タバコは20歳になってから…脅迫されますよ。
「遠足でも行くか!」
土木もんは、急に思いついたのかタバコを床に落とし足で火を消す。
「はぁっ!お前さぁ!何度言ったら解かんの?灰皿で消せよタバコをよ!」
今は、安友の部屋にいた。畳は、見事に焦げ跡が残る。
「細かい事は気にすんなよ?それよりさ、土曜・日曜って暇だろ?どっか行こうぜ?」
土木もんは、安友の肩を叩きながらタバコに火を着ける。
「はぁ?勝手に行ってこいよ!僕は、宿題があんだからよ!」
安友はとにかく機嫌が悪かった。
「どうせ宿題とか言いながら、本棚の後ろに隠してあるエロ本読んでんだろ?まぁいっか…じゃあ俺様は、ミナちゃんでも誘って行ってくるわ」
ミナちゃんとは、安友の同級生で学校のアイドル的な存在で、安友が密かに想いを寄せている女の子でもある。
「えっ?何でミナちゃんと行くの?呼ぶんなら行ってあげても良いけど?」
「あーいいよ、いいよ来なくて」
適当に手を振り断わる。
「いやいやいや…行くし!つーか、何でミナちゃんと仲が良いんだよ!」
「だって、ミナちゃんに男を紹介してあげてるし」
土木もんは、タバコを窓から投げ捨てた。
「はぁ?マジふざけてんの?未来の嫁さんよ?僕の嫁さんに何してんの?」
と言うのも、将来の安友の嫁さんが同じクラスのイジメっ子のジャンゴ鈴木の妹、ジャンゴ小嶋と結婚するらしく、そんな未来を変えるために今から色々とあれこれと未来を変えているのだ。
「別に、良くね?未来なんてまだまだ先の話よ?それまでに、ミナちゃんだって男を知っとかないと付き合ったのがいきなり安友で、結婚なんて可哀想すぎなくないか?」
そう言って土木もんは、またタバコに火を着けた。
「何だよ!人を罰ゲームみたいに扱うなよ!」
その言葉に土木の手からタバコがこぼれ落ちた。
「違うのか…?」
「違うよ!ふざけんな!」
安友は落ちたタバコを拾い灰皿に押しつけた。
《カシャッ》
写真を撮る音が聞こえたので、その音の方に視線を向けると土木もんが携帯で写真を撮っていた様だった。
「安友…今の写真、いくらで買う?」
安友には土木もんの言っている意味が解らなかったが、携帯の画面を覗き込むと灰皿でタバコを消す安友の姿が写っていた。
「この写真を、学校に送ろうと思うんだけど…お前だったらいくらで買う?」
はっきり言うと、それは脅迫であった。
「いやいやいや!このタバコは、土木もんの投げ捨てた奴だかんね!僕は関係無いからね!」
土木もんは、タバコに火を着け鼻から出した煙を安友に吹きかけた。
「マジさぁ、そんな強気でいいの?停学モンよ?この衝撃写真?別にお前が買わないなら、お前の両親と学校とミナちゃんに送るだけだからよ」
素早い指の動きでカチカチと携帯のボタンを押していく。
「チッ!足元見やがって…いくらで売ってくれんだよ?」
土木もんは、タバコを窓から投げ捨てると3本の指を立てた。
「3000円かよ…くそっ!また今月のお小遣いが飛んでくし!」
渋々、財布から1000円札を3枚取り出した。
「はぁ?お前さぁ!3000円って子供のお小遣いか?正社員の初任給か?ふざけてんの?3万だろ?3万?」
「はっ?3万って何だよ!大体この前、120円の薬をボッたくって10万で売りつけただろ?本来なら30円で充分な価値だろーが!ふざけんな!」
土木もんは、安友の頭を掴み上げた。
「よぉ兄ちゃんよ?便所まで顔貸すか?なぁ?」
どうしても金が欲しい土木もんは、安友に頼み込む。
「解ったよ…ツケにしといてくれよ…それより、遠足の話はどうなったんだよ?」
確かに、話が大分逸れてしまっていた事に気づき、携帯の送信ボタンを押してから、フンドシの中に携帯を押し込んだ。
「そうだったな!じゃあ、早く用意してくれよ!みんな駅で待ってるから」
土木もんは、ニカッと笑い時計を見た。
「今からかよっ!明日から行くんじゃ無いの?じゃあ、ちょっと待っててくれよ~…」
慌てて押し入れの中から、小汚ないリュックを取り出すと着替えやらを詰め込んでいく。土木もんは、腕時計を見る仕草をしてから、フンドシの中から奇妙な道具を取り出した。「ここだけ自動ドアー!」
フンドシの中にどうやって入ってたのか解らないが、かなりの大きさの自動ドアを持ち上げると、窓辺に立て掛けた。
真ん中に、『押してください』のボタンを押すとドアが開いた。そのドアの向こうは不思議にも、山の麓に続いている。
土木もんは、お菓子を持っていくかどうか迷っている安友の首根っこを掴むと、ドアの中に放り込む。
地面を派手に転ぶ安友を見た後に、安友の荷物をそのまま叩きつけてから自分もドアに入っていった。