7 剣とガトリングは竜より強し?
『我が名は蒼竜ランス。水と夢幻のドラゴン。して、我に何用か? 異世界の騎士と、小さきドラゴンよ」
「まだ何も言ってないのに、俺らの事が分かるのかよ……」
半端ない威圧感に圧倒されながらも、ユウスケは公女サマの望みを伝える。
「俺はユウスケ。こっちは相棒のトウヤです。ヨルムンガンドのシレーネ公女の命で、あなたの力を借りたくてやって来ました」
『……なるほど。黒竜か』
「はい。このままではヨルムンガンドは滅亡を迎えるでしょう。どうか、俺たちに力をお貸しください」
『………』
ランスは無言のまま、低く唸る。いきなり怒り出したりしないよな?
『……良いだろう。黒竜は、手強い。だがお前たちも、ここにいるからには我の気質を理解しているだろうな? 契約を結びたければ――我を認めさせてみろ』
殺気と戦意が膨れ上がった。仕方ない。これは俺たちが乗り越えなければならない試練なのだから。
「トウヤ、やるぞ!」
「ああ!」
ドラゴンスレイヤーとガトリング砲をそれぞれ、構える。
『さあ――見るがいい』
ランスの背後の湖面がやにわに膨張する。まるで大津波のようになって、襲い掛かってきた。
『【大海嘯】』
「うぉおお!?」
こんな狭い場所で、津波を呼び起こしやがった!?
「俺に任せろ!」
飛び出したユウスケはドラゴンスレイヤーを振りかざす。
あいつ、まさか水を切り裂くつもりか?
「ユウスケ、無茶するな!」
「大丈夫だ!」
迫りくる白い波濤へ向け、一直線に叩き切る。信じられないがその一太刀で波は割かれ、左右に割れ広がっていく。
何なんだよあいつ! マジでリアルチートだな。
「トウヤ、撃て!!」
「分かってる」
俺はユウスケが切り開いた空間にガドリングをぶっ放す。A10の推進力を抑え込む、なんて伝説が生まれるくらいの凄まじい反動を伴うこいつも、ドラゴンの肉体では苦にならない。
有りっ丈の弾雨をランスへぶち込んでいく。遅れて鳴り響く、アヴェンジャー独特の発射音。味方には天使の歌声、敵からすれば地獄へ誘う悪魔の誘い。
流れ弾で削られた岩肌から砂塵が舞い、視界を悪化させる。
『くく、ははは! 面白いな……! なら、これはどうだ?』
煙の中から殆ど無傷のランスが飛び出す。30㎜砲弾耐えるってマジぃ……?
勢いよく開かれたランスの口腔内に、巨大な水泡が形作られていく。
『【水气砲】!』
――! アレは水のブレス!
「もう一度、斬ってやるまでだ!」
ゴボっと吐き出された逆巻く水柱を、ユウスケは真正面から叩っ切ろうと迎え撃つ。しかし今度は刃は受け止められ、逆に押し込まれていく。
「ぐ、く、クソ! お、重い……!」
「ユウスケ!!」
俺は真横からアヴェンジャーを打ち込むが、水なので素通りしてしまう。ドラゴンスレイヤーの刃みたいな特殊な物じゃないと、触れる事すら出来ないようだ。
――だったら!!
駆け出す。狙いは――奴の顎の下。ウロコが無い場所だ。
『む!?』
ほら、奴さん顔色を変えやがったぜ。どうやらそっちは効くみたいだなぁ?
「喰らいやがれ!」
スライディングしながら真上に向かい、めちゃくちゃに乱射しまくる。
『ぐ、ぬうう!?』
着弾の威力で奴の口がバチン! と無理やり閉ざされた。そして行き場を失くした水のブレスが逆流――、頭部が弾け飛ぶような爆発が巻き起こる。
「ユウスケ! 大丈夫か!?」
「ごほっ……、ああ、すまない。助かった!」
ブレスの水を被ったユウスケは剣を杖代わりに、起き上がり態勢を整えた。怪我などは無さそうで、思わず胸を撫で下ろす。
「ランスは?」
「自爆したよ。でも、こんなんで死ぬわけないよな?」
随分派手に吹っ飛んでたけど、これで死んだなんてしたら本末転倒だ。流石に有数のドラゴンがこの程度で済むとは……。
『その通り』
噴煙が晴れると、先程と変わらず様子で浮遊するランスの姿があった。口の周りが少し汚れたくらいか? 恐ろしいほどのタフネスだ。
『しかし、まさか手痛い一発を貰うとは――、お前たちを見くびっていたようだ』
ランスの周囲を取り巻くように霧が広がり始める。
『その非礼、詫びよう。そして見せてやろう。これが我の最高の技だ』
空間が屈折し、歪む。水底に映る景色のように揺らめいて、一体だったはずのランスが二体、三体と増えていく。
俺の額に冷たい汗が伝う。
そうだ。これが奴の十八番。水と夢幻のランス。
その名に恥じない幻影のドラゴン。
『【海市蜃樓】』
合計六体のランスが俺たちを見下ろしていた。