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遊霊-Yurei-  作者: 藤原 凌
柴橋 勇気
3/5

3話 発見

もう少しで夕焼けが始まりそうな空だ。

下校をしている小学生達の歓声が街に響き、その声に家へ帰ろうと、背中を押される。

ようやく起き上がることができた俺は、歩きながら、改めて自分の身に起きた事を思い返す。

「本当に怖かった、」

鮮明に描写される悪霊の姿が、せっかく温まった体を震わせる。

……もしかして……俺もいずれ。

ドロっとした、嫌な妄想を頭から拭き取るように、歩く速度が早くなる。

いつも通りの帰り道は、先ほどまでと違い、少しほろ苦く感じる。

大きな公園の正門に差し掛かる時、不意に、前を通り過ぎる青年に焦点が合う。

「あれ、……今の小谷じゃね?」

エプロンを持った優男、その青年は公園の目の前にあるカフェへ入っていった。



小谷太一とは、小中学校の同級生だが、仲が良かったわけではなく、一緒のグループで遊んだ記憶もない。

それなのに、なんで俺が小谷の事を覚えているのか。それは俺が一方的にアイツのことを見ていたからだ。

小谷の事が気になりだしたのは、小学校の高学年の時だった。

放課後、塾までの時間を友達グループで遊んでいた俺は、教室に筆箱を忘れたことに気付き、急いで取りに戻っていた。

廊下から誰もいないはずの教室に入ると、1人楽しそうに本を読んでる奴がいた、小谷だ。

「おーい、何してんの?」

「……」

本に夢中なのか返事がない、俺はニヤニヤしながら静かに近づき、背中を強めに叩きながら大きな声で。

「ワァ!!!」

「うぁあああ!?!?」

小谷は椅子から飛び上がり、その衝撃で机は倒れ、本が床に落ちる。

「痛ッ」

叩かれた背中を気にする小谷を見ながら爆笑する俺、そんな俺に対して小谷は睨みながら文句を言ってくる。

「いきなりなにするんだ!!!」

驚いたからなのか、背中の痛みがそうさせるのか、小谷の目は薄っすらと充血し、今にも泣きそうだった。

「ただちょっと驚かしただけじゃんか、」

思わず言い訳を口にする。俺は楽しいことがしたかったのに、何でコイツは泣きそうなんだ。自己中心的な感情で罪悪感を上書きする。

そんな俺の横暴さに気が付いたのか、小谷は目元を腕で、ゴシゴシと拭きながら立ち上がる。

「もういい、帰る!」

突然、何も持たずに走り出す小谷、想定外の連続で呆然とする俺の目が、小谷の本に焦点を合わせる。

これ持って帰らなくていいのかな? そう思った瞬間に、俺は動き始めていた。

本を拾い、机を起こし、小谷のランドセルを持って走り出す。

幸いなことに、すぐに小谷を発見できた。

校門を出て、少し行ったところを泣きながら歩いていたからだ。

「小谷!!! これ!!!」

「!?」

名前を呼ばれたことで、反射的に振り向き、声の主がわかると逃げようとする、小谷。

「ちょ⁉ 待てよ‼」

幸か、不幸か、小谷の運動能力は高くなく、逃走劇は数秒で幕を下ろした。

「なんで、追いかけてくるんだぁあ」

「ちょっと、うぁ、いいから!話、聞けよ!」

泣きながら暴れる小谷を捕まえ、なんとか話をしようとするが、うまくいかない。

「これ!!!」

苛立ちながら、小谷の顔の前に持っていた本を突き出す。

「それとこれ!!!」

ランドセルを小谷の胸に押し付ける。

「あ、ありがとう」

思わず感謝を口にする、純粋で気弱な小谷に対して、上書きしたはずの罪悪感が滲み出てくる。

「………………さっきはごめん」

「…………いいよ」

「……男なんだからそんなすぐ泣くなよ」

「…………うん」

少し俯く小谷を見ながら、俺は大きな見落としがあることに気が付く。

「あ!!!」

「!?」

「塾行かなきゃ! 筆箱! 教室‼」

「!?」

「俺、行くから‼」

学校に向かい走り出す俺の後ろから声がする。

「じゃあね! ……また、明日‼」

「じゃあね!!!」

塾に遅刻した俺は、塾の先生に怒られ、もちろん母さんにも怒られた。

その時から、視線の端で小谷を追うようになっていた。

罪悪感からなのか、簡単に泣いてしまう小谷を、俺が守ってやらなきゃいけないと思っていた。

小谷の事を、何度か友達グループの遊びに誘おうと考え、その度に躊躇する。

なぜなら、いつも彼は楽しそうに何かをしていて、俺が声を掛けるとまた小谷の世界を壊してしまうんじゃないか。

そんな風に考えている内に時は過ぎ、俺は少し離れた進学校、小谷は地元の高校と別々の道を進んでいた。



「いらっしゃいませ、ご注文は何になさいますか?」

「ミルクティーに、タピオカトッピング。氷少なめ、シュガーは普通で、お願いしま~す」

「ご注文を繰り返させていただきます、ミルクティーにタピオカトッピング。氷少なめ、シュガーは普通で、お間違えないでしょうか?」

「大丈夫で~す」

4年ぶり見る小谷の顔は、どこかスッキリとしているが、優しく少し気弱そうなその雰囲気は、相変わらずだった。

途切れることなく続く、女子高生やカップルからの注文に、ハッキリと受け答えしている小谷を見て、1人うれしくなる俺。

「小谷、久しぶりだな、俺だよ、柴橋勇気! 覚えてる?」

あの時から声を掛けず、話をすることも出来なかったくせに、何故か今は、話がしたくて仕方がない。

「小学校4年か5年の時だっけ? 俺が、お前の事、泣かしちゃったの。あんときごめんな~、ほんとそんなつもりじゃなくてさ」

「あれから何回もお前の事、遊びに誘おうと思ったんだけどさぁ、お前いつも何かしてんじゃん⁇」

「楽しそうなお前を見てると、なんか話し掛けられなくてさ、まぁ、……そんな昔の事はどうでもよくて」

「なに、いつからここで働いてんの? ここの前よく通るけど気付かなかったわぁ、」

「…………あれだな、変わんないな、お前、今も楽しそうな顔してるよ」

昔と変わらないその顔は、本当に楽しそうで、俺にはない、その熱量にいつからか憧れていた。

「なぁ、今日さ、俺、お前の家まで、憑いて行っていいかな?」

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