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9 ランスが仲間になりました。


 凄まじい量の水煙がランスとユウスケの間に広がる。


「ユウスケ! 大丈夫か!?」


 俺は親友の名前を呼び、叫ぶ。ややあって、散っていく煙の中からびしょ濡れになったユウスケが飛び出してくる。


「ああ、何とかなァ。でも一撃かましてやったぜ」


 ニィっと会心の笑みを浮かべるユウスケ。見るとランスの幻影も煙のように消え始めていた。


『見事……幾星霜の時間の中で、再び心が熱く燃えようとはな。お前たちの心意気――惚れたわ』


 同時にざあ、と雨のように細かい水が注がれる。

 地底湖の真ん中に一人の少女が、降り立った。


 波のように揺らめく青色のポニーテールと頭に生える見事な角。服装はチャイナドレスを思わせ、俺とは対照的なメリハリのついた体つきをしていた。その手には長大な青龍偃月刀が握られている。

 ゆっくりと開かれた切れ長の瞳は、ランスと同じ色。海の色彩を湛え、輝いていた。


「――ユウスケよ。ドラゴンスレイヤーを」

「は、はい」


 何かしらの力が働いているのか、ユウスケも湖面を歩いていき少女の前で立ち止まった。


「我が名は蒼竜ランス。我が水源、我が波打つ心を、そなたに」


 差し出されたドラゴンスレイヤーに手を重ねる。その刀身に水が集い、沁み込んでいく。鍔の部分には荒れ狂う水のような青いラインが刻まれた。


「契りは交わされた。今日からよろしく頼むぞ、ユウスケ殿」

「――ああ。共に歩もう。蒼竜ランスよ」


 ――蒼竜ランスが仲間になった。



 洞窟の外に出る。久々の日差しが目に染みた。


「ふむ……、人の身体で外に出るのは何百年ぶりだろうな?」


 ランスは俺たちの隣で軽く伸びをしていた。強い竜は存在するだけで力を消耗してしまう。だから縄張りを最適な環境に仕上げて最低限に抑える……が、もう一つの方法があった。

 それが、人間の姿になるという事。そうすれば人間並みの力しか失わずに済むし、一日三食の食事で賄えてしまう。


 もちろん強烈なデメリットもあった。従来の竜の姿が百%なら、人間時はその半分にも満たない力しか発揮できない。

 だから攻撃する際も得意な武器を用いたりと、弱さをカバーする戦い方で補うしかない。


 ……とは言え、ランスは最高レベルのドラゴンの一角だ。人の姿でも規格外の技と身体を持つ。相手が同格か、格上のドラゴンでもない限り遅れは取らない、らしい。


「この調子で残る三匹も仲間にしないとな!」

「いや、そう甘くはないぞ?」


 やる気を見せるユウスケだが、ランスは諫める。ユウスケはガクッと肩を落とした。


「……癖が強いとは聞きましたが」

「うむ……ルベル、ヴェルデ、アマレロ。我が言うのもあれだが……一癖も二癖もある奴らばかりだぞ。我は戦いを好み、強き男が好きだが他の連中は小難しい。面倒だ」


 あからさまに顔を顰めるランス。


「特にルベル! あいつは駄目だ。炎と水の関係を考慮しなくてもな!」

「え、でもシレーネ公女はルベルに会うためにも、あなたと契約せよと……」

「フン、シレーネめ。我らの関係は知ってる癖に……まあ、いい。そうしなければ、黒竜には手が出せんからな」


 あんなに強かったランスでも敵わない、と言わしめる黒竜とは何なんだろう。公女サマは孤高を好み、他と交わらない誇り高き竜と言っていた。そんな竜が何故、人里を襲うのか。不可解だ。


「ではラーグン連山に向かうとしよう。今のうちに飲み物はたっぷり確保するのだぞ?」


 蒼き竜の少女は悪巧みをするいたずらっ子のように笑う。俺たちはその意味をすぐ知ることになった。




「ところで、どうやって我が幻を見抜いたのだ?」

「ああ、これです」


 俺は筒状のものを見せる。


「何だこれは」

「サーマルスコープ……えっと、熱を探知する望遠鏡みたいな奴ですね。どんなに優れた幻影でも熱は持てないと思ったので」

「うーむ……我が力が、このような面妖な絡繰りに看破されようとは。修行が足りぬか……」


 項垂れるランス。ポニーテールもシュンと力なく垂れてしまい、俺たちはそれを見て思わず笑ってしまう。


「む、笑うでない! 我にとっては割と深刻なんだぞ!」

「ハハッ、す、すみません」

「次のラーグン連山でも、そんな風に笑っていられるか見物だなッ!」


 さっきまで威厳たっぷりだった竜が人の姿でプンスカする姿に、親しみを覚えずにはいられなかった。

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