王都でやりたいこと
石造りの舗装された道路に等間隔で建てられたレンガ造りの立派な建物。
人々には活気があり、屋根の上からざっと見ても、半径30m内に百人以上は行きかっていた。
正しく中世異世界ナーロッパのテンプレーション!俺の求めていた世界がそこには広がっていた。
今の目的は二つある。一つは人間になって旨いものをたらふく食うこと。
もう一つは定番の冒険者になって、ちやほやされること。できればアルスちゃんとパーティー組みたいなぁ。
欲望に忠実に生きる、それが俺の生き方だ。
さて、そうと決まれば行動開始だ!。
発動する魔法は『人間になる魔法』と『透明化する魔法』。当然見つからないように飯を食うための透明化だ。お金ないから仕方ないよね?つまみ食いも許されるよね?(許されません)
丁寧に詠唱したおかげで、正しく発動した魔法は本の姿だった咲斗を一瞬で人の形に変えてしまった。
体の動きを確かめるようにしっかりとストレッチをしてみる。身長はおおよそ180cmくらいに設定した。できるだけモテたいからね、長身がいいよね。髪は茶髪で顔は俺がイメージできるだけのイケメンにしてある。(当社比)
透明化した全裸の俺は最高の解放感で大通りに出ていく。人通りが多いのでぶつかりそうになるが、そこは元日本人。人込みの回避能力は随一なのだ。
すいすいと人の波をかき分けて、旨そうな出店を物色する。
ブロック肉の串焼きに、油が滴るどでかい骨付き肉。黄金色に透き通るつゆの入った具沢山のスープ、ツルツルとした食感の麺に濃厚な白濁スープが絡まったラーメンモドキ。
どことなく日本でもよく見る料理が多いようだが、今の俺は腹をすかせたモンスター。気にしないし容赦もしない!
目に付く旨そうな食い物を屋台から摘まんでいく。『透明化する魔法』は俺が掴んでいるものも透明化するようで、店主達は目の前から消えていく料理達に、目をパチクリさせながらキョロキョロあたりを見回して怯えている様だった。
たらふく食って満足した俺は静かに食器を返して一息つく。
大通りを見ていてふと気になる光景を見た。(さっきより鎧姿の人間が増えてるな)
明らかに一般人でない兵士が増えている。慌ただしく駆け足で通り過ぎていく様子を、遠めから眺めていて気が付いた。
(なんかイケメンばっかじゃね?)
兵士達が俺が想像するイケメン像よりいい男ばかりなことに戦慄する咲斗であった。
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胃を満たした俺は衣服を整えるために、高そうな魔道具店から装備一式を拝借した。
上から下まで黒黒黒!うーんこれぞ今風のオタクファッション。特にお気に入りなのが上着の漆黒ローブで、腹回りがしゅっとしていて、襟元が前に尖ってスタイリッシュな印象が中二病心をくすぐる。
時刻は夕暮れ時。空が茜色に染まるころ、俺は冒険者ギルドの門前までやってきた。
「たのもー!!」
テンションをあげて入ってみたものの滑り気味な空気が漂っているが、今の俺れは紛れもないイケメソだ(当社比)。注目を浴びてもなんら恥ずかしいところはない。
周りの目線を気にすることなく、ギルドの受付までスタスタと歩いていく。
「こんばんわお嬢さん。ここで冒険者になれると聞いて来たんだけど、間違いないかな?」
受付嬢は、なんだかキザっぽい口調で話しかけてくる俺に若干の嫌悪感を感じているのだろうか、ゆがんだ作り笑いで対応してくれた。
「は、はい、こちらで冒険者の登録ができます。」
「じゃあ直ぐに手続きしてくれ、必要な物はあるかな?」
「外部の人間でも冒険者にはなれますので不要です。ただし、活動実績が足りない場合は冒険者資格は剥奪されますのでお気をつけください。」
「また、冒険者カードは基本的に再発行は出来ませんので、無くさないようにお願いします」
一通りの説明を受けたあと、簡単なプロフィールを書いて登録は完了した。
冒険者としての証である冒険者カードを受付嬢からもらって内心wktkが止まらない。
「ねえ君、もしかして魔法使いだったりする?」
「え?あっはい」
唐突に後ろから声をかけられて振り向くと、黒髪ポニーテールの少女と、後ろには栗毛の少女ともう一人、見覚えのあるピンク髪の美少女が立っていた。
「あ、アルスちゃん」
反射的に声に出てしまった。まずいか?
アルスは怪訝な顔で俺を見ている、やめて、そんな顔で見ないで。
「あれ?アルスの知り合い?え~隅に置けないねぇ」
「ち、違います!こんな男知りません!!」
「必死に否定するなんてあやしー」
ポニテの少女がアルスをからかってる。かわいい。
「ん、彼が困ってる」
修道服を着た栗毛の少女が彼女達をたしなめる。
「あーごめんごめんwちょっとからかいすぎたね。」
「さて、単刀直入に言うけど貴方、私たちのパーティーに入りなさい」
「入ります!」
即断即決!順風満帆!!麻姑搔痒!!!
まじまじまじまじまじででじままじでじままままま!?!?!?!?!?
え、サイコーじゃんどうやって探そうだとか、どうやってパーティーに入ろうかだとかイロイロイロイロ考えてたけど勝手に転がり込んできたありがとうございます!!。
「なんでこの人なんですか?新人の魔法使いなんて使えないですよ。」
しかしアルスは納得してないようでポニテの少女に抗議している。
「だってほかの魔法使いは別パーティーに入ってるじゃない。そもそも魔法使いは希少なんだから、えり好みなんて出来ないでしょ。」
「うぅ・・・それはそうですが」
「まあ本当に使えないならパーティーから抜けてもらうということで、それでいいかな?ええっと~」
そこで自己紹介してないことに気が付いた俺は。
「ああ、俺は~ええっと、サキトと言います。よろしくおねがいします」
「ん?サキト?」
さらに怪訝なかおになるアルスを全力の笑顔で迎え撃つ。気が付くな~気にするな~。
「サキト君だね、私はノアール。こっちの顔が良くて不愛想なのがアルス。で、こっちのプリーストがメイア。これからよろしくね!」
それぞれに軽く挨拶した後、翌日にまたギルドに集合と言うことでお開きとなった。
ノアールちゃんも活発そうでいいな~。メイアちゃんは大人しそうでかうぃい~。そして最強美少女アルスちゃん、君がナンバーワンだ。
明日の冒険に胸を膨らませながら、どこぞの民家の屋根で就寝する咲斗君であった。
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夜の帳が下りる頃。暗い路地裏に溶け込むような、真っ黒なローブに身を包んだ影が一つ。
淡い色で発光する四角の板にブツブツと話しかけている。
「はい。件の魔本を確認しました。いかがいたしましょうか」
「――――――」
「かしこまりました、では黒の森に誘い込みます。はい、手はず通りに」
板をしまい込み黒い影は三日月のようにニマリと口をゆがませる。それは獲物を前に舌なめずりをする獣の様だ。
「嗚呼、皇帝陛下。我が使命、必ず全ういたします。どうか私に戦乙女のご加護を」
黒い影は路地の奥へと消えてゆく。深淵からはクスクスと静かく響く笑いが木霊していた。
最後のあやしい奴は誰だ?
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