第27話:これだけは言っておこう
リルラが慌てている様子を見て嫌な予感がしたオレは、足を早めて近づいた。すると、向こうもオレに気付いたようだ。
「コウガ様! 大変です! ぱーてーめんばーとしてお話を伺っていたリリー様が!!」
そう言って封の開いたオレ宛の手紙を差し出してきた。
ん? なぜオレ宛の手紙を読んでる……。
まだちょっと常識の教育が足りていなかったかと思いつつも、急いでいるので何も言わずにその手紙を受け取った。
読み進めるにつれて、手紙を握る手に力が入っていく。
「なっ!? どうしてこんな遺書みたいな別れの手紙寄こしてるんだ! リルラ! これって今届いたのか!?」
「はい! さっき『魔法郵便の者で~す』って女の子が届けに来たところです。内容が内容だったのでちょうど今コウガ様の元に向かおうとしていた所でした」
えらい? えらい? と言って頭を撫でて欲しそうに前に突き出してくるので、よくわからないが撫でて褒めておく。一〇〇〇年生きてるんだよね……?
「え、えらいぞ。しかし、そうか……魔法郵便ならまだ間に合うはずだ」
魔法郵便とはこの世界で発達した情報伝達手段の一つで、特殊な二対の魔法具によって前世の世界にあったファックスのように手紙を届けることができる商売だ。
「それでリリーさんたちが挑む『試練の地』というのはどこにあるのですか?」
「あ……」
オレはリリーたちと一ヶ月も一緒にいたというのに、故郷の話も色々聞いたというのに、詳しい場所についてはまったく話したことがなかった……。
「え? ご存知ないのえすか?」
リルラは知っているとばかり思っていたようで、どうしましょう!? とオレ以上に慌てだした。いや、なんか慌てている人を見ると逆に冷静になるよな。
だけど冷静になれたのはいいのだが、いったいどうすれば……。
そう思っていると様子を伺っていたジルが話しかけてきた。
≪主よ。地名などから場所を探すのは難しいが、探し人なら我の千里眼で見つけられるはずだ≫
「おぉ! リリーたちがいる場所がわかれば問題ない! ジル! 頼めるか!」
≪承った。ただ、絆の紋章を経由して主の記憶をすこし覗かせてもらうことになるが、かまわぬか?≫
記憶を覗かれるのはすこし恥ずかしいが、そんなことを気にしている場合ではない。すぐに「かまわない」と答えると、ほんの数秒だろうか? ジルの眼が薄っすらと光を帯びたのがわかった。
≪見つけたぞ。二人とも一所にいるようだ≫
「え!? この一瞬で!? そ、それで、二人はどこに?」
≪どこ? ……わからぬ≫
「……え?」
≪あぁ、違うのだ。今の地名がわからぬのだ。どうせそこへ行くのだろう? それなら我が連れて行けば問題なかろう≫
一瞬焦ったがそういうことか。
そりゃぁ、今の時代の地名とかわかるわけがないよな。今度、地名も授業に組み込もうか。
「そういうことか。じゃぁ早速だけどすぐに向かいたい。いや……だけど、ここから飛び立つのはまずい。まずは急いで街の外にでよう」
「はい!」
なぜか返事の声が幼い……そして下の方から聞こえてくる。もちろん返事の主はリルラだ。
「ん? どうしてリルラが元気よく返事してるんだ?」
「もちろん私も着いて行くからに決まっています! 森にハイエルフ連れて行けばなにかとお得ですよ?」
なにがお得なのかはわからないが、エルフが森に詳しいのは確かか。それにあれだけの大精霊を使役するのだ。もし戦闘になった際にも頼りになるだろう。
「ん~そうだな。頼めるか? 時間が惜しいから話しながら向かおう」
≪承知した。しかしなぜ街の外に一度でるのだ?≫
やはりこの世界の常識をもうすこし頑張って教えないといけないかな……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
まだフェアリードラゴンについての連絡が届いてなかった衛兵とひと悶着あったりはしたが、オレたちはなんとか街を出て、森の中の人目につかない場所へと来ていた。
「ジル。それじゃぁ頼むよ」
≪任せておけ≫
なにかオレには聞き取れない言葉を呟いたかと思うと、足元に魔法陣が広がり、ジルは小型のドラゴンほどの大きさへと巨大化した。
あらかじめ小型のドラゴンと頼んでいなければ、今ごろ森の木々を超える巨躯が街からも見えて大変なことになっていただろう。寸前で気付いてよかった……。
「コウガ様早くー」
あれ? なんでこの子はドラゴンテイマーであるオレより先に恐れもせずにジルの背中に乗っているんだ……?
