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6 やっぱりドラゴンは強キャラでした。


「……【蒼竜ランス。水を司るドラゴン。津波を呼び起こしたり、大雨を降らす能力を持つが、その真骨頂は水と魔力を組み合わせて生み出す蜃気楼である。実体と区別のつかない幻は、熟練の騎士ですら見破れず、心技体を極める事がこの竜に勝る近道である】」


 俺は公女サマから貰った古文書の写しを読み上げる。見たこともない文字だが、普通に読めた。異世界に召喚された人への特典的な奴だろう。多分。言わずもがな、ユウスケも読める。


「幻かぁ……そういうのって影が無かったり、攻撃してこないって特徴があるけど、どうなんだろ?」


 ユウスケは伸びをしながら言う。城を出て一時間ちょっと。公女サマが与えてくれた馬車は、順調にリドア海を目指している。磯の匂いがするようになったので、もうそろそろだろう。


「さーな。そんな生易しいやり方で看破するのは無理なんじゃないか? 心技体を極めるとか書いてあるし……だ、大丈夫かな。ホント」


 なんだか今になって不安になってくる。ユウスケはチート特典要らないくらいのバケモンだし、俺は一応現代兵器を呼び出せる。

 でも訓練らしい訓練は一度もしていない。ぶっつけ本番でドラゴンと戦うのだ。


「トウヤは心配性だな、安心しろって。俺がいるだろ?」

「まあ……お前が言う【安心しろ】は勝利確定みたいなもんだが……」

「――到着しました」


 御者の声に、俺は写しをパタンと閉じた。

 窓から顔を出すと、そこは見渡す限りの大海原。水平線からは、故郷の日本を思い出させる入道雲がわだかまっていた。


「すげー! でけぇし綺麗だし、沖縄の海みたいだ!」

「はいはい、泳ぎに来たんじゃないからな?」


 そのまま素っ裸になって駆け出しそうな親友を諫め、俺は馬車から降り立つ。真っ白な砂浜には、公女サマの言った通り不釣り合いな洞窟が口を開けていた。


「……何だろう、強い水の流れを感じる。この先に、確かにいる」


 別に何かが見えるわけではない。

 漠然とした、それでいて確かな気配を感じ取れる。


「お互いドラゴン同士だから惹かれ合う、ってやつじゃないか?」

「かもな。さあ、準備して行くぞ」




 洞窟の中は湿っていて、薄暗い。用意したカンテラの明かりはあるが、むしろ逆に暗闇を濃くしているような感じさえする。


「トウヤ、足元には気を付けろよ」

「そんなの、言われなくても分かって――」


 ズルっと足元を掬われる。やっべと思った刹那、手が引っ張られて尻餅を免れた。


「言った傍から……」

「……ゴメン」


 目の前にあるユウスケの胸板。こいつ、こんなに逞しかったかな~? などと下らない感想を抱きながら、見上げる。元々俺は低身長だったから差はあったけど、TSして更に広がった感じだ。


「危ないから、手、繋いでいこう」

「え? いや、お前それは」

「どうした?」

「男同士で手は……」

「今は女のコだろ?」

「中身の話だ!」

「? よく分かんないが、別に男でも俺は手を掴んで先導するぞ? この前も腰の曲がったおじいちゃんがいたけど――」

「ああー。まあ、いいや」


 なんかそれはそれで、女として見られて無いようで……いや、見られて無くて良いんだ! 見られちゃダメだろ! 何考えてんだ俺は。


 そんな俺を余所にユウスケは先へ進んでいく。洞窟は入り組んではいるが、俺が蒼竜の気配を感じ取れるので迷うことは無かった。

 どんどん下へ下へと、下っていくにつれ、気配が濃くなっていく。同時に水の流れる音と匂いもハッキリとしてきた。


「トウヤ、感じるか?」

「うん、感じる」


 出し抜けに、長い通路のような空間を抜ける。目前にあるのは、大量の水を湛えた巨大な地底湖だった。天井は果てしなく高く、東京ドームよりも大きそうだ。


「行き止まり、っぽいな。ってことは……」


 ユウスケはドラゴンスレイヤーの柄を握る。

 すると、それに呼応するように凪いでいた湖面に波紋が広がる。次第に大きくなり、波打つまでに激しくなっていく。


「ハハ、ついにご対面か! 一体、どんな奴が出てくるんだ!?」


 楽しそうに笑うユウスケ。

 限界までうねった水面を割るように、何かが飛び出す。黒く太く長い影。耳を劈く咆哮。

 轟、と全身を叩きつけるかのような圧力に反射的に目を閉じ、耳を抑えた。


 だが、唐突に無音が訪れる。恐る恐る目を開ければ――。


『ふむ……我が縄張りを犯す者など久しいが――、これまた面白い客人たちだな』


 蛇のように長い体を有した大きな竜がとぐろを巻いて、水の上に鎮座していた。頭には俺のような立派な二対の角を生やし、ヒゲやタテガミは水流のように揺蕩う。

 また蒼き竜の名に相応しく、ウロコは透き通るような青一色だった。しかしこれだけ圧倒的に人外の存在なのに、双眸には知性の光が宿っていた。まるで海の中の光景を写し取ったかのように、揺らめき、宝石の如く絶えず青系統の色彩に次々と変化している。


「こ、これが蒼竜ランス……! す、凄すぎるぜ」


 神々しいなんてもんじゃない。明らかに生き物としてのレベルが違う。

 

 ――こんな異次元のヤツをデレさせるって言うのか!?

 


 

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