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親友の死  作者: クスクリ
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成澤の魂Ⅳ

 今日は7月4日、日曜日に成澤を病院に訪ねてから4日が過ぎた。あれから成澤のことばかり考えているが、やはり釈然としない。本当に成澤の家族の選択は病状の現状維持でよかったのか。


 成澤の家では喫わなかったが、彼の家の駐車場ではじっくり味わって喫わせて貰った。お暇する前の暫しの歓談タイムだ。

「この前会えんやったときじっとカチガラス観察しよったんよ。確かあの電柱に巣あったよな?」

「カラスに奪われたようなんよ。昔はそうカラス居らんやったんやけど近頃増えてきたみたい」

「俺は鳥巣にくるたんびに不思議に思うんやけど、鳥やけん北九州くらいまでなら飛んで来てもよさそうなんに全く居らんもんな」

「確かにね。こっちに来たとき鳥巣ではあれがカラスやって言われたん覚えとるよ」

「まぁ正確に言えばカササギばってんな」


 成澤の嫁は、「これ持って帰って。一人になったらこんなに要らんけん」と友人から貰った10キロ入りの玄米をくれた。これでもう三回目か。二回目は一年半前、退職のお詫びと障害年金の証言を書いて貰ったとき。一回目ははっきりは覚えてないが、会社に提出する5年ごとの身元保証書の保証人になって貰ったときではないか。

 一回目はまだ辞めるつもりなど毛頭なく、ばりばり仕事していたので、貰ったまま1年以上放置して腐らせてしまった。二回目は即精米に行ってありがたく炊かせて貰った。今回も翌日、精米に行った。節約できる金はできるだけ節約したい。何しろ、俺ら夫婦は無職なんだから。


 高校時代の俺の親友豊田には、見舞に行くなら一応知らせてくれと言われていたので、わざわざ日曜日にしたのだが、仕事とのこと。日曜日急に仕事になったのかなと大して気に留めてなかったが、成澤の嫁が言うには、転職して介護関係の仕事のようだから、日曜日休めないんじゃないのとのこと。豊田は娘二人で、上は大学生、下はまだ高校生だ。働けるまで働く気のようだ。感心してしまう。


無職の身となり、家族と肩を寄せ会って超然と生きることをモットーとした今、自分からは動かない俺だったが、成澤の件をどうしても話してみたかった。その筆頭は豊田だ。鳥巣から小倉に帰ったその日、我慢できず、無料のライン電話で話した。

意識が戻る可能性があったこと。医者に意識が戻ったら双方ともに厳しい局面に置かれると脅されたこと。成澤がマザコン気味であったこと。KI君が不登校になったとき放置したこと。20年前、多発性硬化症の発作が起きて検査入院したとき、嫁に当たり散らしたこと。成澤が家族にクソオヤジと思われていたこと。STS君が放射線治療を拒否して、医者に病状の現状維持をお願いしたこと。

俺は豊田に、「もう一回成澤と話したいっていうんは家族にとっちゃぁ俺らの単なるエゴかもしれんぞ。諦めにゃいかん」

「ん〜、そうかもしれんな。それらしき話は俺も聞きはしとったんやけどなぁ」


「実をいうと4月に親父が亡くなったんよ。色々することの多て成のとこにも行きそびれてない」

「何か!そりゃぁ大変なことやねぇか。謹んでお悔やみ言うわ。俺も親父が死んだときゃぁ大変やったもんにゃ。特に葬儀はよう」

「お袋が実家に一人になってしもうたんよ。まぁ前から夜は実家に居るとやが、8月に鳥巣高校の同窓会やるんは知っとるか?」

「あぁ、1月に今村の葬式に言ったときノリミチが言よったわ」

「俺の実家に泊まってええけ来るやろ?」

「まぁ考えとくわ。ところで今は日曜日休みじゃないんか?」

 業種を聞くような野暮なことはしなかった。俺と違って豊田は還暦過ぎても懸命に働いているのだから。働いているということが事実だ。

「今の会社は日曜日休みやないんや。貧乏暇なしや。今度娘が留学したいって言い出して頭抱えとるんや」

「そうか。運よくちゃ語弊があろうばってん、俺の息子は頭の悪うて高校までしか行かんやったが、もし大学行って留学してぇって言うたら微力ながら夢叶えてやるしかなかったろうな。親の辛いところやな。ほいでも娘はいづれ結婚して家出て行くもんな。して遣り甲斐はないよな。まぁ息子も結婚したら実家にゃ寄り付かんで嫁の実家ばっかり行っとろうが、一応姓は継いでくれるもんにゃ。俺の友達の娘も留学して金腐るごと掛けたばってん、結局留学先の外人と結婚して住み付いて帰って来んやったわ」

「そうや。そこなんよな」

 他にも、日韓問題とか色々話して、どれくらい話したかスマホで確かめたら、1時間15分も話していた。


 二日後、もう一人の高校時代の親友、東京に居る建設会社役員の井本にも電話してしまった。お恥ずかしい。超然を気取っている俺が。

 井本が成澤を見舞って半年が経過していたから、近況報告をするような感じで応答した。意識が戻る可能性を家族が拒否したことに関しては、このときは俺も仕方がないと納得していたが、井本も同意する。

「ところで同窓会のあるん知っとるか?」お俺。

「あぁ、案内状がきたわ」と井本。

「何てや!俺には来とらんぞ」

「ほんなら何で知ったとか?」

「1月に今村の葬式に行ったときノリミチが言よったけんよぉ。去年の同窓会の案内はちゃんと俺にも来たぞ。豊田が幹事しよったしよ」と俺。

「去年は鳥巣中の同窓会やねぇか。今年は鳥巣高の同窓会や。幹事も違うけんYMRの住所が分からんやったんやねぇか。今度は来るんやろ?」と井本。

「まぁ考えとくわ」

「去年も考えとくって言うとったばって来んやったもんにゃ」

 本来天の邪鬼の俺のこと、行く気が冷めていく。招待状も来てねぇのにのこのこ出掛けて行くバカは居らんわ。

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