第37話:学術都市セデナ
依頼を受けた翌日。
ドアラの街の北門にて、依頼人を待っていると……。
「あれ!? コウガくんではないですか!」
「テリオスさん! お久しぶりです!」
同じ「名もなき村」出身の商人であるテリオスさんと再会した。
考えてみれば、あの時テリオスさんと出会っていなければドアラの街に着くのが遅れて、リリーとルルーの二人とも出会えていなかったかもしれない。
「いや~、無事なようで良かった!」
「いろいろありましたが、なんとかやってこれています」
「コウガくんはもしかしてこれから護衛依頼かなにかですか?」
今回の依頼人がテリオスさんというわけではない。
門近くの広場は行商人が集まる場所でもあるので、偶然見かけて声をかけてきてくれたようだ。
「はい。学術都市セデナまでの護衛依頼を受けたので、ここで依頼人を待っているところなんですよ」
「やはりそうでしたか。頑張っておられるようで……お? もしかして後ろの美人な子たちはパーティーメンバーですかな?」
「はい。『恒久の転生竜』ってパーティーを組んで……」
「えぇ!? あの恒久の転生竜ですか!? 噂は聞いていますよ! 大活躍しているそうじゃないですか! しかも、フェアリードラゴンをテイムしたとか?」
どんな噂だろうか……聞いてみたいけど、ジルとリルラで交互になにかしら軽くやらかしているからちょっと聞くのが怖い……。
ちらちら後ろが気になっているようだし、とりあえずみんなを紹介しておくか。
「ジル! みんな、ちょっと来て!」
≪なんだ? そいつを焼き払えばいいのか?≫
「ぉい!? そんなわけないだろ!」
≪ふっふっふ。どうだ、我のジョウダンというやつは?≫
「あ……うん。そうだな。オモシロイナ……」
くっ……先日、”冗談”というものがわからないというから教えてみたら、変に気に入ってしまって面倒くさいことになってる……。
「コウガくん? ひとりでなにかブツブツ言っているが大丈夫かい? たまには休みを取らないといけないよ?」
ジルの魔法による声は聞かせられる相手を選べるので、混乱が起きないように基本パーティーメンバーだけということでお願いしている。だからはたから見ると、きっとオレはひとりでブツブツ言っている変な奴に見えてしまっていたのだろう……。
「だ、だいじょうぶです……。あ、で、こいつがフェアリードラゴンのジルです」
そう言って背後にいたジルが見えるように一歩横にずれた。
「おぉぉ! この子が!? いやはや、こんなにちいさいのにすごい威圧感ですな!」
「こう見えてもAランクの魔物として認定されていますからね」
などとジルのことで話に花を咲かせていると、後ろから服をくいっと引っ張られる。
「コウガ様。私たちも紹介してください」
「あぁ、ごめん。リルラ」
「そうよ。コウガ。私たちを放置して話し込まないで……にゃ」
「でもコウガが男の人と楽しそうに話すの珍しい……にゃ」
うん。周りの同性の冒険者からは、よく「爆発しろ」とか聞こえてくるからね……。
それからテリオスさんの出したお店のことや、今までの依頼の話などでお互い軽く近況報告したあと別れ、依頼人の待つ馬車へと向かったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後、オレたち『恒久の転生竜』は無事に何事もなく、本当に特筆することもまったくなにもなく『学術都市セデナ』に到着した。
盗賊に襲われるようなお約束のイベントもなく、それどころか魔物にすらまったく襲われることもなかった。
ずっと平和だった……。
平和すぎた……。
それがきつかった……。
なぜなら、護衛依頼中ず~っと暇との戦いだったから。
オレ含めてみんな護衛依頼は初めてだったのだが、護衛依頼とはすなわち、何もなければただただ歩いて野宿するだけの依頼なのだ。
リリーやルルーは、オレと同じく今は強くなりたいので戦いを求めている。
リルラやジルは今のこの世界そのものに興味を持っているので、街を出ること自体は嬉しかったようなのだが、なぜ魔法で移動しないのかと何度も聞いてきてかなりうるさかった。
いや、普通のパーティーだと常に周りを警戒しておかないといけないし、緊張感もあって精神的にも大変なのだろう。だけどジルがいると魔物はまったく寄ってこないし、リルラが精霊に周囲を警戒させてくれているしで本当になにもすることがなかったのだ。
だからこの学術都市セデナに着いたら、ストレス発散も兼ねてたまには羽を伸ばそうという約束をしていた。というわけで今日は依頼を受けるのをやめて観光する予定だ。
ちなみにジルは「人の興味の対象にならない」という効果の隠蔽魔法を自身にかけて、オレの後ろを普通に飛んでおり、この魔法のおかげで騒ぎにならずに本当に助かっている。
「うわぁ! こちらの通りは黒いローブを来た若い子が多いですね~!」
リルラが若い子って言うと幼女を思い浮かべてしまうのだが、もちろんそこまで若いわけではない。オレと同じ一五歳前後が多い感じだろうか。
「そうだな。オレたちと同じぐらいかな?」
もちろんこの「オレたち」の中には一二〇〇歳の少女とか、もはや何年生きたかすら定かでない竜は含まない。
「確か『叡智の塔』とかいう魔法学の研究機関と、その付属の学院があると聞きました……にゃ」
「黒いローブの子は、たぶんその研究機関付属の学院『王立ウィンドア魔法学院』の生徒だと思う……にゃ」
そう言えば、いつの間にか英知の塔の辺りまで来ているな。
近くまで来ると本当にその高さに圧倒される。
その高さは前世の高層ビルより遥かに高い。なにせ最上階は雲の中だ。
なんでもこの塔は、高さはおろか、何階あるのかすらまだわかっていない。
と言うのも、塔の中は発見された時に既に迷宮化しており、中には多数の魔物が巣くっていたからだ。
この塔の研究が始まってすぐ、早々に一〇階までは攻略できたそうだが、それより上は封印の扉があるためにいまだに攻略が出来ずにいるらしい。
そして一〇〇年ほど前からは、完全に攻略した一〇階までの部屋は全て研究機関と付属学院で使用しているのだそうだ。
「コウガ様。この塔の中は見学とか出来ないのでしょうか?」
オレが塔をぼんやり眺めながら歩いていると、リルラが目をキラキラさせながら見学はできないのかと聞いてきた。
「どうなんだろうな? 塔はもうすぐそこだし、門のところででも聞いてみるか?」
「いいですね。私もこんな高い建物始めて見たので入ってみたい……にゃ」
「カリンちゃんもせっかくセデナに行くんなら『叡智の塔』は絶対見学するべきだよってすごい勢いでお薦めしてた……にゃ」
どうしてだろう……カリンにお薦めされたという話を思い出して急に行きたくなくなって来たのだが……。
「わぁ♪ それなら見学させてくれるかもしれませんね! 一度見学できるか聞くだけ聞きに行ってみませんか?」
やっぱりやめようか? などと言える雰囲気ではないな……。
みんな乗り気だし行くだけ行って聞いてみるか。
「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが、この『叡智の塔』の見学って出来ますか?」
オレがそう言うと愛想のよさそうなお姉さんが……。
「あなたたちは入学希望の子ね! ちょうどあと一五分後に今日の見学ツアーが始まるから受け付けしておくわね!」
一日に一回しか見学ツアーしてないんだからあなたたちタイミングいいわね! と言って、見学ツアー整理券なるものを渡してくれた。
おかしいな。一言も返事することなく受付が完了してしまった……。
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