第101話：竜人たち
竜人だと思われる多くの人たちが、妖精族の秘術とやらで繋がれた空間からこちらに向けて歩いてきていた。
「この人たちはいったい……？」
オレのその呟きに、ヴィーヴルが答えてくれた。
「彼らは私の集落の者たちよ。さっき少し話したのだけど、妖精女王に導かれて来たみたい。ただ……」
その竜人たちが、こちらを見て驚き、そして……祈りを捧げ始めた。
え？ なに？ なんか怖いんだけど!?
「えっと……なぜこんな感じで彼らが祈っているのか、なぜかコウガさんのことを使徒様、主様と言って慄いているのかはわからないのよね……」
「は？ どういうことだ？ 使徒様ってのはともかく……主様ってなに？」
オレが女神様の使徒であるってことは、不本意ながらこのトリアデン王国の王侯貴族や妖精族には信じられているようなのでまだわかる。
さっきのクイって言う妖精女王がそう伝えてしまったのだろうと。
でも、どこから主様ってのが出てきた……？
「それがね。聞いてもよくわからないのよね？ ところでコウガさん……。その、使徒様ってのはともかくってことは本当に使徒様ってことよね？」
「え、それは……」
誤解のないようにするにはどう答えたものかと悩んでいると、あっさり横からルルーが答えてしまった。
「それは聖エリス神国に降りた神託で、コウガが女神様の使徒だとわかったから……にゃ」
「えぇぇ!? コウガさんが使徒さま!? いったい何回驚かすのよ!?」
そんな事を話していると、オレの近くまでやってきた一人の竜人が、跪いて本格的に祈りだしてしまった。
「主様！ 我ら竜人総勢一二三名。その命果てるまで、主様にお仕えさせて頂きたい所存でございます！」
隣でヴィーヴルが「お父さん!?」と言って驚いている。
え？ あの人が父親なの？ なんか竜人の集落の長みたいだけど……。
「ちょ、ちょっと待ってください！ いったい主様ってどういうことですか!?」
さっきのテトラのことでも頭が痛いというのに、この人たちまでなにを言っているんだ？
そんな思いを込めて見つめていると、ようやくヴィーヴルの父親が頭をあげた。
「それはあなた様が……あなた、さ、ま、が………………………」
しかし、言葉の途中で驚愕で目を見開くと、そのまま固まってしまった。
そして頭を下げていた全員が一瞬全身を身震いさせると、ゆっくりと顔をあげていった。
その視線は俺の顔を通り過ぎ、ずっと遠くに向けられていた。
それはもう、そのまま後ろにひっくり返るんじゃないかってくらいにのけぞって……。
なぜだろう。嫌な予感がする……。
視線を追って錆びついたような動きで振り返れば、そこには……ジルがいた。
いや、さっきからずっといるのは知っている。
だけど、その巨大な顔の横に妖精が飛んでいる。
妖精女王のクイではなく、セイルの方だ。
そのセイルと向かい合ってなにか話をしているように見える。
なんだろう……なにか雰囲気がおかしい。
もしやと思い隣のヴィーヴルに目を向けると、美少女がそんな顔をしてはいけないだろうというぐらい口をあんぐりと開け、動きを完全に停止していた。
これは間違いないな……見えている。
「ジル……なぜ隠蔽を解いているんだ？」
さっきクイが登場した時には、確かにいつも通り隠蔽していた。
オレとは絆が繋がっているからか、隠蔽していても気付く事が出来る。
そもそもジルはうちのパーティー『恒久の転生竜』のメンバーには、隠蔽が効果を及ぼさないように調整してくれている。
だけど、そのジルの纏う雰囲気から、隠蔽されていないのがわかった。
完全に隠蔽を解くと、普通の人は気絶する……。
普段姿を現す時でも、視覚的に認識できるようにしているだけなのだ。
それなのに、今のジルは完全に隠蔽を解除していた。
≪ん？ この妖精が言うには、我を神として崇めている竜神信仰の者たちだと言うのでな。ちゃんと姿を見せてやろうと思ったのだ。それに竜人なら気を失うこともあるまい≫
たしかに普通の人ならこの状態のジルを見れば、それだけで気を失っているだろう。その点、竜人たちは意識を保っていた。
ただ、かわりに大半の者は思考を放棄していたり、ガタガタと震えていたり、何かぶつぶつと祈っていたりしているが……。
それにしても、この妖精たち、なかなか油断が出来ない奴らだな。
敵とかではなく、そこはかとなく厄介ごとの香りがするって意味で。
「そ、そうか。もう隠蔽を解いてしまったのなら仕方ない。でも、とりあえずその竜気をもう少し抑えてやってくれ」
ジルがオレの言う通りに纏っていた竜気を周りに漏れないように抑えると、一気に竜人たちの顔色が戻っていった。
さすが屈強な竜人。
普通の人なら一瞬で気絶している所だろうが、ジルからの自然に放たれる威圧を受けても、息も絶え絶えながらも気絶した者はいなかった。
ジルの竜気から解放されて、みんな一様に地面に手をついて息を荒げてはいるが。
「ヴィーヴルは大丈夫か？ 具合悪いとことかないか？」
ヴィーヴルも少し辛そうにしていたが、古代竜ヴィーヴルの知識を受け継ぐものなだけあって、思ったより平気そうだ。
「ちょっといきなりだったから意識を持っていかれそうになったけど、なんとか大丈夫よ」
ぎりぎりだったけどねって、あまり平気ではなかったようだ。
ちなみにうちのリリーとルルーは、もうジルの竜気を喰らってもまったく気にも留めていない。だてに付き合いは長くない。
今まで散々ひどい目にあっているからな……。
その後、疲弊しきった竜人たちを、ジルがたった一回の魔法で完全回復したり、それを妖精たちが幻影魔法と幻聴魔法で派手に演出したりして、竜人たちを煽って……盛り上げていた。
「これ、いったいどう収拾したらいいんだ……？」
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