まぁ暴走している邪竜ジルニトラに喧嘩売るような子だから、今さらか……。
オレも続いて背に飛び乗ると、リルラが嬉しそうに腰に抱きついてきた。
ちょっと恥ずかしいので抵抗してみたが、まったく放しそうにないので諦めてジルに声をかけた。
「また例の魔法を頼むよ」
≪承知している≫
ジルが何かまたオレには聞き取れない言葉を呟くと、魔法陣が展開し、跨る飛竜の背が安定した。
さっき街に戻る時も使ってくれたのだが、これで背から落ちなくなり、風や重力の影響もほとんど受けなくなるようなのだ。
こんな魔法見たことはもちろん聞いたこともないが、なんせ自称魔法神らしいのでこれぐらいわけないのだろうと納得することにした。
正直、もうこれぐらいで驚いていては話が先に進まなくなるから……。
さらに隠蔽の魔法を使ったジルは大きく羽ばたくと、たったひと扇ぎだけで空高くへと舞い上がり、一気に加速しはじめた。
実際には『空の王 グリフォン』が裸足で逃げ出す急加速をしているはずなのだが、オレやリルラにはほとんど感じられない。
さっきの魔法がなければ一瞬で振り落とされているのだろうが、体感的にはまるで優雅な空の旅をしているような乗り心地だ。
視線を下にやれば、一瞬でドアラの街がみるみるうちに小さくなっていく。
迷うそぶりは見えないので、本当に居場所はわかっているようだ。
しかし暫くすると、困ったことが起きたと話しかけてきた。
「え? 困ったことってどうしたんだ?」
≪主が探している人物が犬のような魔獣との戦闘を開始した。善戦しているが力量を見るに負けるのは時間の問題だろう≫
一瞬頭が真っ白になる。負けるってどういうことだ?
魔獣との戦闘で負ける? それって……。
「え……負ける? 負けるって……殺されるってことか!?」
≪このままではそうなる。だから主よ。ちょっと先に行って助力してやるといい。主の今の実力なら問題ない。我は転移の浮遊感が嫌いなのでな≫
「へ?」
なんだか嫌な予感がする。
「先にってどういう……うあぁぁ!?」
問いかけは最後まで言わせてもらえず、オレは周囲を囲うように現れた立体魔法陣へと吸い込まれてしまった。
天地が目まぐるしく逆転するような気持ち悪い浮遊感の中、必死に吐き気を我慢していると、遠くに「コウガ恰好よかったよね~」とか「一目惚れだったじゃない」とか話してるリリーとルルーの映像が見えた。
そして、その映像は瞬く間に近づいてきて……気付けばその映像の中にオレは立っていた。
そして視界を埋め尽くす赤いなにか。
え? 赤? あつっ!? え? 炎!?
オレは声にならない悲鳴をあげながら、大慌てで雷槍『ヴァジュランダ』で炎を切り裂いた。
や、やばかった……本気で危なかった……ジルにはあとで、人は炎に包まれたら焼け死ぬんだよっていう常識を叩き込まなければ……。
それはさておき、どうやら間一髪のところでギリギリ間に合ったようだ。
さっき問答無用で飛ばされてなければ間に合わなかっただろうから、その点にだけには感謝しておく。
あと……とりあえず目の前の二人には、これだけは言っておこう。
「さっきみたいな会話は本人のいない所でやってくれよ。登場しにくいじゃないか……」
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