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ある男の独白

悪魔視点です。

蛇足程度のものなので短いです。

 

『クククッ今日逝きましたか』



 契約の報酬として刈り取った魂の不味さに口直ししようと良さそうな魂を探せば間近にいた。契約主の姉、実際のところ契約主の従姉妹にあたるミーシャという娘。美しく輝く魂に苦悩が合わさり実に好みの魂だった。食べるのはもったいない。そう思ったからこそ魂を狩ることなく彼女を自分の眷族にした。


 悪魔の長い生の中での戯れのつもりだった。


 だが、意志が思いの外強く完全に堕ちる事は無く最期は自ら太陽の光を浴びて消える事を選択した。まぁ、魂は回収したのでこの美しさを心行くまで堪能しましょう。ついでに、あの王太子が今後どう生きていくのか二人で見守るのもいいでしょう。






 それにしても、人間とは愚かで面白い。

 あの王太子も少し自分で調べればミーシャの境遇などすぐに分かっただろうに。


 王太子と婚約して三年。アイシャという娘が侯爵家にやってきた。

 アイシャは侯爵の姉が嫁ぎ先の伯爵家で出会った平民との間に出来た子供だった。姉の夫は激怒し離縁。侯爵家に戻ってきたのだが、アイシャは自分が平民との間に出来た子であることは理解出来ず、ずっと自分を伯爵家の人間だと思っていたのだ。母は離縁されたが実家は侯爵家。伯爵家よりも上だという事に喜んだ。


 侯爵は良識ある人間で嫁いだ姉を決して本館には立ち入れさせなかった。それを不満に思っていたのかあの母娘はミーシャを邪魔に思っていたのだ。月に一度か二度行われる婚約者同士の交流会。お互いあまり口数も多くなく、関係も良好とは言い難い。


 それを利用した。

 母親は娘を王太子妃にしようと考えたのだ。平民の子とはいえ、自分は侯爵家出身の高位貴族。ミーシャの母親は子爵家出身だというのに、侯爵夫人の顔をして邸を乗っ取って!!

 実際は侯爵の熱烈な想いが通じ合い結婚した恋愛結婚で侯爵夫人としての仕事を熟していたにすぎないのだが。逆恨みでしかないが、ミーシャを蹴落としそこに自分の娘を据えるというのはこの母親の中で決定した事だった。


 女は勉強が出来なくても愛嬌があればいいの。あんな澄ましたミーシャなんかが王太子の婚約者なんて可哀想。王太子にはアイシャのような陽だまりのような子がお似合いよ。


 そう何度も吹き込み、アイシャは自分が王太子妃に相応しいと思うようになる。

 ミーシャが婚約者に決まったのはアイシャがまだ幼かったからで本当は王太子もアイシャが好きなの。そう信じてやまないアイシャはミーシャとの交流会には必ず参加した。本当はアイシャが婚約者だけどミーシャを婚約者にしてるのはミーシャが我儘を言ってるからなの。


 だから、アイシャは王太子と一緒にいていいのよ。邪魔者はミーシャの方なのだから。



 バカバカしい理屈だがそれを信じ切る母娘の頭はイカれてるとしか言えないようだ。


 それに気づかない王太子も。


 使用人の中には亡くなった侯爵夫人は子爵家出身で出戻りとはいえ侯爵家の一員だった姉の方につく人間は少なくなかった。使用人からの虚偽の報告で侯爵はそれなりに交流していると信じていたのだ。

 ミーシャが一人残され、残ったお茶を黙って飲み干す姿など想像もしていなかった。



 呼び出したきっかけは何だったか。

 自分がデビュタント出来ないと知った時か。

 その時初めて自分が平民との間に出来た浮気相手の子だと知ったアイシャ。


 楽しみにしていたのに、王太子とファーストダンスを踊るんだと夢見ていたのに!

 ファーストダンスどころかデビュタントも出来ないただの平民なんて聞いてない!


 ちゃんと教えていたのに聞く耳を持たなかったのはアイシャだ。婚約者に構ってもらえなくて嫉妬した女の妄想話だと思っていたのに。


 あまりのショックに自室に篭り泣き続ける。

 でも納得いかない。だってイーデンはミーシャより私の方が好きなのに。私がデビュタント出来なきゃ、絶対しなきゃ! イーデンの為にも!


 図書室に篭り引っ張り出して来た魔術書に載っていた悪魔召喚。

 対価は願いが叶ってから支払えばいい。なんでもいいから婚約を破棄させないと! イーデンは優しいからミーシャへの情も断ち切らないと!


 出来損ないの魔法陣に立ち、召喚したのが私。

 本来アイシャが呼び出せるような存在ではないが暇を持て余した悪魔は他者を押しのけやって来た。



 そうしてあのデビュタントの夜会。

 王太子の意識を誘導し、アイシャに都合がいいように運んだ。ここで婚約破棄でも解消でもすれば良かったが、無意識に婚約破棄も解消も拒んだ王太子は夜会でソレを告げる事はなかった。


 解消を拒み半年の猶予を貰った王太子。

 だが、ミーシャはそれに反応しなかった。結局お茶会でもアイシャばかりを相手にする王太子を見ればミーシャの存在意義などない。アイシャを代わりにすればいいのだ。



 そうしてあの日。

 漸くミーシャの前に現すことが出来た。焦がれた魂。食べるのが勿体ない程美しい!


 自分の血を与え眷族にしたが、本能のまま人を襲う事もなく葛藤しながら心の中で泣いていた。


 殺して

 殺して

 殺して


 殺してしまう前に殺して

 大切な人を手にかけてしまう前に、どうかわたしを殺して下さい。


 確かに血を与えたというのに魔物としての本能に抗い、生への渇望を捨て死を願うとは。



『クククッ! 貴女はすでに私の物。ならば、死んだとしても再び私の眷族として生まれ変わるのですよ。二度と、人間に生まれ変わる事もあの王太子に会う事も出来なくなりますが……。それでもいいなら、手を貸しましょう』



 そして日が昇る時間に東の塔の最上部に誘導し炎に包まれ死んだミーシャの魂を回収。その魂の美しさを堪能しつつ王太子のその後の人生を見つめた。

 王太子が没し魂のままのミーシャを転生させるべく解放させる。


 再び眷族として転生してくるまで早くて百年。



『ま、それくらいは待ちましょう。悪魔の一生は長いのですから……』



 ずぅーっと待っていますよ、私のミーシャ……





ありがとうございました!

これで最後です。


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