成澤の葬儀Ⅲ(通夜Ⅱ)
やっぱり、俺、豊田、田尻沢と四人でつるんで遊んだ仲だ、俺の顔をじっと見て、「おう、YMRやないか!久しぶり」と日隈。
「そうよ俺よ。色々聞いとったばってん元気にしとるやないか。安心したわ」
後が閊えていたので受付での会話は簡単な挨拶で終わったが、これ以上突っ込んだ昔話を交すかどうかは奴次第だ。ここで誰かが手嶋と呼び掛けた。やっと、俺が会場にやって来たとき、受付をしていた男二人のうちのもう一人の名前が分かった。
――何か、手嶋やったんか。全く分からんやったわ。まぁどうでもええが。
37年前、俺は新卒で小倉豊前屋に就職して鳥巣を離れた。その隙にグループに居座ったのが手嶋だ。小倉に出てからも繁々と鳥巣に帰って来て成澤、豊田と遊んでいたが、あるときから国立の◯◯大学を卒業して◯◯市役所に就職した手嶋が入り浸るようになった。俺はあまりいい気がしない。不意に湧いて出たような気がした。それに手嶋は、高校二年のとき、俺と成澤と一緒のクラスになっただけで、別段仲がよかった訳でもなかったから。何で?
成澤の嫁は手嶋から紹介して貰った。だから、手嶋の嫁と成澤の嫁は友達同士だ。但し、手嶋は市の上級職、高卒の成澤は初級職、その肩書の差は歴然だ。嫁同士に、その点に関して確執がないと言ったら嘘になるだろう。その証拠に成澤の嫁は俺と豊田に友人代表の弔辞を依頼してきた(単なる俺の独り善がりかもしれないが)。
ふとカウンタ―に置かれた香典に目が留まる。同じクラスになったことはないが、同窓の平川・MNBだ。どうして俺がこいつの存在を気にするか?
俺にはどうしようもなく羨ましいことがあった。それは彼は軽い口唇裂にも関わらず、三年のときの同級生、大山・IZMと付き合っていたという事実だ。結局別れてしまって、大山は同窓生の吉松と結婚してしまったが。そんな彼に俺は気軽に声を掛けてしまう。
「おっ久しぶり!」
リアクションは日隈のときと一緒だ。
「え~と誰やったかいの?」
「別に名乗る者でもねぇよ。分からんなら分からんでええわ」と俺は冷たく返す。
日隈は何とか思い出そうと努めてくれていたがこいつは違う。さっさと身を翻して通夜会場へと消えた。別に気にすることでもない。大して親しくはなかったから。もう二度とこいつを目にすることはないだろう。といっても、また誰かの葬儀で顔を合わせないとも限らないが。もう俺には、小倉からわざわざ足を運ぶような仲の葬儀はないだろう。俺が先に鬼籍に名を連ねることはあっても豊田は大丈夫だろう。
やっぱり、田尻は姿を見せなかった。香典は誰かに託していた。経年による小児麻痺の症状の悪化で教職も早期退職した。身体の調子が物凄く悪いと聞いてはいたが、動けないことはないだろう、塾のバイトはしていると言っていたし。存命中、選挙運動やら何やらで、結構成澤の家は訪ねた筈だ。ちょっと薄情ではあるな。今村・MTAKの葬儀にも、長く椅子に座っておれないという理由で来なかった。一応親友のつもりではあったが、無職になった今、親友リストからは外している。俺の売った車には乗ってくれているようだが、もう二度と会うことはないような気がする。というか、当の本人は俺のことなど記憶からもう抹消していることだろうよ。
佐藤・NRMTと野方も来てくれた。1月の今村の葬儀以来だ。前述の三人で、偉そうに宣う俺も、このときは誰だか一向に思い出せなかった。申し訳ない。野方は喪服は着ていたがノーネクタイだ。
豊田が、「野方はとても還暦には見えんな」
カウンタ―の前に立った野方に俺は親しそうに語り掛けた。
「さすが野方や。相変わらずラフな格好やな」
通夜と葬儀で耐えられないのは長い僧侶の読経だ。通夜は1時間くらいだが、その間もぼちぼちと弔問客はやってきた。受付は初めての経験だが、式に出れずに済んでよかった。




