3 不意打ちはやめてください。
アヴェンジャーは実物だと車より馬鹿でかいのだが、こいつは俺のサイズに合わせてるのか比率はガンダ〇のビームキャノン程度のものに収まっている。
いや、そうじゃなくて!
ごつい兵器そのものと化した右腕を見て、俺は必死で元に戻れ! と念じまくる。願いが届いたのか、ポン、とコミカルな音を立てて消え去り、腕に戻った。
俺は何度も拳を作ったり開いたりを繰り返し、ちゃんと戻っているか確かめる。
「い、今のがトウヤ殿の力……? し、しかし大砲を作り出すドラゴンなど見たことも聞いたことも――」
「公女様、アレは大砲よりも恐ろしいものです。飛ばされた弾丸の衝撃波だけで人体が粉々になります」
「え、ええ!?」
何故か真顔で説明するユウスケ。いや、教える所そこじゃねーから!
「でもこれなら無理に契約しなくとも、十分すぎる戦力になりそうですね……!」
公女サマも納得しちゃったよ。どうやら地球最強のガトリング砲は、異世界でも無双するようです。
今日は色々あって疲れたでしょう、と公女サマの計らいで会談は終わり、寝室も兼ねた来客室へ通された。ここだけは他と違い、綺麗に整えられている。
「何かあったら、テーブルのベルを鳴らしてください。メイドの者がすぐにお伺いします。では、ごゆっくり」
バタン、と扉が閉められる。
緊張の糸が切れたように、俺はふかふかのソファーに身を投げ出した。
「……疲れた」
「なんだかスゲー事に巻き込まれたよな、俺たち」
向かいのソファーに座ったユウスケは、テーブルのお皿に乗せてあったお菓子を摘まむ。
「異世界、ドラゴン、剣と魔法。本当にあるなんて思わなかったぜ」
そう語る彼の眼はキラキラと輝いている。
勉強もスポーツも完璧。百人の女が全員振り向くような、アイドル顔負けの顔面偏差値。
望めば、勝ち組一直線なのに……こいつは俺の趣味にハマった。
群がる女性たちを適度に相手しつつも、その心はアニメやゲームの世界に向けられていた。
いつも俺と一緒に遊んでいた。
「なあ、お前ってさ」
「うん?」
「なんで異世界モノにハマったん? もう俺より詳しいよな」
「まーな。だって楽しいんだもの」
「スポーツや勉強とかより? 陽キャ連中とつるむより?」
「もちろん」
あっけらかんと言い切るユウスケ。
「お前と一緒にダベって、アニメ見たりしてる方が気が休まるんだ」
「………」
その表情が一瞬、翳ったのを見逃さない。
ま、ユウスケが望むなら俺は何も言わないさ。
「なら、そのアニメで学んだテクで余裕か? ドラゴンをデレさせるのは」
俺は起き上がり、ニヤッと意地悪く笑ってみる。
「どうかなー? ネコミミ美少女とかエルフとかなら挑んでみたいけど、あのデカいドラゴンだしなぁ」
そう、ヨルムンガンドのドラゴンは人型ではない。れっきとした、翼を持って空を舞う巨大な獣だ。俺みたいに人の姿を取る種もあるようだけど、好んでやる奴はいないらしい。
ちなみに俺は逆にドラゴンの姿になることは出来なかった。ゲームとかだと理性失くして暴れるイメージがあるから、出来たとしてもやらないけど。
「案外、お前のイケメンスマイルで頭ポンポンしたらイチコロかもな」
「イケメンスマイルってなんだよ?」
「いつもやってる奴だよ。こう、ニコって笑ってさ」
俺は指で自分の両方の口角を釣り上げた。
「こうか?」
真似して爽やかな笑みを零すユウスケ。ホント腹立つくらい絵になるなこの野郎。
しかし、何故か不意に俺に近づいてきて……頭をポンポンされた。
「……俺にやってどーすんだ、ドアホ」
「いや、ドラゴンだから練習になるかなって」
「俺で実験すんな!」
バシッと手で払い除ける。
「はは、悪ぃ悪ぃ」
クソが……一瞬マジで心が持っていかれそうになった。今のが契約……デレるってやつなのか?
公女サマ、そんな簡単には出来ないって言ってたじゃないですか!
俺はブンブンと顔を振る。心なしか、顔が熱い。
幸い、ユウスケは窓の外の景色を眺めているので見られてない。
……恐ろしい奴だ。
ユウスケのポテンシャルの高さを改めて実感したのだった。