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親友の死  作者: クスクリ
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成澤の魂Ⅲ

「KI(成澤の長男)が不登校やったときもそう。家の中暗くて殺伐としとったよ。STS(成澤の次男)も面白くなくていつも仏頂面。もう我慢の限界超えてお父さんに何とかしてって頼んだら、俺は仕事で忙しいじゃ、家のことはお前に任せとるの一言。そのくせ毎日酒飲んで帰ってくるし、ほんとクソオヤジやったよ」

「家ん中ぐちゃぐちゃやったんやな。俺は成澤の外面しか見とらんやったもんなぁ。会えんやったあんときもそうやけど、ときどきやって来て色んな話ばして、聞いて貰ってすっきりして帰るだけやったけんね。知らんやったわ。ドラマに出てくる家庭ば顧みらん親父そのものやん」

「あの頃お父さん言うとったよ。YMRは今、会社と一人で戦いよるんやって」

「そうか成澤。俺んことちゃんと心配してくれとったんやなぁ」


「俺はいつも心掛けとることがあるんよ。漫画のゴルゴ13って知っとう?」

「あの超A級スパイナーは自分ば第三者の目で見ることができるんよ。やけん請けた仕事、絶対失敗せん。俺も自分のやりよることば、冷静に第三者の目で見れるようにならないかんって日頃から言い聞かせよんやけど、できとるかどうかは分からん」と笑った。

 そうか、成澤は俺にとっては大の親友でいい奴やったが、家庭的には良き夫、良き親父ではなかったということか。


「ばってちゃんと仕事はしてくれて、私が老後も安心して生活していけるようにはしてくれたけん文句は言えんけど」

「確かにね。勤続40年でこの家も建てて、息子二人大学行かせて一家の主としての責任は果たしてはくれたよね。俺には真似できんやったことや」

 俺は猫じゃらしで遊んでやっている息子をわざとらしく見て、「こいつは高校までしか行かせとらんし、家は中古やし、仕事はケツ割って定年一年前に辞めたし、年金は微々たるもんやし」

「KIもお父さんの退職金があったけん結婚式もちゃんと挙げられたしね」


「ところで、成澤はお袋さんに何も言えんって言よったばってん、それも知らんやったわ」

「何かあったらお父さんいつもお母さんの味方して私に当たっとったよ。歳で免許返納させたときも交通手段がないからって送り迎えもしとったしね」

「俺は嫁の味方かな。お袋は血が繋がっとるけん切っても切れんけど嫁は感情の行き違いから離婚したら全くの他人やけんな」

「私も好い加減離婚してやろうかって考えたけど実行できんやったよ。でも実際こうなってみると寂しいよね。確かにクソオヤジやったけど最近は丸くなってきよったけんね」

「熟年離婚は結構あるぜ」

「KIが私に言うんよ。何があっても俺は嫁の味方やけんねって」

「まぁ私もKIの嫁には考えさせられることもあるけど、変に口出さんでなるべく見守るような形はとろうって思うとる」


 ふと嫁が、「STS君はどうしとんの?」

「博多で一人住まいしとる。彼女と別れたんよ」

「えっ、STSくんが!」と俺は驚きを隠せない。

「彼女とは何年付き合っとったん?」

「5年よ。STS、3月一月は有給消化しよったんよ。彼女は働きよったけん晩御飯はSTSが作ってやりよったんよ。転職先の会社から帰宅するんもSTSの方が早くて彼女の帰りの方が遅かったけんずっと作ってやりよったと。好い加減STSばっかり作るのが嫌になって彼女に言うたら、帰りの早い方が作るんが当然みたいに言われたらしいんよ。2LDKで部屋は二人別々で、自分の部屋は自分で掃除するんやけど、居間は気付いた方が掃除するごとしとっていつもSTSがやっとったみたい。考え方の違いやね。一緒にやっていけんってSTSから別れを切り出したって。彼女は泣いてたみたいやけど付き合っとったときには見えんやったんやろね」

「確かにそれは言えるわ。一緒に住んでみらんと分からんこといっぱいあるけな。まぁSTS君のことやけん彼女てろすぐできるやろうしね」


 今回成澤の嫁と色々話して知らなかったことが結構あった。家庭内のことなど当事者が話してくれないことには知りようがない。

 確かに、できることならもう一度、話せるものなら話したい。成澤の意識が戻ってくれることを切に願って見舞いを重ねたが、家族にとったらそれは単なる俺のエゴに過ぎなかったようだ。現状維持が家族の希望なら俺にはどうしようもない。

 ただ、考えさせられる。俺がもし成澤の境遇だったとして、果たして嫁と息子は、俺に当たり散らさせれ地獄のような日々を送る羽目になったとしても、俺の意識が戻ってもう一度話してみたいと願ってくれるだろうか。

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