記「アメミヤサマ」
私。名前を院瀬見夕依香といいます。可愛いものが好きで、特にお人形さんが大好きです。
いつも松山神社にいます。いつも雨宮と話しています。雨宮はどこに住んでいるか知りません。
年齢もわかりません。でも私より少し年上ぐらいに見えます。雨宮はいつもかわいい巫女の格好をしています。
「雨宮。今日もお人形さん作ってくれる?」
「もちろんなのです。夕依香が喜ぶ姿を早く見たいのです!」
雨宮はよくかわいいお人形さんを作ってくれます。それがとても可愛いのです。
「夕依香、いつも帰りが遅いようでうすが、大丈夫なのですか?」
松山神社は道路を挟んだ反対側に公民館があり、公民館の人はいつも私を心配してくれます。
でも私は帰りたくありません。お母さんが意地悪をしてくるのです。
「帰りたく…ない…私ずっと雨宮と一緒にいたい!」
雨宮は困った顔をしました。
「…夕依香、私がお人形を作り終わったらお家へ帰るのです。お父さんが心配していらっしゃいますですよ」
私はいっそのこと松山神社に住みたいです。できればお父さんと一緒に。
お父さんはとても優しいです。お母さんの意地悪をとめてくれます。
「雨宮、私お家に帰るよ。でもまたお母さんに意地悪されたら相談するね」
「えぇ。いつでも遊びに来てくださいなのです。雨宮は夕依香の味方なのです」
私は家に帰ることにしました。お夕飯のときでした。
「今日も遅かったなぁ、夕依香。何しとったんや」
「…友達と話してた」
「ふざけるなッ!あたしゃ見たんだよ。あんたずっと神社で一人やったやろ」
雨宮は私以外には見えません。友達にもお母さんにも。でもお父さんは見えないけど、私が雨宮のことを話したら、
いつも楽しそうに聞いてくれます。それがとても嬉しかったです。
「霊香、やめなさい。」
私のお父さんは鬼ヶ丘の村長をしています。とても若いのにみんなから尊敬されていて、私も将来はお父さんみたいな人になりたいと思います。
「中学生にもなって、友達もいないんか。悲しいやつやのう!」
お母さんは私をぶってきました。とても痛いです。
「霊香!」
お父さんはお母さんが意地悪するたびに叫びます。そのときのお父さんはとても怖い顔です。
お母さんはお父さんに叫ばれ、外に出ていきました。いつもこんな感じです。
次の日も放課後、雨宮と話しました。
「雨宮。昨日また意地悪されたの…」
「やはりなのですか…」
雨宮も私のお母さんのことについて真剣に考えてくれます。
「夕依香。十五日お父さんを連れてここへ来るのです」
十五日は確か、松山祭の前日です。松山祭は松山神社の神様を称える祭りです。松山神社の神様の名前は知りません。
でもいつも私の近くにいて、ずっと私を見守ってくれてる気がします。
「わかった。雨宮…いつも本当にありがとう」
私はすこし恥ずかしがりながらお礼を言いました。
「雨宮は夕依香の友達なのです!当たり前なのです!」
雨宮はそう答え、神社の建物の中へ入って裁縫道具をとりに行きました。
「夕依香、今日はどんなお人形さんがいいのですか?」
私は迷わず答えました。
「雨宮のお人形さんがいい!」
「わかりましたのです」
私は雨宮に雨宮の人形を作ってもらいました。
「自分をつくるなんてなんかちょっと変な気分なのです」
私は雨宮にお人形さんをもらいその日は帰りました。
雨宮は私が見えなくなるまでずっと手を振ってくれました。
帰るとやはりお母さんは私に意地悪をしてきました。今日はいつもよりひどかったです。
私を罵り、蹴り、殴り。私は気づけば泣いていました。痛くてじゃない。怖くて。
それから一週間ほどたち、十五日になりました。約束の日です。
私は放課後、仕事中のお父さんを無理やり連れて雨宮に合いに行きました。
「雨宮ちゃんってどんな人なんだい?」
「優しくて、私といつも一緒にいる人」
私は雨宮について軽くお父さんに説明しました。少し歩くと松山神社に着きました。時間は午後六時。もう神社には誰もいません。
「雨宮!お父さん連れてきたよ!出てきて!」
神社の建物に向かって叫びましたが、誰も出てきませんでした。
「本当に雨宮ちゃんなんているのかい?」
私はすこし寂しかったです。いつもは呼ばずとも神社にいるからです。
すると姿は見えませんが雨宮の声が聞こえてきました。
「夕依香、そしてその父よ。霊香を消したいか。」
雨宮はいつもの声ではありませんでした。でも怖くはなく、どちらかというと安心しました。
「……」
「霊香は畜生なのだ。玄次も知っておるはずだ。霊香は夕依香に影響を及ぼしていることを」
雨宮はついに姿を表しました。でもいつもの姿ではありません。背が高くなり、顔も大人の様になっていました。
「夕依香、おどろかせてごめんなさいなのです。いつもは怖がらせたくないから子供の姿なのです」
大人びた雨宮はとてもかっこよかったです。巫女姿はとても似合っていました。
「玄次よ。紹介が遅れ申し訳ない。私は雨宮。蒲地姫尊とも呼ばれておる。再度聞く。霊香を消したいか?」
「…したい」
お父さんはついに喋り始めました。お父さんの目線は雨宮を見ていました。つまりお父さんにも雨宮は見えていました。
「霊香を消したい!」
「よくぞ言った。玄次。ただしお前の寿命、そして夕依香の名をもらう」
私の名前と寿命。本当は雨宮もこんなことしたくないはずなのです。人を消したり寿命をもらったり名をもらったりなんか。
「夕依香申し訳ないのです。神様にも欠点はあるのです…」
私は迷わずお母さんを消すことにしました。名前なんてどうだっていいのです。
「私はお母さんを…消したい…」
「ありがとう。その言葉を待っていたのです。ありがとうなのです」
「ありがとう」
気づくと私は神社の建物の中に布団を敷いて寝ていました。
「夕依。もう体調は大丈夫なのですか?」
そっか私はもう夕依香じゃないんだ。ということはお母さんもいないんだ。
「もう大丈夫。雨宮ありがとう」
「家に帰るとお父さんが待っていますよ。変わり果てた姿ですが…」
私は雨宮と一緒に家に帰りました。雨宮が神社の外にいるのを見るのは初めてです。
帰り着くと、お父さんは白髪になりシワも増えお茶を飲んでいました。
「お父さん…」
私は泣きました。私のためにお父さんは自分を犠牲にしてくれたのです。
雨宮も泣いていました。でもお父さんは笑顔でした。
「夕依。もう怖がることはないよ。お母さんはいないよ」
私は決心しました。
私はお父さんみたいになると。
第二章は如月視点ではありません。
基本、院瀬見視点です。