第31話:常識基礎編
そろそろ足がしびれてきた気がする……。
リリーとルルーが倒れるとすぐに駆け寄って看病したのだけど、二人が目を覚ますとなぜか正座をさせられ、お説教なるものを受けることになってしまった。
「と、とにかく! ジルニトラさんもさっきのサイズは人前では避けるようにお願いします! ……にゃ」
ジルは今は飛竜サイズにまで小さくなっているが、それでもかなりの大きさがあり、圧倒的上位者からくる生物としての位の違いを感じる。
ただ、最初にとんでもない大きさの本来のジルの姿を見たせいか、二人ともなんとか普通に接することが出来るようになってきていた。
「あ、あと! これからは私たちもこの世界の常識を教えます! ……にゃ」
おぉぉ! それはオレも大賛成だ!
むしろ全力でサポートするし協力も惜しまない!
そう……オレの心の安寧と世界平和のためにも……。
「「そこ!! リルラちゃんもですよ! ……にゃ」」
「は、はいぃぃ!」
二人の迫力に押されつつも「わ、私の方がお姉ちゃんなのに……」と呟いていたが、二人に「キッ!」と睨まれると慌てて首を何度も縦に振っていた。
うん、リルラもかなり常識が欠落してるからな。
こちらも全力でサポートさせてもらおう!
「そ、それでオレはいつまで正座いれば……?」
「「私たちの話が終わるまでです!! ……にゃ!!」」
な、なんか理不尽だ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ようやくジルとリルラに、この世界の常識基礎編を教え終わった。
意外と言っては失礼だが、リリーとルルーの二人の教え方はとても上手く、次々とこの世界の常識をこの世界の非常識な存在の二人に叩き込んでいった。
リリーとルルーもようやく落ち着いてきたようなので、オレの方からも二人に何があったのかを聞くことにした。
邪竜とハイエルフの方が驚かせたかもしれないが、さっきの魔族の将のことを考えれば、リリーとルルーの方もたいがいとんでもない状況だ。
「それじゃぁ、そのカウスってのが黒幕なのか?」
「どうやらそのようですね。私たちはてっきりゲウロが黒幕かと思っていたのですが……にゃ」
ゲウロというのは、すこし離れたところで亡くなっていた奴のことだろう。
「さっきの『技巧のアモン』という奴は六魔将のひとりとか言っていたし、あいつが黒幕なんだろうな。ちなみに魔将って魔王軍の将ということであってるよな?」
あまり魔王の情報を持っていないから念のため確認しておく。
「魔将ですか。昔の魔王と今の魔王が同じかわからないですが、六魔将は魔王軍を率いる将軍たちのことです。それぞれ二つ名がついていて『技巧』の名を冠する魔将は、たしか魔剣を始めとした魔装備製作とその扱いを極めた者だと聞いたことがあります」
さすが一二〇〇歳。情報がとんでもなく古い可能性もあるが、魔族も長生きそうだし同一人物かもしれない。そうでなくても、二つ名が同じということは似た能力を持つ魔族ではないだろうか?
「そうか。魔装備製作とその扱いを極めたっていうのは納得だな」
どうりで強いわけだ。あの魔剣と盾は雷槍ヴァジュランダの攻撃を凌いでいたし、剣と盾の扱いも巧みで本当に強かった。おそらく技の切れも母さんより上だろう。
≪話し込んでいるところ悪いのだが、すこし良いか?≫
オレたちが今回のことの真相を探ろうと話し込んでいると、今まで黙っていたジルが話しかけてきた。
「ジル様。どうされましたか?」
≪まず一つは、神獣の加護を受けられるのなら先に受けておいてはどうかと思ってな≫
「加護を授けて頂けるかわからないけど、たしかにそうですね……にゃ」
リリーがそう言うと、ルルーも続いて頷く。
技工のアモンが戻ってくる可能性は低いと思うが、また戦いになる可能性も否定できない。
加護がもらえるなら先に授けてもらっておいた方が二人の身の安全にもつながるだろう。
まぁジルがいる時点で負けることはまずないと思うが……。
「じゃぁ私たちは加護を授けて頂けるように祈りを捧げてくる……にゃ」
そう言うと二人は、すこし先の祠まで移動して跪いて祈りを捧げ始めた。
「ジル。さっき『まず一つは』って言ってなかった? 二つ目は?」
≪うむ。先ほどから神獣と呼んでいる『白き獣』だが、ここに来る途中に我が眷属によって解放しておいた≫
「え? えっと……今なんて……? 神獣が捕らえられていたの?」
≪そうだ。だから主たちと合流しようとこちらに向かってくる途中、我の眷属を召喚して助けておいたと言っているのだ≫
この邪竜さん優秀すぎる!
問題の報告と解決の報告が同時なんだが。
「そ、そうか! ありがとうな! ちょっと仕事が早すぎて驚いたよ。ところで眷属ってなに? それにどうやって神獣が捕らえられているのを知ったんだ?」
何があったのか聞くのがすこし怖いが確認しておかなければ。
≪うむ。さっきこちらに向かう途中、技巧のアモンが率いていた軍を見つけてな。わずか五万ほどのちっぽけな軍だったので、潰しておいたのだ。するとどうやら話にあがっていた神獣とや……≫
「は……? ……ちょ!? ちょっと待った!!」
今、ジルはなんて言った? 神獣救出どころの話じゃないぞ? 五万の軍?
それを羽虫かなにかをぷちっと潰したみたいに……。
≪どうしたのだ? 主よ。まだ話の途中ではないか≫
「いやいやいやいや! 今シレっとなんかすごいこと言ったぞ!? わかってる!?」
ここまで言ってようやくオレが驚いていることを理解したようだ。
ただ、まだなにに驚いているかまでは理解できていないようだが……。
あれ? この世界の常識基礎編終了したよね?
首をコテっと傾けて考え込んでいる仕草は可愛いらしくないこともないが、していることは可愛さの欠片もない。
「い、今、『五万の軍を潰しておいた』って言ったよな? サラッと言ったよな?」
≪なんだ。驚いていたのはその部分か。我のドラゴンブレス『煉獄の裁き』で薙ぎ払って、範囲から漏れたものには、主にも教えた『竜牙兵』を一〇〇〇体ほど創り出して片付けさせただけじゃ≫
だけじゃ……? 煉獄の裁きとやらは想像もつかないが竜牙兵ならわかる。
ジルの創り出す竜牙兵一体だけで、オレが全力で創り出した竜牙兵三〇体を軽く蹴散らせる強さを持っているってことも含めて……。
それが一〇〇〇体?
だ、ダメだ……このままでは絶対ダメだ……。
そのうちシレっと街とか国とか滅ぼして≪なんだ? ダメだったのか?≫とか言いそうだ。
オレは街に帰る前に、何日かかろうとも徹底的にこの世界の常識を叩き込むと、心の中でそう誓ったのだった。
まずは基礎編の補修から……。
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