第100話:カリンちゃんの憂鬱 その6
◆◇◆◇ カリン視点 ◆◇◆◇
私はいつものように冒険者ギルドに通い、受付嬢見習いとしての業務に精を出していました。
あれから順調に『コウガさんの邪魔する者は許さないよ!』作戦は進んでおり、今日も昼休みには妖精さんたちから色々と報告を受けることになっています! とっても楽しみです♪
待ち遠しく思いながらも楽しく仕事を頑張っていると……。
「おい! カリン!! 昨日のあの報告書はいったいなんだ!?」
真面目に仕事をしていたのに、先輩職員に怒られてしまいました。
それを見て私の護衛についてくれている妖精さんたちが騒ぎ始めています。後で釘を差しておかなきゃ。じゃないと、また帰り道に転んで怪我しちゃいそうだから……。
でも、先輩はなにを怒ってるんだろ?
「は、はい? ちゃ、ちゃんと書いて提出したつもりですけど……なにか不備がありました?」
「不備もなにもないだろ!? この間、討伐依頼でのゴブリンキングを倒したパーティーの名前が『ほにゃてにょの』ってなんだよ!? そんな変な名前のパーティいてたまるかぁ!」
なんだ、そんなことか~。
でも、先輩職員は、どうせ名前聞き忘れたんだろ! とか、誤魔化すならせめてもうすこしマシな名前にしろよ! と中々怒りがおさまらない様子。
まぁたしかに、ゴブリンキング討伐依頼が引き出しの奥から出てきた時にはびっくりしましたし、処理し忘れたのは私です。それを誤魔化すのに妖精さんにお願いしたりもしました。
でも名前を馬鹿にするのは…………高位妖精親衛隊「ほにゃてにょの」さんたちに失礼です!!
ちょうど今日の護衛についてくれているのがほにゃてにょのなので、今にも姿を現して魔法を叩き込まないかと内心ひやひやしています。
「す、すみません! で、でも……変な名前って言うのは謝っておいた方が……」
「は? なんで俺が謝んなきゃなら……………………………………」
どうしたのでしょう? お小言の途中だったのに、とつぜん上の空になったかと思うとブツブツ言いながら部屋を出ていってしまいました。
「あれれ? 先ぱ~い?」
≪カリンちゃん。あの失礼な奴なら気にしなくていいよ! 忘却魔法で反省して貰ったから!≫
妖精さんは詠唱魔法に存在しない希少な魔法をたくさん使えます。
確か記憶操作までは出来ないって言っていたと思うけど、直近の記憶を消せると言っていたのでそれを使ったのでしょう。
あれれ? でも、忘れたら反省にならないんじゃ……? まいっか~。
「ありがと~♪ でもでも、また帰り道に転ばせたりしちゃダメだよ?」
怒ると怖いけど、普段は良くしてもらっているので怪我とかはさせないように注意しておきます。
先輩、なんかボーっとしてるけど、ちゃんとこのあと仕事できるかなぁ?
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の午後、ひとり書類作成に勤しんでいると、クイちゃんが慌てて窓から飛び込んできました。
「く、クイちゃん!? どうしたの!?」
いつもそっと現れるのに、今日はなんだかとっても慌てています。
≪カリンちゃん、仕事中にごめんね! でも大変なの! 使徒様が魔王と戦い始めちゃったの!!≫
「え!? コウガさんが魔王と!? どうしてそんなことに?」
私はその報告に驚いてしまいました。
だってコウガさんの今日の予定は、S級冒険者の試験で『欺瞞の迷宮』に行き、ドラゴンゾンビを討伐することになっていたはず!
いざというときのサポート要員だって手配していたのに、どうして魔王と!?
妖精さんたちから上がっていた戦力分析では魔王を相手にするのはまだかなり厳しいはずです!
心配で心配で仕方ありませんが、まずは状況把握!
なんとか気持ちを落ち着かせて、クイちゃんから詳細報告を受けました。
≪今、使徒様に隠れてお仕えしているセイルは対不死者には圧倒的な強さを誇っているけど、魔王相手では分が悪すぎるわ。だからこっちの本隊も動かそうと思っているのだけどカリンちゃんはどうしたい?≫
「うん、そうだね。あの子じゃ魔王の相手は危険だよね……」
セイルちゃんは妖精特有の魔法は一通り使える高位妖精だけど、所持しているギフトが対不死者特化型なので魔王の相手は無理でしょう。
それに、あの子はとっても怖がりだからこれ以上は無理をさせられないです。
「どうしよう……。クイちゃん、どうしたら良いかな?」
≪そうねぇ……あ……セイルから連絡がきたわ。ちょっと待ってね………………うん、うん、かまわないわ。保護してあげて。……カリンちゃん、妖精界に竜人たちを避難させたいって言うから許可をだしておいたわ≫
「竜人……。クイちゃん。竜人さんたちは古代竜ヴィーヴルさんの血を受け継いでいる人たちなんだよね?」
≪うん。そうなるね。彼らは元々『竜神信仰』の普通の人たちだったんだけど、古代竜ヴィーヴルから血を授かったことで竜人という種族に生まれ変わったの≫
竜神信仰!? 私はこれだ! といい事を思いついちゃいました♪
「ねぇねぇ! それならコウガさんは、信仰している竜神様が仕えていた竜神のさらにその上の主様ってことでしょ? だったらだったら! コウガさんも信仰の対象だって教えてあげたらどうかな?」
そうすればきっと、竜人さんたちは種族をあげてコウガさんの助けになってくれるはず!
私はちょっと興奮気味にクイちゃんに提案してみました。
≪それ、いいかもしれないね! しかもコウガ様が使徒様だって教えてあげて、竜人のヴィーヴルって子たちも使徒様がお救いになったんだよって伝えれば……任せて! ちょうど洗脳……じゃなくて説得に特化したギフトを持った子がいるのよ!≫
一瞬なにか危ない言葉が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいね!
妖精族は一人一人はそこまで強くないけど、すべての妖精が女神様からギフトを授かっているから、あらゆる事柄に対応できるの。本当にすごいなぁ。
でも、これで安心して仕事に戻れそう♪
この書類、今日中に終わらせないと謹慎させるとか言われてたから、頑張らないと! 言った本人はもう覚えてないと思うけど。
「じゃぁクイちゃん。後はおまかせして大丈夫かな?」
≪まかせて! ヴィーヴルって子たちの妖精界への避難はもう完了したし、あとは私が『妖精の通り道』を使って竜人の里まで迎えに行ってくるよ≫
「クイちゃん、ありがと~! だ~い好き!!」
そう言ってクイちゃんをぎゅっと抱きしめました。
「それじゃぁ私は仕事に戻るね! 洗脳よろしくね!」
よし! がんばって書類作成終わらせちゃおう♪
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