1 デレさせられるってどういう事でしょうか?
俺とユウスケは石造りの間から、応接室のような場所に案内される。しかし恐らくここは城の中なのだろうけど、どうにも特有の豪華な感じが無い。あちこちが崩れ、補修され、あるいはそのまま放置されていたり、かつては綺麗だったと思われる調度品の残骸が転がっていたり、と。
これはまるで……最前線の前哨基地のような様相だ。
俺たちは促され、簡素な椅子に座る。
「私の名前は竜の国ヨルムンガンドの公女、シレーネ・ニベルです。突然の状況に驚いているかと思います。ですが、どうか私どもの話を聞いて頂けませんか」
そしてシレーネと名乗る金髪ロールが頭を下げた。
「……いったい、どういう事なんでしょうか? 明らかにここは……日本ではない。そう、俺たちが好きなおとぎ話のような世界だ。そして――何故か俺の大切な親友がこのような事になっている。全て、聞かせてください」
ユウスケは俺を気遣うように肩に手を置く。
こういう行動が平然と出来て、しかもそれが様になっている。そりゃモテるよな。
「はい。全て話します。まず、この国は現在、黒竜と呼ばれる恐るべきドラゴンに襲われています。我がヨルムンガンドもまた、竜と共に生き、竜と共に戦う王国ですが、相手は遥か格上の存在。到底、勝ち目はありませんでした」
なるほど。この世界は竜が当たり前にいて、しかも仲がいい。竜騎士とか、ドラゴンライダー的な奴だろうか? そしてその悪い奴もまた竜。分かりやすい。
「しかし我が国には一つの伝説がありました。【邪悪なる竜に襲われし時、異界より導かれた騎士が来る。彼の者、偉大なる竜の力従え、四匹の世界を司る竜と契りを結ぶ。邪悪なる竜、五つの竜の力に退かれ、世に大平戻る】――と」
「伝説と言いますが、殆ど廃れた民謡のようなものです。少ない資料をかき集め、ようやく我々は異界の住人の召喚手順を突き止めました」
シレーネ公女と、黒いローブの年老いた側近の爺さん魔法使いが語る。
「竜騎士に宿るという竜の力は、詳しくは分かっていません。ただ今、言えることは――ユウスケ殿からその力を一切感じないという事です」
申し訳なさそうに目を伏せるシレーネ公女。やがてその視線は俺へと移った。
思わず自分を指差す。
「トウヤ殿……あなたにははっきりと感じます。強い竜の力です。ですが、本来この召喚は竜騎士に相応しいものを一人、呼ぶはずだった。あなたは、何故かそれに巻き込まれてしまったのです」
「……マジっすか」
あまりの事実に、国のトップ相手に軽口が零れてしまう。
俺が呼ばれなかったのは、分かる。確かにこういうのはユウスケの役目だろう。
じゃあ何で、俺は今この場にいて、TSして、しかも本来ユウスケが持つはずだったらしい力を保有しているのでしょうか!?
「ええと、トウヤを元に戻せたり、日本に戻す方法は――」
「……この召喚は、目的を果たすために相手を強引に呼び出す邪法です。目的が果たされない限り――元の姿に戻す方法も見つかるかどうか」
うわー……追い込まれているとはいえ、かなりアレなやり方だ。
いや、異世界召喚なんてそんなものか。呼び出されて魔王倒せだの、何だのと言われるんだから。
「分かりました。なら、俺がその伝説を再び作りましょう。それならこの国も助かり、俺たちも日本へ帰れる。その間に元に戻れる方法も探す。ハッピーエンドですね」
「ユウスケ、お前」
ああもう、何でこいつはこんなにお人好しなんだ? 恨み言の一つくらい言う権利だってあるのに。即断即決って、ロープレの主人公だってしねぇぞ。
「だからその間、トウヤの面倒をお願いします――あ痛!?」
勝手に話を進めようとするアホに、俺はデコピンをぶつける。
「何一人で仕切ってんだよ、オメーは。何の力もないのにどうやって戦うつもりだ? 相手ドラゴンだぞ? 玄関先のトカゲやイモリじゃないんだぞ? おい」
正直、こういう展開には憧れていたし、今でも困惑と軽い絶望感の中、どこかでワクワクしている自分もいた。
異世界、ドラゴン、魔法。心躍るワードがこんなにも散りばめられた世界が本当にあって、そこに呼ばれた。
……俺は部外者な挙句、TSするとか言う訳の分からん要素が無ければ、ぶっちゃけもっと喜んでた。
「俺も一緒に行く。お前の力がこの身体にあるなら、一心同体だ」
それに放っておけないんだよなぁ。こいつ、頭良いけどアホだしすぐ人信じるし……絶対、悪い奴に引っ掛かるタイプなんだわ。むしろ俺が傍に居ないと、危なっかしくてしょうがねぇ。
「……分かったよ」
何か言おうとして、ユウスケは困ったように笑った。お互い長い付き合いだ……言っても無駄だと分かる時がある。
ユウスケがこの国を救うと決めるように、俺がユウスケと共に行こうと決めるように。
「……宜しいのですか?」
「男に二言は無いです。このユウスケ、公女様のために戦いましょう!」
ピシッとキメるイケメンスマイル。このツラでどれだけの女を堕としたんだろうな? この天然たらしは。
「っ、ありがとう、ございます」
公女サマも爺さん魔法使いと何度も頭を下げる。
話もまとまってきたところで、俺は気になってた質問をしてみた。
「ところで、なんか四匹のドラゴンも仲間にするみたいな流れでしたよね? やり方は分かっているのですか?」
「はい。それは――」
一拍置いて。
ついゴクリ、と唾を呑む。
「デレさせることです」
「「は?」」
綺麗に俺とユウスケの声がハモった。
え、何そのいきなりのラノベ的要素!?
「そしてトウヤ殿」
「はい、何でしょうか?」
「あなたもその一人になります」
「……は?」
俺はユウスケと顔を見合わす。
こいつが?
俺を?
攻略する?
ギャルゲーの如く?
元男の俺を?
男のこいつが?
「はぁあああああああああああ!?」
再び、俺の絶叫が木霊した――。
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