第105話:常識って
それからオレたちは冒険者ギルドが用意してくれた馬車に乗り、皆で王城に向かった。
ただ、ギルドから出る際、ドアラの冒険者ギルドの受付嬢であるカリンから……。
『S級冒険者昇格おめでとうございます! これからもしっかりサポートさせて頂きますので、よろしくお願いします!!』
と書かれた魔法郵便を受け取ったのだが、いくらオレたちの担当とはいえ、地方の冒険者ギルドの一職員にこんなに早く伝わるものなのだろうか?
ちょっと疑問に思ったのだが、オレたちの担当だからと誰かが気を利かせて教えてあげたのかもしれないな。まぁ祝ってくれているので素直に感謝しておこう。
そして今はネギさんの質問に嫌な汗を掻いていた。
「ところでコウガよ。何度も聞いて申し訳ないのじゃが、この美少女は本当に誰なのだ? どこかで見たような気がするのじゃが? あとこの者から儂を超える強者の風格を感じるのじゃが……?」
冒険者ギルドの外で待っていた元魔王と当然のごとく鉢合わせしたので、放っておくわけにもいかず、そのままなし崩し的に合流することになってしまったのだ。
以前の姿ではあるが、記録結晶の映像に映っていたからな……。
「い、いやだなぁ。さっきも言いましたが、屋敷を購入しようかと思っているので雇ったメイドさんですよ~」
いつの間に着替えたのか、合流した時にはすでにメイド服を着ていた元魔王。
何か妖精の影が見えた気がしたので、きっと彼女らが用意したんだろう。
今だけはその機転に感謝しておく。
「そうじゃったか。いやしかし、それにしては……この儂から見ても、一分の隙も感じられないほどの強者のように感じるのじゃが……」
何か呟いているが、もう聞こえなかった振りをしよう。
そう思って下手な口笛を吹いていると、テトラがネギさんに話しかけた。
「ネギ様。何度も同じ質問をされて、あまりご主人様を困らせるような事はしないで下さい。殺しますよ?」
あ、あれ……? 何か言葉とは裏腹に、すごい殺気を感じた気がしたのだけれど気のせいだろうか?
「ひぃいぃ!? い、いや! 困らせるつもりは無かったのじゃが、すす、すまんかった! そそ、それよりコウガよ! もう城に着きそうじゃぞ!」
なぜか額に大粒の汗をいくつも浮かび上がらせ、必死に話題を逸らす元S級冒険者だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで……魔王てとらぽっどを倒したと思ったら、原初の魔王であり、邪神でもあるショウハブロという者が現れて……コウガが一度殺されたということであっているか?」
いや、殺されていませんが!? ジルが蘇生魔法は使ってないって言ってたから間違いない! はず……たぶん……おそらく。
うん、しっかり否定しておかなければ!!
「いやいやいや!? 死んでませんから! ギリギリの所で魔法で改造されましたから!!」
「え……これって治療か……? なんか肉体が再構成されておらぬか……」
記録映像を見ていた国王『アレン・フォン・トリアデン』様が、何か呟いていたが聞かなかった事にしよう。
ちなみにショウハブロを封じ込めた部分の映像などは、うちのジルと妖精女王のクイが何やら結託して、偽造した映像と差し替えている。
うん、どうせならオレの死にかけている所とか、改造シーンも差し替えておいて欲しかった。
ちなみに、記録結晶の映像は≪絶対偽造できないものなので疑われる事はないだろう≫とは、偽造した本人の弁だ。絶対とは?
「コウガは初めて会った時から常識の外の人だったけれど、今度のこれはもう常識がどうとかいう次元を超えているわね……。常識ってなんなのでしょうね……」
ビアンカこと第一王女の『ゼシカ・フォン・トリアデン』さんが何か哲学的なことをおっしゃっていらっしゃる。オレも常識って儚いものだなぁって最近稀によく思う。
しかし「オレがやったんじゃない!」と声を大にして言いたいところなのだが、この世界の法では従魔の功績や行動、責任はすべて主人に帰属する事になっているので、法的には全部オレがやった事になってしまう。だから声にできない……。解せぬ。
「ま、まぁいいじゃないですか! 結果的に、とりあえず魔王の脅威も去った事ですし!」
「そうだな。結果的に魔王を倒しておるからな。おそらく『とりあえず』で魔王の脅威を退けた奴は、後にも先にもコウガしかおらぬと思うのじゃがな」
こういう時だけ、オレの言い訳に的確に突っ込んでくるネギさん。
「まったくネギの言う通りだ。ここまでの事を成し遂げたのだから隠し通す事は出来ぬし公表するしかない。コウガらもそのつもりでおるように。あと、魔王に関する事は他国との協定でも基本的に隠蔽してはならぬ事になっておる。だから、倒したことは他国にも公表せねばならん」
別に黙ってても全然いいんじゃないかなぁ……。
まぁそんなこと言えるわけもないので「わかりました」と項垂れながら頷いておいた。
「それでアレン様。魔王を倒したと公表するとなると、報酬はどうされるおつもりなのですかな?」
つい先日『月下の騎士』の称号と名誉子爵の貴族位、それに多くの報奨金を頂いた所なのだから、もうお腹いっぱいなんだけど……。
「さすがにお金だけで済ませる訳にはいかぬ。正式な貴族へと昇爵させて領地を与えねばなるまいな」
え……オレの冒険者生活が危機に瀕しているようだ……。
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第一章完結まで毎日更新予定です!
お楽しみに!
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