない魔力がこもっているのがここからでもわかる。
「すごいな……リルラが味方で本当に良かったよ。しかし、オレの周りは何でこんな規格外ばっかなんだ……?」
自分で言うのもなんだが、オレも相当強くなったつもりだ。
さっき加護の全解放してもらった時など、もう誰にも負けない気分だった。
勘違いだったがなにか? わかってるが?
そんな風に自嘲気味に笑っていると、とうとう大技同士が激突した。
メグスラシルも対抗するように大槌に魔力光があふれ出すほどの限界まで魔力を込め、それを衝撃に変えて打ち出してきたのだ。
さきほどジルが注意するように話していた『裁きの一撃』という技だ。
こんなものを喰らえば、シグルステンペストでも無事ではすまないだろう。
それほどの魔力が込められているのがわかった。
そして単純な技だからこそ、小細工の効かない防ぐのが難しい技だった。
シグルステンペストまでの届かぬはずの距離も、その一撃は空間さえも捻じ曲げ超えていく。
ウィンドアさんが張った周囲の結界ごとガリガリと削りながら迫る一撃は、それだけで小さな町なら半壊させるほどの威力を秘めているように思えた。
だが、まさにシグルステンペストにその一撃が届こうとした時だった。
今度はシグルステンペストの頭上に渦巻いていた白き風が暴風となって撃ちだされ、上位竜さえも討ち払うだろう白き嵐の一撃が裁きの一撃を呑み込んだ。
まさに魔力と魔力の激突。
しかし拮抗したのは一瞬だった。
白き嵐が裁きの一撃を打ち消し、そのままメグスラシルに迫っていった。
メグスラシルが白き嵐を受けとめようと巨大な盾を掲げるが……盾は一瞬で砕け散った。
そして、そのまま巨体を呑み込んでいく。
「グガァァァ!!」
既に傷つきひび割れていた装甲では抗うことも許されなかった。
メグスラシルの体が崩れ落ちていく。
最後は骨格フレームさえも分解したその暴風は、ようやく役目を終え、ゆっくりとおさまっていった。
「す、すごいな……」
想像を超えたあまりの威力に、それ以外の言葉が出てこなかった。
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